【書籍化作品】無名の最強魔法師
ユウマ、村長職を押し付けられる。
「一体、どうなっているんだよ?」
「魔法なのか?」
「こんな魔法なんて知らないぞ?何かの特技なんじゃないのか?」
「ぼ……僕の伝説の剣が……」
「勇者様!しっかりしてください!」
「くそ!全軍撤退しろ!転進だ!転進!しろおおおおお」
ウラヌス十字軍第三騎士団ユーガス=ガルウが、一時撤退して軍を立て直そうと大声を張り上げている。
だが、目の前で起きている武器防具破壊という現実の前には、その言葉は意味を成さない。
俺はさらに軍を迷走させ混乱させるために魔法を編み上げる。
《風刃》魔法を発動させ極力兵士を傷つけないようにし大木を倒していく。
さらにそこに”爆音”の魔法を発動させ爆発の音を鳴らす。
そして”鳴雷”の魔法で稲妻が落ちる音を辺りに響かせ”降雨”の魔法により全体の士気を落とさせる。
それにより軍の規律が乱れユーガス=ガルウの声は末端まで届かず混乱に拍車がかかる。
すでに武器や防具を失い統率を失った軍は我先にと逃げ始める。
あとは軽く大木を倒し伏兵がいるのか?と思わせておけばいいだろう。
そして、兵士達は村とは逆方向へ逃げ出した。
俺は一息つきながらユーガスへ視線を向ける。
軍の統率に手間取っており俺を相手するどころではないのだろう。
何人かの手勢を連れて森の奥深く……つまり彼らが進軍してきたと思われる方向へ転進していく姿が見える。
これで終わったと思いながら考える。
森の中には魔物や動物が生息している。
武器も防具もない人間にとってそれは脅威と言える。
これでアライ村に攻めてくることはないだろう。――それがずっと見通しの甘い事だと言う事をすぐに知らされる事になろうとは、その時の俺は知らなかった。
俺は念のため、ウラヌス教のことを調べようとアライ村に戻ることした。
道中、一匹だけ3メートルと小ぶりなイノシシを狩り”飛翔”の魔法で村の近くまで戻ると魔法を解除し森から出た。
俺は村に着くと、近隣の事情に詳しい村長に話を聞くためと森で出会った軍の報告をするために村長の家に向かった。
「アライ村長はいますか!」
村長の家は普通の村人の家と違い、いくつもの倉庫が設置されている。
それは収穫した麦や豆を貯蔵する蔵であり財産を管理する金庫でもある。
村人は皆、村長と呼んでいるが仕事の内容は徴税から村の運営までと幅広く、どちらかと言えば代官に近い。
貴族の所領を代わりに治めていて、話よるとこの地を治めているイルスーカ公爵家の遠縁であるとの噂もある。
「どうしたんだ?」
一人の老人が家から出てきた。
「村長。まずはこれを……」
俺はイノシシを村長の前に置く。
「おお、さすがユウマだな。おい!血抜きをしておいてくれ」
村長の言葉に家から跡継ぎである30歳くらいの男性が出てきた。
「あまり調子になるなよ?狩猟くらい誰でも出来る」
男性は俺を一瞥するなり、敵意をぶつけてきたが俺は無視する。
「村長、森でウラヌス十字軍と名乗る男たちを見かけました」
俺の言葉に村長は目を見開く。
「なんじゃと?隣国のウラヌス教国の者かも知れん! くわしい話を聞こう! すぐに中に入ってくれ」
村長の家の中に入るのは初めてだったが、調度品などかなり品質のいい物が並んでいる。
侯爵家の遠縁で代官をしているのなら、このくらいは持っていておかしくないのだろう。
一人考えていると、こちらも老齢の村長の奥さんである、60歳を超えるユカさんがお茶を差し出してきた。
俺は、お茶をもらうと少しだけ飲んでから一息つく。
「それで、どのくらいの数を見かけたのだ?」
アライ村長が、人数を聞いてきた。
自分が見たままの人数をそのまま正確に言っていいか迷うが、何かあってからでは遅い。
一応、無力化はして敗走はさせておいた。
だから、そう悲観的になる事もないだろう。
「俺の見立てでは数千は居ました」
「――数千だと?」
額から汗を流し顔を真っ青にしながら村長はガタガタと震え始めた。
「ただ……様子を窺っていたところ、彼らは元来た山道を戻って行きました。そのため、報告をしようと思いすぐに戻ってきました」
「……そ、そうか。場所はどのくらい離れていたのだ?」
「ここから歩いて30分くらいの森の中でしょうか?」
「――今、なんと?」
「ですから、森に入ってから徒歩で30分くらいの地点に見かけました」
「……すぐに逃げんといかんぞおおおおおおお」
突然叫んだアライ村長は立ち上がると床板を外し中から壺を取り出す。
そして大きな布を敷くと、その上に洋服が入ったタンスから服を何枚も取り出して重ねていく。
最後に壺を乗せて布を縛ると背負ってから、木で作られた靴を履いて外に出ていってしまう。
俺があまりの手際の良さに呆然としていると、『アドルド!!ウラヌスが攻めてきおった!早く逃げるぞ!!』と言う声が聞こえてくる。
俺はアライ村長に妻のユカさんを置いていくのかと視線を向ける。
すると台所に立っていたユカさんもすでに荷物を纏めて終わっていた。
「ユウマ君!私達は代官だから絶対に真っ先に殺されるから!分かるわよね?だからユウマ君はイルスーカ侯爵様が軍を率いてくるまで村を守ってね!」
え?この人は何を言っているんだろう?
