お兄ちゃんがお母さんで、妹が甘えん坊なお話

ただのものかき

涼羽ちゃんとお話、したかったの♪

『ねえ、涼羽ちゃん。今日はね………っていうことがあったの!』
「へえ~…そんなことがあったんですね」
『うん!見てて本当に面白かったよ!』

この日は帰ってきた矢先に妹、羽月に、自分が普段からお世話をしている保育園の園児達対してヤキモチを焼かれ…
そのために、無理やり上半身をはだけられて、無理やりいつもの授乳行為を強要されてしまい…
おかげで、父、翔羽が帰ってくるまでに食事の準備ができなかった涼羽。

翔羽にしては珍しく、この日も残業で帰ってくることとなったため…
涼羽よりもさらに遅い時間での帰宅となったのだが…
結局、羽月にずっと甘えられてしまっていたため、夕食の準備をし始めたのが…
翔羽が帰ってきた直後となってしまった。

普段の涼羽からすれば、非常に珍しいと言える状況に、父、翔羽は『何かあったのか?』と勘ぐってしまうのだが…
そこで、羽月が言った一言――――



――――お兄ちゃんが、アルバイト先の保育園でわたしより子供達を可愛がってるから、許せなかったの!――――



その一言で、全てを理解することとなってしまった。

その時にその場面に居合わせなかったが、それでも、羽月がどれだけ涼羽に甘えまくっていたのか…
さらにはぷりぷりと怒って、ヤキモチを焼いて、めちゃくちゃに涼羽にべったりと抱きついて、離そうとしなかったのか…

そんな状況が、手に取るように分かってしまった。
そして、そんな光景が、まるでその場にいたかのように浮かんできた。

さすがに涼羽の胸元がはだけられていたことには驚いたものの…
それも、全てこの幼げで可愛い娘がやらかしたことだと気づき…

あまりに可愛らしい息子と娘のやりとりに、ついつい頬を盛大に緩ませることとなってしまう翔羽だった。

それに、仕込みそのものは朝、学校に行くまでに済ませてしまっている涼羽なので…
さほど待つこともなく、いつも美味しい夕食が食卓に並んではきたのだが。

そうして、夕食を済ませ…
後片付けも済ませ…
普段から一番家事に勤しんで、頑張ってくれている涼羽が一番風呂に入り…
それから、妹、羽月が風呂に入った直後…

普段は滅多に鳴らない、涼羽のスマホから、電話の着信を知らせるコール音が鳴り響いてきたのだ。

電話の相手は、つい先日、父の会社にお邪魔した時に知り合いとなり…
成り行きで連絡先の交換までしてしまった、今売り出し中の人気美少女声優、大原 菫。

登録している連絡先が少ないこともあり…
普段はまるで電話のやりとりなど、することがない涼羽。

いきなり鳴り出したスマホを手にとって、自室まで移動し…
その間に、着信を受けて、通話状態にする。

そして、菫の電話口での第一声が…



――――えへへ♪涼羽ちゃんとお話したくて、かけちゃった♪――――



こんな、あざとすぎる台詞。
それも、あのハイトーンな甘いアニメ声で。

彼女のファンが、こんな声でこんな台詞を聞かせてもらえたら…
それこそ、有頂天になって喜びに満ち溢れてしまうのではないだろうか。

まさに、そんな声だった。

しかし、そんな彼女の声に対して、涼羽はというと…



――――え?何か用事、とかじゃなくて、ですか?――――



きょとんとした感じの、淡白な声でこの台詞。

涼羽の性質上、何か用がないと電話をする、という行為に至ることがないため…
ただお話したくて電話する、という発想がないのだ。

それゆえの、この台詞。

そんな涼羽の声と台詞が気に食わなかったのか、菫は…



――――む~~~~!用事がなかったら、かけちゃだめなの!?ひどいよ!涼羽ちゃん!――――



と、ぷりぷりと怒り出してしまう。
さすが人気声優だけに、そんな声も非常に可愛らしいものとなっているのだが。

むしろ、普段のどこか計算高さを感じさせるものではなく…
本当に天然で可愛らしさに満ち溢れている、そんな感じの声になっている。

彼女のファンがこれを聞けば、瞬く間に落ちていることになるであろう事態が、目に浮かんでくる。

そんな感じでぷりぷりとご機嫌斜めになってしまった菫を慌ててなだめる形となってしまった涼羽。
この辺は、妹の羽月の相手で、慣れているといえば慣れているため…
すぐに、その不機嫌な声が、ご機嫌な声へと変わることとなった。

