お兄ちゃんがお母さんで、妹が甘えん坊なお話

ただのものかき

…それだけは、絶対にだめ!

「いたた…」
「お、おい。大丈夫か?」
「高宮君、大丈夫?」

昼休みも残り少なくなってきた頃。
校舎裏にいるのは、先程まで張り詰めた緊張感の中…
肉体言語によるコミュニケーションにまで発展していた三人。

一人は、ルールというものに激しい嫌悪を抱き、ひたすらに力で訴えることを続けていた、鷺宮 志郎。
一人は、この学校の風紀委員として、ルール遵守をひたすらに押し通していた、小宮 愛理。
一人は、そんな二人のいざこざを身体を張って止め、その顔に大きな傷を負うこととなった、高宮 涼羽。

喧嘩にも自己の鍛錬にも明け暮れ…
そんじょそこらの不良では一撃で意識を失ってしまうほどの志郎の拳。

そんな志郎の拳を、もろに受けてしまった涼羽の左頬。
そこから、火が出るほどの痛みが発しているのだ。

普段は透き通るように白く、すべすべな頬も…
今この時においては、その拳を受けたことによる激しい衝撃で内出血を起こしており…
赤を通り越して、痛々しい紫色にまで変わっているのだ。

加えて、顔の形が変わってしまうほどに腫れてきており…
一刻も早い処置が必要となってきている。

「こりゃ、まずいな…俺がやっといて言うのもあれなんだが」

喧嘩に明け暮れていたため、怪我の状態も見慣れている志郎の言葉。
このままでは、下手をすれば涼羽の顔に、この傷が…
もしくは痣が、残ってしまうかもしれない。

「え?ま、まずいって…何がなの?」

自分をかばって、涼羽がこんな傷を負ってしまったことに激しい罪悪感を覚えている愛理。
ぽつりと漏れ出た志郎の言葉に、思わず反応してしまう。

「このままだと、こいつの顔にこれが残っちまうかも知れねえ…ってことだ」
「!そ、そんな!」

苦虫を噛み潰すような表情の志郎の、苦々しい口調の言葉。
そんな志郎の言葉に、その顔を真っ青にしてしまう愛理。

「二人共、俺は大丈夫だから…」

当人である涼羽が、一番危機感がないという状態にまでなっている。

もちろん、自分を大事にしない涼羽のこんな言葉に、今のこの二人が黙っているはずもなく…

「バカ野郎!!お前のその顔にそんな傷痕が残ったらどうすんだよ!!」
「バカ!!そんなにひどい状態になってて、大丈夫なわけないでしょ!!」

ものすごい剣幕で、自覚のない涼羽を叱りつけるように言葉をぶつける志郎と愛理。

本来なら、自分がこうなっていたかも知れないと思うと、気が気でない愛理。
自分をこんなことから救ってくれた恩人が、そのせっかくの可愛い顔にこんなひどい傷痕が残ってしまったら…
考えるだけでも、背筋が凍ってしまいそうになる。

こんな、力だけを有り余らせて、癇癪を起こした子供のごとく…
ひたすらに人を傷つけ続けてきた志郎。
そんな自分を、その身を持って救ってくれた恩人である涼羽。
その涼羽の顔にこんな傷痕が残ることなど、決して見過ごせるわけがない。

「と、とにかく保健室だ、保健室!!」
「そ、そうね!!とにかく、手当てしてもらわないと!!」

先程まで、一触即発の状態にまでなり…
一方的な蹂躙劇をする側とされる側だった二人とは思えないほど…
一刻も早く涼羽の顔を手当てしてもらう、という共通の目的に一致団結してしまっている。

ちなみに、志郎の顔にも、涼羽の強烈なカウンターによる大きな打撲痕が残っているのだが…
そこはそれなりに打たれなれていることもあり…
なにより、もともとの肉体の強度が涼羽とは違っているため…
涼羽のようなひどい状態には、なっていない。

