とある英雄達の最終兵器

世界るい

第130話 テップ親衛隊

 それから両校の生徒たちはカントワの森へ移動し、お互いの陣営にて作戦会議を行う。


「ちゅーーーもーーく!! 総大将のテップだ!! 今から作戦を伝えるっ!! 心して聞けぇぇ!!」


 バッサバッサバッサ!! あまりの声の大きさに鳥がうるせぇと苦情を言いながら空へと逃げていく。しかし、そんな声であるから確実に聞こえているはずなのに生徒たちは無視だ。


「皆、聞いてくれ。誰かがこの場を仕切らなければならない。僕はその役目に最も相応しいのは、エスペラント王国王女にして、学年総代であるカグヤ様だと思うのだが、どうだろうか?」


 声は大きくなくとも、よく通るその声の主はクルード。その言葉に、皆は頷き、賛成の言葉を口々にする。


「と、皆は思っていますが、カグヤ様どうでしょうか?」


 くるりと振り返り、カグヤに確認をとるクルード。カグヤは少し困った顔で――。


「えぇと、そのっ、どうかな? 私よりクルード君の方が指揮するの上手そうだから任せてもいいかなっ? 私は、ほら、テップ君を見張っておかなきゃだから」


 そう言う。するとクルードは、得心した表情で――。


「なるほど、確かに。形では総大将である奴を守らなければ負けてしまうのもまた事実。では、カグヤ様はこの陣営での指揮をお願いいたします」


 そう言い、カグヤに対し一礼をする。そして、表情を引き締めると再度、生徒たちに向かって声を掛ける。


「皆、聞いてくれ! カグヤ様は我が陣営にて旗と総大将を守護する隊の指揮をすることとなった! そして、進軍する隊の指揮を指名されたのは、この学年次席、シュナイツ公爵家のクルード・フォン・シュナイツだ! 我らはロディニア大陸一と名高いハルモニア校の生徒! その名を汚すことのないよう、五種族一致団結し、必ずや勝利しよう! 」


 流石は幼少期より帝王学を学んできたであろうクルードとあり、その堂々とした立ち居振る舞いに反発する者などおらず、むしろ歓声がそこかしこから上がり、士気が上がっているのは誰の目から見ても明らかであった。


「では、早速作戦を説明しよう! 各小隊のリーダーは僕の元に集まってくれ!」


 どうやらクルードは自分が指揮を取るならどうするかを事前に考えていたようで、各小隊のリーダーを集めるとテキパキと指示を出しはじめる。


「…………俺、総大将なのに」


「テップどんまいなのだ」


「……ん、どんまい」


「フフ、テップさん頑張りましょ!」


「ほら、ミア?」「てっぷぅー、どんま!」


「あはは……、テップ君、その、ねっ?」


 総大将であるのに総スカンされ、あまりにいたたまれないテップに対し、普段は割と雑な扱いをしている女性陣達も気を遣い、励ましの言葉を掛ける。


 そして、テュールもクルードの元へ行くが、短い会話を交わしただけですぐに帰ってくる。


「さて、クルードからは遊楽団は扱いづらいから勝手にやってくれ、但し空気は読めよ? と言われたぞー。つーわけで、我々は空気を読まずに好き勝手やるぞー。俺は単身陣営に乗り込んで無双してこようと思う」


 ニヤリとテュールが笑う。修行ばかりで実戦の場がなかったテュールはここぞとばかりに闘志を燃やしていた。


「俺も面白いやつを探して喧嘩を吹っかけてくるかなー」


「ボクもボクもー!」


「では、私はそうですね。んー……おや? フフ、もっと面白いものを見つけたのでそっちに行ってみようと思います」


 アンフィスとヴァナルも修学旅行での他校との喧嘩気分で意気軒昂のようだ。それに対しベリトは普段と変わりない様子でキョロキョロと森を見渡し、ニヤリと笑うとそんなことを言う。そして、総大将であるテップはと言うと――。


「んー、俺は総大将っていうのは常に前線で命を賭して戦うのがあるべき姿と思うのだが、どう――。……はい、ここで大人しくしています。あーあ、シャルバラちゃんに会いたかったなー」


 この状況でまだ前線で戦うことを夢見ていたテップだが、遊楽団の皆の表情を見て、流石に察したようでうなだれた様子で体育座りとなる。そして、シャルバラという名前を聞き、テュールは思い出したように――。


