無名の最強魔法師(WEB版)

なつめ猫

ユウマと教会の関係性

 木製の家のドアを開けると母親が台所で料理をしている姿が目に飛び込んできた。
 家の間取りは俺の記憶にある知識で言えば4DK。
 玄関と台所は繋がっていて、台所の床は手製のセメントで塗り固めてある。
 俺が5歳の時に、台所の地面が剥き出しの土だと衛生的に問題があるため、セメントを作って床を覆ったのだ。
 家の中に入り口から入ると、料理中だったらしく薪がパチパチと燃える音が耳に響いてくる。

「……母さん、ここに水瓶置いておくね」

 俺は母親に言いつつ、水が入った瓶を台所のセメントの上に置いた。
 そして俺に続いて家に入ってきた妹は、母親のもとへ駆け寄ると母親の洋服を引っ張って嬉しそうに手に持っているものを見せた。

「お母さん! お兄ちゃんの今日の戦利品!!」

 妹が見せた一角ウサギを見て母親は『あら、アリアは偉いのね』とそれを預かった。
 血抜きの方法を俺は知らないので、獲物は狩ってくるが血抜き兼料理は母親の仕事になっている。

「今日もお肉が食べられるわね。お父さんが畑から戻ってきたら食事にしましょう」

 と母親であるフィーナは、妹の頭を撫でながら褒めている。
 倒したのは俺なんだが、と思いながらも俺は何も言わずにその様子を眺めていた。
小さいとは言えど魔物が人里に下りてくるのは珍しいことらしい。
 だが、5年前から魔物たちの動きが活発になり村に下りてくる事が多くなった。
 妹と一緒にいるとよく魔物と遭遇する事から、もしかしたら妹が魔物を引き寄せているのではないのかと俺は思っている。
 俺は、自分と妹の部屋に入る。
 これからアース教会で、村の子どもたちに勉強を教えるのだ。
 そのための準備をしないとっと考えていると……。

「いま、戻ったぞー」

 父親であるバルガスの声が聞こえてきた。
 妹と母親が父親を出迎えに行ったようで『おかえりなさい』と言う声が聞こえてくる。
『今日は、肉が入った雑炊か……そういえばユウマは何をしているんだ?』と続けて声が聞こえてきた。
「教会へいく用意をしているんじゃないかしら?」と母親は父親の質問に答えていた。 

 俺は朝食をとるために食事の用意がされている居間へと向かう。
 そこには父親がすでに座っていた。
 父親は俺を見るなり眉元を顰める。

「ユウマ、森に行ったそうだが、あまり無理はするなよ?危険だと思ったらすぐ逃げるんだ。……それと、魔物や動物を退治して肉を得るのはヤンクルさんの仕事なんだ。あんまり人の仕事を奪うような真似はするなよ?」

 俺は父親の言葉に頷く。
 動物や魔物を狩って、その肉を村に提供するハンターは外部から移住してきた人間に課せられる忌み職の一つだ。
 よその村から移住してきたばかりというのは、村にはその人が耕す畑というのは存在しない。
 なので食い扶持と領主に払う納税金を別で稼ぐ必要が出てくる。
 そのため、死亡率が極端に高い森の中に分け入って動物や魔物を狩る仕事をすることになるのだ。
 さらに言えば、アース教会は無理に命を奪う事を推奨していない。
 そのため、動物や魔物とはいえ命を奪う職業である狩猟者に向けられる目は冷たい。
 生きていく上では、肉に含まれているタンパク質は必要なのに、この世界の人間はそれを理解していない。
 命がけで取ってきているというのにどこの村でも狩猟者の立場は低い。
 報われない職業だ。
 父親が食事を食べ始めると同時に、俺も木皿によそわれた肉が入った麦粥を頬張る。
 素材の味が引き立っていて……といえば聞こえは良いがかなり薄味で正直なところ微妙だが10年もこの世界で暮らしていると慣れてしまう。
 腹が減っているのでとりあえずおなかに掻っ込む。

「ご馳走様」

 俺は、木製のコップと皿を台所の流し台に下げると用意していた荷物を手に取る。

「今日も、教会にいくのか?」

 父親が聞いてくる。

「うん。ウカル司祭様と決めてるから」

 俺は父親に言葉を返しながら家を出た。
 今は、日本でいうと午前7時頃で10時まではアース教会の教義で虚無の時間に相当する。
 虚無の時間というのは、簡単に言えば神様が決めた休憩の時間らしい。
 その時間は、親の手伝いをしている子供にとって責務から解き放たれる時間であり教会の教えを聞く時間でもある。
 家の周囲に広がる畑の中の道を通りながら歩くと5分ほどで教会が見えてきた。
 教会と言っても俺の記憶の中にある装飾煌びやかで荘厳な教会ではなく、この世界のものは木で作られた簡素な掘っ立て小屋みたいな建物だった。
 木製の両開きの扉を開けて中に入ると、すでに俺と同年代かそれより下の年齢の子供が10人ほど教会内の木造の長椅子に座っているのが確認できた。

「おはよう」

 俺が手を上げて挨拶すると俺の姿を見た子供たちが『おはよー』と言葉を返してきた。
 そして、そんな俺達を見た唯一人の大人であるウカル司祭様は、あまりいい顔をしていなかった。

