お兄ちゃんがお母さんで、妹が甘えん坊なお話

ただのものかき

涼羽ちゃんが、アルバイト?…

「ふあ~…おはよう、涼羽」
「おはよう、お父さん」

ゆっくりとできる休日も終わり、週の初めとなる月曜日の朝。
いつも通り、キッチンでみんなの朝食、そして昼食となる弁当の準備をしていた涼羽。

朝食も昼食も、両方仕上げの段階に入ったところで、一家の大黒柱である父、翔羽が起床。
そして、ゆっくりとキッチンの方に姿を現し、最愛の息子である涼羽に朝の挨拶。

そんな父に、涼羽も笑顔で挨拶を返す。

もはやこの高宮家では、いつも通りの光景となっているのだが…
その光景に、いつもとは少し違う光景が混じっていることに、翔羽が気づく。

「?…涼羽…何してるんだ?…」

朝食も後はリビングに運ぶだけ、昼食の弁当ももう詰め終わって、後は包んで渡すだけ…
なのに、まだ何かを作る準備を始めるかのように、テキパキと野菜を切ったり、鶏肉に下味を漬け込んだり…
この家に戻ってきてから、いつもこの朝のキッチンを見ていた翔羽は、すぐにその違いにも気づくことができた。

「え?…ああ、今日の晩御飯の仕込み、してるの」

そんな父の疑問に、涼羽は軽い感じでさらっと答える。
今まで、朝に晩御飯の仕込みまですることがなかったため、そんな息子の言葉に、翔羽は驚きを隠せない。

「え?なんでそこまでしてるんだ?」

当然とも言える疑問の声が、翔羽からあがってくる。
確かに朝のうちに下ごしらえをしてしまった方が、帰ってきてからが楽になるし、早く晩御飯を出してあげることができるだろう。
でも、涼羽の手際のよさなら、別に帰ってきてからでも十分ではないのだろうか。

そう思ったからこその、翔羽の疑問の言葉。

そんな父の疑問の声に、涼羽は思わず苦笑いを浮かべてしまう。

「もう…お父さん、俺が昨日言ったこと、忘れたの?」
「昨日?…!ああ…そうか、そうだったな」
「そう。俺、今日からアルバイトするんだから…ね」

そう。

この日から、涼羽はこの高宮家の近所にある、秋月保育園で…
学校帰りに保父さんのアルバイトをすることになっている。

土曜日にあの自然に満ち溢れた公園の方まで散歩に出かけた時の、偶然の出会い。
その秋月保育園の園長である、秋月 祥吾との出会い。
慢性的な人材不足による労働過多な状況をどうにかしたい、と思っていた矢先に、ふと、涼羽のことが目に入った。
その瞬間、この子なら、という、まさに運命的なものを感じた、とまで言っていた彼。

その祥吾の職場、そしてそこで働く従業員、自分達を信頼して預けてくれる園児達を思う…
そんな祥吾の不器用で、それでいて真っ直ぐな真摯な思い…
それに心をうたれた涼羽は、二つ返事でそこで働くことを決意したのだ。

涼羽がそれを父、翔羽と妹、羽月に話したのが、昨日の日曜のこと。

最初は、息子大好きで可愛い可愛い涼羽がそんないきさつでアルバイトするということに、非常に抵抗を覚えていた。
最愛の息子である涼羽が、こともあろうに見知らぬ男にいきなりプロポーズされた、などという話を聞かされていたこともあり…
もしかして、涼羽に対して何か下心があるのではないのか。
そんな風に疑ってしまっていたのだ。

それに、翔羽の収入は、現在は部長クラスの管理職ということもあり…
さらには、勤めている会社も、大手の企業ということもあって…
涼羽がアルバイトをしなければならないような状況では決してなく…
むしろ、今の世の中では十分に高給取りと言えるグループに入るだけに…
今まで苦労ばかりさせてきた息子や娘に、もっと贅沢もさせてやれる、と、思っているくらいなのだ。

だが、涼羽が秋月園長の真摯な態度にどれほど心をうたれたのか…
そして、その保育園の実情、そしてそれをどうにかしようと、懸命に努力するその園長の人柄…
それらを、懸命に、そして真剣に伝えてくるのだ。

