とある英雄達の最終兵器
第61話 お姫様とナイト様
「また、ゾンビもどきの討伐依頼か……」
ここのところギルドに顔を出すと、ゾンビもどき駆除が最優先依頼となっており、他の依頼は全てシャットアウトされている。最優先の理由も理解できているのだが、こう毎週毎週ゾンビもどき狩りだとぼやきたくもね……。
「まぁまぁ、テュールくんそう言わないの、街の安全のためだもん、がんばろ?」
そんなテュールをカグヤが窘める。
「そうだな……、今日もいっちょお掃除にいきますかっと」
「おぉー、いくのだー!」
「今日はししょーよりたくさん倒す」
「フフ、私も足を引っ張らないように頑張りますね~」
「あぁ、テュール。油断して足元を掬われるなよ? まだまだ貸しは返してもらってないんだからな? フフ」
第一団の面々はゾンビもどき駆除をふた手に分かれて行っている。今日の場合だと北門と南門だ。ちなみに一班と二班、つまり男5人と女5人で分かれるかと言うと、そうではない。基本は一班と二班の編成だが、テュールが一班から二班に貸し出されている。テップがお姫様に何かあったらどうする! と強く怒ったためだ。
確かに一班と二班では戦力差がかなりあるし、少女たちのことは心配なのでテュールもすんなりその言葉を聞き入れ、この編成になっている。
「あらら、早速お出ましだ」
街の南市門を出てすぐのところにチラホラと彷徨うゾンビもどきがいる。ゾンビもどきを何故もどきと呼んでいるかと言うと、ソレは死体ではないためだ。だが見た目が人型の何というかドロドロしているモノのため形容するとしたらゾンビが最もしっくりくる。一体あの生物? はなんなのだろうか。冒険者や町の人から色々な噂を聞くがギルドや領主からの公式回答はない。
そしてこのゾンビもどき、以下ゾンビ共は知能もゾンビ並で徒党を組むわけでも道具を使うわけでもない。更に言えば、街に引き寄せられているわけでもなく、ただただウロウロしているだけだ。だったら放置すればいいと思うのだが、近くに人を発見すると、走ってきて攻撃してくるという厄介な特性があるため放置はできない。
ちなみに人が噛まれたりしてもゾンビにはならない。が、知能がないというのは恐ろしく、こいつらは加減を知らない。
走る速度や攻撃は遅いため、一対一なら戦闘訓練を積んでいない街の住人でも逃げ切ることは可能だ。しかし、数の暴力とは怖いもので、囲まれてしまうと一般市民では脱することは難しい。実際に街を行き来する行商人に被害者も出ている。
何より厄介なのはどこから発生して? 生まれて? いるのかが分からず、討伐してもまたすぐに増えてくることだ。そして増えるペースがゆっくりと増加しているようだ。放っておけば世界はゾンビに覆い尽くされるかも知れない……。
「というわけで、ゾンビワールドにしないためにも駆逐するぞ!」
「おー! ――ファイアーアロー!」
号令と同時に待ちきれないといった様子でリリスがファーストアタックを仕掛ける。以前と違い、情報をごちゃごちゃと詰め込んだ歪な魔法陣ではなく、情報量は同じでも整然と書き連ねられ、綺麗になってきている――そんなリリスの魔法陣から飛び出た火の矢は一直線にゾンビの頭へと刺さり、炎上する。そして後には小さな石が残るだけだ。
「ふむ、かなり綺麗になってきたな」
そう言って、リリスの頭を撫でる。
「ふふん、当然なのだー! リリスは頑張っているからな!」
まぁ学校でザビオルドにネチネチ言われ、家でルチアにガミガミ怒られながら訓練すれば強くもなろう。
「ししょー、行ってくる」
「おう、油断するなよ」
「ん」
コクリと頷き、レーベが走る。
この3ヶ月、テュールとリオンに鍛えられ、より格闘術に磨きがかかったレーベが鈍くさいゾンビに遅れをとるわけもなく、次々と頭を蹴り飛ばし――、いや、消し飛ばしていく。ちなみにドロドロが気持ち悪いということで長靴を装備だ。長靴を履いた幼女によるゾンビ狩り……、B級映画まっしぐらだな……。
カグヤは魔力刀の生成と剣術に集中し修行しており、既に5m級の魔力刀生成に成功している。そしてカグヤの剣術と魔力刀が合わされば――ゾンビは自分が斬られたと意識することもできずに細切れだ。
