とある英雄達の最終兵器
第70話 飯テロ回〜ほんの少し苦くて酸っぱい青春の味〜
キラキラした目でテュールの頭の上に乗っているポメべロスを見つめるリリス。
「あ、あぁ、公爵悪魔のナベリウスって子から預かった地獄の番犬ケルベロスことポメべロスだ」
「「「アウッ!」」」
テュールがリリス含めた皆にポメべロスを紹介すると、ポメべロスはドヤ顏で一鳴きする。
リリスは早速近寄ってきてテュールの頭の上にいるポメべロスを撫で――
「届かないのだ……」
テュールはなんとなくイジワルな気持ちになり、しゃがまずに立ったままでいる。右から左からぴょんぴょん跳ねるリリス……。それに合わせて三つ首もキョロキョロとリリスを追う。
「むぅ……」
「仕方ない、俺様が手伝ってやろう!」
テップがリリスに申し出る。
「本当か! 助かるのだ!」
「あぁ、任せろ。抱っこでも肩車でも……」
「それじゃ後ろを向くのだ!」
待ちきれないのか、テップが言い終わる前にそう指示するリリス。面白そうなのでテュール含め他の者達は黙って見守っている。
「ほいほい、肩車ね――」
テップが分かっていますよと、後ろを向いて指示される前にしゃがむ。
「うむ、では手を床につけるのだ!」
「……手???」
あれ? と不思議そうな顔をするテップだがひとまず言われた通り手をついてしまう。
「んしょ、んしょ」
そして四つ這いになったテップの上に土足で上がるリリス。
「「「「…………」」」」
ちょっとこれはかわいそうだな、という視線で皆がテップを見ているが、意外にもテップは満更でもない顔をしているのでリリスを咎めるものはいなかった。
「おぉー! 可愛いのだ! ポメちゃんよしよし!」
リリスはポメべロスを撫でると、ポメべロスも嫌がることなく撫でられる。随分俺の時と対応違いますねポメべロスさん? つーかリリス、ポメちゃんって呼んじゃったらもうケルベロス感ゼロになっちゃうよ?
リリスは少しの間撫でると満足したのか、テップからぴょんと降りる。そして――
「次はレーベ!」
突然指名されるレーベ。無言で自らを指差し、私? という表情を返す。
そんなレーベの後ろに回り、両肩を押して前進させるリリス。そのまま押され――
むぎゅ
レーベは踏み台の上まで押し上げられるとおそるおそるポメべロスを撫でようとする。
「……よしよし」
「「「アウッ!」」」
「わっ……」
ポメべロスは喜びの声をあげるが、レーベはそれに驚いてしまう。至近距離で驚くレーベを見る機会など今までなかったので、新鮮で可愛らしいなぁと思う。しかし自分でこの状況を作っておきながらこの絵はなんなんだとも思ってしまう……。
そのあともレーベがセシリアと交代し、レフィーと交代し、カグヤが体重がその……と、恥ずかしがって辞退するまでその絵は続いた。
男連中と師匠連中はやや呆れた目で苦笑しながらそんな光景を眺めていた。そして踏み台に徹していたテップは、怒るどころか――男は女に踏まれた数だけ強くなれるんだよ――とか訳のわからないことを言っていた。まぁメンタルの強さはお前がナンバーワンだよ……。
そして一通りポメべロスを可愛がった後は食事へと移る。15人と1匹分の食事なのでかなりの量だ。ちなみにポメべロスがなにを食べるか分からなかったので食材の前で何を食べるか選ばせたところ、ケルは魚、ベロは肉、スンは野菜だった。お前ら胃袋は一緒だけど味覚は違うのな……と納得し、三つの皿に別々の食事を置く。
こうしてポメべロスはわりとすんなり溶け込み、問題も起こさないまま食事は進む。
「ふぅ、ご馳走様。今日も美味しかったよ」
テュールが食事を用意してくれたカグヤ、セシリア、ベリトに礼を言う。
「はい、テュールさん! まだ食べられそうですか? その今日言っていたデザートを作ったのですが……」
モジモジと上目遣いで尋ねてくるセシリア。こんなセシリアからのデザートを断れるほどテュールのメンタルは強くなかった……。
「もちろん。是非頼むよ」
セシリアにそう答えると、セシリアは良かったです! とそう言いキッチンへパタパタと駆けていく。その隙にチラリとカグヤに視線を向ける。
目が合ったカグヤは、少し困ったような顔をして……そして目を逸らす。おい、どういうことだ……。
そして出てきたのは――
「ホットケーキです!」
「「「「「………………」」」」」
そう、出てきたのは――真っ青な生地の上に、泡がプツプツと弾けている蛍光グリーン色のシロップがかかったホットケーキだった……。
ゴクリ、一度生唾を飲み、匂いを確かめるテュール。
(刺激臭はしない……。それどころか甘ったるくて、むしろ美味し、そう……? 逆に怖い。この色からなぜこんな匂いに……?)