人気声優としての地位を確立しながら、普段は父、翔羽の会社の食堂でアルバイトをしている菫。
そんな彼女の普段の生活を聞くだけでも、涼羽にとっては非常に新鮮であり…
人見知りでありながら、涼羽自身が、自分の知らない話を聞くことを非常に好んでいるため…
思いのほか、二人の話は弾むこととなった。

菫の方も、涼羽の普段の生活などには非常に興味を持っていたため…
当人である涼羽の口から語られる出来事のひとつひとつに、楽しそうに耳を傾けていた。

本当に天然で可愛らしく、健気で優しい涼羽と、こうして話しているだけで…
それだけで、なんだか普段の忙しなさやストレスから解放されて…
本当に心が癒されてくる…
そんな感覚をもっと感じたくて、もっともっと涼羽とお話したくなってしまう菫。

基本的には、しゃべるのは菫の方であり…
涼羽は聞き役となっている。

ゆえに、涼羽がしゃべる時は、菫が話を振ってきて、聞かせて欲しいと言って来たときに限られる。

『涼羽ちゃんって、あんなに可愛いのに男の子の制服着て、学校に行ってるの?』
「!可愛いって…そりゃそうですよ、僕、男ですから」
『どんな制服?ブレザー?学ラン?』
「ブレザーですよ。今時の」
『う~ん…やっぱり男の子の制服着てる涼羽ちゃんって、イメージ沸かないな~』
「!え、なんで…」
『だって、涼羽ちゃんってどう見ても、女の子の制服の方が似合ってるんだもん』
「!そ、そんなことないです!」
『そんなことあります~!あたし、女の子の制服着てる涼羽ちゃんの方がイメージ沸いてくるから!』
「!そ、それでも僕、男ですから!」
『だってだって、涼羽ちゃんが男の子の制服着てたら、絶対周りが思っちゃうよ!』
「?何を、ですか?」
『あれ?なんで女の子が男子の制服着てるの?って』
「!!う…」

さすがにこの菫の一言には、涼羽も返す言葉がなくなってしまう。

なぜなら、実際に周囲がそんな目で自分のことを見ていることを知ってしまっているから。

それどころか、実際に――――



――――き、君…なんで女の子なのに、男の子の制服を着ているんだい?――――



――――ねえ、なんでこんなに可愛い女の子なのに、男の子の制服着てるの?――――



などということを、通りすがりの人々に、言われてしまっている。

それも、一人や二人ではない人数に。

その度に、自分は男だということを自己主張するものの…
悲しいほどにそれを一度で受け入れてもらえることはなく…

最低でも三度から四度は、同じことを言って、納得してもらうことになるのだ。

それでも、『そこまで言うのなら…』という感じで止まっているので…
結局のところ、とりあえず納得しておく、といった感じになってしまっている。

『ほら~!やっぱり男の子の制服着てる涼羽ちゃんを見かけた人って、絶対あれ?って思って、涼羽ちゃんに聞いてきてるんでしょ!?』
「そ、それはそうなんですけど…」
『当たり前じゃない!涼羽ちゃん自分がどれだけ可愛い女の子な見た目なのか、ぜ~んぜん自分で分かってないんだもん!』
「そ、そんなことないです…」
『そうなの!だって、男の人が苦手なあたしがぜ~んぜん抵抗なく、涼羽ちゃんにはお話できたり、べったりできたりしてるんだから!』
「!う、うう…」
『もうちょっと自覚持たないと…そのうち男の人に告白とか、されちゃうかもよ?』
「!………」
『?あ、あれ?…もしかして、されたこと、ある?』
「…………」
『あるのね…』

