お兄ちゃんがお母さんで、妹が甘えん坊なお話

ただのものかき

高宮君…せっかくなんだし、私達も加えてはもらえんかね?

「もしもし、お父さん?」

この日の秋月保育園でのアルバイトも、全て終え…
一度、自宅に帰りながら、父である翔羽へと連絡を入れる涼羽。

就業中の大人しくも可愛らしい女の子の服装から解放され…
普段から着慣れている、学校の男子用の制服に身を包んでいる。

この日はわざわざ兄の学校まで足を運び…
さらには、兄の就業先である秋月保育園にまでその姿を現した羽月も…
今は兄、涼羽の右腕にべったりと抱きつきながら…
兄と一緒に、自宅の方へと、足を進めている。

『おお、涼羽。もうアルバイトは終わったのか?』
「うん、今は一旦自宅に帰ってるところ」
『そうかそうか』
「で、羽月も今一緒にいるから」
『!おお、羽月も一緒か!それならちょうどいいな』
「うん、で…ここからどうすれば、いいの?」
『そうだな…じゃあ、一度帰って、私服に着替えてから…』
「から?」
『…俺は今、会社にいるから…すまんが、羽月を連れて、こっちまで来てくれないか?』
「分かった。俺と羽月が、そっちに行けばいいんだね?」
『ああ。アルバイトが終わったばかりで手間をかけさせてすまんが…』
「俺は大丈夫だから、心配しないで。お父さん」
『そうか…ありがとうな…じゃあ、俺は会社で待ってるから』
「うん、分かった。すぐに行くね」
『ああ、じゃあ、また後でな』
「うん」

自宅の方へと、妹、羽月と共に足を進めながら、この後の流れを父、翔羽と話し合う涼羽。
父である翔羽は、今の時点で会社にいるため…
涼羽の方が、私服に着替えてから羽月を連れて、父の会社へと移動することとなった。

父としても、今この電話をしている間も…
この日、食事会と称した、翔羽の子供たちのお披露目会に参加することとなっている部下達に囲まれ…
とてもではないが、身動きが取れずにいる状態なのだ。

そのため、アルバイトが終わった直後の息子、涼羽に負担をかけることと思いながらも…
涼羽と羽月に、自分の会社の方まで来てもらう形を、取らざるを得なくなってしまった。

そんな心苦しさのにじみ出る父の声もあり…
涼羽は、その言葉にも口調にもわずかほども非難めいた感じや、文句を言いたげな感じを見せることもなく…
ただただ、素直に父の言葉に頷き、その通りにしようと思ったのだ。

そうして、この後の流れを明確にし、父との通話を切ると…
その足で、自宅である高宮家へと、妹である羽月と共に入ると…
ぱたぱたと、急ぐように二階にある、自分の部屋へと真っ直ぐに向かっていく。

そんな兄につられるかのように、羽月も、その足で自分の部屋へと向かっていく。

そうして、お互いが部屋にこもる事、約数分…

「羽月、着替え終わった?」
「うん、終わった」

まず先に着替えを終えた涼羽が自分の部屋から出てくると…
妹、羽月の部屋の前から、羽月に着替えが終わったかどうかを確認する呼びかけをする。

ちなみに、今の涼羽の格好は、いつも通りの黒のシンプルなトレーナーとジーンズ。
涼羽が好む、少し大きめのサイズのそれら。

トレーナーの袖は、涼羽の平均よりも短めな腕を覆い隠し…
その小さく、すべすべとした手を半分ほどまで覆い隠す形となっている。

反対に、ジーンズの方は平均よりも長い涼羽の脚を強調するようになっており…
腰の位置も高く、少しゆったりとしながらも、涼羽のスタイルのよさが、一目で分かるものとなっている。

そして、兄に呼びかけられ、着替えを終えたことを告げた羽月が…
その声を響かせながら、自分の部屋の襖を開け、その姿を現す。

羽月の方は、若草色のシンプルなデザインのカットソーと、その上に生地の薄い、春秋用の白のパーカーを着込んでいる。
ボトムスは、膝丈のふわりとした、明るさの目立つ空色のスカートに、膝下までの紺色のソックス。

