【書籍化作品】無名の最強魔法師
ユウマ VS 勇者
するといくつもの赤い光点が表示されていく。
俺は森の奥に向かっていく。
すると奇妙な事に気がつき、その場に止まった。
「これは……」
いつもとは違う。
赤い光点は、俺が知ってる魔物や動物が表示される。
だが、灰色の光点は俺が遭遇した事がない物を意味する。
その無数の灰色の光点が頭の中に表示されていた。
その数はざっと見ただけでも100は下らない。
放置していては不味いというのが本能で分かる。
普段は、あまり利用しない身体強化の魔法を発動させる。
それにより肉体の細胞強度が急激に上昇し高速戦闘、高速移動が可能になる。
俺は、10メートル近く飛び上がると木の枝の上に立つ。
そして木の枝の撓りを利用しながら、無数の灰色の光点に向けて移動を開始した。
俺の探索魔法の範囲は3kmほどで魔法に音波を反響させて確認してるに過ぎない。
だから相手が、どのようなモノなのかを目視しない限り確認できない。
灰色の光点に近づくに連れ、頭の中に展開されているMAP内に灰色の光点が爆発的に増えていく。
内心舌打ちをしながら、向かっていると灰色の光点まで残り100メートルを切った所で空気を切り裂いて何かが近づいてくるのを探索魔法が感知する。
俺は進路上から離れて、近くの木の枝の上に移動する。先ほどまで俺が居た木が幹ごと粉々に吹き飛んだ。
「――なっ!?」
俺は声を上げてしまう。
そしてすぐに前方へ視線を向ける。
なんの予告もなしに攻撃?
村までの距離は3km程度しかない。
それなのにいきなり攻撃をしてくる好戦的な連中を野放しにはしておけない。
少なくとも相手の様子を知る必要が出てくる。
すでに俺の存在は、攻撃された事から見てもバレているだろう。
ただ不思議なのが、灰色の光点の移動速度がそんなに速くない事だ。
だが相手は、100メートル以上前から俺を察知して攻撃してくる手段を持ってる事になる。
それも木の幹を破壊するほどの攻撃力を持っている。
そこから考えても、かなり厄介な相手だということは容易に想像がついた。
時折、飛来してくる矢を避けながら接近すると視界が開けた。
そこには大規模な軍が展開していた
旗が掲げられており、赤い背景に鼠色の剣が描かれている。
正確に俺が居る場所を把握しているのか、数本の矢が飛んでくる。
枝の上に立っていた俺は、矢をかわすために別の枝に飛び移るために跳躍する。
すると、それに合わせてくるように高速で飛来してくる矢がある。
矢を見た瞬間に背筋に寒気が走る。
この矢は、最初に俺を狙ってきたもの。
俺に目掛けて飛んできた矢を空中で体を捻る事でかわす。
さらに、木を吹き飛ばしたのと同等の威力を持つ何か高速で近づいてくるのを探索魔法が感知する。
肉体強化魔法の影響で、強化された動態視力が飛来する銀色の矢を捕らえた。
今度は回避せずに手で矢を掴む。
すさまじい衝撃波が周囲の大気を掻き乱していくがすでに肉体強化を極限まで高めた俺には、通じない。
「ばかな!?この俺の特技を使った攻撃を素手で受け止めただと?」
強化された聴力が声を拾うが、特技が発動した際に魔法陣が展開された様子が見られなかった。
魔法陣が展開されれば、すぐに俺の《探知》魔法が反応するが、それが反応しないということは魔法ではないということだ。
声が聞こえた方へ視線を向けると30代後半の男が弓を持ったまま硬直してるのを見つける事ができた。
俺はため息をつきながら、事象を改変する為の方式を頭の中で組み立てる。
それは風や分子運動の振動を利用しての音を広範囲に届ける魔法
「突然、攻撃を仕掛けてきてどこの国の軍隊だ?」
俺の言葉に、兵士たちの中から派手な飾りをつけた騎士が出てきて大声で怒鳴ってきた。
「俺たちは、ウラヌス十字軍第三騎士団ユーガス=ガルウだ。邪教アース教から村と町を解放するために我々はこうして赴いた。貴様はどこの魔法師だ?アルネ王国では、魔法陣を利用しない魔法運用を可能にしたのか?」
……魔法陣を利用しない魔法運用か……。
つまり魔法陣の運用しない魔法というのは、この世界では一般的ではないという事になる。
「さあな?」
俺の挑戦的な言葉にユーガス=ガルウが眉元を顰めた。そして男は俺に向けて告げる。
「我らの軍門に下るなら手厚く保護してやろう。邪魔をするなら貴様にはウラヌス十字軍の選定により死がもたらされる。さあ、好きな方を選べ!」
それにしてもウラヌス教か……。
聞いたが事ないな?