「ウカル司祭様、おはようございます。今日もよろしくお願い致します」
「……今日も来たのですね。あまりここを子供たちの集会所にしてほしくないんですけど」

 と、言いながらウカル司祭様は俺を見てきた。

 子供たちと話すときに目線を子供の高さに持ってくるのはさすが司祭というかあざといというか。
 でも、男がやってもポイントは上がらないんだけど。
 そしてウカル司祭様は、アライ村が出来た当初から、この村のアース教会にいるらしく誰かも一目置かれてる存在だと両親が言っていた。
 よくは知らないが、俺が生まれる前はアライ村は、魔物に襲われた事があって、その時ウカル司祭様は頑張ったとか頑張らなかったとかそういう話を聞いた。
 まぁ話を1割としても、両親はそこそこウカル司祭様に信頼を寄せていた、
 俺からしたら、村人の話をうまく話を合わせて問題があったら、それはアース神様からの試練ですとか神様に転用してうまく立ち回ってるだけのセコイ大人にしか見えない。

「まぁまぁ、ここですごい才能のある子供を何人も見出せばウカル司祭様の出世も間違いないですよ!もしかしたら本部の大司教にもになれるかも知れません」 

 俺の言葉にピクッと眉を動かすウカル司祭様を見て、俺は内心ほくそ笑む。
 だけど、それを顔に出したりしない。

「分かりました。本当に頼みましたよ?私は徴税書の名簿を作りますので……くれぐれも!教会の方針を批判するような内容には触れないようにしてくださいね。それとユウマ君、そろそろアース神教に入る気はありませんか?君なら……」

 ウカル司祭様司祭様が、勧誘の言葉を口にしてくるけど、俺としてはあまり教会には興味はないんだよな。
 俺の知識の中にある宗教はいつも何かしら問題を起こしているからな。
 しかも、ウカル司祭様みたいな人がいっぱいいるような宗教とか、すっごく疲れそうだ。
 だから、アース神教に入ることはないかな。

「申し訳ありません。俺はあまり宗教には興味はないので」
「そうですか。ですが、他ではあまり言いふらさないようにお願いしますよ? 教会からの誘いを断ったとなったら異端審問会にかけられるかも知れませんから。私ですから大目に見ているだけですからね」

 俺が住んでいるアルネ王国の国教であるアース教は、積極的に優れた子供を勧誘している。
 給料もよく身分もしっかりしている教会の勧誘を原則、断る人はいない。
 断るのは、アース教以外の宗教を信じてる人間であり、そういう人間は異端審問会にかけられる。
 面倒な世界だとつくづく思う。
 俺はそんな事を考えながら。

「わかっています」

 ウカル司祭様が毎回注意してくる言葉に頷きながら、奥の部屋にその後姿が消えるのを確認して子供達を見る。

「えーと……この3ヶ月間で大体、ひらがなを理解頂いたと思いますので今日からは算数の勉強をしていきたいと思います」

 俺の言葉に生徒である子供達は、木板の上に砂を敷き詰めただけの簡易黒板を取り出して俺へ視線を向けてきた。
 そして、俺は現代算数の知識の基礎である足し算と引き算をまず教えることした。
 虚無の時間はあっという間に過ぎて、子供達の脳が柔らかいのもあるのだろう。
 足し算を覚えられた子供が何人かいた。
 明日も足し算と引き算を教えればいいかなと思いながらも、『ユウマ先生!ありがとうございました』と同年代の子供達にお礼を言われて俺は手を振って分かれた。
 そして俺も帰ろうとした所でウカル司祭様に、『ユウマ君、本当に教会に入りませんか?』とまた勧誘を受けた。
 やんわりと断ってから教会を出て家に戻る途中で……。

「ユウマ君! ちょっといいかな?」

 振り返るとそこには出会った5歳の頃から、いつも俺にだけは暴力を振るってくる幼馴染のリリナが立っていた。
 こいつはいつも、最後には口調が速くなって顔を真っ赤にして俺を殴ってくる癖がある。
 しかもその時は、ユウマの馬鹿と言って走り去っていくから性質が悪い。
 10歳と俺と同年代の年齢にもかかわらず彼女は細い金色の睫に金色の長い髪と整った容姿にきめ細かい肌。さらには綺麗な声と非の打ち所の無い美幼女であった。
 服装も、けして裕福とは言えないリリナのお父さんがリリナのために無理をして揃えたのか、白い布地のワンピースを着ていて、村では少し浮いてる格好をしている。

「……いいけど、どうかしたの?」

 俺の言葉を聞いてリリナがモジモジしながら言葉を語ってきた。

「実はね! ……わたしのお父さんに会ってほしいの!」
「わかった!」
「え!? 即答なの?」

 いや……だってお前、断ったらすぐ暴力振るってくるじゃん。
 と。そんなことを言ったらまた殴られるので。

「もちろん! 幼馴染の頼みを断る男なんていないさ!」

 とだけ言っておく。
 真実は知らないほうがいいのだ。
 ただ、リリナはと言うと、俺の言葉を聞いて顔を真っ赤にしながら瞳を潤ませてながら、『えへへっ』とか言っているが、訂正を入れることはしない。
 俺は空気が読める男なのだ。
 実は、俺が使う魔法は、ウカル司祭様が使うような魔法とは違い、触媒を必要としない。
 俺の魔法に特殊性があった場合、問題になる可能性がある。
 そのため俺が魔法を使えると言う事は出来れば誰にも知られたくない。
 ただ人に見られずに、魔法の練習が出来る場所と言えば森の中くらいだ。
 ただ、猟師でも無い俺が森の中にいると不審に思われる。
 だからこそリリナの父親に弟子入りすれば俺が森に入っていてもおかしく思われない。
 そして、弟子入りするための口実が欲しかった。
 リリナの父親は、元冒険者で魔物や動物を狩る猟師だ。猟師は村長より許可をもらって森の中に入る。
 もしリリナの父親の弟子になれれば、元冒険者の知識や狩り方を教えてもらえる。
 それに、リリナの父親の代わりに狩猟を任せられれば森の中で動く的を魔法で打つ練習もできるようにもなる。
 俺は、いつかリリナの父親にそれを頼みたいと思っていた。
 だから、今回のリリナからの申し出はとても助かった。

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