羽月の方も、少しゆったりとしたサイズを好んでいるため…
そこまで身体のラインがはっきりとしたものではないが…

それでも、もともとがメリハリのある、女性として美しいスタイルであるため…
歳の割には大きめの胸が、結構な自己主張をしており…
その自己主張している部分が、それに反してほっそりとしたウエストを、いい感じで強調することとなっている。

膝丈のスカートではあるものの…
膝から下だけを見ても、その脚線美が分かるものとなっており…
羽月も、母譲りのスタイルのよさが、シンプルなファッションからも分かるようになっている。

兄である涼羽のクラスメイトであり、涼羽のことが大好きでたまらない…
自分にとっては兄を巡るライバルであり、それでいて姉のような存在である美鈴に…
肉のつきやすい身体に、無駄なものをつけず、そのスタイルを維持するための秘訣を、美鈴が高宮家に来るたびに、教わっている。

その教わったことをしっかりと自身で実行しており…
その成果が、まさにこのスタイルに現れている、と言えよう。

筋金入りのブラコンで、甘えん坊な妹の羽月ではあるのだが…
それでも、最愛の存在である兄、涼羽に、どうせなら綺麗な自分を見てもらいたい、という思いが強くあるようで…
こうして、陰で自分を綺麗にする努力を惜しまず、そしてそれを続けていくことができている。

運動が苦手な、典型的インドア文系の羽月ではあるが…
そうした、好きな人に綺麗な自分を見てもらいたいという、女の子らしい部分はやはり強いようだ。

「えへへ♪お兄ちゃん、今日のわたし、可愛い?」

いつもの子供っぽさが目立つ、トレーナーとオーバーオールではなく…
ちょっと着飾った感じの、女の子らしいファッションに身を包んでいる羽月。

そんな自分を見て、兄がどう思っているのか…
それを聞きたくて、可愛らしい問いかけを兄に向けてみる。

「うん、可愛いよ」

そんな妹の問いかけに、頬を緩めながらの優しげな笑みを浮かべ…
決してお世辞でもなんでもない、本当に素直に思ったことを、その言葉に乗せて、妹に向ける涼羽。

「えへへ~♪うれしい♪」

そんな兄の言葉が嬉しくて、兄の胸にべったりと抱きついてくる羽月。
そして、その胸に顔を埋めて、思う存分に甘えてくる。

「ふふ…羽月はいつも可愛いね」
「!ほんと?」
「うん、ほんと」
「うれしい!」

そんな妹を、いつだって可愛いと思っている涼羽の、嘘偽りのない素直な言葉。
それを聞いて、ますます羽月の顔に、幸せ一杯の笑顔が浮かんでくる。

この世で最も大好きで、最愛の存在と言える兄、涼羽にそんな風に言ってもらえて…
ますます兄にべったりと抱きついて、うんと甘えてしまう羽月。

「お兄ちゃん」
「なあに?」
「だあい好き!」
「ふふ、ありがとう」
「お兄ちゃんは、わたしのこと好き?」
「うん、大好きだよ」
「!うれしい!だあい好き!お兄ちゃん!」

その幼さの色濃い容姿に相応しい、幼子が母親に甘えてくるような仕草の羽月が本当に可愛いと思っている涼羽。

今年で十八歳の男子とは思えない、童顔な美少女顔には、母性と慈愛に満ち溢れた笑顔が浮かんでいる。
そして、ついつい、自分にべったりと抱きついている妹の頭を優しくなで…
その小さな身体を、包み込むように優しく抱きしめてしまう。

そして、自分のことを大好きと言ってくれて…
さらには、そんな風にうんと優しく包み込むように抱きしめて、頭をなでてくれる兄のことがもっともっと好きになっていく羽月。

「さ、羽月。お父さんが待ってるから…早く行こう」
「うん!」

そして、今も会社で自分達の到着を待っている父、翔羽をこれ以上待たせたくない、という思いもあり…
妹、羽月にそれを伝え、早く父の元へと行こうと促す涼羽。

そんな兄、涼羽の言葉に、羽月は天真爛漫な笑顔で素直に答える。

そして、べったりと兄の右腕を抱きしめ、べったりと抱きついたまま…
幸せ一杯の笑顔を浮かべながら、兄と共に歩き出す。

「羽月…歩きにくくない?」
「ん~ん、全然♪お兄ちゃんとこうしてお出かけできるの、すっごく嬉しい!」

もうとにかく自分にべったりな妹、羽月に、思わず苦笑してしまう涼羽。
しかし、それでも邪険に思うことなど決してなく、むしろより優しく包み込んでしまう。

そんな兄に、もっと寄り添って、べったりとしてしまう妹、羽月。

そんな二人が、しっかりと消燈、戸締りなどを確認してから、自宅である高宮家を出て…
まるで長年会えなかったことで、愛情が爆発してしまっている恋人のような仲睦まじさで…
共に寄り添って、父、翔羽の会社へと、その足を進めていく。