まあ、ほとんど外部の国々の情報なんて物は、魔法の訓練に明け暮れていて気にしていなかったからな。
それにそう言った情報もアライ村には無かったから仕方ない。
つくづく俺は情報弱者だな。
テレビとか新聞、インターネットという情報メディアがない世界では仕方ないと言ってこう。
「――ウラヌス教なんて知らないんですけど?どこの国から来たどんな宗教ですか?」
まずは相手を知らなければ話にならない。
とりあえず情報がほしい。
相手の知らなければどうにもならない。
「――なんだと?知らない……だと…?」
唐突に、軍隊の中から一人の白髪の気難しい顔をした60歳前後の小太りの男が姿を現した。
男がきている赤い神官服には、剣の紋章が刺繍されている。
「ユーガス=ガルウ。この不遜な態度を取る者を殺せ!」
男は俺を指さして叫んできた。
「ですが、ベンアウード様。異教徒とはいえ見たことがない魔法を使うもの。もしや、あれの可能性もありますが……」
ユーガス=ガルウの言葉に、ベアウード様と呼ばれた男が、顔を真っ赤に染め上げる。
「うるさい!たかが騎士団長のくせに私に意見をするな!全員、攻撃をしろ!」
ベアウードの言葉に一斉に俺に向けて矢が放たれた。
その数は300本近い。
俺は、その全てを見ながら地面て手を当てると分子構成を組み替える。
《土壁》練成魔法を発動させ全ての矢を土壁で防ぎきる。
それを見たベンアウードは、ますます怒りを露にして顔を真っ赤に染め上げていく。
「もういい!勇者様。よろしくたのみます」
ベンアウードの声に、隊列の中から現れたのは金髪の美形ハンサムの長身の男であった。
手には一抱えほどもある長剣を携えている。
「僕の名前は、ユークラトス、世界でもっとも美形な勇者さ。まぁ君も運がわるいな、僕に出会った事を後悔するといいよ」
「えー」
俺は思わず口に出していってしまった。
「な。何か言いたそうだね?」
「いえ、べつに……」
「何か言いたいならはっきり言ってくれたまえ!」
「とくに言いたいことは……」
「言いたい事があるんだろおおおおお」
なんだよ……。かまってほしいか?
「わかった、きちんと言うから……」
「ふん!やはり言いたいことがあるんじゃないか!?」
こいつ殴りてえ。
どうしてか分からないけど、こう自分好きな奴を見ると殴りたくなってくるのは性分なのだろうか?
「自分自身を美形とか言える奴って、友達としてはかなり欲しくないなと……」
俺の言葉に青筋を立てる自称美形勇者。
体を震わせながら、人抱えある剣を上段に構えて『エアアアアブレエエエエエエドオオオオオ』と絶叫しながら俺に向けて振りおろしてきた。
振りおろされた剣筋から剣閃が煌めき光が俺に近づいてくる。
、俺はその剣筋から移動して避けた。
「――は?なんで避けられるんだよ!迷宮制覇の武器なのに!契約と違うだろ!」
その場でユークラトスと名乗った勇者が地団駄を踏んでいる。
勇者ユークラトスの言葉を聞きながら、俺は疑問を抱く。
『契約という事』『迷宮制覇武器』という単語に俺は考えていると……。
「ユーガス様、あれはそんなにすさまじい武器なんですか?」
と発言している兵士の言葉が聞こえてきた。
「いや、あの武器はウラヌス教国が管理している迷宮で手に入る武器の一つだな。自分よりも弱い奴の命中は100%だが、持ち主より強い奴には、攻撃を当てないことで有名な武器だな……」
俺はユーガスと兵士の言葉を聞きながら、勇者ユークラトス。(笑)を見る。
すると、『次こそは貴様に当てる!』と息巻いている。
どちらにせよ、話を聞く限りでは勇者ユークラトスより弱い奴には10割命中を誇る武器のようだから極めて危険だと思う。
そのまま放置しておくべきではないか。
正面の敵を見ながら、手を向ける。
そして金属接合が解けるイメージを頭の中に描いていき、”武器防具分子結合崩壊”の魔法を発動させる。
すると兵士たちが持っていた武器や防具が次々が崩れ壊れていく。
それは勇者が持っていた長剣も例外ではなく他の兵士の弓や矢すら次々と壊れていった。
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