お兄ちゃんがお母さんで、妹が甘えん坊なお話

ただのものかき

涼羽ちゃんはここにモデルとして来てるんでしょ?

「ほ~ら、涼羽ちゃん♪」
「?は、はい?」

幸介と誠一のやりとりをきょとんとした表情で見つめていた涼羽の華奢で小さな肩に、ぽんと置かれた手。
その手が置かれると同時にかけられた、非常にご機嫌と言わんばかりの声。

その声の方に、驚きながらも振り向くと、目の前のお楽しみなことを散々お預けされて、待ちきれなくなったと言わんばかりの表情を浮かべている、メイキャッパーとスタイリストのお姉さん達がずらりと揃って、涼羽を取り囲むかのように待ち構えている。

そんなお姉さん達の様子に、思わず下がろうとしてしまう涼羽だが、そうはさせないと言わんばかりに、涼羽の肩を掴んでいるお姉さんの手に力が入る。
その手に、まさに逃がしませんという強い意志が、こめられている。

「ほ~ら…涼羽ちゃんはここにモデルとして来てるんでしょ?」
「は、はい…」
「だったら~、いい加減…ね?」
「え、え?」
「お姉さん達に~、涼羽ちゃんのこと、すっごくいじらせてほしいな~」

それぞれが、それをやりたくてやりたくてたまらなくて、それがとうとう仕事として成り立つほどに、その道を突き詰め続けてきた人間の集まりとも言える、彼女達。
その彼女達の目は、まさに極上の獲物を見つけた肉食獣そのものと言える、そんな目をしている。

ここに来た涼羽を一目見たその時から、超一級品の素材だと、内心では諸手を上げて喜んでいた彼女達。
さらには、そんな極上の素材が、自分達が好きにできるモデルとして来てくれたのだから、もう一秒でも早く、自分達の手で、誰の目をも惹いてしまう、まさにこの世に舞い降りた天使のように可愛らしく、綺麗にしてあげたいと、ずっとその時を心待ちにしていたのだ。

その煮えたぎらんばかりの欲望が、もう目前でお預けをされたような形で待たされていたこともあり、まるで麻薬の禁断症状にでもかかったかのような錯覚まで覚えてしまうほど…
文字通り、一日千秋の思いで、こうして涼羽のことを思う存分に磨いて、光らせてあげられるその瞬間を、待ち続けてきた。

そんな滾る欲望をまるで隠そうともせず、その対象となる涼羽のことをじろじろと見つめて、すでに思い浮かんでいるイメージを投影することをとっくに始めている。
そんな彼女達の尋常でない様子に、思わず背筋がぞくりとしてしまう涼羽。

これから自分が一体どんなことをされるのかもよく分からず、ただただ、その顔に不安げな表情を浮かべて、しかしその場から逃げることもできずに、立ち尽くすのみとなっている。

「あ、あの…」

そして、その不安な心ばかりが膨れ上がってしまい、ついつい怯えたかのような声をあげてしまう涼羽。
そんな涼羽の声をさえぎるかのように、メイキャッパーのお姉さんの手が、涼羽の頬にそっと伸びて、その感触を堪能するかのようにすりすりと触り始める。

「!!ひゃ、あっ!!」

いきなり頬に触れられて、思わず、といった感じで涼羽の口から、甲高い声があがってしまう。

「うわ~…見てるだけでもすっごく綺麗なお肌だって思ってたけど…触ってみたらまた、すご~い」
「え~…!うわ!なにこのお肌!めちゃくちゃ綺麗だし、すべすべ~」
「ほんと~!わたし達より綺麗じゃない!このお肌!」

涼羽の頬に触れたメイキャッパーのお姉さんから、涼羽の肌質に関する称賛の声があがる。
実際、先程から見てるだけでもそのなめらかさ、綺麗さを実感できるほどだったのだが、実際に触ってみて、その驚くほどのコンディションに、またも称賛の声があがってしまう。

そして、そんなメイキャッパーのお姉さんに続いて、スタイリストのお姉さん達もつられて、涼羽の頬にさわさわと触れていく。
そして、綺麗を追求する職業についている自分達よりも綺麗な肌だと、驚愕の声が止まらない。
そして、それほどの極上素材を自分達の思うように綺麗にできることに、もう喜びと嬉しさが溢れてくるような感覚を覚えてしまう。

