とある英雄達の最終兵器

世界るい

第44話 初代SSSランカー

 イルデパン島での育ての親兼師匠達が英雄で国王で世界を救ったという情報が文字としては理解できても全く実感が沸かないテュールはややほうけながらもルーナの話の続きを聞こうと姿勢を正す。


「では、続けるぞ。他の者も復習がてらきちんと聞いておけよ? この五人なくしてこの世界はないのだからな」


(あの、ホホホと笑っていつもイジられているモヨモトが? ルチアに殴られてぶっ飛びまくっているリオンが? 世界を救った……)


 やはり、ルーナの語る英雄と育ての親であり師匠である五人の像が結びつかないテュール。


「さて、この五人の英雄──五輝星と呼ばれた英雄たちは当時ロディニア五種族大戦開戦時にはSSクラスの冒険者だった。その当時はSSクラスが上限だったためだ、が、あまりにこの五人は他のSSクラスの者達とレベルが違った。そこで冒険者ギルドは各種族の頂点に立つ者、五種族それぞれに一つだけSSSの席を作った。当然五輝星が初代SSSランカーだ」


(SSSランク……)


 リバティに来て冒険者のレベルの低さに正直驚いたが、それは逆で、イルデパン島のレベルがただ異常だっただけであった。テュールの頭は混乱状態が続くが、ルーナは一定のペースで淀みなく授業を続ける。


「そんな隔絶した力を持った五輝星でも平和への道のりは決して楽ではなかった。内乱を止めるため、他種族との争いを止めるため多くの犠牲を払った。何千、何万、何十万という者を亡き者にし、平和な未来のために戦場に立つ者達の明日を奪っていった。もはや統一、停戦を成し得なければ全ての国、種族が共倒れする未来が秒読みの段階に入っていた世界で悠長に対話で解決などできようものか」


 人の命が失われるというとても分かりやすい犠牲にクラスメイトたちの顔も強張る。


「想像できるか? 誰もが苦しみ、誰もが嘆き、誰もが平和を欲し、誰もが歩みを止めたいと願っているのに止まれない世界を。止まった瞬間に食い潰される世界で足を、弓を、剣を止めさせてもらえない者たちを……」


 ルーナの言葉はクラスメイトに重く纏わりつき、沈鬱な空気が流れる。


「五輝星はロディニア大戦が始まって七年間は各地方の列強国に停戦を何度も持ちかけ終息を図ろうとした。だが、自分たちの歩みを止めて襲われない保証を誰がする? とまともに取り合う国はなかった。そして、七年という時間は世界が疲弊するのには十分な時間だった。五輝星はそこから三年をかけて力ずくでの内乱終息を図り、五大国を建国した」


 さぁ、これでめでたしめでたし、と言うわけには当然いかない――。ルーナは一息ついて言葉を続ける。


「疲弊しきった国に残ったやり場のない怒りを、自分の種族がまとまったのならばどこにぶつける? あぁ、四箇所もぶつける相手がいるじゃないか。そう考えた各種族は国王の意向を無視して他国へ攻め込んだ。そしてその愚かな末路がロディニア五種族大戦で最も有名な戦いである五粛清に繋がった。各国からおよそ一万人ずつの兵がロディニア大陸の中心で入り乱れ戦うという狂気。──そしてこの五万の兵を五輝星は自分たちだけ、そうたったの五人で殲滅した」


 信じられるか? ルーナはその想像の及ばない戦いに苦笑いを浮かべ、生徒たちの顔を眺める。当然生徒たちの顔はピンときていない様子であった。


「当然五万の兵は同じ方向を向いているわけではない。それでも五万という数は断じて五人が殲滅できていいものではない。だが、それを成し得たこの五粛清の効果は絶大だった。五大国の強硬派の牙は全て折れ、五輝星は停戦協定を結ぶことに成功する。もしも他国への侵略を企てるのならば五輝星が例え自国であっても・・・・・・・五人がかりで潰す、と言ったのだ。それはまさしく暴力だ。誰しもが逆らえない圧倒的な力を持って平和は築かれたんだ」


