お兄ちゃんがお母さんで、妹が甘えん坊なお話

ただのものかき

お名前、教えて?

「ねえ、あなた…お名前、教えて?」

嫌だといっているのに、無理やり可愛がられ続けて、そろそろ膨れた感じになってきたところに…
まさに阿吽の呼吸、といった感じで二人同時にするりと解放してくる翔羽と羽月。

そんな二人に、してやられた、という苦虫を噛み潰したかのような顔になってしまい…
気を取り直して、目の前の食事を楽しもうと涼羽が思った矢先のところ。

先程までの掴みかかるかのような雰囲気とはうって変わって…
その計算高い可愛らしさを存分に駆使した、男性の気を引く甘いアニメ声で…
ちょこんと涼羽と隣に座って、名前を聞いてくる菫。

「え?…高宮 涼羽ですけど…」

そんな菫に、不意を突かれてきょとんとした感じになりながらも…
さらりと素直に答える涼羽。

他の一般的な男性ならば、デレデレとした顔で受け答えしていたのだろうが…
あいにく、そういった欲求や衝動には、まるで無縁と言える存在であるこの涼羽。

加えて、こういう異性受けのする可愛らしさは実の妹である羽月や、クラスメイトの美鈴で慣れていることもあり…
特に、何を思うこともない様子だ。

「ふうん…じゃあ、涼羽ちゃんね!よろしくね!」
「!ちゃ、ちゃん付けなんてしないでください!」
「あら、どうして?」
「だって俺、男なんですから」
「え~、でも…全然そう見えないし、本当に可愛いから、涼羽ちゃんでいいじゃない」
「よくないです!」
「だあめ、あたしがそう呼びたいの。だから、涼羽ちゃんって呼ぶね」
「そ、そんな…」

さらりと涼羽のことを気安く名前で読んでくる菫。
その顔には、お近づきになれて嬉しい、といった感じの笑顔が浮かんでいる。

そんな菫に対し、ちゃん付けされたことに対して抗議する涼羽。
名前で呼ばれることに対しては特に何を思うこともないようだが…
男である自分が…
それも、今年十八歳になる男子高校生である自分が、ちゃん付けで呼ばれることには、相変わらず激しい抵抗感を感じてしまうようだ。

しかし、そんな涼羽の抗議など意にも介さず、あくまでちゃん付けで涼羽の名前を呼ぶ、というスタンスを崩さない菫。
ムキになって抗議してくる様子が本当に可愛らしいのもあって、どうしてもちゃん付けで呼びたいようだ。
加えて、涼羽自身が自分は男であることを強調しているのだが…
当の菫はそんなこともまるで意に介さず、むしろまるで異性である感じがしないため…
涼羽のそんな言葉は、そんなの嘘でしょう、という感じで受け取られてしまっている。

「それで、涼羽ちゃんの『リョウ』って、どんな字なの?」

こんな風にちょっといじるだけで、その天然な可愛らしさを見せる涼羽に、非常にご満悦な様子の菫。
その上機嫌であることを示すにこにこ笑顔を崩すことなく、今度は涼羽の名前の字について、聞いてくる。

「え?…えっと…『涼』しいに、鳥の『羽』って書いて、『リョウ』って呼ぶんですけど…」

菫のちゃん付け呼びに対してヒートアップしていたところに、いきなりの問いかけをされて…
その勢いを止められ、呆気にとられた感じになってしまう涼羽。

それでも、きょとんとした顔のまま、素直に答えていく姿が、また天然な可愛らしさを生み出している。

「へえ~、ふんわりとして優しげで…あなたにお似合いなお名前なのね~」
「そ、そうですか?…」
「ええ、本当にいいお名前だと思うわ」
「あ、ありがとうございます…」