自分も管理職であるだけに、その顔も知らない園長の苦労や思いが、手に取るように分かってしまう。
そして、そこでたまたま会っただけの涼羽にいきなりそんなことを言ってきて…
しかも、一回り以上も年下の子供に懸命に頭まで下げて…
それだけでも、その人柄が嫌と言うほどに伝わってくるのだ。

それに、そこで躊躇うことなく涼羽を選び、懸命に自分のところで働いてもらえないか、と説き伏せようとするあたり…
その園長は、人を見る目というものを持っていると、翔羽は思ってしまった。

そして、そこに決定打となる涼羽のこの台詞――――



――――俺、働くっていうことがどういうことなのか、知りたいんだ――――



――――今のうちに社会勉強して、高校卒業したらすぐにでも働けるようにしたいから――――



高校を卒業したらすぐに働きたい、と思い…
少しでも早く、そういったことを経験しておきたい。
そして、より一層、自分自身を成長させておきたい。

向上心に満ち溢れた涼羽らしい、その台詞。

目に入れても痛くない、と豪語できるほどに愛している息子にそこまで言われては…
さすがの父、翔羽も首を縦に振らない、という選択肢を取らざるを得なくなってしまう。

大学に行かせてやれるくらいの稼ぎは十分にあるし、涼羽の成績なら、高望みさえしなければ、行ける大学はいくらでもあるだろう。

それを伝えても、涼羽は大学に行きたい、とは言わなかった。



――――だって、俺、大学に行ってまでやりたいことなんて、ないから――――



――――俺、要領悪いし不器用だから、どうせなら実戦の場で学んで行く方が、いいから――――



目的がなくても、働きたくない、もっと学生生活を続けたい。
それだけで、大学に行こうとする人間はいくらでもいる。
でも、涼羽はそれをよしとせず…
目的もないのに大学に行く時間、そしてそれにかかる費用を無駄とし、社会に出て、実戦の中で揉まれながらいろいろ学んで行きたい。
そう、躊躇いもなく言い切ったのだ。

ここまで言われては、大学への進学も強く推すことはできない。
無論、大学に進学しておいた方が、今後の就職の展開としてはいいのは間違いないのだが…
この息子に関して言えば、それが必ずしも当てはまらない、と思えてくるから不思議だ。

そういったやりとりもあり、翔羽はいくつかの条件を前提に、アルバイトの許可を出したのだ。

その条件とは――――



――――アルバイトに気を取られて、学業をおろそかにしないこと――――



――――やるからには、決して半端でいい加減にしないように――――



――――何かあったら、必ず父である自分にすぐに連絡してくること――――



この三つを必ず守ることを条件に、翔羽は涼羽のお願いに首を縦に振ったのだ。

アルバイトの許可を出した時の涼羽の、本当に無邪気で心底嬉しそうなあの笑顔。
しかも、非常に珍しいことに涼羽の方から翔羽に抱きついて、その喜びを表現してしまうほど。
それを思い出すだけで、思わず顔がだらしなく緩んでしまうのも、ある意味お約束な翔羽ではあったが。

「そうだったな…で、帰りはどのくらいの時間帯になるんだったかな?」
「そうだね…基本的には最終は十八時になるって話だから、十八時過ぎには、家に帰ってると思うよ」
「そうか…くれぐれも、気をつけてな」
「うん、ありがとう、お父さん」

話しながらも夕食の仕込みを手際よく続けている息子、涼羽を見て…
本当にいい子を授かったな、と。
そう、しみじみと思ってしまう翔羽だった。

「…ふあ~~~…おはよ~、お兄ちゃん、お父さん…」
「おお。おはよう、羽月」
「おはよう、羽月」

そんなところに、翔羽にとっては娘であり、涼羽にとっては妹である…
この家で唯一の女性陣である羽月が、キッチンの方に姿を現した。

ちなみにこのアルバイトの話は、妹であるこの羽月も一緒に聞いていた。
この大好きで大好きでたまらない兄といられる時間が減ってしまうと聞いて、最初は猛然と反発し、絶対に嫌だと、断固として首を縦に振ろうとはしなかったのだ。

おまけに、いきさつがいきさつなだけに…
さらには、父、翔羽と同じく、兄がいきなり見知らぬ男にプロポーズされた、なんて話を聞いてしまった後だったため…
この可愛すぎるほどに可愛い兄に何かあったら、と思うと、心配で心配でたまらなかったのだ。

