とある英雄達の最終兵器

世界るい

第67話 くぅ~ん、お腹空いたわん!

「ゼーハー、ゼーハー……、俺もう無理。ギブ」


「ホホ、テップや? おんしは魔法には見どころがあるが、体力や近接がからっきしじゃのう。こんなおいぼれの修行についていけんようじゃモテる日はこないの、ホホ」


「……モテ、なくて……いい――。けど、やっぱ……モテ……たい」


 バタンッ! そう言い残しテップは地面へと倒れ込む。まだ修行開始から1時間しか経っていないが、追い込み方がハンパではなく、既にリリス、テップは脱落しており、レフィーも苦しげな表情だ。


 イルデパン島で何年も修行を積んだテュール、アンフィス、ヴァナルでさえ、汗だくで余裕のない表情をみせている。


 そしてレーベはリオンと死に物狂いの組手を行っている。リオン曰く、身内だからこそ限界まで追い込めるとのことだ――


「レーベ!! てめぇは口だけか!? 本気でテッペン取りてぇなら意地見せてみろ!! ラァッ!!」


 レーベは意識を失っては起こされ、ダメージを回復魔法で治さないままリオンと戦い続けていた。全身のいたるところに擦傷、裂傷、打撲痕ができており、あるいは骨の2、3本は折れているかも知れない。意識は朦朧としているのか、目はうつろでたたらを踏みながら、それでも尚リオンの攻撃を捌こうとする――


 だが、当然そんな状態でリオンの攻撃を捌けるわけもなく、無情にもリオンの蹴りがレーベの脇腹へと刺さる――


 レーベの小さい体は地面と平行に吹き飛ばされ壁に激突する。その衝撃は凄まじいものであり、耐衝撃のダンジョン内部の壁にヒビが入るほどだ。壁に数秒めり込んだあと――、ゆっくり剥がれ落ちるように地面に落下する。


「ごふっ」


 レーベが鮮血を吐き出す。呼吸音も少しおかしい。肋骨が肺に突き刺さった可能性がある。テュールは慌ててリオンとレーベの間に入る――


「おい、リオンやりす――」


 その言葉を待たずテュールとの距離を一瞬で詰めたリオンは全力の拳をテュールの顔面へと叩き込む。


「おい、テュールてめぇ組手中に横槍いれるたぁ何のつもりだ? おめぇまさか安全に楽しく無理をしないでSSSクラスぶっ倒すつもりだったのか? あんま世の中舐めんじゃねぇぞ!!」


 そんな言葉を耳にテュールは数十m吹っ飛びながら足を地面へとつき、減速を試みる。地面に抉れるような跡が残り、そこからは焦げ付くような臭いが漂う。そして完全に止まったところでテュールは2、3度頭を振り――


「ってぇ……。ッペ。うわ、歯4本も抜けたぞ……。こりゃあとでルチアに再生してもらわないとな……。ふぅ、よし、視界も定まった、と。――さて」


 テュールはこめかみに青筋を浮かべ、リオンを睨み――


「レーベ、選手交代だ。熱くなりすぎちまってるお前んとこのガンコジジィぶっ飛ばすかん――なっ!」


 リオンとの数十mを最速で駆け、一切駆け引きなど考えない大きく振りかぶった一撃を放つ――


「ッチ、バカ弟子がぁ!! 上等だオラァッ!!」


 テュールの勢いを利用してカウンターで拳を返すリオン――


 両者の拳が互いの顔面に入る。ミシリッ! 両者の足が地面へとめり込み、放射状に亀裂が入る。


「「オラオラオラオラオラ!!!!」」


 そこから足を動かさずに殴り合いを始める二人。防ぐ時間が、捌く時間が、避ける時間があるならば、一発でも多く殴る!! ――とお互いが捨て身で殴り合う。


「ったく、熱くなってるのはテュールあんたも一緒さね……。ほら、レーベ立てるかい?」


 周りの見えないバカ二人が戦いに没頭している中、回復魔法をかけ終わったルチアがレーベに問いかける。


「……ルチア、ありがとう。痛くなくなった」


「ふむ、なによりさね。で、どうすんだい?」


「選手交代してくる」


 その言葉に一瞬目を開き、呆気にとられるルチア、だがすぐに破顔し――


「クク、流石あの筋肉バカの孫だ。いっといで」


 コクリ。レーベは頷くと、拳圧で熱風が渦巻き、近寄ることすら難しい戦場へと――


 ドロップキックをかます。


「ししょー交代」


「ずべらっ!!」


 真正面のリオンに全神経を集中していたテュールが真横から吹き飛ばされる。


 そして、入れ替わるように前に立ったレーベに対し、リオンは目の前に立つ者が先程より小さくなったという事実だけを認識し、上方から下方へ打ち下ろす軌道で拳を走らせる。


 レーベはその拳を――全力で避け・・・・・、空を切り下方へと伸び切ったリオンの肘へありったけの力を込めて殴る。


 リオンの右肘からは鈍い破砕音が聞こえ――、同時にレーベの左拳からもいくつかの骨が割れる音が聞こえた。


 …………。


 一瞬リオンの動きが止まる。そしてニヤリと笑うと――


「ガハハハ!! あぁ、つい熱中しちまって避けられるなんてことを考えなかった俺の落ち度だな。さて、レーベどうする? 俺の右肘とお前の左手、治してもらってから続きをするか?」


