お兄ちゃんがお母さんで、妹が甘えん坊なお話

ただのものかき

…こ、これって、お母さんの…だよね?…

「…お、お父さん…」
「ん~?なんだ~?涼羽?」
「…こ、これって、お母さんの…だよね?…」
「ん~?そうだぞ~?」
「な、なんで…」
「ん~?」
「なんで…それを俺が…」

週のお勤めも終わり、この週は休日出勤もないため、自宅である高宮家にいる翔羽。
その翔羽がデレデレとした顔でぎゅうっと後ろから抱きしめているのは、その実の息子であり、長男である涼羽。

ここのところ、平日も涼羽が明洋のお見舞いに行っていることもあって、一緒にいられる時間がかなり少なく、しかもパートナー会社での作業が多く、休日出勤も結構多くなっていて、翔羽は心の癒しをもっと欲しくて仕方がない状態だった。

この日は久しぶりに休日出勤もなく、一日思う存分に最愛の子供たちと一緒に過ごそうと決めていたのだ。

その父、翔羽にもう絶対に離さないと言わんばかりに後ろからぎゅうっと抱きしめられている涼羽は、その顔を真っ赤に赤らめて、恥ずかしがっている状態。

今、涼羽のその小柄で華奢な身体を包んでいる衣類は、今は亡き母である水月がかつて好んで着ていたもののひとつ。
翔羽が、水月に正式にプロポーズをした時に、水月が着ていたものなのだ。

落ち着いた感じのクリーム色の、少しぶかっとした感じのセーターに、淡い黒のカーディガン。
そして、くるぶしの上あたりまである丈の、ふんわりとした藍色のロングスカート。

その男子としてはもちろんのこと、女子としても長い部類に入る髪も、いつものようにヘアゴムで無造作にまとめられているのではなく、さらりとまっすぐにおろされている。

しかも、もうそれを着ていた主がこの世にいないにも関わらず、なぜか残っていた、清楚でお淑やかな印象の純白の下着まで、涼羽は身につけさせられている。
女性用の下着を身につけて、その胸もその下着のサイズに合うように詰め物がされており、その母、水月そっくりな容姿もあって、今の涼羽は母、水月がこの世に生き返ったとしか思えないような状態になっている。

つまりこの日は、涼羽は実の父親のお願いで、女装するはめになってしまっているのだ。

傍から見れば変質者としか思えないような父のお願いに、当然ながら涼羽は断固として拒否の姿勢を貫こうとするのだが…
そこでそれをはいそうですか、と済ませないのは、涼羽の実の妹である羽月。
実の兄の可愛らしい姿を見れる機会を逃すなんてこと、お天道様がひっくり返ったとしてもするはずない、と言わんばかりに可愛らしくも、まるで獲物の狙う猛獣のようにじっくりと懇願しながら涼羽を追い詰めていく。

そして、それでも首を縦に振ってくれない兄、涼羽に対し、父が見ている前で無理やり押し倒してその唇を奪い、もう涼羽がまともな抵抗すらできなくなるようになるまでとろとろにとかしてしまう。
そんな自分の姿を見られて恥ずかしくて恥ずかしくてたまらず、とうとうその首を縦に振ってしまうこととなる涼羽。

その瞬間、まるで世界の頂点に立ったアスリートのように翔羽と羽月が諸手を上げて喜んだのは、言うまでもない。

「えへへ~♪お兄ちゃんほんとにお母さんみたい♪可愛い~♪」

かつての実の母、水月と瓜二つな格好をさせられている兄、涼羽の胸にべったりと抱きついて、無邪気に喜んでいる羽月。
生前の水月の、ちょうど翔羽がプロポーズをした当日の姿を翔羽から写真で見せてもらったため、今の涼羽が本当に母、水月と瓜二つであることを知っているだけに、なおさらこの世で会うことのできなかった母と本当に会っているかのような感覚すら、芽生えてくる。

ましてやどれだけ恥ずかしがっている状態でも、いつものように本当に優しく、温かく涼羽は妹である羽月のことを包みこんでいるため、本当に母に甘えられているような感覚が芽生えて、それが本当に嬉しくなってしまう羽月。

「な…なんで俺が、お母さんが着ていた服、着ないといけないの?…」

もうすぐ大人の仲間入りをする男子高校生である自分が、実の母が着ていた服を着せられているという、一体どんな羞恥プレイなんだと声を上げてしまうこの状況に、涼羽はただただ、恥ずかしさにその身を打ち震えさせてしまう。
おどおどとした、可愛らしい声で、なんでこんなことになっているのかと、嘆きの言葉まで涼羽は響かせてしまう。