「だ、だから俺は大丈夫だって…」

この期に及んで、未だにこんなことを言う涼羽。
そんな涼羽に、もはや我慢も限界を超えた志郎。

「ええい!!ごちゃごちゃ言ってねえで、早く保健室行くぞ!!オラ!!」

渋る涼羽を強引に横に抱きかかえ、そのまま保健室へと走り出す志郎。

「!ちょ、ちょっと!こんなの…」
「うっせえ!!いいから保健室行くっつってんだろがコラ!」
「ま、待って!私も行く!」

いきなり横抱きにされて大慌てしてしまう涼羽。
そんな涼羽を抱きかかえたまま、その長いストライドを活かして保健室へと急ぐ志郎。
その二人の後ろを懸命に追っていく愛理。

まるで、長年付き合ってきた友達のように、騒がしくも微笑ましい光景。
そんなやりとりを見せながら、揃って保健室へと、急ぐのであった。



――――



「先生!!」
「!な、何なの?…って、鷺宮君?それに、小宮さんも?」

静かな昼下がりを過ごしていたここ、保健室の主。
そこに突然、乱暴にドアを開かれ、乱入してきた三人。

いきなりの事態に盛大に驚いたが…
入ってきた面子の顔ぶれをみて、さらに驚いた。

志郎の方は、ちょくちょくとここでサボったりしていたため、割と顔なじみなのだが…
ルールをとことん嫌うあの志郎と、ルール遵守魔として有名な鬼の風紀委員である愛理が一緒だということ…
まさに水と油のような二人が揃って、行動を共にしていること。
それが、何よりも驚いた。

そして、志郎の腕に抱かれているのは…

「あれ?その、鷺宮君が抱えてる子って…高宮君?」

昨日から、その童顔な美少女顔が発覚し、校内で噂になっている涼羽。
その涼羽が、志郎に抱えられてここに連れてこられたということも、驚きの種であった。

「先生、急患だ!こいつの顔、なんとかしてくれ!」
「え?」

いつも冷めていて、どんなことにも無関心な志郎が…
これほどまでに感情を露わにしているということが、彼女には信じられなかった。

しかも、よく見ればその志郎の顔にも、あきらかに殴られたであろう打撲の痕が、はっきりと残っている。

「ちょ、どうしたの!?その顔!?キミみたいな喧嘩魔が、一体誰にそんな顔にさせられたの!?」
「俺の方は大丈夫だ!そんなこたどうでもいい!それよりも、こっちだこっち!」
「え?高宮君?」
「ああ、そうだよ!」
「そ、そうなんです、先生!」

見れば、志郎だけでなく、愛理までもが普段の凛とした雰囲気がまるで嘘のように焦っている。
とにかく、二人に促されるままに、志郎の腕に横抱きにされている涼羽の顔を診ることにした。

「どれどれ…!って、うわ!何よこれ!」

その露わになっている涼羽の左頬。
そこは、ひどい内出血によりどす黒い感じの紫に染まっており…
何より、幼げな感じの輪郭が変わってしまうほどに腫れあがってきている。

「どうしたの!?高宮君!いったい、何があったの!?」
「せ、先生…俺は大丈夫だから…」
「そんなことは聞いてないの!!一体どうしたらこんな…」

どうしてこんな状態になっているのかを涼羽に問う保健室の主。
しかし、涼羽は大丈夫だと言うばかりで、答えようとしない。

そんなどうでもいい言葉など、聞いていられないとばかりに一刀両断。

そんな中、ぽつりと飛び出す声。

「…わりい、先生。それやったの、俺だ…」
「え?」
「俺が、こいつのこと、思いっきり殴っちまったからなんだよ」

己の罪を告白し、懺悔するかのような…
しかし、それでいてはっきりとした口調で…
自分がしでかしたことを話す志郎。

「ちょ、ちょっと待って…鷺宮君、あなたがやったの?これ?」
「…ああ、そうだ」
「!な、何考えてるの!?あなた!!こんなに可愛い顔に、よくもそんなひどいこと…」

罪の意識がその表情に表れている志郎に、容赦ない糾弾の声。
その声が、自分の罪を突きつけてくれる。
そして、自分を断罪してくれる。

まさに、それが望みと言わんばかりに、何も言わずにその糾弾を受け続ける志郎。

「…………」
「あなたは、もっと分別のある方だと思ってたけど…どうやら先生の勘違いだったみたいね!」
「…………」
「見なさい!これ!あなたのその凶器とも言える拳が、この子にこんなひどい怪我をさせたのよ!」
「……ああ」