さらに、この羽月に関して言えば…
働き先が保育園であるということも、また反発の要因となるものであった。

自分だけの兄が、他の子供に取られてしまう。

まさに、そんな感じがしたのだ。

あのとろける様な優しさも…
あの包み込まれるような慈愛も…
あの何もかも受け入れてくれるような母性も…

それら全てを独り占めしたいと常に思っている羽月からすれば、反対する要素しかない話だった。

だから、兄にべったりと抱きついて、目いっぱい甘えるようにお願いしたのだ。
アルバイトなんて、しないで、と。

しかし、それでも兄、涼羽はアルバイトをする、と。
どうしても、したい、と。

妹である自分のお願いに、首を縦に振ってくれなかったのだ。

父、翔羽に話していた、秋月園長のその真摯な思いや態度…
そして、その保育園を思う、本当に純粋で真っ直ぐな思い…
それらを、本当に真剣に伝えてくる兄に、羽月も何も言えなくなってしまったのだ。

普段から、兄がどれほど妹である自分の世話をしてくれているか。
普段から、兄がどれほど妹である自分を優しく、温かく包み込んでくれているか。

そのために兄に負担をかけていると思うと…
あの控えめな兄が、ここまでしたいと言い出すことを、無碍にすることなど、できなくなってしまう。

さらには、兄のこんな台詞も――――



――――別に、羽月のことをないがしろにするわけじゃ、ないから――――



――――羽月は俺の可愛い妹だから…だから、帰ってきたら、い~っぱい甘えさせてあげるから、ね――――



ずるい。
ずるすぎる。

そんな綺麗で可愛い笑顔で…
そんなこと言われたら…

だめ、とか、やだ、なんて、言えなくなっちゃうじゃない。

だから、羽月もほんの少しの条件を前提に、しぶしぶと首を縦に振ったのだ。

ちなみに、その条件と言うのは――――



――――帰ってきたら、ぜ~ったいわたしのこと、い~っぱい甘やかして、い~っぱい可愛がってね――――



――――他のちっちゃい子が可愛いからって、ぜ~ったいにわたしのことほったらかしにしないでね――――



――――変なことになったら、ぜ~ったいにわたしに教えてね――――



と、言うものだった。

どこまでも甘えん坊な妹のそんな条件に、兄、涼羽は苦笑しながら『はいはい』と。
自分の胸の中でべったりと甘えてくる妹を、思う存分に可愛がってしまうのであった。

「お兄ちゃん♪」
「わっ、羽月?」

いきなり、背中にべったりと抱きついてくる妹に、驚いた声をあげてしまう涼羽。

これからは兄とこうしていられる時間が、今までよりもかなり少なくなってしまう。
だから、少しでもこうしてべったりとして、涼羽が自分だけのものであるという確かなものを自分の中に持ちたい羽月。

その細い腰に腕をまわし、ぎゅうっと音が聞こえてきそうなほどに、兄の身体を抱きしめる。
そして、その華奢で小さな背中に、その顔を埋めて、思いっきり甘えてくる。

「お兄ちゃんとこうするの、す~っごく幸せ」

その言葉通り、本当に幸せそうな表情で、涼羽にべったりと抱きつき、うんと甘えてくる羽月。
そんな羽月に、涼羽の顔に少し困ったような、それでいて嬉しそうな笑顔が浮かんでくる。

「…ふふ」

どこまでも甘えん坊な妹を可愛いと思いながら、そのまま好きにさせてあげる涼羽。
背中にべったりと妹を貼り付けたまま、今日の夕食の仕込みを続け…
それを終わらせてから、みんなで朝食の配膳に向かうのであった。



――――



「ねえ、涼羽ちゃん」
「?なあに?美鈴ちゃん?」

そして、学校の昼休み。
いつもの通り、弁当持参の涼羽は、自身のクラスである3-1の教室の、自分の席で持参した弁当を広げている。

最近では、そこにちょくちょくと涼羽に料理教室を開いてもらい…
それと共に自宅でも少しずつ料理の手伝いをして、毎日少しずつながら腕を磨き…
今では、簡単な弁当を作って持参するようになってきた美鈴が、涼羽の向かいの席に座って…
お互いに持参してきた弁当を一緒に食べる、という構図が定例化してきている。