セシリアにいたっては左手一本で戦っている。左手で右手と同じレベルの魔法を使えるようになるまで右手は使うな、とルチアから言われているためだ。3ヶ月間左手だけで魔法陣を書いてきた成果も徐々に出てきており、その速射力から雑魚の殲滅戦においては頭一つ飛び抜けている。そのため、よく――
「セシリアはまだ打っちゃだめなのだー!」「セシリアは5分数えてから開始」
なんて言われてたりする。
そして、レフィーは、体術、槍術、魔法どれも高水準で隙がない。そして何より冷静でクレバーなため、見てて安心できる。しかし、今日はそんなレフィーが――
「うっ……」
――突如うずくまる。
そんなレフィーを囲む形でわらわらと近付くゾンビども、そしてうずくまって動けないレフィーにその爪を、その牙を――
「どうした? 大丈夫か?」
が、テュールがそれを許すわけもなく、一瞬の間にレフィーの傍へ駆け寄り、すれ違い様、全てを一刀の下に伏せる。
「あ、あぁ……、すまない、少しめまいが、な……。フフ、一つ借りを返されてしまったな……」
血の気が引き蒼白した顔で、無理をして笑うレフィーがそう答える。
「ったく、そんな冗談言う余裕があるなら大丈夫そうだな? だが今日はこれで戦闘は終了だ。大人しく俺の傍で待機だ」
レフィーの空元気に付き合いつつも、問答はなしだときっぱりそう告げるテュール。
「仕方ないな、ではナイト様に守ってもらうとするか――」
そう言って、レフィーは座ったまま、傍で立つテュールの足にもたれかかる。
「あいよ、お姫様」
テュールはその場から動くことなく、魔法で近付いてくるゾンビどもを焼き払う。
そして目に見える範囲のゾンビがいなくなった所で――
「撤収!!」
テュールは他の少女たちにそう呼びかける。普段なら移動し、殲滅範囲を拡大するはずなのに、と撤退の指示に違和感を感じた少女たちは目に見える範囲のゾンビを急ぎ駆除するとテュールの元へ駆けてくる。
そこでレフィーの様子を見て、状況を察した少女たちは口々に、心配の声を投げる。それに対しレフィーは気丈に笑い、心配するな、ちょっとした立ちくらみだ、とそう返す。少女たちは誰がどう見ても無理していると分かるレフィーを見て、急ぎ街へ戻ることに即座に同意する。
テュールが、立てそうか? とレフィーに手を伸ばと――あぁ、大丈夫だ、と笑いながら手を握るレフィー。しかし、立とうとした瞬間――くらりと身体がよろけ、テュールが慌てて抱き止める。
「こりゃ重症だな」
「……フフ、すまない。……なんならお姫様抱っこd――」
と言い終わる前にテュールが抱きかかえる。
「…………」
本当にお姫様抱っこされるとは思っていなかったレフィーは視線を伏せ、今まで蒼白していた顔の一部分だけに赤みがさす。
少女たちも普段であれば茶化しの一つもいれようものだが、あのリリスでさえも空気を読み、テュールとレフィーに負担がかからないよう周りを警戒しながら黙々と歩く。
そして無事市門に到着し、門を開けてもらうと、テュールはレフィーに振動を与えないよう注意しながら診療所へと歩いていく。
「おや、久しぶりだね、今日はどうしたんだい? って、そちらのお姫様が患者さんかな、そこのベッドに寝かせてくれ」
お姫様抱っこされているレフィーをみた女医からそう指示され、言われた通りのベッドへとレフィーを降ろす。
「フフ、ありがとうテュール。大分楽になった、本当だ。だから先にギルドへ行ってきてくれ、報告しなければならないだろ?」
ベッドに横になり、顔色が少しずつ良くなってきていたレフィーがテュールにそう伝える。
レフィーに言われた通り、テュール達が請け負った範囲のゾンビを駆除しきれていないため、早く報告しに行かなければならない、が――
「大丈夫だよ、テュールくん。私が残るからテュールくん達はギルドの方をお願いしていいかな?」
と、そこまで考えた所でカグヤに声を掛けられる。その言葉に少し冷静さを取り戻したテュールは、大人数で診療所にいても、まして男の俺がここにいても迷惑になるなと考え、女医にお願いしますと頭を下げ、付き添いをカグヤに任す。
そして、セシリア、リリス、レーベとともに診療所を後にし、ギルドへと報告に向かう。