「とても美味しそうだ。ちなみにこれは何が入ってるのかな……? ハハハ……」
覚悟を決めるためにもテュールは、セシリアに食材を確認する。
「秘密です……って言いたいところですけど教えちゃいますね。えぇと、生地にはディープブルーベリーの果実を混ぜて、シロップには疲れが取れるハーブ――ラインマーカー草を砂糖で煮詰めたものを混ぜましたっ」
「な、なるほど……。予想通りだな、ハハハ……」
「そうなんですか!? テュールさん流石ですね……、バレちゃってましたか」
ハハハ、フフフと笑い合う二人。
(まぁ、色と匂いの説明はついた。これなら味はファンタスティックなことにはなっていないだろう……)
「じゃ、みんな悪いな……。俺だけ食べちゃうぞー? 食べちゃうからなー? いただきまーす」
テュールは覚悟を決めて皆に宣言する。皆は何とも言えない表情でそれを見守る。
そしてテュールはフォークで生地を三角に切り、シロップを絡めて――パクリッ
………………
…………………………
……………………………………
「……………………ふぁぁぁぁ」
一噛みした瞬間に訪れる草特有の強烈なエグ味、砂糖を極限まで煮詰めたであろう激甘味、そしてベリーの酸っぱさが口の中で大戦争を引き起こし、気合いで飲みこうと四噛みまでしたところで、テュールの身体は限界を迎え、その口から放送禁止映像が流れた……。
「「「「「………………」」」」」
その光景を見て、皆が皆どうしていいか分からず重苦しい沈黙が流れる。動き始めたのは――
「す……すみませんでしたっ。お口に合わなかったんです、よね……。す、すぐに片付けます!」
そう言って皆が固まっている中、セシリアが一人テキパキと皿を取り上げシンク傍のゴミ箱へとホットケーキを棄てる。
「す、すみません。ちょっと今日は疲れてしまったので先に部屋に戻りますね……」
セシリアはホットケーキの乗っていた皿をシンクにつけると痛々しい笑顔でそう言い、自室へと駆け出す。
「…………セシ――」
声をかけようとしたテュールは情けない話だが何と声をかけていいか分からず伸ばした手を静かに下ろす……。
そして皆が皆、どうしていいか分からない中、ルチアが静かに口を開く。
「…………あんたたちは種族差別をしない子達だ。仲もいいし、信頼しあってる、それはとてもいいことさね。けど……理解し合おうとしてないさね。種族が違うってことを理解できていないのさ」
少年少女達はルチアの言葉がどういう意味か考える――。
「あんたたちは優しい。今までもセシリアの料理に対して気を使い、不味くても美味しい美味しいと言ってたろ? それをあの子は本当に美味しいと捉えていた。何故だと思う? それはエルフの味覚では本当に美味しいからさ」
……っ
息を飲む少年少女達。自分の種族と他の種族で味覚が違うなど考えたことがなかった……。
「自分と相手が違うということを認める。それは差別じゃない――理解さね。あんたたちはセシリアに俺たちの口には合わない。俺たちにとってこれは甘すぎる、すっぱすぎる、苦すぎると自分のことを相手のことを理解しあえる機会を放棄してたのさ」
「「「「「………………」」」」」
ルチアの言葉がナイフのように心に刺さる。
「さて、ここまで言えばやることは分かるだろう? ほれテュールボサッとしてないで行ってきな」
ルチアは先ほどまでの厳しい表情を和らげるとテュールに発破をかける。
「……ルチアありがとう。ちょっと話し合ってくる」
「あぁ、行っといで」
テュールはルチアがぞんざいに手を振って見送ってくれるのを視界の端で捉え、セシリアの部屋へと歩みを進める――。
「あ、あぁ、公爵悪魔のナベリウスって子から預かった地獄の番犬ケルベロスことポメべロスだ」
「「「アウッ!」」」
テュールがリリス含めた皆にポメべロスを紹介すると、ポメべロスはドヤ顏で一鳴きする。
リリスは早速近寄ってきてテュールの頭の上にいるポメべロスを撫で――
「届かないのだ……」