自分の名前を素直に褒められて、思わず照れてしまう涼羽。
ほんのりとその童顔な美少女顔を赤らめ、菫から視線を逸らして、俯いてしまう。

「うふふ…本当に可愛い…」
「!だ、だから俺は…」
「だって、本当に可愛いんだから、しょうがないじゃない」
「!そ、そんなことないです…」
「ふふ…ねえ、ほら、こっち向いて?」
「え?…あ、あの…その…」
「お願い、こっち向いてよ」
「あう…」

涼羽の照れて恥らう姿が本当に可愛らしいのか…
その年齢から比べると若く、あどけなさが残る可愛らしい顔をゆるゆるにして…
もっともっと涼羽のことをいじりたくなってしまう菫。

そんな涼羽の顔をもっとちゃんと見たくなって、涼羽に自分の方を向いて欲しい、と。
可愛らしく、おねだりをするような感じで求めてくる菫。

しかし、そんな顔を自分に向けて、可愛らしくおねだりしてくる菫の顔を見ることにどうしても抵抗感を隠せず…
もともと、人見知りな部分がある涼羽であるため…
どうしても、菫の方に顔を向けることができなくなっている。

ましてや、今の恥じらいに頬を染めている状態の顔は、なおのこと見られたくない、という気持ちの方が勝ってしまい…
下を向いたまま、ただただ、どうすることもできなくなってしまっている。

「(ああ~…この子本当に可愛い~♪もっといじったら、もっと可愛くなるのかな?)」

そんな涼羽のことをじっと見つめながら…
いじるたびにその嫌味のない可愛らしさを存分に発揮してくる涼羽のことがますます可愛らしく思えてくる菫。

「(こんな可愛い子が、妹になってくれたら、あたしも~っと人生楽しめるのにな~)」

こんな嫌味も計算高さもない、天然な可愛らしさを、惜しげもなく晒してくる涼羽のことが…
ただ、純粋に気に入ってしまう菫。
この可愛らしさを自分に取り込みたい、ということに変わりはないのだが…
それも含めて、この可愛らしさを堪能したい、という思いが、どんどん大きくなっていっている。

当の本人である涼羽から、自分は男であると言われているにも関わらず…
結局菫の中では、涼羽のことはとっても可愛い女の子という認識しかない。

実際のところ、どう見てもハイレベルな美少女にしか見えないため…
余計に、菫のそんな認識を深めてしまっている状態だ。

「ねえ、涼羽ちゃん?」
「な、なんですか?…」
「あたし、もっとちゃんと涼羽ちゃんと目を合わせて、お話したいな~」
「!そ、それは…」
「ねえ、しようよ?」
「!あ、あの…」
「それとも、あたしと顔合わせるのって、いや?」
「!そ、そういうわけじゃ…」
「じゃあ、こっち向いて?」
「!~~~~~~~…」

もうとろけるかのようなにこにこ笑顔で…
おそらく、それを聞いた異性達がこぞって彼女のそばへと寄ってきそうな、ハイトーンな可愛らしさ全開のアニメ声で…
いつの間にか涼羽のそばまで近寄って、涼羽の耳元へと息を吹きかけるかのような距離で…
本当に、嬉しそうに涼羽に自分の方を向いて欲しい、と懇願し続ける菫。

それでも、恥ずかしさの方が勝ってしまっていて、どうしても菫の方を向くことができないでいる涼羽。
もはや、二人のやりとりは本当に美少女同士のゆりゆりしたものにしか見えず…
もしこの場に、男性が多くいたら、間違いなくこの光景に目を奪われているであろう…
そう、断言できてしまうほどのやりとりとなっている。

「ん!」

そんな二人の、どこか一方的でありつつも仲睦まじそうなやりとりの最中…
そんな雰囲気が気に入らなくて、それをぶち壊しにすると言わんばかりに…
いつの間にか食事を終えていた羽月が、涼羽の身体にべったりと抱きついてくる。