ここのところギルドに顔を出すと、ゾンビもどき駆除が最優先依頼となっており、他の依頼は全てシャットアウトされている。最優先の理由も理解できているのだが、こう毎週毎週ゾンビもどき狩りだとぼやきたくもね……。
「まぁまぁ、テュールくんそう言わないの、街の安全のためだもん、がんばろ?」
そんなテュールをカグヤが窘める。
「そうだな……、今日もいっちょお掃除にいきますかっと」
「おぉー、いくのだー!」
「今日はししょーよりたくさん倒す」
「フフ、私も足を引っ張らないように頑張りますね~」
「あぁ、テュール。油断して足元を掬われるなよ? まだまだ貸しは返してもらってないんだからな? フフ」
第一団の面々はゾンビもどき駆除をふた手に分かれて行っている。今日の場合だと北門と南門だ。ちなみに一班と二班、つまり男5人と女5人で分かれるかと言うと、そうではない。基本は一班と二班の編成だが、テュールが一班から二班に貸し出されている。テップがお姫様に何かあったらどうする! と強く怒ったためだ。
確かに一班と二班では戦力差がかなりあるし、少女たちのことは心配なのでテュールもすんなりその言葉を聞き入れ、この編成になっている。
「あらら、早速お出ましだ」
街の南市門を出てすぐのところにチラホラと彷徨うゾンビもどきがいる。ゾンビもどきを何故もどきと呼んでいるかと言うと、ソレは死体ではないためだ。だが見た目が人型の何というかドロドロしているモノのため形容するとしたらゾンビが最もしっくりくる。一体あの生物? はなんなのだろうか。冒険者や町の人から色々な噂を聞くがギルドや領主からの公式回答はない。
そしてこのゾンビもどき、以下ゾンビ共は知能もゾンビ並で徒党を組むわけでも道具を使うわけでもない。更に言えば、街に引き寄せられているわけでもなく、ただただウロウロしているだけだ。だったら放置すればいいと思うのだが、近くに人を発見すると、走ってきて攻撃してくるという厄介な特性があるため放置はできない。
ちなみに人が噛まれたりしてもゾンビにはならない。が、知能がないというのは恐ろしく、こいつらは加減を知らない。
走る速度や攻撃は遅いため、一対一なら戦闘訓練を積んでいない街の住人でも逃げ切ることは可能だ。しかし、数の暴力とは怖いもので、囲まれてしまうと一般市民では脱することは難しい。実際に街を行き来する行商人に被害者も出ている。
何より厄介なのはどこから発生して? 生まれて? いるのかが分からず、討伐してもまたすぐに増えてくることだ。そして増えるペースがゆっくりと増加しているようだ。放っておけば世界はゾンビに覆い尽くされるかも知れない……。
「というわけで、ゾンビワールドにしないためにも駆逐するぞ!」
「おー! ――ファイアーアロー!」
号令と同時に待ちきれないといった様子でリリスがファーストアタックを仕掛ける。以前と違い、情報をごちゃごちゃと詰め込んだ歪な魔法陣ではなく、情報量は同じでも整然と書き連ねられ、綺麗になってきている――そんなリリスの魔法陣から飛び出た火の矢は一直線にゾンビの頭へと刺さり、炎上する。そして後には小さな石が残るだけだ。
「ふむ、かなり綺麗になってきたな」
そう言って、リリスの頭を撫でる。
「ふふん、当然なのだー! リリスは頑張っているからな!」
まぁ学校でザビオルドにネチネチ言われ、家でルチアにガミガミ怒られながら訓練すれば強くもなろう。
「ししょー、行ってくる」
「おう、油断するなよ」
「ん」
コクリと頷き、レーベが走る。
この3ヶ月、テュールとリオンに鍛えられ、より格闘術に磨きがかかったレーベが鈍くさいゾンビに遅れをとるわけもなく、次々と頭を蹴り飛ばし――、いや、消し飛ばしていく。ちなみにドロドロが気持ち悪いということで長靴を装備だ。長靴を履いた幼女によるゾンビ狩り……、B級映画まっしぐらだな……。
カグヤは魔力刀の生成と剣術に集中し修行しており、既に5m級の魔力刀生成に成功している。そしてカグヤの剣術と魔力刀が合わされば――ゾンビは自分が斬られたと意識することもできずに細切れだ。