テュールはなんとなくイジワルな気持ちになり、しゃがまずに立ったままでいる。右から左からぴょんぴょん跳ねるリリス……。それに合わせて三つ首もキョロキョロとリリスを追う。
「むぅ……」
「仕方ない、俺様が手伝ってやろう!」
テップがリリスに申し出る。
「本当か! 助かるのだ!」
「あぁ、任せろ。抱っこでも肩車でも……」
「それじゃ後ろを向くのだ!」
待ちきれないのか、テップが言い終わる前にそう指示するリリス。面白そうなのでテュール含め他の者達は黙って見守っている。
「ほいほい、肩車ね――」
テップが分かっていますよと、後ろを向いて指示される前にしゃがむ。
「うむ、では手を床につけるのだ!」
「……手???」
あれ? と不思議そうな顔をするテップだがひとまず言われた通り手をついてしまう。
「んしょ、んしょ」
そして四つ這いになったテップの上に土足で上がるリリス。
「「「「…………」」」」
ちょっとこれはかわいそうだな、という視線で皆がテップを見ているが、意外にもテップは満更でもない顔をしているのでリリスを咎めるものはいなかった。
「おぉー! 可愛いのだ! ポメちゃんよしよし!」
リリスはポメべロスを撫でると、ポメべロスも嫌がることなく撫でられる。随分俺の時と対応違いますねポメべロスさん? つーかリリス、ポメちゃんって呼んじゃったらもうケルベロス感ゼロになっちゃうよ?
リリスは少しの間撫でると満足したのか、テップからぴょんと降りる。そして――
「次はレーベ!」
突然指名されるレーベ。無言で自らを指差し、私? という表情を返す。
そんなレーベの後ろに回り、両肩を押して前進させるリリス。そのまま押され――
むぎゅ
レーベは踏み台の上まで押し上げられるとおそるおそるポメべロスを撫でようとする。
「……よしよし」
「「「アウッ!」」」
「わっ……」
ポメべロスは喜びの声をあげるが、レーベはそれに驚いてしまう。至近距離で驚くレーベを見る機会など今までなかったので、新鮮で可愛らしいなぁと思う。しかし自分でこの状況を作っておきながらこの絵はなんなんだとも思ってしまう……。
そのあともレーベがセシリアと交代し、レフィーと交代し、カグヤが体重がその……と、恥ずかしがって辞退するまでその絵は続いた。
男連中と師匠連中はやや呆れた目で苦笑しながらそんな光景を眺めていた。そして踏み台に徹していたテップは、怒るどころか――男は女に踏まれた数だけ強くなれるんだよ――とか訳のわからないことを言っていた。まぁメンタルの強さはお前がナンバーワンだよ……。
そして一通りポメべロスを可愛がった後は食事へと移る。15人と1匹分の食事なのでかなりの量だ。ちなみにポメべロスがなにを食べるか分からなかったので食材の前で何を食べるか選ばせたところ、ケルは魚、ベロは肉、スンは野菜だった。お前ら胃袋は一緒だけど味覚は違うのな……と納得し、三つの皿に別々の食事を置く。
こうしてポメべロスはわりとすんなり溶け込み、問題も起こさないまま食事は進む。
「ふぅ、ご馳走様。今日も美味しかったよ」
テュールが食事を用意してくれたカグヤ、セシリア、ベリトに礼を言う。
「はい、テュールさん! まだ食べられそうですか? その今日言っていたデザートを作ったのですが……」
モジモジと上目遣いで尋ねてくるセシリア。こんなセシリアからのデザートを断れるほどテュールのメンタルは強くなかった……。
「もちろん。是非頼むよ」
セシリアにそう答えると、セシリアは良かったです! とそう言いキッチンへパタパタと駆けていく。その隙にチラリとカグヤに視線を向ける。
目が合ったカグヤは、少し困ったような顔をして……そして目を逸らす。おい、どういうことだ……。
そして出てきたのは――
「ホットケーキです!」
「「「「「………………」」」」」
そう、出てきたのは――真っ青な生地の上に、泡がプツプツと弾けている蛍光グリーン色のシロップがかかったホットケーキだった……。
ゴクリ、一度生唾を飲み、匂いを確かめるテュール。
(刺激臭はしない……。それどころか甘ったるくて、むしろ美味し、そう……? 逆に怖い。この色からなぜこんな匂いに……?)