容赦なく降り注ぐ怒りの言葉。

だが、今の志郎には、それら一つ一つが救いとなっている。

この叱咤、そして糾弾が、己を戒めてくれる。
己の罪を自覚させてくれる。

もう二度と、こんなことをしてはならないと、思わせてくれる。

それが、本当にありがたくて…
それが、本当に大切に思えて…

だからこそ、その身体を張って、自分を全うな道へと引き戻してくれた涼羽には…
こんな自分を友達だと言ってくれた涼羽には…

本当に感謝の想いしかない。

「…本当に、悪かった…」

だからこそ、言いたかった。
この顔に、こんなひどい怪我をさせてしまったこと。
そのことを、ただ一言でいいから、謝りたかった。

こんなことで許されるなんて、思ってはいない。

でも、それでも…
その一言が言えただけでも…

なぜだか、本当に救われた思いになれる。

「(え?…あの鷺宮君が、こんなにも素直に謝るなんて…)」

そんな志郎を見た保健室の主は、今までとは明らかに違う彼の様子に戸惑う。
彼は、確かに暴力に明け暮れていた。
彼は、確かにルールというものをひたすらに嫌悪し、不良と呼ばれる立場になった。
当然、何をしようとも、何を言われようとも、こんなにも素直になることなどなく…
ましてや、謝罪するなど、まるで無縁の存在だったのだ。

その上、その謝罪をした志郎の顔…



――――まるで、罪人が許しを得て、救われたかのような顔――――



一体何があったのだろう。
一体誰が、彼をここまで変えたのだろう。

「…だ、だから俺は大丈夫だから…」
「…そんな顔して大丈夫なわけねえだろ。…本当に、悪かった」
「も、もういいから…とにかく降ろして…」
「だめだ。こんな傷を負わせた以上、責任持ってしっかりと抱えてやらねえと、な」

その志郎を変えた存在――――
その当人である涼羽が、いい加減に降ろして欲しいと懇願するも…
加害者である志郎の方が、頑として譲らず…

いつまでも女の子みたいに抱っこされて、その恥ずかしさに顔を染めている涼羽。
そんな涼羽を優しい眼差しで見つめながら、決して降ろそうとしない志郎。

「それにしても、お前…本当に軽いな。ちゃんともの食ってんのか?」
「た、食べてるよ!これでも、結構多い方なんだけど!」
「そ、そうか…それにしても、こんな華奢な身体で、俺を…お前、本当にすげえな」
「べ、別に…そんなこと…」