セシリアにいたっては左手一本で戦っている。左手で右手と同じレベルの魔法を使えるようになるまで右手は使うな、とルチアから言われているためだ。3ヶ月間左手だけで魔法陣を書いてきた成果も徐々に出てきており、その速射力から雑魚の殲滅戦においては頭一つ飛び抜けている。そのため、よく――
「セシリアはまだ打っちゃだめなのだー!」「セシリアは5分数えてから開始」
なんて言われてたりする。
そして、レフィーは、体術、槍術、魔法どれも高水準で隙がない。そして何より冷静でクレバーなため、見てて安心できる。しかし、今日はそんなレフィーが――
「うっ……」
――突如うずくまる。
そんなレフィーを囲む形でわらわらと近付くゾンビども、そしてうずくまって動けないレフィーにその爪を、その牙を――
「どうした? 大丈夫か?」
が、テュールがそれを許すわけもなく、一瞬の間にレフィーの傍へ駆け寄り、すれ違い様、全てを一刀の下に伏せる。
「あ、あぁ……、すまない、少しめまいが、な……。フフ、一つ借りを返されてしまったな……」
血の気が引き蒼白した顔で、無理をして笑うレフィーがそう答える。
「ったく、そんな冗談言う余裕があるなら大丈夫そうだな? だが今日はこれで戦闘は終了だ。大人しく俺の傍で待機だ」
レフィーの空元気に付き合いつつも、問答はなしだときっぱりそう告げるテュール。
「仕方ないな、ではナイト様に守ってもらうとするか――」
そう言って、レフィーは座ったまま、傍で立つテュールの足にもたれかかる。
「あいよ、お姫様」
テュールはその場から動くことなく、魔法で近付いてくるゾンビどもを焼き払う。
そして目に見える範囲のゾンビがいなくなった所で――
「撤収!!」
テュールは他の少女たちにそう呼びかける。普段なら移動し、殲滅範囲を拡大するはずなのに、と撤退の指示に違和感を感じた少女たちは目に見える範囲のゾンビを急ぎ駆除するとテュールの元へ駆けてくる。
そこでレフィーの様子を見て、状況を察した少女たちは口々に、心配の声を投げる。それに対しレフィーは気丈に笑い、心配するな、ちょっとした立ちくらみだ、とそう返す。少女たちは誰がどう見ても無理していると分かるレフィーを見て、急ぎ街へ戻ることに即座に同意する。
テュールが、立てそうか? とレフィーに手を伸ばと――あぁ、大丈夫だ、と笑いながら手を握るレフィー。しかし、立とうとした瞬間――くらりと身体がよろけ、テュールが慌てて抱き止める。
「こりゃ重症だな」
「……フフ、すまない。……なんならお姫様抱っこd――」
と言い終わる前にテュールが抱きかかえる。
「…………」
本当にお姫様抱っこされるとは思っていなかったレフィーは視線を伏せ、今まで蒼白していた顔の一部分だけに赤みがさす。
少女たちも普段であれば茶化しの一つもいれようものだが、あのリリスでさえも空気を読み、テュールとレフィーに負担がかからないよう周りを警戒しながら黙々と歩く。
そして無事市門に到着し、門を開けてもらうと、テュールはレフィーに振動を与えないよう注意しながら診療所へと歩いていく。
「おや、久しぶりだね、今日はどうしたんだい? って、そちらのお姫様が患者さんかな、そこのベッドに寝かせてくれ」
お姫様抱っこされているレフィーをみた女医からそう指示され、言われた通りのベッドへとレフィーを降ろす。
「フフ、ありがとうテュール。大分楽になった、本当だ。だから先にギルドへ行ってきてくれ、報告しなければならないだろ?」
ベッドに横になり、顔色が少しずつ良くなってきていたレフィーがテュールにそう伝える。
レフィーに言われた通り、テュール達が請け負った範囲のゾンビを駆除しきれていないため、早く報告しに行かなければならない、が――
「大丈夫だよ、テュールくん。私が残るからテュールくん達はギルドの方をお願いしていいかな?」
と、そこまで考えた所でカグヤに声を掛けられる。その言葉に少し冷静さを取り戻したテュールは、大人数で診療所にいても、まして男の俺がここにいても迷惑になるなと考え、女医にお願いしますと頭を下げ、付き添いをカグヤに任す。
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