――――



「はあ…」

嬉しそうに、仲睦まじく会社の方へと向かっている涼羽と羽月とは対照的に…
この日はずっと、浮かない表情の翔羽。

その浮かない表情のまま、思わずこの日何度目か分からない溜息を、漏らしてしまう。

そんな様子も、周囲の女子社員から見れば目を惹いてしまうものがあるのだから…
まさに、美形は得、と言える姿と、なっている。

「どうしたんですか?部長?」
「今日はずっと、そんな感じですね~」
「珍しく、仕事も捗ってなかったみたいですし」

そんな翔羽が気にはなっているのか、心配そうに声をかけてくる翔羽の部署の社員達。
しかし、その心配そうなものの要因を今ひとつ分かってはいないようで…
声をかけてはみるものの、どうすればいいのかまでは分かっていない状態だ。

「…なんで、俺の子供達をわざわざ、君達にお披露目せにゃならんのか…」

そんな部下達に、思わず苦虫を噛み潰したかのような表情で、皮肉たっぷりに声を漏らしてしまう翔羽。
自分にとっては、目に入れても痛くないと豪語できる、最愛の子供達。
だからこそ、誰の目にも触れさせずに、自分だけの手元に置いておきたいという思いが強い。

なのに、なんでこんなことになってしまっているのか。

そのおかげで、自分と子供達だけの、親子水入らずの触れ合いの時間もつぶして…
わざわざ、普段から家事全般に羽月の面倒、さらにはアルバイトと、非常に忙しい息子である涼羽に負担をかけてまで、来てもらわなければならないのか…
加えて、甘えん坊で人見知りな羽月にまで、こんな見知らぬ人間だらけのところにわざわざ来てもらわなければならないのか…

もう、考えれば考えるほど自己嫌悪に陥ってしまう翔羽だった。

「も~部長~、まだそんなこと言ってるんですか~?」
「たまにはいいじゃないですか~」
「息子さんと、娘さんでしたっけ?たまには、ちょっといいところに外食に連れて行ってあげた方が、絶対喜びますって」
「そのついでに、自分達にその自慢の子供さん達をちょっと、見せてもらえればいいんですから」

翔羽の部署は、二十台前半~半ばくらいの、独身の若手中心で構成されており…
しかも、そのほとんどが一人暮らしという状況。

今時の若者、と言える、俗に言う『草食系』の仕事中心なタイプが多いため…
一人で気ままにやりたいことをやりながら、仕事は真面目にする、というスタンスとなっている。

その独身貴族達の興味が、こともあろうに社内でも唯一と言えるほどの有能な上司である翔羽の…
これまで、その存在すら明るみに出ていなかった子供達に向いてしまい…
今や、常にその話でひっきりなしになっているほど。

しかも、息子と娘と、男の子と女の子が一人ずつという構成で…
さらには、そのどちらもびっくりするほどに可愛らしいという噂。

一度だけ、その子供達に会ったことがあるという受付嬢達からの情報が、もはやこの本社全てに広まってしまっている。

それは是非とも見てみたい。
何が何でも、この目で見てみたい。

もはや、翔羽のことを知り、常に興味を持っている誰もが…
そのことで頭がいっぱいとなってしまっている。

「そうそう、たまにはいいのではないかい?高宮君?」
「私達としても、ぜひ君のご家族とは、お見知りおきをしておきたくてね」

そんなところに不意に響き渡る、明らかに立場の違いを感じさせる口調の声。
翔羽を取り囲んで、次の日の遠足を待ちきれない様子だった社員達の顔が…
声のした方向に視線を向けたその瞬間に、変わってしまう。