(それを為したのがあの五人? 俺を育ててくれて、いつもバカを言いながら、笑っていて……) 


 テュールは、胸にズクンと痛みを感じる。平和のために何万という命を奪った師匠たち。あの優しい師匠たちはそんなツライ過去を背負いながら、それでも笑って自分を育ててくれていたということに。


「そして五輝星は建国して最初の二十年は恐怖と力による政治で国をまとめ上げ内政を整えた。そして子供に自らの恐怖政治を討たせ王位を退いた。そして、そんな五輝星は国を離れ最後の仕事をする。それが五粛清が起こった地であり、誰も近寄らず、どの国も所有権を名乗り出なかったこのパージ平原に種族差別のない都市国家を作ることだった」


 どうだ? 退屈か? 寝ているやつは……、どうやらいないようだな。では続けよう。ルーナは、生徒たちの顔を見渡し、満足そうに頷く。


「五輝星は種族による一方的な支配を失くすため様々な工夫をし、中でもこの都市国家リバティを運営する委員会の議席数を五種族平等に起き、最高責任者は一人ではなく、五人によるものとした。そして、初代最高責任者の五席を埋めた五輝星は特に教育に力を入れた。五種族調和への一歩を踏み出せる者達を育てる学校としてハルモニアは生まれたのだ」


 そして──。


「そして、リバティが、ハルモニアが上手く回り始めると突如五輝星はこの世界から姿を消した。この世界は私達の手を離れた、後は任す。と一言メッセージがあり、忽然と消えたんだ。これが二十年程前になるな。それから暫くして姿を見たという噂が流れるがこれも長くは続かず、真相は分からないままだ」


 そう言って皇女達に視線を配るルーナ。


「以上がハルモニアの成り立ちだ。お前たちならば理解できるだろう? 今ここで五種族が黙って同じ話を聞けるという奇跡が、どれだけの犠牲と努力の上に成り立っているのかを。理解できたのなら行動に移せ。世界に未だある種族間の溝を埋めるために強大な暴力は必要でなくなった。必要なのは平和な世界を歩んでいるお前たちの小さな歩み寄りだ」


 そう言って、ルーナは授業を終える。


(ふぅ……)


 そこまで聞いてテュールは大きく深呼吸をする。授業中脳をフル回転させていたため、少々疲労を感じたためだ。


「ふむ……。ん? テュール顔色が悪いが大丈夫か?」


「あ、大丈夫で──」


 そうテュールが答えようとしたところで執事が綺麗な所作で手を挙げる。


「申し訳ありません。テュール様の体調が優れないようなのでテュール様を連れて早退させて頂きます」


「あー、俺も急にお腹が痛くなってきたんで早退します、すんません」


「ごめんなさいー。ボクも、何か体調が悪くなりそうなんで早退しますー」


 ベリトに続いて、アンフィス、ヴァナルもそんなことを言い始める。


 ルーナは当然の様に怒鳴ろうとする。


「お前ら、ふざけたことを抜かす──!! ……なっ」


 と言い切る前にアンフィスとヴァナルがテュールの肩を左右から抱え、拉致する。


「では、失礼いたします」


 ベリトが扉を開き、テュールを通し終えた後自分も退室し、扉を閉める。


 「────!!」


 ルーナが何か言って追いかけてきたようだったが、アンフィス、ヴァナル、ベリトはそれを無視し、えっさほいさとテュールを担いで駆けていく。


 学校の敷地を出たところでテュールを降ろすと、今更戻る気もなくなったテュールは黙ってそのまま三人と家へと歩みを進める。そして、家の扉を開けると──。


「なに辛気臭い顔してるんだい、まったく……」


 ルチア達がリビングに集まっていた。

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