いつの間にか非常にフレンドリーなやりとりの二人。
そんな二人を見ていた、保健室の主は…

「!!ぶふぉっ!!」

なぜか、思わずむせたかのような、女性としてはあるまじき噴出し方をしてしまう。

「!?せ、先生!?」

それを見てしまった愛理が、驚きながらも心配そうに彼女に声をかける。

「ゲホッ!ゲホ…だ、大丈夫。ちょっと、唾が気管に入っちゃっただけだから」
「そ、そうですか…」

いかにも、な理由を述べる彼女に対し、愛理もそれ以上は追及することはなく…
しかし、心配そうな表情は崩さないまま、言葉を切った。

「(あ、あぶなかった!!まさか、こんなところで、こんな桃源郷があるなんて!!)」

場所が場所ならば、思わず奇声をあげて狂喜乱舞に至ってたかもしれない。
彼女にとっては、それほどの光景だったのだ。



――――なぜなら、彼女は生粋の腐女子――――



いや、年齢的に、『貴腐人』と呼ばれる存在になるだろう。
それも、イケメンタイプの攻めと、可愛い系の受けの絡みが大好きでたまらないのだ。

イケメン、というには少々強面な感じだが、それでも顔そのものは整っており…
背も高く、スラリとしたスポーツマンタイプの志郎。

その志郎の腕に抱えられたまま、恥ずかしがっている典型的可愛い系の涼羽。

そんな二人が、お互いに気心を許したやりとりをしており…
しかも、涼羽は志郎に横抱きにされたまま…

即に言う、『お姫様抱っこ』をされたままの状態。

もういい大人であり、学校の教員である彼女。
その立場ゆえに、学校ではその生態をひたすらに隠しているのだ。

その分、プライベートでは同好の士と共に思いっきりはっちゃけてはいるわけだが。

「(もう!!何よ何よこれ!!鷺宮君みたいな典型的攻めと、高宮君みたいな可愛い典型的受けが、あんな絡み方…あたしの理想が、今、目の前にある!!)」

表面上はどうにか落ち着きを保ってはいるものの…
内心はもう、その辺を走り回って諸手をあげて大喜びしている状態だ。

「せ、先生…とにかく、高宮君の手当てをしてあげてください!お願いします!」

いつまでたっても涼羽の治療に入れないことにしびれを切らしたのか…
愛理が、いつもの凛とした雰囲気とはまるで違う…
必死の焦燥感を滲ませての懇願を、内心で悶えまくっている彼女に向ける。

「そうだった!頼む先生!早くこいつを手当てしてやってくれ!」

そして、涼羽を横抱きにしたままの志郎からも、その必死さが伺えるような懇願が飛び出してくる。

「(ああ!可愛らしい受けのために必死になる攻め!なんて…なんて素晴らしいの!)」
「先生!お願いします!」
「先生!頼む!」

もう鼻血が出てしまいそうなほどに興奮している彼女。
そんな彼女の内心に気づかず、必死に懇願する志郎と愛理。

自分達が護るべき生徒の、懸命なお願い…
そして、今眼前にある、自分にとっての理想郷…

それらが、保健室の主である彼女の使命感に火をつけた。

「(こんなに可愛い高宮君の顔に傷なんて残ったら…だめ!それだけは、絶対にだめ!)」

ようやく、本来の役割を果たそうと、動き始める彼女。
やると決まったら、そこからは早かった。

「さあ、鷺宮君!とりあえず、高宮君をベッドに寝かせて!」
「!わ、分かった!」

いきなりの凛とした指示に驚き、慌てたものの…
自分の腕の中にいる涼羽を、慌てつつもそっとベッドに寝かせる志郎。

「あ、あの…俺…」
「ほら!怪我人はじっとしてる!」
「だ、だから大丈夫…」
「だめ!こんなひどい怪我してて何言ってるの!いいから、じっとしてなさい!」
「で、でも…もう授業が…」
「先生にはあたしから言っておくから!それに、あなたこんな顔で教室に行ったら、大騒ぎになっちゃうわよ!」
「!!…わ、分かりました…」

もうすぐ授業が始まることを気にして、とにかく教室に戻ろうとする涼羽。
そんな涼羽をとにかく言い聞かせ、すぐさま手当てにかかる主。

「鷺宮君!あなたもよ!あなたもその顔の手当て、するからね!」
「!わ、分かった」
「小宮さん!あなたは教室に戻って!」
「いえ!私もここにいます!私のためにこんな怪我した高宮君を置いて、授業なんて受けられません!」
「!あら…」

普段のルール遵守魔な愛理からは想像もできないような台詞。
そんな台詞を愛理に言わせたのが、この高宮 涼羽だということ。
それを知って、ますます使命感が燃え上がる。