「!せ、専務!」
「そ、それに、常務まで!」
「い、一体どうされたんですか?」

そこにいたのは、この会社の役員である専務と常務の二人。

専務の方は、年齢こそは重ねているものの…
非常に綺麗な歳のとり方をしているといえる、いうなればナイスミドル。

後ろの方へと撫で付けられている髪は、すでに色が抜けて白くなってしまっているものの…
髪が薄くなっている様子はまるでなく、これからもそうなる気配を見せない。

さらには、さすがに加齢による肌の衰え、皺などは隠せないものの…
元の造りは整っている、と言えるものであり…
若い頃は、さぞかしその甘いマスクで女性達のハートを掴んできたと思わせる。

身長も翔羽ほどではないが、平均よりも高いほうで…
年齢はもうすぐ還暦を迎えるほどに至っているにも関わらず、肉体そのものはスリムで、衰えらしい衰えを見せないもの。

一つの会社の重要ポストについているという自負、そして経験を感じさせるものの…
決して上から目線を押し付けたり、ましてや妙な威圧感などは感じさせない…
社内でも好感度の高い存在となっている。

常務の方は、年齢こそ五十台になったばかりなのだが…
小柄で、ややメタボな肉体の衰えを見せており、歳相応の残念な印象を受けてしまう。

加えて、頭部の方も寂しさを隠せないものとなってきており…
元の造りもあまり整っているとは言えず、お世辞にも容姿がいいとは言えない。

だが、どこか愛嬌のある容姿をしていて、その柔和で人当たりのいい笑顔は…
仕事をする上でも強力な武器となっており、こちらも決して立場でゴリ押しをするようなタイプではないと言える。

その笑顔が示すように、実際の人当たりもよく…
彼のところへ、いろいろなことで相談を持ってくる社員が後を絶たないとまで、言われている。

「いや、なに。高宮君が珍しく、社員との交流で食事会を行なうなどと聞いてね」
「もしよければ、自分達も加えてもらえないだろうか、と思って、ちょっと来てみたんだよ」

ざわつきながらも、なぜ自分達がここに来たのか、という疑問を明確に表してくる社員達の声に…
裏表のない、穏やかな声でさらりと答える役員の二人。

実際のところ、本当にそれが目的でここに現れたのだから…
少なくとも、嘘は言っていない、ということにはなる。

「………」

そんな二人の役員に対し、翔羽は非常に複雑な表情を浮かべ、どうしようかと考え込んでしまう。

今までにも、こうした交流の場を持ちたいということを、この二人から言われていることもあり…
さらには、自分を役員に昇進させたい、という二人の意思も、伝えられてしまっているからだ。

「(冗談じゃない…役員に昇進なんてしたら、涼羽と羽月と触れ合える時間が削られてしまうじゃないか…)」

だが、昇進に興味がなく、とにもかくにも子供優先の翔羽からすれば…
そんな話など、害はあっても利などない、と…
とにかく、役員との交流を避けてきたのだ。

加えて、妻の死に目にも立ち会えないような状況を作る急な転勤を突きつけられたこともあり…
翔羽としては、普段から真面目に仕事はしていながらも、決して会社そのものには心を許してはいないという…
そんなスタンスを保っている。

「…さすがに今からですと、予約人数の変更はできないんですけどね」

思案状態から、不意に声をあげる翔羽。
実際、もうすでに店の予約はしてしまっており…
さらには、当日の人数変更はできないルールの店であるため…

そのことを、自らの防護壁として突きつけてみる翔羽。

普段の業務中の、能面のような無表情で、さらりとそんなことを役員に告げる翔羽に対し…

「(お、おいおい…高宮部長…大丈夫か?)」
「(いくらなんでも役員相手にそんなこと言って…出世に関わってくるんじゃ…)」
「(いくら専務と常務が魑魅魍魎揃いの役員の中でも、親しみやすい人達だって言っても…)」

言外に、あなた達には来て欲しくない、と言っているような翔羽の言葉に、思わず背筋が凍るかのような思いをしてしまう部下達。

翔羽の最愛の子供達である涼羽と羽月の二人が、非常に仲睦まじく父の会社に向かっている中…
その会社では、下手をすれば翔羽自身の進退にも関わりかねない大事になりそうな…
そんな、周囲からすれば、見ているだけで胃が痛くなるかのようなやりとりが、繰り広げられることとなった。

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