そして、自分の方を見て欲しいといわんばかりに、兄、涼羽のその顔を無理やり自分の方へと向けてしまう。

「は、羽月!?」

そんな妹に、驚きの表情を隠せず、驚きの色を含んだ声を漏らしてしまう涼羽。
そんな妹の行為に驚きながらも、その頬は恥じらいに染まったままで…
やはり、実の妹相手であろうとも、今の顔を見られることに激しい抵抗感を感じてしまっているようだ。

「お兄ちゃんは、わたしだけ見ててくれたらいいの」
「え?」
「お兄ちゃんは、わたしだけのお兄ちゃんだもん」
「は、羽月?」
「だから、わたしのこと、ほったらかしにしちゃ、やだよ?」

その小さな身体には不釣合いな、大きすぎるほどの独占欲をむき出しにしながら…
ひたすらに、兄の懐に甘えるように、べったりと抱きついてくる妹、羽月。

よその子供に母親を取られたくなくて、思いっきりべったりと甘えてくる子供のように…
ただただ、兄、涼羽のことを独り占めしようと…
その可愛らしくも狂おしい独占欲に、自分を支配されるがままに…
べったりと甘えて、見つめてくる。

「………ふふ」

そんな妹が、本当に可愛く見えてきたのか…
思わず、ふんわりとした優しげな微笑を見せる涼羽。

本当に甘えん坊な、それでいて可愛らしい妹の頭を、優しく撫で始め…
よしよしと、不安げな表情の子供を安心させるかのように、その包容力をもって包み込もうとする。

「えへへ…」
「全く…羽月は本当に甘えん坊さんだね」
「だって、お兄ちゃんが大好きだから、仕方ないもん」
「じゃあ、羽月が俺のことを嫌いになるようにした方が、いい?」
「!そんなのだめ!」
「だめなの?」
「だって、そんなことされたって、お兄ちゃんのこと絶対に嫌いになんかならないもん!」
「そうなの?」
「それに、そんなことされたら…」
「そんなことされたら?」
「わたし、お兄ちゃんのことどうしちゃうか分からなくなっちゃうもん」
「…え~…」

兄、涼羽にしては珍しい、ちょっと意地悪な問いかけに対しても…
絶対に、自分がこの兄を嫌いになることなどないと断言してしまう妹、羽月。

さらには、自分から嫌われるようなことをする兄に対し、どんなことをしてしまうか分からなくなってしまう、とまで断言してしまう。

そんな妹に、苦笑を隠せず…
しかし、それでいて優しい雰囲気を崩さない涼羽。

何がどうなろうとも、絶対に兄のそばから離れたくない…
それを、常日頃からその小さな全身を使って全力で意思表示している羽月。

結局、涼羽の方も口ではそんな意地悪なことを言いながらも…
決してそんなことはできないであろうということを…
本人である涼羽自身が、一番自覚してしまっている。

涼羽にとっては、そのくらい、妹である羽月を優しく包み込んで、甘えさせてしまうこと…
それが、本当に息をするかのごとく当然のものとなってしまっているのだから。

「………む~…」

涼羽の妹である羽月の乱入によって、自分と涼羽とのやりとりを強制的に終了させられてしまった菫。
せっかく、この可愛らしさの塊のような存在とのやりとりを楽しんでいたところなのに…
まさに、そう言葉に出してしまいそうなほどの、不満げな表情が、その顔に浮かんでいる。

ちょっと意地悪な感じで接するだけで、見ていて思わず幸せになれそうなほどの可愛らしさを天然で発揮してくれる涼羽。
その可愛らしさを、自分に取り込みたいという目的もあって、もっと堪能したいと思っているところに、涼羽の妹である羽月の乱入。