ユカさんは、それだけ俺に言うと到底60歳とは思えない程の速さで村長家から外に出ていった。
俺もすぐに村長の家から出ると、そこには荷車が置かれており馬をアドルドが必死に荷台に括り付けていた。
馬も、今までどこに隠していた?と思われるほど立派なものである。
「今日から、ここの村長はユウマ君!君に任せた!!これはその譲渡書だから!」
俺の姿を見た村長は言い放ちながら羊皮紙を投げてくる。
思わず受け取ってしまった俺を見てアライ村長の口角が上がるのを俺は見た。
「受け取ったという事は今日からは君が村長だ!責任は全て君にあるから!それじゃがんばってくれ!」
「いあ……ちょ、まっ……」
俺が動揺している間に代官でもあり村長でもある一家は馬を走らせ、アライ村から外へ向けて走り去ってしまった。
「魔法なのか?」
「こんな魔法なんて知らないぞ?何かの特技なんじゃないのか?」
「ぼ……僕の伝説の剣が……」
「勇者様!しっかりしてください!」
「くそ!全軍撤退しろ!転進だ!転進!しろおおおおお」
ウラヌス十字軍第三騎士団ユーガス=ガルウが、一時撤退して軍を立て直そうと大声を張り上げている。
だが、目の前で起きている武器防具破壊という現実の前には、その言葉は意味を成さない。
俺はさらに軍を迷走させ混乱させるために魔法を編み上げる。
《風刃》魔法を発動させ極力兵士を傷つけないようにし大木を倒していく。
さらにそこに”爆音”の魔法を発動させ爆発の音を鳴らす。
そして”鳴雷”の魔法で稲妻が落ちる音を辺りに響かせ”降雨”の魔法により全体の士気を落とさせる。
それにより軍の規律が乱れユーガス=ガルウの声は末端まで届かず混乱に拍車がかかる。
すでに武器や防具を失い統率を失った軍は我先にと逃げ始める。
あとは軽く大木を倒し伏兵がいるのか?と思わせておけばいいだろう。
そして、兵士達は村とは逆方向へ逃げ出した。
俺は一息つきながらユーガスへ視線を向ける。
軍の統率に手間取っており俺を相手するどころではないのだろう。
何人かの手勢を連れて森の奥深く……つまり彼らが進軍してきたと思われる方向へ転進していく姿が見える。
これで終わったと思いながら考える。
森の中には魔物や動物が生息している。
武器も防具もない人間にとってそれは脅威と言える。
これでアライ村に攻めてくることはないだろう。――それがずっと見通しの甘い事だと言う事をすぐに知らされる事になろうとは、その時の俺は知らなかった。
俺は念のため、ウラヌス教のことを調べようとアライ村に戻ることした。
道中、一匹だけ3メートルと小ぶりなイノシシを狩り”飛翔”の魔法で村の近くまで戻ると魔法を解除し森から出た。
俺は村に着くと、近隣の事情に詳しい村長に話を聞くためと森で出会った軍の報告をするために村長の家に向かった。
「アライ村長はいますか!」
村長の家は普通の村人の家と違い、いくつもの倉庫が設置されている。
それは収穫した麦や豆を貯蔵する蔵であり財産を管理する金庫でもある。
村人は皆、村長と呼んでいるが仕事の内容は徴税から村の運営までと幅広く、どちらかと言えば代官に近い。
貴族の所領を代わりに治めていて、話よるとこの地を治めているイルスーカ公爵家の遠縁であるとの噂もある。
「どうしたんだ?」
一人の老人が家から出てきた。
「村長。まずはこれを……」
俺はイノシシを村長の前に置く。
「おお、さすがユウマだな。おい!血抜きをしておいてくれ」
村長の言葉に家から跡継ぎである30歳くらいの男性が出てきた。