 リオンがらしくない・・・・・言葉を口にする。


「これが答え」


 その言葉と同時にレーベは左の・・ショートフックを脇腹に叩き込む――


 パシンッ、リオンはその拳を左手で受け止める。一瞬痛みに顔を歪めるレーベ。リオンはそんなレーベに向けダラリと下がった右腕を無理やり振り上げ、下ろす――!


 レーベは咄嗟に右腕を頭上へ掲げ、前腕部で受け止める――


 ズドンッッ!! 鈍い打撲音が響き、レーベの両足が5cm程地面へとめり込む。


「オラッ!! ボサっとすんじゃねぇぞ!!」


 受け止めて安堵してしまったほんの刹那にリオンの蹴りがレーベを襲う――


 レーベは吹き飛び、それを追うリオン。狂気じみた組み手はなおも続く――。


 そんなさなか――


「あ、どうやらカグヤ様とセシリア様がお戻りになったようですね。私は夕食の準備を手伝ってきましょう。皆様はどうぞ修行に集中して下さいませ。では失礼――」


 カグヤとセシリアの帰宅に気付いたベリトが修行を抜ける。


「お、俺も、夕食の……準備を、手伝い、に――、い、いやぁぁぁぁ!! 離してぇぇぇ!! らめぇぇぇ!!」


 這いつくばってベリトの後を追うテップの足をファフニールが引きずり修行へと連れ戻す。


「バカモノ! 少しはレーベを見習え! よし、次はブレス30連発だ! 全て魔法障壁で防ぐのだ!! ではいくぞ?」


 黒きドラゴンが羽ばたき、上空へと舞い上がる。鋭い眼光をテップへと向け、口から漏れる空気音が恐怖心を煽る。そして――


「グルァァァァ!!!!」


 大きく開いた口の前には10m級の魔法陣が生まれ――ブレスが放たれる。その直後に再度魔法陣が生まれ、放たれ――生まれ、放たれ――、その度に強大な魔力の奔流がテップを襲う。


 ひぎぃ、うぐぅ、ひやぁぁぁ、死ぬぅ、無理ぃ、と半べそ――、どころか完全に泣きながらテップがそれでもなんとかブレスの属性に対応した魔力障壁を破壊されては生み出していく。


 死ぬ気になれば人間なんとかなるもんだなぁとレーベに吹き飛ばされて頭が冷えたテュールはテップを見てそんなことを思う。


「ホホ、テュール。よそ見をするとは余裕があるのぅ。余裕のあるおんしには特別ゲストを用意しようかの。ツェペシュー」


 修行が始まると同時にどこかへと姿を消していたツェペシュがモヨモトの呼びかけに応じるように目の前に現れる。


「モヨモトおっけーだよー。バエルとグレモリーに頼んだら何人か手伝ってくれる人集まったよー」


 ん? バエルとグレモリー?


「こんにちはテュールさん。稽古のお手伝いを頼まれましたので、私の友人を何人かこちらにお招きしました。どうぞよろしくお願いしますね」


 グレモリーが音もなく現れ、続くように――


「アガレスじゃ。公爵をやっておる。小童死んでも文句を言うなよ?」


 老人が――


「ウァレ……フォル……」


 ロバのような頭をもつライオンが――


「ナベリウス……、こっちはケルベロス」


 少女が――そして少女に似つかわしくない巨大な鎖の先を見上げると三つの頭を持つ犬が――


「ホホ、こちら魔界の公爵の方々じゃ、失礼のないようにな。ではテュール、死なんように」


 そう言ってモヨモトは笑いながらツェペシュとともに去っていく。


 こうして、残されたのはテュールと、グレモリー、アガレス、ウァレフォル、ナベリウス&ケルベロスの悪魔軍団


「では、テュールさん稽古の方始めさせていただきますね」


「ふむ、ベリトの小僧の契約者か、ならば多少本気を出しても問題あるまい」


「ベリト……コロス……」


「え? ケルベロスお腹空いた? どうしよう……、食べさせていい?」


 あかん、これ絶対あかん。おい、ベリトお前ウァレフォルさんに何した!? 登場三単語目にしてすっげー物騒な言葉呟いてんぞ!? あと、ケルベロスさんの頭三つともヨダレだらだらで目血走ってるんすけど! ていうか、折りたたまれた後ろ足からビキビキッて聞こえてきそうなくらい力溜めてるのが分かるんですけど!!


「あ」


 ナベリウスが鎖を離した瞬間――


 地獄の番犬がテュールへと牙を剥く――

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