「そんなの、お兄ちゃんが可愛いからに決まってるじゃない」
「そうそう。それに、まるで水月が本当に生き返ったみたいで、お父さんは嬉しくて嬉しくて…」
「で、でも…俺、男なのに…」
「でもお兄ちゃん、お母さんの下着まで、まるでお兄ちゃんのためにあつらえたみたいにぴったりだったでしょ?」
「!そ、それは言わないで…」
「ほほう、涼羽は身体のサイズまでお母さんにそっくりなんだな」
「!お、お父さんまで…」

母が生前着ていた衣類を着せられ、実の父と妹にひたすら可愛がられる涼羽。
翔羽から、羽月から意地悪な発言まで飛び出し、もうどうしようもないほどに恥ずかしくて、先ほどからずっと顔を赤らめて、困り果てた表情を浮かべながら俯いたままになっている。
そして、そんな涼羽が可愛すぎて、もっとそんな涼羽を見たくて、翔羽も羽月ももっともっと可愛がりたくなってしまっている。

「うむうむ、涼羽君は本当に可愛いなあ」
「ああ!!こんなにも可愛いなんて、まさに国宝級じゃな!!」

そして、この日高宮家にいるのは家族だけではない。
翔羽の慰労という名目で、ふと涼羽と羽月に会いたくなった幸助と誠一が、いきなりこの高宮家を訪れていたのだ。
ちょうど涼羽が半ば無理やりに母の遺品である衣類に着替えさせられた直後に、幸助と誠一はこの高宮家に姿を現し…
少し落ち着いた、地味な女性ものの衣装に身を包んでいる、可愛らしさ満点の美少女と化している涼羽を見た瞬間、この世の幸せを独り占めしているかのようなとろけた笑顔を、二人は見せることとなってしまった。

実は幸助も誠一も二人共、この日は業務上の予定が入っていたにも関わらず、それをもっともらしい理由を付けて全てキャンセルし、お忍びでそのまま高宮家へと足を運んだのだ。
幸い、普段の二人の人柄と仕事に対する姿勢、そしてどんなに過密で過酷なスケジュールであっても嫌な顔一つせずに取り組んでいくその姿を、関連する人間誰もが見ており、決して今回のような煩悩にまみれたキャンセルの仕方などしないだろうと思われている。
ゆえに、二人の会社にとって重要な商談もあったこの日だが、急遽その代役が選抜され、先方に平謝りしながら代役が商談に挑むという事態にまでなっている。

大真面目な顔で『非常に重要な急用が入った』などと言って、申し訳なさそうに会社を後にした幸助と誠一が、まさか自分の親族でもない家族の家に入り浸っているなどと誰も思わず、会社では常に人格者として定評を持っている二人の穴埋めをしようと、役員と社員は一丸になって奮闘している。

「な…なんで幸助おじいちゃんや、誠一おじいちゃんまでいるの…」
「いや~、ほんとに涼羽君と羽月ちゃんに会いたくてねえ~」
「わしもわしも!!」
「そしたら、こんなにも可愛らしくなった涼羽君に会えるとは…思ってもみなかったよ」
「あの時の花嫁姿も驚くほど可愛かったけど、今の姿もまた可愛らしいのう~!!」
「あ、あんまり見ないで…」

涼羽にとっては、父、翔羽と妹、羽月の要望で母の衣類に身を包むことになったその時に幸助と誠一が自宅に訪れることとなり、まさに青天の霹靂とも言える事態となっている。
しかも、その二人まで父と妹と同じように、自分のことをとろけるような嬉しそうな表情で見つめているため、それが余計に恥ずかしくてたまらない。

さすがにここに来た当初は、実の父である翔羽が、実の息子である涼羽に今は亡き妻の衣類を着て欲しいなどと懇願したことに驚きを隠せず、『彼は大丈夫なのだろうか…』と、ただでさえ業務過多であるところに最近さらに業務を追加してしまっていることを心配してしまったのだが、今となってはむしろグッジョブと言わんばかりに、翔羽と同じようにデレデレになりながら涼羽のことを可愛がってしまっている。