美鈴の弁当は、冷凍食品や前日の晩御飯の残り物に頼ったものが多いが…
それでも盛り付けそのものは綺麗で、おかずの彩りも決して悪くはなく…
むしろ、最初の頃から考えると、結構な進歩をしているとすら言えるほどになっている。

「今週の土曜日、また涼羽ちゃんのお家でお料理教室、してもらってもいい?」

少し上目使いで、甘えたような声で、涼羽におねだりをする美鈴。
お互いのスケジュールのこともあり、そんなに頻繁に、というわけにはいかないが…
それでも、二~三週に一度くらいのペースで、涼羽は美鈴に対しての料理教室を開いている。

最初に料理教室を開いてもらってから、もう数ヶ月ほど。
回数としては、まだようやく片手で数え切れなくなるくらいのもの。
それでも、講師である涼羽の教え方がいいのか…
美鈴自身が、自宅でもちゃんと復習を兼ねて、お手伝いをして実践を重ねていっているからか…
自分で弁当を詰めてくるほどには、上達していっている。

そして、美鈴自身が涼羽と思う存分イチャイチャできるのも、このタイミング。
なので、なかなか頻繁に行けないのがもどかしくなってきているようで…
思い切って、先々週にしてもらったばかりであるにも関わらず…
今週もして欲しいと、申し出てきたのだ。

「もお~、また美鈴ばっかり!」
「ずる~い!」
「私達も、涼羽ちゃんのお家に行って、涼羽ちゃんにお料理習いた~い!」

ちなみに、涼羽のことがお気に入りである女子達も、涼羽と美鈴の二人を囲むように周囲の席に固まって、購買で買って来たパンや、自宅で母親に持たせてもらった弁当を広げて食べている。

今のところ、涼羽が一番その付き合いで馴染んでいるのが美鈴ということもあり…
他のクラスメイト達は、さすがに涼羽自身が自宅に呼ぶことに抵抗があるため…
未だに、涼羽の家に訪れたことがないのだ。

周囲の女子達も、なかなか自分で料理をすることがなく…
この学校には家庭科の実習がないため…
どうしても、料理をする機会自体がない。
かといって、親の手伝いというのも、学校から帰ってからするのは面倒。
ということで、この犯罪的な可愛らしさの涼羽に、是が非でも教わりたい、と思っているのだ。

それなら、涼羽を可愛がりながら、涼羽にちゃんと料理を教えてもらえると思うから。

そんな素敵な環境でなら、絶対に料理できると、彼女達は思ってしまっているから。

だからこそ、普段から積極的すぎるほどに涼羽と交流し…
少しでも、涼羽の中にあるその抵抗感を消していこうと…
涼羽に首っ丈なクラスメイトの女子達全員が、やっきになってしまっている状態だ。

「あ~…ごめんね、美鈴ちゃん。今週からは、土曜日はちょっと時間取れそうにない、と思う…」

ところが、当の涼羽から返ってきた返答は、美鈴にとって非常に納得のいかないもの。
今週は、ならまだしも、今週から、などと涼羽が言ってしまったため…
美鈴も、思わず食いつくように反応してしまう。

「!なんで!?今週からって…これからずっと、ってこと?」

思いがけない涼羽の返答に、相手を責めてしまうような固い声が飛び出してしまう美鈴。
その声に、涼羽も思わずびくり、と、身体を震わせてしまう。

「…う、うん…」
「なんで?なんでだめなの?」

基本的に家の家事を全てしている涼羽なだけに…
土曜日に時間を割いてもらっているだけでもありがたいのだ。
なので、日曜はお邪魔すること、呼び出すこと自体がダメだということが、双方の暗黙の了解となってしまっている。
なので、土曜日がダメだということは、涼羽の家にお邪魔することができない、ということ。
つまり、お料理教室自体開いてもらえなくなる、ということになるのだ。

だからこそ、美鈴の反応は当然と言えるもの。
美鈴にとっては、ちょっとしたデート気分で、大好きな料理まで教わることが出来る…
とっても楽しいひと時となっているそれ。

それがなくなるかもしれない、という事態に、美鈴の追及は止まらない。

「えっと…」
「ねえ、なんで?涼羽ちゃん?」
「その…」
「なんで?」
「あ、あの…落ち着いて、聞いて…ね?」
「分かったから!ねえ、なんで?」
「…実は俺、今週から、アルバイトするんだ」
「え?」