「あぁ、そう言えばシャルバラってユグドラシルって姓が付いていたけど親戚?」


「あ、はい、そうですよ。エット家はお祖母様の弟であるディーズ様の直系です。同じ歳なのでシャルとはよく遊んだりしましたよ」


 と、セシリアに尋ねるとあっさり疑問は解決し、なるほどと頷く一同。


「セシリアぁ~、俺にシャルバラちゃんを紹介してくれぇ~」


「フフ、もちろん嫌ですっ♪」


 セシリアもテップの扱いに大分馴れたものである。


「しどい……。んで、クルードの奴はみんな率いて行っちゃったけどこの旗と俺を守ってくれるのはまさか……?」


「うんっ、ここにいる六人だよ? クルード君曰く大人数で守るとそこに総大将と旗があると知らせるようなものだ。あと、作者の都合でそうなったって言ってたね」


 テップが顔を上げ、カグヤ守護部隊隊長に問いかける。隊長は大人の事情をさらりと説明し、ぐるりと六人を紹介した。それ即ち、カグヤ、セシリア、リリス、レーベ、レフィー、そしてウーミアである。


「うっそ……。え、ウー公も戦力に数えるのか?」


「うー強いもんっ! てっぷぅーより強いもんっ!」


「アハハハー、そうだなー。ウー公は強いもんなぁ、うりうりぃー」


 テップの言葉に顔を赤くしたウーミアはぐるぐるパンチを仕掛けるが、テップはその頭を片手で押さえ、そのまま少し荒っぽく髪を撫でる。


「おい、あんまり荒っぽく撫でるなよ。バカが移ったらどうする!」


 そして、そんなやりとりを見たテュールは、ウーミアを直ぐ様取り上げる。これには皆の視線も冷ややかなものである。


「う、うるさいっ! お前ら目がうるさいぞっ! 俺は親バカでいいんだ! なー? ミア?」


「おバカさんは、やー」


「うぐっ……」


 まさかのウーミアにまで裏切られ、涙目のテュール。皆はもちろんニヤニヤと満足そうだ。そして、作戦会議を終えたらしいクルード達はそんな遊楽団に構うことなく森へと入っていく。


 それから暫くのんびりとしていたテュール達だが、開戦の時が近いことを察し、動き始める。


「さーて、じゃあ俺たちも遊びにいきますかー」


「んじゃ、賭けようぜー。潰した人数一人につき一ポイントな。隊長は五ポイント。指揮官クラスは十、総大将とフラッグは二十ポイントずつだ」


「いいねー。ボクは何狙ってこうかなー」


「フフ、楽しそうですね。皆様頑張ってきて下さい」


 男性陣は模擬戦を実に楽しんでいた。


「ぐぬぬぬぬっ!! 俺も総大将に会いたぃぃい!! って、いや総大将はあのザックとかいうアホか。ということはシャルバラちゃんが攻めてくる可能性もあるっ!? よっしゃ! 俺待ってる! 俺はここで待ってるよーーーー!! シャルバラちゃーーーん!!」


 バッサバッサバッサ!! 鳥うるさい飛び立つアゲインである。


 一方、敵地では――。


「シャルバラ様、向こうの陣営からシャルバラ様に敬称も付けず、挑発し誘い込もうとする声が聞こえますね。当然罠だとは思いますが、許すまじ行為ですので単騎特攻することをお許し下さい」


「フフ、カレーナ? 同じ学生なんです。敬称など不要ですよ。ただ、話したこともない方からのちゃん付けはどうかとも思いますけど。それにあの声は宣誓の時の彼でしょう。我々がザックさんを陣営に置き、堅牢な守りを敷いたように向こうも総大将を陣営に縛っておく可能性はあります。旗がなくとも総大将を取れば勝利。私が遊撃隊として攻め落としにいきましょう」


「シャルバラ様、自ら!? あのような下賤な男の前に御身を晒すのは……。いえ、分かりました。命を賭してでもこのカレーナ、シャルバラ様を守ります!」


「大袈裟ね、模擬戦なのだから命まで賭してもらっては困るわ。では、ユーステッドさん? 本隊の指揮はお任せしても良いでしょうか?」


「えぇ、不肖ユーステッド、必ずやシャルバラ様の道を開けてみせます」


「だからみんな大袈裟ですよ。ユーステッドさんが旗を発見したり、総大将を見つけた際は迅速に勝利を狙いに行って下さい。私は皆で一丸となり勝利することこそ至上の価値あるものと思っていますので。よろしくお願いしますね」


「「はっ! シャルバラ様のためにっ!!」」


「だから、みんなで……。はぁ……いいです。もうっ」


 シャルバラが何を言っても頑として視線を逸らさないリエース校の生徒。


 開戦のときは近い――。

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