あの時、『SUZUHA』として見事に花嫁モデルをやり切ったその姿も素晴らしかっただけに、こうしてまた、涼羽の女装した姿を見られることが嬉しくてたまらない。

実は誠一の会社の商談に、『SUZUHA』と『SHIN』を自分の会社のモデルとして使わせて欲しいという要望が非常に多くなってきている。
国内どころか、国外すらも巻き込むほどの大反響を生んだ、今話題のモデルに自社のPRモデルとしてきて欲しい、もしくは誠一の会社と同じように自社が企画しているキャンペーンのモデルとしてきて欲しい、と思っている会社は今、元々誠一が業務提携なども含めて関わってきた企業のみならず、これまで関わりのなかった企業まで来ており、その数は日に日に増えていっている。

その度に心苦しい表情を浮かべながら、その要望にお断りの返事を返すこととなっている誠一。

ただでさえその扱い自体が非常にデリケートになっている二人のモデルを、そうやすやすと他社の関連の仕事に関わらせることは、二人にとっての不利益がどんなところで生まれてくるか、想像に難くなく、逆に想像が付かない。
無論、そういった要望を叶えることは、自社はもちろん、他社にとっても利益になることは目に見えており、よい経済の循環になることも重々承知はしているのだが…
誠一としては、どうしても涼羽と志郎の二人が、普段通りに過ごせることの方が重要となっており、この二人の日常を壊してまですることではないと思っている。

ましてや、二人は決して、誠一の会社に専属しているモデルなどではなく、その時限りのモデルとなっているため、そもそも誠一の会社にも二人をモデルとして他社に派遣する権利など、ないのだから。

だからこそ、そんな日々増え続ける商談に対して、首を横に振らざるを得なくなっている。

その認識は、パートナー会社の役員であり、誠一にとって古くからの親友である幸助も同じであり…
自社のPRモデルをしてもらいたい、という思いはあれど、やはりそれは涼羽と志郎の二人の日常を壊してまですることではないと、その選択肢を取らずにいる状態だ。

「それにしても…これだけ見栄えするモデルなら、あの女が動いても不思議ではないのう…」
「!あの女とは、もしや…」
「そうじゃよ、幸助…」
「やはり動いてきたのか…」

まるで不吉を暗示するかのような誠一の口ぶりから出てきた、『あの女』という言葉。
それを聞いた幸助も、その単語に思い当たりがあるのか、すぐにその内容を察する。

あの女とは、現在体調を崩して、この近くの病院に入院している、ワンマンな女社長、鳴宮 千茅。

千茅は、誠一の会社に『SUZUHA』のことを問い合わせてきただけでなく、実際に『SUZUHA』をモデルとして自分の会社に移籍させて欲しい、などと、わざわざ誠一の会社に出向いて言い出している。

それも、自分の会社でモデルをする方が、『SUZUHA』にとってもいいことであり、幸せなことだとまで言い切って。

千茅の会社は、業績そのものは非常によく、今後の展望も非常に見込みはいいのだが…
いかんせん、千茅のあまりにも自己中心的な態度が、業界の中では非常に評判が悪い。
そしてそれは、商談相手が男性である際に特に顕著に見られ、よくも悪くも古き良き時代の体質をそのまま引き継いできている誠一や幸助には、そんな千茅とは業務を共にすることはできない、という結論に至っている。

それでも、業績という結果を出し続けてきているため、周囲もそこまで強く批判をすることはできずにいる状態であり、千茅のそういった部分があまりクローズアップされずにいる。

それゆえに、そんな千茅と、今目の前にいる天使のような存在である涼羽と関わらせること自体、誠一にとっても幸助にとっても涼羽にとって非常に悪影響になるという確信しかないため、何があっても涼羽と千茅を関わらせないようにと、その思いを共有している。

「?どうしたの?幸助おじいちゃん、誠一おじいちゃん?」
「ん?ああ、涼羽君には関係のないことだよ」
「そうそう!涼羽君が気にすることではないぞ!」

二人のそんな思いが少し表情に表れていたのか、涼羽が二人を心配するかのような表情で声をかけてくる。
そんな涼羽を本当に可愛らしく思いながら、幸助も誠一も涼羽が気にすることではないと、その表情を孫にデレデレの好々爺のものに戻す。

すでに涼羽が千茅と関わりを持ってしまっていること、そして涼羽がその千茅を完全に拒絶してしまっていることなど、幸助も誠一も知る由もなく、ただただ今は、涼羽を可愛がろうと、その顔をとろけてしまいそうなほどにゆるゆるにしてしまっているので、あった。

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