もじもじとした様子で、なかなか聞きたいことを声に出してくれない涼羽に対し…
早くそれを聞きたくてついつい急かしてしまう美鈴。
そうして、ようやくその理由を述べた涼羽の言葉に対し…
一瞬、その言葉が意味するものを理解できずに、間の抜けた声をあげてしまう。

「え?涼羽ちゃん、バイトするの?」
「ほんと?涼羽ちゃん?」
「ねえ、どこでバイトするの?」

一瞬動きの止まった美鈴を差し置いて、涼羽がアルバイトをするこということに興味津々の女子達。
今まで、そんな話も、そんな様子も少しもなかっただけに…
この目の前にいる、非常に可愛らしい男の子が、どんなアルバイトをするのか…
それが聞きたくてたまらない様子で、追求するように声をあげてくる。

「…ここから商店街を超えてすぐの、秋月保育園…」
「!え、そうなの?」
「保育園でバイトって、何のお仕事するの?」
「…一応、保父さん…」
「!わ~、やっぱり!」
「…やっぱりって?」
「だって、あんなにちっちゃい子にすぐ懐かれちゃう涼羽ちゃんなら、ぜ~ったいそうだって思って!」
「…そ、そうかな?…」
「…う~ん、でも…涼羽ちゃんなら、保父さんってゆーよりも…」
「うん!保母さんって言うほうがぴったり!」
「こ~んなに可愛くて優しいお姉ちゃんなら、ぜ~ったいどんな子でも懐いちゃうよ!」
「ね~」

きゃいきゃいと、どんどん話が盛り上がっていくクラスメイトの女子達。
次々と聞かれることに、少しどもりながらも答えていく涼羽。
そして、涼羽の業務内容が保父さんと言うことを聞いて、納得顔のみんな。

加えて、涼羽としてはして欲しくない評価まで、飛び出してしまう。

「…だから俺、男だって、何度も言ってるし…」

もはやいつも通りのやりとりと言える光景。
女子達があまりにも涼羽を女の子扱いするのに対して、涼羽がこんな拗ねたような反応をしてしまうのは。
でも、他の女子達からすれば、こんな涼羽の反応も…

「もー!やっぱり涼羽ちゃん可愛い!」
「こんなにも可愛いのに、男の子だなんて…いつ聞いても嘘みたい!」
「涼羽ちゃんがこんなにも可愛すぎるから…女の子みたいに扱っちゃうの、私達」
「ごめんね?涼羽ちゃん?」

目の前の男の娘が、あまりにも可愛すぎて、ついついこんな声をあげてしまう彼女達。
一応謝ってはいるものの、悪びれた様子はまるでなく…
むしろ、微笑ましいと言わんばかりの温かい視線と笑顔で涼羽を見つめてくる。

「…もう…」

そんな女子達の反応に、少しふてくされたような声をあげる涼羽。
それでも、本気で怒れないのは、相手が自分を言葉通り可愛らしく扱ってくれるから、というのはある。
自分に悪意や敵意を抱いたり、邪険に扱ったりするわけでもないのに、無闇に怒ることなどできない。

高宮 涼羽という男の子は、そういった優しい性格なのだ。

「…涼羽ちゃんが、アルバイト…」

涼羽とクラスの女子達がそんなやりとりをしている中…
美鈴は、涼羽の言葉を反芻するかのように、ブツブツと一人で言い始めている。

「(…涼羽ちゃん、何のアルバイトするのかな?あんなに可愛いんだから、メイド喫茶のメイドさんとかかな?)」

よほど自分の思考に集中しているのか、涼羽と女子達のやりとりなどまるで聞こえていなかったようで…
一体涼羽が何のアルバイトをするのか…
自分勝手に妄想し始め、それを膨らませていっている状態だ。

どんなに可愛くても、涼羽は男。
メイド喫茶でアルバイトなんて、できるはずもないのだが…
それも、涼羽なら可能であると微塵も疑わず…
ついつい妄想を膨らませてしまっている美鈴。

そんな涼羽と美鈴、そして女子達のやりとりを…
ひたすら目の保養と言わんばかりに見つめる男子生徒達の視線。

涼羽も美鈴も、そしてクラスの女子達もそんな視線にまるで気づくこともなく…
昼休みが終わるまで、そんなやりとりを続けているのであった。

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