とある英雄達の最終兵器

世界るい

第97話 わし一人ぼっちじゃん……

「ふぅ……。さて、終ったかい?」


「えぇ、どうやら終わったようですね。ルチア様結界の補助ありがとうございます。ウーミア様ミルクのおかわりはいりますか? グレモリー、ナベリウスも紅茶のおかわりは?」


「もーおなかいっぱいー」


「私はいい」


「私も大丈夫よ。ありがとうね」


 ダンジョンの一階部分でドタバタしていたため、何事かと旅館から覗きにきたグレモリーとナベリウスもちゃっかり紅茶を飲み、ベリトの作った球状の結界の中でのんびりと観戦していた。ウーミアに関しても結局レフィーが加熱する戦場を見てすぐに連れ戻し、ベリトに預けていった。結果としてあの大爆発に巻き込まれなかったのだからレフィーの判断は賢明だったと言える。


 そして、その爆発の跡地を見渡しルチアが高らかに笑う。


「カカ、なんとも面白い絵だねぇ。ベリト、記念だ、みんなを撮っておやり」


「畏まりました。はい、チーズ。ぱしゃりぱしゃりと」


 ベリトは嬉しそうに戦場であったダンジョン、今は死屍累々が転がる兵どもの夢の跡をカメラ型魔道具を片手に駆け回る。


「おや、テュール様普段の姿に戻ってらっしゃいますね」


「ん? あぁ、さっきので龍族の遺伝子が覚醒して、コントロールできるようになったんだろうさ」


 写真を撮りながらそれに気付いたベリトは、独り言のようにそう漏らす。それに対しいつの間にかベリトの隣まで歩いて近づいてきたルチアがティーカップ片手に大したことではないとばかりに言葉を返す。

 
「なるほど、あの時の――」


 ベリトはルチアの言葉に先ほどの場面を思い出す――。

 
「オラッ! トカゲ野郎! ひ孫とか羨ましいんだよコラッ!!」


「グッ! このバカ力め……! それに我をトカゲ扱いするとはタマちゃんの分際で! 少々痛い目にあいたいようだな!」


 リオンはツェペシュから降り注がれる魔法を素手で打ち払い、ファフニールへと接近しその拳を振るう。二対一とは言え、個の頂点とまで言われた男が40倍の身体能力で攻めてくれば流石に龍族と言えど分が悪そうだ。そこでファフニールは――。

 
「おいおいおい、真竜モードとか正気かよ。てめぇこの街ごと吹っ飛ばす気かよ……!」


 通常の竜形態から更にもう一段階上の真竜形態へと化す。体長は一回り大きくなり、体にはやたらギザギザの突起物が増え、可視化された魔力が雷状にその身体を纏っている。厨二病まっしぐらである。


「ツェペシュ! 頼んだぞ!」


 そしてファフニールはツェペシュに何事かを依頼すると、その口を大きく開き、魔法陣を描く。そう、ブレスだ。


「任せて~」


 ツェペシュは何事かを察し、幾重にも魔法陣を重ね、ダンジョン内を魔力壁で覆う。軽い口調で返事をしたものの、その目は真剣そのもので唇からは一筋の血を流している。


「マジかよ……。ッチ。流石にあのサイズのブレスは俺も無傷じゃすまねぇな……。ハッ! そうだ!」


 リオンのコメカミを冷や汗が一滴流れる。そして、眼前の巨大な魔法陣から放たれるであろうブレスにどう対応しおうか逡巡していた時に何かを思いついたようだ。思いついたら即実行――。リオンはその巨躯を雷の如き速さで消し去る。


 一方、その頃テュールは――。


「……ふむ、テュールや。ここでゴロゴロしててもしょうがあるまい。というわけで余りもん同士手合わせでもするかの」


「余りもんて言うな、余りもんて。まぁ、けど確かになんとなく戦ってなきゃ仲間ハズレな空気だもんなぁ。……やるかぁ」


「んむ」


 仕方なく余りもん同士で手合わせをすることが決まり、お互いなんとなくぎこちない様子で構える。


「いざ――」


「応――」


 そして、戦いの火蓋が切って落とされ――。


「スマンな、モヨモト。こいつ借りてくぞ」


 る瞬間にリオンに首根っこを掴まれ、テュールはモヨモトの眼前から一瞬で消え去る。


「えぇー…………わし、一人ぼっちじゃん……」


 刀を構えたモヨモトはその場から暫く動けないでいたとかいないとか。


 そして、連れ去られたテュールはわけがわからないため、リオンに抗議する。


「一体何がどうな――!」


「おら、テュール、てめぇ半分龍族になったんだからブレス打てるだろ。それであれをなんとかしろ」


 テュールが言い終わる前に、リオンは早口で要件を伝える。その視線の先には――。


「……はぁ!? おい、アレなんだよ……。あんなデカイ魔法陣見たことないぞ……」


「あぁ、50m級だからな。どうやらファフニールは本気で俺にダメージを与えたいらしい。あのサイズになると最強クラスの実力者でかつその中でも結界や防壁魔法を得意としているやつでしか防げねぇ。俺もあれを受け止めたら火傷くらいするだろうな」