童顔で可愛らしい顔立ちで、本当に美少女と呼べる容姿の涼羽。
そんな涼羽なら、男に告白されてもおかしくないと思ってしまう菫。

とはいえ、さすがに冗談半分で言った台詞だったのだが…

涼羽の、いかにも『図星です』と言わんばかりの反応に…
それが実際にあったことを、察してしまう。

実際、この数ヶ月の間で二度もあったのだから…
涼羽自身、このことは少なからずショックを受けている。

「僕…男なのに…」
『でも、無理ないよ~。涼羽ちゃんなら』
「男なのに…」
『涼羽ちゃんなら、学校中の男の子にモテたって、不思議じゃないもん』
「!そんなことないですよ…そんなこと、絶対に…」

知らぬのは本人だけ、というのはまさにこのこと。

菫が何気なく言ったことは、まさに的を射ている。
そのことに、涼羽本人が気づいていない、というだけの話。

どんどん少数派になっていっている、正常派の男子が必死にあがいて、抵抗している中…
もうすでに、涼羽のことを女子として認識してしまっている男子生徒が、校内に非常に多くいる状況となっている。

特に、その優しげで母性的な雰囲気から、後輩の男子達に絶大な人気を誇ることとなってしまっている。

本人としては、誇りたくはないだろうけど。

以前、水蓮の娘である香奈と、非常に微笑ましいやりとりをしているところを一部始終見ていた男子生徒が、実は結構な数、存在しているのだ。

それを目撃してしまった男子達は、まさに一瞬で落ちてしまった。

もう、本当に文字通り、涼羽に対して落ちてしまった。

それ以来、常に涼羽のことを目が追っかけていっている状態となってしまい…
とにもかくにも涼羽のことが頭から離れなくなっている男子が、後を絶たない。

しかし、美鈴を筆頭とするクラスの女子達…
そして、愛理と志郎といった、普段から涼羽と接している面子が…
まるで防護壁のように涼羽を取り囲んで、仲睦まじいやりとりを繰り広げている。

それがまた、どこにも割り込む隙がない、と言えるほど。

なので、基本的に学校内では涼羽に接する機会を得ることができずにいる。
加えて、今はアルバイトをしており、放課後はそそくさと飛び出していってしまうため…

涼羽とお近づきになりたい男子達は、常にそのきっかけすら掴めなくて、悶々としている始末。

そんな状況も、当の本人である涼羽が一番分かっていない状態なのである。

『それに~、涼羽ちゃんもしかして、体育の時も、男子と一緒に着替えてるの?』
「そりゃそうですよ…僕、男なんだし…」
『!そんなのだめよ!涼羽ちゃんそのうち襲われちゃうわよ!』
「!そ、そんなことあるわけ…」
『あるの!涼羽ちゃんのクラスの男子達からしたら、むさ苦しい中に一人女子が着替えてるようなものじゃない!』
「!ち、ちが…」
『だめだめ!涼羽ちゃんは女子と一緒に着替えないとだめ!』
「!そ、そっちの方が問題あるじゃないですか…」
『ぜ~んぜん問題ないわ!あたしだったら、涼羽ちゃんなら全然おっけーだもん!』
「!そ、その発言の方が問題ありですよ~…」

まさに今、涼羽のクラスの女子達がそういう方向に持っていこうとしていること…
それをそっくりそのまま涼羽へと告げてしまう菫。

涼羽と会話しながらイメージしてみたものの…
どう考えても、涼羽となら一緒に着替えても大丈夫、というイメージしか沸いてこない。
だから、全然問題ないと豪語してしまう。

