【書籍化作品】無名の最強魔法師
俺の妹がヤンデレなわけがない。
するとヤンクルさんだけじゃなく、もう一人の人影が目に入った。
近づいていくと俺に気がついたのか、その人影は一生懸命手を振りながら
「おにいちゃ~ん」
と叫んでいる。
何か重大な事でも起きたのかと走って近づくと妹のアリアだった。
「どうした?何か問題でも起きたのか?」
俺は《探索》の魔法を発動させながら妹からの話を待つ。
探索魔法からウラヌス十字軍が動いている様子はとくに見受けられない。
魔物や動物も村に近づいてこない所を見ると何か深刻な問題が発生したのだろうか?
「……ぐすっ、おにいちゃん」
突然、妹が泣き出したと思ったら俺に抱きついてきた。
これはどうやらただ事ではないようだ。
くそ、やはり一人では村を守るには限界があるのか……。
「おにいちゃんと一緒に寝ないと眠れない……」
俺の妹は何を言っているのだろうか?
「妹よ。もしかして、ここに来た理由はもうすぐ夜で寝る時間だけど俺が一緒に寝てくれないから呼びにきたのか?」
そう妹は極度のお兄ちゃん子なのだ。
俺の所有する知識の中には、妹にどうやって対応していいかのマニュアルがない。
ただ、10歳になっても『おにいちゃんと将来結婚する!』とか言っては、親父と母親が『仕方ない。ユウマ、きちんと責任を取るんだぞ?』とよく冗談を言ってきている。
とことん、妹に甘い両親だな。。
まあ、妹とはずっと同じ部屋で暮らしてきたから、俺がいないと眠れないうのはもしかしらあるのかも知れないな。
お兄ちゃん子なアリアにとって、俺と眠れないのはそこそこ重大な問題なのだろう。
だがな……そろそろ兄立ちしても言い気がするんだが。
「――うん!だって……夫婦が同じ布団に毎日寝るのは当たり前ってお母さん言っていたもん!」
「……お、おう」
そんな話、聞いたことないし、そもそも兄妹であって夫婦じゃないんだが……。
母親も適当な事を言って妹をからかうのはやめてほしい。
妹が本気にしたらどうするんだ。
とにかく、しばらく帰れない事を説明しないといけないな。
考えているといつの間にか妹が俺に抱きついてきて。
「おにいちゃん、おにいちゃん、おにいちゃん、おにいちゃん、おにいちゃん」
とおにいちゃんコールを連打してきた。
甘えたがりなのは仕方ないが、そういうのは家だけにしてほしいものだ。
ヤンクルさんとか俺と妹を見て微妙そうな顔をしているじゃないか?
アリアは身長が、俺の顎あたりまでしかないがスラッ伸びた手足に白い肌、母親譲りの金色の髪をツインテールにまとめてあり瞳の色は、空の色のように青いというかなり美少女なのだ。
きっと将来は、いい婿を取ることになると思う。
そんなアリアが、俺に甘えるかのように抱きつきながら胸元に頭をグリグリしてるのを見ると甘えん坊だなと思ってしまう。
「アリア、よく聞いてくれ」
俺はアリアがグリグリしてきている頭の上に手を置きながら話かける。
「今、この村は大変な状態にあるんだ。隣国のウラヌス教国という所から侵攻を受けているから、その対応でしばらく家には帰れないんだ。だから寝るときも一人で……「どうして!」……」
突如、妹の様子が変わった。
どこか説明がおかしかったのだろうか?
「おにいちゃん!家族は一緒に寝ないとだめなの!村の危機よりアリアの危機の方が重要でしょう!」
「――お、おう」
妹の剣幕に思わず頷いてしまった。
俺の返答を聞いて妹がパアッと花が咲くような笑顔で俺を見上げてきた。
「それじゃ、アリアとおにいちゃんの家に帰りましょう!」
そこは親父と母親もいる家なんだが……という突っ込みはしない。
俺の手を引いて家に帰ろうとした妹の手を離す。
「おにいちゃん、どうして?」
先ほどまでの笑顔から一変して妹は目に涙をためていく。
俺は仕方なく、妹を抱きしめた。
「よく聞いてくれ。俺はこの村……じゃなくて妹じゃなくてアリアを守るために戦わないといけないんだ。狩りや仕事で家の夫が出たあとの家の留守を守るのは妻の役目だろう?」
「……」
アリアは無言で俺を見上げながら続きを話せと催促するような視線を向けてくる。
そんな視線を受けながら俺は続きを話すことにする。
「つまりだ。アリアを守るために家に帰れない、だからアリアには家を守っておいてほしいんだ」
抱きしめていた妹がゆっくりと俺の背中に手を回すと強く抱きついてきた。
「うん、わかった。だんなさま不在の家を守るのは妻の役目だからね」
「――ああ、でもアリアは妹だからな。その点は勘違いするなよ?」
俺の言葉に先ほどまでの目に光が無くなってたアリアはおらず素直に頷いてきた。
「わかっているよ!でもおにいちゃんもようやく自覚が出てきたみたいで私はうれしいな!てへへっ」
妹が俺の匂いを嗅ぎながら満足そうに一人呟いている。
やはり一日、体を拭いてないと臭いのだろう。
それにしても、やっぱり10歳だなと思う。
簡単に言葉の内容を変えただけで納得するとかチョロすぎて将来が心配になってしまう。
将来、妹の旦那になる男とは俺も一度は話さないといけないだろう。
それにしてもと思う。
「おにいちゃん、おにいちゃん、おにいちゃん、おにいちゃん、おにいちゃん、おにいちゃん、おにいちゃん、おにいちゃん、おにいちゃん、おにいちゃん、おにいちゃん、おにいちゃん、おにいちゃん、おにいちゃん、おにいちゃん、おにいちゃん、おにいちゃん」
何度も俺のこと呼び甘えてくる妹の頭を撫でる。
「アリア、あれだぞ?将来、結婚するんだから甘えてばかりだと旦那に苦労をかけるぞ?きちんとメリハリを持った行動と慎みを持たないとだめだからな?」
本当に甘えん坊に育ってしまって、将来が心配だ。
「ほら、そろそろ日も暮れるから家に戻りなさい」
「―――は~い、それじゃおにいちゃん。お仕事がんばってねー」
妹が元気よく家の方向へ向かって走っていくのを見て、俺はため息をつきながらヤンクルさんの方へ視線を向けた。
「やあ、ユウマ君。なんか、君って……それって無自覚でやっているのかな?」
ヤンクルさんが何か言ってくるが、ただ甘えてくる妹をあやしているだけで他意はない。
「無自覚と言われても、甘えてくる妹をあやしているだけです」
俺の言葉にヤンクルさんは、溜息をついてきた。。
たしかに少し、うちの妹は少しだけ甘えたがりかも知れないな。
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