「や、やっ…やめて…ください…」
「わ~…何この腰!綺麗にくびれてて、無駄がなくて…」
「ほんと~!この子わたしより細いよ!絶対!」
「おまけに、お尻もちょっと小ぶりだけど、綺麗な丸みで柔らかくて、わあ~」
「ひゃっ!ひうっ!…さ、触らないで…」
「それに、小柄だけど、身長からすると腰の位置も高いし…」
「うん、比率で考えたら、脚もすらっとして長いよね!」
「おまけに、胸のアンダーも女子並だなんて!これで男の子だなんて、すっご~い!」

そんな極上素材のよさをさらに堪能するかのように、今度は涼羽のほっそりとした腰に、彼女達の手がいってしまう。
男子なのにくびれがあり、しかも無駄がなくほっそりとしていて、自分と比べて、自分より細いという声まで出てきてしまっている。
さらには、その腰からお尻のラインも理想的な流れで、やや小ぶりではあるものの、綺麗に丸みを帯びていて、柔らかなお尻の感触まで、確かめるかのように触れている。

彼女達の手が、自分の身体に触れるたびに、びくびくと過剰なほどの反応を見せながら、甲高い声をあげてしまう涼羽。
そして、その度に、涙目になりながらも儚い懇願の声をあげてしまう。
その顔があまりにも可愛らし過ぎて、余計にそんな顔を見たくなって、さらに彼女達の手が、涼羽の身体にもっともっとと言わんばかりに触れていく。

そして、その身長からすればかなり高い腰の位置、そしてその腰の位置に比例する長い脚。
加えて、当然ながらぺったんこな胸も、女子のアンダーと比べても違和感のない細さであり、全てが、美を追求する彼女達が本当の意味で感嘆の声をあげてしまう極上の素材。

自分達がこれから手がけるのが、これほどの極上な素材ということが実感できればできるほど、彼女達のモチベーションが際限知らずに膨れ上がっていき、興奮の域にまで達してしまったのか、息を荒げてしまっている者の姿も、出てきている。

「うわ…なんて百合百合しい…」
「花嫁チームの方、モデルの子、男の子なんだろ?」
「いや…でもあれなら、花嫁として寺崎さんに連れてこられても仕方ないよな」
「びくびくしながら、涙目で儚い抵抗してる姿…めっちゃ可愛い」

どう見ても、可愛らしい女の子が綺麗なお姉さんにめちゃくちゃに可愛がられている図にしか見えないその光景に、花婿チームの男性スタッフ達は、本当に涼羽が男なのか、と疑ってしまっている。
花嫁チームの女性スタッフ達に、これでもかというくらいに触れられて、どうすることもできなくて、恥ずかしくてたまらないというその表情、仕草、一つ一つを見て、その可愛らしさに頬を緩めてしまってもいる。

この手の仕事をしているから、可愛らしいタイプの男子というのも結構な数を見てきてはいるのだが、それでもここまで女子にしか見えない、バランスが極端に女子に偏ってしまっている可愛らしさに満ち溢れた男子は、さすがに見たことがない、と思ってしまっている。

できることなら、あんな可愛い子を、『男子として』コーディネイトしてみたい。
あの女子に偏ったバランスを、どうすれば中性的なところまで持っていけるか、試行錯誤してみたい。
そうしたら、どんなに可愛い男の子ができるのか、実際に自らの手でやってみたい。

そんな思いが、男性スタッフ達の心に芽生えてきてしまっている。

そんな風に、男性のスタイリスト達からも、極上の素材としての熱い視線を送られていることなど知る由もなく、涼羽は、まるで熱に浮かされたかのようにきゃっきゃうふふとはしゃいでいる女性スタイリスト達に、花嫁モデルのために用意されている控え室の方へと、連れて行かれるのであった。



――――



「さあ~、まずはその可愛いお顔からよ~♪」

一人のモデルに対してはいささか広すぎるのではないか、と思えるほどに広い控え室へと、半ば強制的に連れて来られることとなった涼羽。
そして、メイク道具が整然と並べられた鏡台の前に座らされ、一体何をされるのか分からず、不安で一杯の表情を浮かべながらも、自分のことをがっしりと捕まえて離さないお姉さん達に抵抗らしい抵抗すらできず、されるがままとなっている。

ひとまずは、涼羽のその童顔な美少女顔から手をつけていきたい、ということで、最初にメイクから始めていくこととなった。
そして、その開始点からすでに、ここにいる涼羽を除く全員が、欲しくて欲しくてたまらなかったおもちゃを買ってもらえた子供のような、純粋に嬉しそうで、楽しそうな表情を、そのそれぞれの美人な顔に浮かべている。