実際のところ、クラスの女子達も今の菫と全く同じ心境であるため…
とにかく早く、涼羽の更衣場所を自分達と同じところに、という思いで一杯なのだが。

その件に関して、一人頭を悩ませながらも、どうにか現状維持をキープしている…
担任の京一の必死の抵抗。

これがなければ、とっくに涼羽は女子達と着替えることを義務付けられていたかも知れない。

とはいえ、涼羽を年頃の男子達と同じ場所で着替えさせることも、非常に問題があるといわざるを得ない状況であることに変わりはなく…
やはり、この件に関しては非常に頭を痛めている京一なのである。

『あ!もうこんな時間!』
「え?ああ、ほんとだ」
『えへへ♪涼羽ちゃんとお話できて、ほんとに楽しかった♪』
「そうですか…それなら、よかったです」
『また、電話するね♪』
「分かりました」
『じゃあ、お休み!涼羽ちゃん!』
「はい、おやすみなさい」

なんやかんやでいろいろお話していたら、菫としては非常に楽しかったらしく…
気がつけば、もう夜の十一時を迎えようとしていた。

そんな時間になっていることにようやく気づいた菫。
名残惜しさに後ろ髪引かれながらも、通話を切り上げようとする。

そんな菫に対し、涼羽の方は非常におっとりとして、優しい声で…
そんな涼羽の声にも、菫は気をよくしている。

同時に、余計に菫が涼羽とのお話を続けたくさせてしまうのだが…
そこはどうにか、こらえることができたようだ。

彼女のファンからすれば、まさに夢のような時間であっただろう。
逆に、涼羽と常に触れ合っているクラスの女子達からすれば、涼羽とこんな風に会話できる時間というのは、まさに夢のような時間となっていたであろう。

「ふう…」

一息ついて、普段から用意している自分の布団をきちんとセットし…
寝る準備に入ろうとしている。

すでに寝巻き兼用の部屋着のジャージにその身を包んでおり…
いつでも眠ることができる状態だ。

「…ちょっとだけ…」

その前に、少しだけやりたいことがあったらしく…
デスクに置いているノートPCを開き、電源を入れようとしたところ…

「お兄ちゃん!」
「!わっ!」

まさにこのタイミングを狙っていたのか…
すでに寝巻き兼用のジャージに着替えて、寝る準備は万全の羽月が、涼羽の部屋に入ってきて…
その勢いで、兄の身体にべったりと抱きついてくる。

いきなりだったこともあり、涼羽の口から、可愛らしい驚きの声がもれ出てしまう。

「は、羽月?」
「えへへ~♪お兄ちゃん♪」

妹に押し倒される形となってしまい、布団の上に仰向けに寝かされることとなった涼羽。
その状態の涼羽の上に覆いかぶさり、その胸に顔を埋めて、目一杯甘えてくる羽月。

「お兄ちゃん、一緒に寝よ!」
「羽月…もうすぐ高校生なんだから、一人で…」
「や。お兄ちゃんと一緒じゃなきゃ、や」
「羽月…」
「だあ~い好きなお兄ちゃんと、一緒に寝たいの」

いつまで経っても兄離れする様子がかけらも見られない羽月に対し…
少し苦言を述べてしまうものの…
それでも、結局はこうして甘えてくれるのが嬉しいのか…
自分の胸に顔を埋めている妹の頭を、優しくなで始める。

そして、その小さな身体を、優しく包み込むようにそっと抱きしめてしまう。

「もう…ほんとに甘えん坊さんなんだから…」

言葉だけなら、あきれたように苦言を述べているのだが…
目一杯の母性と慈愛に満ち溢れた、女神のような笑顔でそれを言っても、まるで説得力がない涼羽。

「お兄ちゃんだあい好き♪愛してる♪」

可愛い妹がいつまで経っても兄離れできず…
それどころか、もっともっとべったりと甘えてくる始末。

本当に嫌われるようにした方がいいのかな、と…
ぼんやりと思いながらも、そんなことできないんだろうな、とも思ってしまう涼羽なのであった。

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コメント

  • ノベルバユーザー353699

    Bb

    0
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