(おいおいおい、こんなふざけた戦いで初めての神代級魔法レベルの攻撃とか出していいのかよ……! つーか、あのバカげたサイズのブレスってどんな威力だよ……。俺ぜってー死ぬじゃん……)


「リ、リオン? 火傷くらいならよくない? あとでルチアに治してもらえばいいじゃん……」


 日和るテュール。


「あん? バカ言え、あのババアが俺を治すわけねぇだろ。面白がって傷をえぐってくるに決まっている。つーか、これは師匠命令だ。龍族ってのは、その遺伝子に戦い方や竜としてのあり方が刻まれている。恐らくあのブレスはそういった竜の系譜の塊だ。それをお前は受け取りつつ相殺しろ」


(相殺しろ……だと?)


「ど、どうやって?」


「あん? さっきも言ったろ。おめぇもブレス出しゃいいんだよ。んな角と翼と尻尾生やして今更人族ですなんてバカなこと言うんじゃねぇぞ? やりゃあできる。しかもこれはチャンスだ。大体強くなるには師匠が初見の超必を使ってそれを弟子が相殺するのが相場なんだよ! 比古清十郎しかりマトリフ師匠しかりだ。分かったならお前もそれをやれ。おら、時間切れだ。来るぞ、覚悟決めろ」


 テュールはどこからどこまでもツッコミたかったが、そのどれをも飲み込む。なぜならばリオンの言う通り、テュールとリオンに照準を合わせている魔法陣が尋常ではない魔力を周囲から吸い込み、ドス黒く発光し始めたためだ。


「くそっ!! 死んだら生き返らせてくれよ!!」


「でぇじょぶだ。ドラゴンボー○がある!」


 そして、極上のボケをかましたリオンにツッコむ隙もなく、黒い魔力の奔流がテュール達を襲う。ファフニールの口元からテュールまでの距離はおよそ100m。音速など優に越え、瞬き一つの時間で消し炭になるであろう極上の暴力が吹き荒れる。


 その刹那テュールの両眼が放たれたブレスを捉える。この時テュールは生物的本能でこの攻撃を食らったら死ぬことを悟る。そして、悟ると同時に生存本能がテュールの中に眠る龍の遺伝子を無理やり起こす。


「ガッ――」


 極限に集中し、時間が引き伸ばされた中、テュールは無意識に口を開く。そして、ただただ自分の中に根付いたばかりの龍の遺伝子に身を任せ、魔法陣を描く。


「ふん、やりゃあできるじゃねぇか」


 そして、テュールの口から咆哮と同時に深紅に染められた魔力の激流が放たれる。


「ラァッッァァァアア!!」


 それは何とか間に合い、宙空で黒き奔流とぶつかり合う。それを見たリオンは――。


「チッ。予想以上にやべぇな。おい、モヨモト!」


「うむ」


 すぐさまモヨモトを呼び、二人がかりで瞬時にブレスが衝突している地点を幾重にも結界で囲う。


 しかし、衝突点は漆黒と深紅のブレスによって凄まじい速度で圧縮されていく。そして限界を迎えたその特異点とも言える圧縮点に遂にその瞬間が訪れてしまう――。


 その瞬間、あまりのエネルギー量に世界は一瞬停止し、動き出した時にはダンジョン内はただひたすらに白く白く塗りつぶされることとなる――。


 そして、今に至るわけであるが――。


「皆様生きていますかね?」


「カカ、これくらいで死ぬようなタマじゃないさ。それに大部分はツェペシュとバカとジジイの結界で削られているさね。さて、ベリトあたしは砂埃で汚れたから先に浴びにいくよ。そいつらを起こして風呂を浴びるよう言っといとくれ」


「畏まりました」


 ルチアはベリトにそう指示を出し、ウーミアを抱きかかえるとグレモリーとナベリウスを連れて旅館へさっさと行ってしまう。


「では、一人一人起こしていきましょうか。テュール様、遅刻ですよ。職場から電話がかかってきています」


「はっ!! 遅刻っ!? やばっ! スーツ! スマホ! 定期! 急――」


「はい、おはようございます。旅館の方へどうぞ」


 テュールは、キョロキョロと辺りを見渡し10秒ほどかけて現状を思い出すと、ベリトに無言で抗議する。が、ベリトは取り合わず笑顔でそう伝えると、次の獲物へと向かう。


「テップ? 裸の美少女が先着一名様にプレゼン――」


「はい! はい! はーい!」


「はい、おはようございます。旅館の方へどうぞ」


 テップも、キョロキョロと辺りを見渡し、やはり現状を確認すると、ベリトに無言で抗議を始める。が、当然ベリトが取り合うわけもなく、次の獲物へ――。


 こうして、執事は全員から無言の抗議をもらった後、一人汚れのない体で家へと戻り食事の支度を始めるのであった。

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