「この子、すっごく可愛くて、お肌のコンディションも良すぎるくらいなんだけど…」
「やっぱり、ちょっと可愛すぎるのよね」
「顔のラインも、どっちかと言うと丸みが強くて、幼い感じが抜けないのよね」
「それはそれです~っごく可愛いから、いいんだけどね」
「でも、やっぱり花嫁ってなったら、もうちょっと綺麗な感じに寄せていきたいのよね」
「そうよね~」
「できれば、この可愛らしさを損なわずに、もうちょっと大人っぽい綺麗さを足していけたら、って思うのよね」

メイク担当のスタッフはもちろんのこと、ファッション担当のスタイリストまで勢ぞろいして、鏡に映っている涼羽の顔を眺めて、全員でどうメイクしていくかの方針を話し合っている。

その中で、全員が満場一致で思っているのが、涼羽の顔立ちがやはり完全に『可愛い』に偏っていること。
そして、その可愛さが、『幼さ』という要因が強く出ている、ということ。
要するに、花嫁というには少し幼すぎて、可愛らしすぎて、中学生くらいの女の子が無理に着せられているような感じになりかねない…
彼女達は、それを懸念しているのだ。

顔立ちが素のままで美少女なので、すっぴんのままウエディングドレスに着替えてもらうだけでも、十分すぎるほどの天使のような可愛らしさの花嫁ができあがるとは、彼女達も思っている。
ただ、それだとやはりコスプレの域を出ないのだ。

やはり、結婚という、一生に一度の晴れ舞台、それも女性が主役となるイベント。
そんなイベントのアピールをするための撮影であり、そのためのモデルなのだから。
だからこそ、コスプレ的な感じが出てしまうと、どうしても安っぽくなってしまう。

ゆえに、このままでも十分といえば十分なのだが、言うなればまだ成長段階の女の子の涼羽の顔立ちに、もう少し『大人っぽさ』を加えていきたい、そう彼女達は、思っている。
かといって、完全に『大人びた綺麗さ』に重点を置くのではなく、涼羽が本来持っている『大人になる前の子供の可愛らしさ』と、『大人びた綺麗さ』をうまく調和させて、絶妙のバランスで『綺麗』と『可愛い』が共存できるようにしていきたい。
涼羽に関して言えば、可愛らしさは満点なのは間違いないので、そこにほどほどに大人びた雰囲気を持たせることができれば、まさに天使のような花嫁が完成するのではないか。

そんなところから、イメージを作りこんでいく…
それだけなのに、もうはわー、といった感じで顔がとろけているスタイリスト達。
これから、自分達の手でこの可愛いの化身のような子が、誰の目から見ても理想的な花嫁にできると思うと、もうニヤニヤが止まらない。
早く、早くと、ワクワクが止まらない。

「え…メイクって…するん…ですか?…」

そんな彼女達の話をそばで聞いていて、戸惑いの表情と雰囲気を隠せない涼羽。
思わず、といった感じでぽろっと漏れ出てしまった不安げな声が、非常に儚げで、思わず抱きしめて護ってあげたくなる感じになっており、それがまた、スタイリストの彼女達の可愛いもの好きの心をくすぐってしまう。

「あ~ん!もお!この子ほんとに可愛すぎ~!」

もう我慢ができなくなってしまったのか、スタイリストの一人が、不安げな様子と仕草を見せる涼羽のことを、まるで我が子を包み込む母のようにぎゅうっと抱きしめて、その頬に頬ずりまでしてしまう。

「もお!こんなにも可愛い子が男の子だなんて、ほんと信じられないわ~!」
「大丈夫よ~!涼羽ちゃん!お姉さん達が、う~んと優しくしてあげるからね!」
「そうそう!こんなにも可愛い涼羽ちゃんだもん!もう誰だってもらいたくなっちゃうお嫁さんに、してあげるからね~!」

他のお姉さん達も、もう我慢ができなくなってしまったのか、年上の美人のお姉さんにぎゅうっとされて恥ずかしがっておたおたとしている涼羽のことをぎゅうっと抱きしめたり、その頭を優しくなでたりなどと、もうとにかく可愛がろうと、もみくちゃにしてしまっている。