「あまり調子になるなよ?狩猟くらい誰でも出来る」
男性は俺を一瞥するなり、敵意をぶつけてきたが俺は無視する。
「村長、森でウラヌス十字軍と名乗る男たちを見かけました」
俺の言葉に村長は目を見開く。
「なんじゃと?隣国のウラヌス教国の者かも知れん! くわしい話を聞こう! すぐに中に入ってくれ」
村長の家の中に入るのは初めてだったが、調度品などかなり品質のいい物が並んでいる。
侯爵家の遠縁で代官をしているのなら、このくらいは持っていておかしくないのだろう。
一人考えていると、こちらも老齢の村長の奥さんである、60歳を超えるユカさんがお茶を差し出してきた。
俺は、お茶をもらうと少しだけ飲んでから一息つく。
「それで、どのくらいの数を見かけたのだ?」
アライ村長が、人数を聞いてきた。
自分が見たままの人数をそのまま正確に言っていいか迷うが、何かあってからでは遅い。
一応、無力化はして敗走はさせておいた。
だから、そう悲観的になる事もないだろう。
「俺の見立てでは数千は居ました」
「――数千だと?」
額から汗を流し顔を真っ青にしながら村長はガタガタと震え始めた。
「ただ……様子を窺っていたところ、彼らは元来た山道を戻って行きました。そのため、報告をしようと思いすぐに戻ってきました」
「……そ、そうか。場所はどのくらい離れていたのだ?」
「ここから歩いて30分くらいの森の中でしょうか?」
「――今、なんと?」
「ですから、森に入ってから徒歩で30分くらいの地点に見かけました」
「……すぐに逃げんといかんぞおおおおおおお」
突然叫んだアライ村長は立ち上がると床板を外し中から壺を取り出す。
そして大きな布を敷くと、その上に洋服が入ったタンスから服を何枚も取り出して重ねていく。
最後に壺を乗せて布を縛ると背負ってから、木で作られた靴を履いて外に出ていってしまう。
俺があまりの手際の良さに呆然としていると、『アドルド!!ウラヌスが攻めてきおった!早く逃げるぞ!!』と言う声が聞こえてくる。
俺はアライ村長に妻のユカさんを置いていくのかと視線を向ける。
すると台所に立っていたユカさんもすでに荷物を纏めて終わっていた。
「ユウマ君!私達は代官だから絶対に真っ先に殺されるから!分かるわよね?だからユウマ君はイルスーカ侯爵様が軍を率いてくるまで村を守ってね!」
え?この人は何を言っているんだろう?
ユカさんは、それだけ俺に言うと到底60歳とは思えない程の速さで村長家から外に出ていった。
俺もすぐに村長の家から出ると、そこには荷車が置かれており馬をアドルドが必死に荷台に括り付けていた。
馬も、今までどこに隠していた?と思われるほど立派なものである。
「今日から、ここの村長はユウマ君!君に任せた!!これはその譲渡書だから!」
俺の姿を見た村長は言い放ちながら羊皮紙を投げてくる。
思わず受け取ってしまった俺を見てアライ村長の口角が上がるのを俺は見た。
「受け取ったという事は今日からは君が村長だ!責任は全て君にあるから!それじゃがんばってくれ!」
「いあ……ちょ、まっ……」
俺が動揺している間に代官でもあり村長でもある一家は馬を走らせ、アライ村から外へ向けて走り去ってしまった。
コメント
ノベルバユーザー601233
読みやすくて面白いです。
続きも楽しませてもらいます。
柴衛門
村長め
ノベルバユーザー330282
村長爆誕で草
べりあすた
公爵と侯爵って最初わかんなかった。
公爵が王様の兄弟だったかな?
ノベルバユーザー322977
村長のなり方w