「とても美味しそうだ。ちなみにこれは何が入ってるのかな……? ハハハ……」
覚悟を決めるためにもテュールは、セシリアに食材を確認する。
「秘密です……って言いたいところですけど教えちゃいますね。えぇと、生地にはディープブルーベリーの果実を混ぜて、シロップには疲れが取れるハーブ――ラインマーカー草を砂糖で煮詰めたものを混ぜましたっ」
「な、なるほど……。予想通りだな、ハハハ……」
「そうなんですか!? テュールさん流石ですね……、バレちゃってましたか」
ハハハ、フフフと笑い合う二人。
(まぁ、色と匂いの説明はついた。これなら味はファンタスティックなことにはなっていないだろう……)
「じゃ、みんな悪いな……。俺だけ食べちゃうぞー? 食べちゃうからなー? いただきまーす」
テュールは覚悟を決めて皆に宣言する。皆は何とも言えない表情でそれを見守る。
そしてテュールはフォークで生地を三角に切り、シロップを絡めて――パクリッ
………………
…………………………
……………………………………
「……………………ふぁぁぁぁ」
一噛みした瞬間に訪れる草特有の強烈なエグ味、砂糖を極限まで煮詰めたであろう激甘味、そしてベリーの酸っぱさが口の中で大戦争を引き起こし、気合いで飲みこうと四噛みまでしたところで、テュールの身体は限界を迎え、その口から放送禁止映像が流れた……。
「「「「「………………」」」」」
その光景を見て、皆が皆どうしていいか分からず重苦しい沈黙が流れる。動き始めたのは――
「す……すみませんでしたっ。お口に合わなかったんです、よね……。す、すぐに片付けます!」
そう言って皆が固まっている中、セシリアが一人テキパキと皿を取り上げシンク傍のゴミ箱へとホットケーキを棄てる。
「す、すみません。ちょっと今日は疲れてしまったので先に部屋に戻りますね……」
セシリアはホットケーキの乗っていた皿をシンクにつけると痛々しい笑顔でそう言い、自室へと駆け出す。
「…………セシ――」
声をかけようとしたテュールは情けない話だが何と声をかけていいか分からず伸ばした手を静かに下ろす……。
そして皆が皆、どうしていいか分からない中、ルチアが静かに口を開く。
「…………あんたたちは種族差別をしない子達だ。仲もいいし、信頼しあってる、それはとてもいいことさね。けど……理解し合おうとしてないさね。種族が違うってことを理解できていないのさ」
少年少女達はルチアの言葉がどういう意味か考える――。
「あんたたちは優しい。今までもセシリアの料理に対して気を使い、不味くても美味しい美味しいと言ってたろ? それをあの子は本当に美味しいと捉えていた。何故だと思う? それはエルフの味覚では本当に美味しいからさ」
……っ
息を飲む少年少女達。自分の種族と他の種族で味覚が違うなど考えたことがなかった……。
「自分と相手が違うということを認める。それは差別じゃない――理解さね。あんたたちはセシリアに俺たちの口には合わない。俺たちにとってこれは甘すぎる、すっぱすぎる、苦すぎると自分のことを相手のことを理解しあえる機会を放棄してたのさ」
「「「「「………………」」」」」
ルチアの言葉がナイフのように心に刺さる。
「さて、ここまで言えばやることは分かるだろう? ほれテュールボサッとしてないで行ってきな」
ルチアは先ほどまでの厳しい表情を和らげるとテュールに発破をかける。
「……ルチアありがとう。ちょっと話し合ってくる」
「あぁ、行っといで」
テュールはルチアがぞんざいに手を振って見送ってくれるのを視界の端で捉え、セシリアの部屋へと歩みを進める――。
コメント
ノベルバユーザー65475
おもしろい!