「ひゃ、ひゃあっ……や、やめて…ください…」

年上で美人なお姉さん達にめちゃくちゃに可愛がられて、恥ずかしくて恥ずかしくてどうにかなりそうで、そんな状況から逃れたくて、ついつい儚い抵抗の声をあげてしまう。
しかし、そんな声も仕草も、全てがあまりにも可愛くなってしまうことにいつまでたっても気づくことのない涼羽。
当然、お姉さん達はそんな涼羽のことを解放するどころか、逆にもっと可愛がろうと、さらにもみくちゃにしてしまっている。

「だ、だめ…です…」
「え~?何がだめなの~?」
「…お姉さん達みたいな…綺麗な女の人が…」
「まあ♪嬉しい~♪涼羽ちゃんがそんな風に言ってくれるなんて~♪」
「うふふ♪涼羽ちゃんいい子すぎ~♪」
「…ぼ…僕みたいな…男に…そんなに…気安く…こんなこと…したら…」

一向に自分のことを解放しようとしてくれないお姉さん達に、涼羽もついつい、いつも美鈴を含むクラスの女子達に対して言っているようなことを言ってしまう。
いつまでたっても、異性にこんな風にべったりとされることになれない涼羽。
だからこそ、その母性的で慎ましやかな性格も手伝って、ついつい娘の異性関係を心配する母親のようなことを、口に出してしまう。

いきなり涼羽の口からそんなことを言われて、さすがにきょとんとした表情を浮かべてしまうスタイリストのお姉さん達。
だが、それも一瞬だけで、涼羽にべったりとしていて、ただでさえゆるゆるになっている彼女達の表情が、ますますゆるゆるになっていってしまっている。

「あ、あの?…」
「もお~!涼羽ちゃんったら、ほんとに可愛いわ~!」
「わたし達、涼羽ちゃんが可愛すぎて、ほんとに幸せ~!」
「神様ありがと~!こんなにも可愛い子と、わたし達を会わせてくれて~!」
「し、幸せ?…」
「そうよ~!わたし達ね、涼羽ちゃんが男の子とか、女の子とか、そんなの関係ないの!」
「そうそう!だって、涼羽ちゃんっていう存在が、もう犯罪的なくらい可愛いから、可愛がりたくてたまんなくなっちゃうの!」
「でね!涼羽ちゃんみたいな天使みたいに可愛い子を、わたし達の理想の花嫁さんにできるから、幸せな気持ちでいっぱいなの!」
「…で、でも…男が可愛いなんて…」
「い~い?涼羽ちゃん、可愛いに男も女もないの!いい?可愛いは正義、なの!」
「そう!でね、涼羽ちゃんこんなにも可愛いんだから、それだけでい~っぱい周りの人幸せにできてるの!これって、ほんとにすごいことなのよ?」
「そうそう!今も、わたし達、涼羽ちゃんが可愛すぎてほんとに幸せな気持ちになれちゃってるんだから!ほんとに、可愛いは正義、なの!」

もうその頬をゆるゆるにしながら、自分のことが可愛いと連呼してくる彼女達。
しかし、自分が男だと言う意識が強い涼羽にとっては、その可愛いという言葉自体が、どうしても抵抗が出てきてしまう。
それゆえに、男が可愛いなんて、と、困った感じの声まであがってしまう。

だが、涼羽のことが可愛くて可愛くてたまらない彼女達から、可愛いは正義、という言葉が飛び出し、さらには、可愛いということがいかにすごいことなのかを、小さな子供に言い聞かせるような感じで、涼羽に伝えてくる。

「…可愛いは、正義…」

涼羽も、そんな言葉をそんな風に言われて、どこか心に残ったのか、思わず、と言った感じで、その言葉を声に出してしまう。
その瞬間、自分も、妹の羽月とか、香奈とか、香澄とか、保育園の園児達とか、可愛くてたまらないからついつい甘えさせて、可愛がってしまう。
そして、そうして包み込んで甘えさせていることに、いいようのない幸福感を感じてしまう。
そんなところに、思い当たってしまう。

そして、自分も可愛い子に対して、幸せな気持ちにさせてもらっていることに、思い当たってしまう。
可愛いは正義ということを、自分も実感していることに、気づいてしまう。

「…で、でも…」

だが、やはり男なら男らしくありたい、という意識が強すぎるのか、まだその言葉を素直に受け入れるまでには至らず、困ったような表情を浮かべながら、お姉さん達にべったりとされている。

しかし、男でも女でも関係ない、という彼女達の言葉は、確かに涼羽の中に残ったようで、これが、涼羽が自分が可愛いといわれることに関する見直しのきっかけとなるので、あった。

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