「じゃあ、小宮さん!あたしの手伝いをしてくれる?」
「!わ、分かりました!」
「指示はあたしが出すから!だから、お願いね!」
「はい!」

こうして、保健室の主と愛理による、涼羽と志郎の手当てが、始まったのだった。



――――



「よし!これでいいかな」
「ふう…」

手当ての方は主の手際のよさに加え…
愛理の的確なサポートもあって、スムースに進み…
気がつけば、昼休みが終わるまでには終わっていた。

志郎の方はもともと打たれ慣れていることもあったため、結構な打撲痕こそあれど…
そこまでひどい怪我、というわけではなかった。

それでも、それなりの状態にはなっていたので、その打撲痕を覆い隠すように湿布が貼られ…
それを抑えるための包帯が、巻かれていた。

打撲痕が鼻の方にあるので、顔の中心を湿布で覆われ…
中心から視界が悪くならないように配慮して、包帯が巻かれている。

「大げさだな…ここまでの手当てなんて、いらなかったんだぜ?」
「何バカな事言ってるの。いくら喧嘩魔だってみんな知ってても、あなたのそんな顔見たらみんな怖がるでしょ?」
「…まあな…」
「いいからそうしておきなさい。その痣が早く消えることに、越したことはないんだから」

普段から喧嘩ばかりしていることもあり…
周囲からは喧嘩魔として認識されているのだが…
それでも、やはりこんな痣を残した顔を晒して歩くことの方が、周囲にはよくない。

そう判断したがゆえの、主の配慮だと聞き、志郎も渋々ながら言うことを聞く。

「それにしてもこっちは、なかなかひどい怪我だったわね」

一方の涼羽は、喧嘩自体もそうだが…
こんな風に殴られること自体がなかったため…
かなりひどい内出血を起こしていた。

加えて、あの志郎の拳で殴られたのだ。

涼羽本人はずっと我慢していたが、まさに火が出るような痛みが、ずっと走っていたのだ。
おまけに、もともとの顔の形が変わってしまうほどに腫れあがってきているため…
とにかく患部を冷やし、出血と腫れを抑えるようにしている。

今、涼羽の左頬には、大きな冷湿布が貼られている。

さらには、念のためと言うことで…
涼羽の手に、今貼られている湿布の代えが、何枚か持たされているのだ。

「先生、ありがとうございました」

懸命に手当てをしてくれた主に、ふんわりとした笑顔でお礼を言う涼羽。

「小宮さんも、手当てしてくれてありがとう」

その笑顔を向けて、愛理にもお礼を言う。

「も~…高宮君、ちょっと前まではとっつきづらい感じが強かったけど、今はすっごく可愛い!」

そんな涼羽が本当に可愛らしくて、ついつい頭を撫でてしまう主。

「せ、先生…俺、もう高校生の男なんだから…」
「何言ってるの。あたしからすればまだまだ子供なんだから」
「で、でも…」
「子供は子供らしく、大人に撫でられてなさい」

いきなり頭を撫でられて恥ずかしがる涼羽。
そんな涼羽がさらに可愛らしく見えてしまう主。

少しだらしのない、頬の緩んだ笑顔で、涼羽の頭を優しく撫で続ける。

「うう…」

こうした子供扱いが苦手な涼羽は、そのくすぐったさに頬を恥じらいに染めてしまう。
その仕草、様子はとても今年十八歳の高校三年生の男子とは思えないほどに可愛らしく…
まさに、美少女が恥らっているようにしか見えない。

「(わ~…この子ったら、ホントに可愛いわ~。ぎゅうってしたくなっちゃいそう)」

そんな涼羽に、その母性本能がくすぐられてしまうのか…
頬の緩んだ、だらしなさの残る笑顔が…
まるで、自分の娘を可愛がる母親のように、穏やかで慈愛に満ちたものとなる。

「(高宮君…本当に可愛い…でも、いざと言う時はあんなにも男の子…いいなあ)」

保健室の主に撫でられて恥らう涼羽を見て、愛理の心が揺れる。
その身を挺して自分を助けてくれた、あの男らしさ…
そんな男らしさとは裏腹に、あの誰をも幸せにしてくれるであろう、慈愛に満ちた母性…
そして、小さな子供のように頭を撫でられて恥らう、その可愛らしさ…

この日から、愛理の心には…
常に、高宮 涼羽という存在がいるようになり…

ことあるごとに、その涼羽によってその心を揺さぶられるという…

そんな生活が、始まるのだった。

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