そんな風に強制的に、自分にとって楽しく、ためになるやりとりを中断させられて…
その顔に、不満を隠せずにいた。

「!…………(にまっ)」
「!…………」

涼羽にべったりとしながらも、菫のそんな表情を目の当たりにした羽月が、まさにしてやったり、と言わんばかりの表情を、菫にむける。

この可愛すぎるほどに可愛らしい兄は、自分だけのもの。
この優しすぎるほどに優しい兄は、自分だけのもの。
この大好きで大好きでたまらない兄は、自分だけのもの。

そのほとばしりそうなほどの兄への想いが、まさにその表情に表されている。

その異常とも言えるほどの独占欲。
それが、兄が自分以外の女性と触れ合うことを許さない。

全てを防ぐことなんてできないけど、今こうして邪魔できるものは、とことん邪魔してやる。

絶対に、お兄ちゃんはあんたなんかに渡さない。

羽月の兄、涼羽へのとてつもないほどの愛情が、他の介入を許さない。

そんな表情の羽月に、菫の心に火がついたのか…

「こら~!涼羽ちゃん!」
「!わ、わっ!!」

突然の羽月の乱入に動けずにいた菫が、妹と触れ合っている涼羽の身体に、急にべったりと抱きついてきたのだ。
その抱き心地のよさを堪能しながらも、この可愛らしい存在を離したくない…
そういわんばかりに、べったりと抱きついて、離れようとしない。

いきなり後ろから抱きつかれて、涼羽の方からは、驚きの声が漏れ出てしまう。

「え?え?」
「何妹ちゃんとばっかりいちゃいちゃしてるの!今はあたしとお話する時間でしょ!」
「い、いやそんなこと…」
「だめ!あたしのことないがしろにするなんて許せない!」
「だ、だからそんな…」
「ほら、ちゃんとこっち向いて!」
「!あ!」

いきなりべったりと抱きついてきて、ぐいぐいと迫ってくる菫にどうしていいのか分からなくなってしまう涼羽。
おたおたとするばかりで、何もいえなくなってしまっている。

そんな涼羽の顔を無理やり自分の方へと向け、その顔を覗き込むように凝視してしまう菫。
まさに、涼羽の可愛らしい顔を存分に堪能するかのように。

「や、やめて…離して、ください…」
「だめ!ちゃんとこっち見て!涼羽ちゃん!」
「そ、そんなこと…」
「こんなにも可愛い顔、見せてくれないなんて、本当にいけずなんだから!」

もはや、完全に涼羽のことを女の子だとしか認識していない様子の菫。
涼羽の可愛らしさをとことん見たくてたまらないという意思があからさまとなってしまい…
見られたくなくて、ついつい抵抗してしまう涼羽に対し、それを許さない、と言わんばかりに自分の方へと顔を向けさせる。

「だめ!お兄ちゃんは、わたしだけのお兄ちゃんなの!」

とうとうここに羽月も加わり、兄の身体にべったりと抱きついたまま、菫の方へと激しい抗議の声をあげる。

「それこそだめ!涼羽ちゃんは、あたしがめいっぱい可愛がってあげたいの!」
「だめ!お兄ちゃんは、わたしだけのなんだから、わたしが可愛がってあげるの!」

美少女と言える存在の二人にべったりと抱きつかれたまま、自分を挟んで激しい攻防を繰り広げている羽月と菫に、どうすることもできずにいる涼羽。

「あ、あの…二人とも、離して…」

どうにか、儚い懇願の声をあげて、自分を解放してもらおうとはするのだが…

「ほら!涼羽ちゃんが嫌がってるじゃない!あなた、いつまでもお兄ちゃんにべったりしてないで、離れなさいよ!」
「や!そっちこそ、わたしだけのお兄ちゃんにべったりしないで、離れて!」
「む~~~~~!!!!!」
「む~~~~~!!!!!」

完全にヒートアップしている二人にとっては、火に油を注ぐだけの結果となってしまい…
より、二人の攻防が激しいものとなってしまう。

右には菫…
左には羽月…

自分の身体を取り合いするかのようにべったりと抱きつかれて身動きすら取れなくなってしまい…
しばらくの間、ほとほと困り果てることとなってしまう涼羽なのであった。

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