絶対守護者の学園生活記

若鷺(わかさぎ)

専業主婦カレンの日常

 目を覚ますと目の前には気持ち良さそうな寝顔を晒すレオンがいた。することをしてそのまま一緒に寝たのだから当たり前だけど。

 一糸纏わぬレオンの体をぺたぺたと触ると硬い筋肉の感触が返ってくる。私達を守る為に鍛え上げられたその体は、いつも私を優しく包み込んでくれる。

「ん……ちゅ」

 起こさないようにそっと唇を合わせると、ベッドを降りて服を着る。シャワーを浴びてさっぱりとすると頬を軽く叩いて気合を入れる。

「よし! 今日も頑張りますか!」

 学園を卒業し、専業主婦になった私の一日が始まる。

※※※

 まず朝一番にすることは朝御飯の支度。十人分も作るのは少し大変だけど、料理は好きだからそこまで苦ではない。たまにミーナとかも手伝ってくれるしね。ついでにレオンのお昼御飯用の弁当も作る。

 出来上がる頃になると匂いに釣られてか続々と皆が起きてくる。ふふ、クーの寝癖が凄いわね。

 皆にも手伝ってもらって料理をテーブルに並べていく。いただきますをして我ながら良い出来だと思う料理を美味しそうにどんどん腹に収めていく姿を見ると嬉しい気持ちになる。私も少しは主婦として様になってきたかしら?

 食べ終わるとそれぞれの仕事に向けての準備が始まる。一番早く屋敷を出るのはレオンアリスソフィの騎士団組。それ以外の皆で夫にいってらっしゃいのキスをする。いかにもなラブラブ夫婦って感じでなんだかむず痒いけど、悪くはない。

 最終的に屋敷に残ったのは私だけになった。どうやらミーナは指名依頼が入っているらしい。寂しくないと言ったら嘘になるけど、とりあえずは溜まった家事を済ませてしまおう。

 窓から空を見上げると雲一つない晴れ模様。うん、今日は洗濯物がよく乾きそう。

 まずは朝御飯で使った食器洗い。人数が人数なだけに数は多いけどレオン特性の食器洗い機というものがあるから楽だ。レオン曰く

「落ち着いたら物作りをやってみたかったんだ。定番だし」

 らしい。おかげで助かってるし、私を気遣ってくれたのかと思うと嬉しい。直接言葉にはしないけど。

 食器洗いが終わると洗濯。昨日は雨だったから乾かせていない洗濯物を天日干ししていく。それにしても本当に良い天気ね。お昼寝したら気持ち良さそう。

 次は屋敷の掃除。とはいっても皆は清潔に保つようにしてくれているのでそこまで汚れてはいない。あ、レオンのベッドのシーツを変えないと……アレの臭い凄そうだし。

 一通りの家事を終わらせて休憩。お茶を淹れようと思ったらテーブルの上に布に包まれたお弁当箱が置いてあった。レオン……忘れていったのね。ちょうどやることは終わったところだったから届けに行きますか。

 しっかりと施錠をして騎士団本部へと向かう。途中で巡回中の騎士を見つけた。

「少しいいかしら?」
「これこれは、カレンさん。私に何か御用で?」
「レオンが今どこにいるか分かる?」
「団長なら訓練場で指導をしているかと」
「そう、ありがとう」

 騎士団長であり『絶対守護者』でもあるレオンの妻として私の顔は知られているから、こういう時に気軽に聞けて楽ね。

 王城の敷地内に設置されている騎士団本部、そこにある訓練場に着くと一生懸命に声を上げながら素振りをしている騎士達一人一人に声をかけてアドバイスをするレオンがいた。しっかり団長してるのねぇ。

 しばらく仕事ぶりを眺めているとレオンと目が合った。こっちに近付いてくる。仕事の顔になっているレオンに少しドキッとしたなんて恥ずかしくて言えない。

「カレン? どうかしたのか?」
「はいこれ、お弁当。忘れてたわよ」
「ありゃ、そうだったのか。届けさせてすまんな」
「いいのよ、ちょうどすることなくなったところだったから」

 少し申し訳なさそうにしながらお弁当箱を受け取るレオン。忘れたからといって怒ることはない。
 そもそも騎士達にはちゃんとした食堂が用意されていて、アリスとソフィはいつも利用しているらしい。もちろんレオンも使用出来るのに、カレンの料理が一番美味いからとお弁当を頼まれている。喜びこそすれ、怒ることなどない。

「どうだ? 俺の騎士達は?」
「あら? 随分偉くなったわね?」
「そのニッコリって顔はやめてくれ。なんか怖い」
「失礼ね」

 まったくもう……

「することないんだったらしばらく見ていくか?」
「いいの? 邪魔になったりしない?」
「騎士団長権限で許す」
「職権乱用ね、通報しておくわ」
「その通報は俺の元に来るんだけどな」

 軽いジョークの交わし合いがこんなにも楽しい。私もレオンも笑顔がこぼれる。

「んで、結局どうする?」
「うーん……やっぱりやめとくわ。買い物しなきゃいけないのを思い出したし」
「そっか」

 少しの間だけレオンと手を絡めてから、私は訓練場を後にした。「お前らニヤニヤしてんじゃねぇ!さっさと訓練に戻れ!」という声が後ろから聞こえた気がしたけど気のせいかしら?

 商店街で食料を買い足していく。特に肉体労働のレオンやアリス、ソフィなどはお腹をすかして帰ってくるので肉を多めに。

 その途中で主婦友達に会った。年齢は私より十も二十も上の人達だけど、私に色々とアドバイスをしてくれる良い人達だ。

 世間話やちょっとした節約術、夫の陰口などで会話に華を咲かせる。当然のように私の夫でもあるレオンの話題になるが、羨ましがられるばっかりだった。他の人達から見たらレオンはかなりの優良物件らしい。私からしたら抜けてるところもあってそこまでではないと思うけど。ま、そこが可愛かったりするんだけど。

 中でも最も私が興味を持ったのは子育ての話題。やんちゃで手のかかるクソガキだと笑って話す主婦友達を見ていると、私も子育てをしてみたくなる。子供、欲しいなぁ.....

 家に戻ると晩御飯の仕込みを始める。メニューはもちろん肉を多めに。おかわりを考えるとかなりの量だ。作ってる途中でミーナが帰ってきて手伝ってくれた。

 仕込みを終えるとリビングでミーナとお茶をしながら駄弁る。今日はこんな依頼を受けてきたと語るミーナに相槌をうっていると次第に声が小さくなっていき話が途絶える。

 ミーナはこてんとソファに倒れ寝ていた。結構疲れていたようだ。丁度いいのでミーナを抱き枕にして私も昼寝をしようと思う。モフモフが気持ちいいのよね。

 目を覚ますと外はすっかり暗くなっていた。時間を確認するともうすぐ皆が帰ってくる時間だ。

 再び晩御飯の用意に入ると玄関の方からただいまの声が聞こえてくる。火をしっかりと止めて迎えに向かう。

「ただいま、カレン」
「おかえりなさい」

 全員が揃ったところで食事の時間だ。今日も私の料理は大人気。あっという間に減っていく。

 その後は皆でお風呂。前はこの時間が苦痛で仕方なかったけどもう色々と諦めた。くっ.....

 お風呂から上がるとぐぅたらタイム。今日あったことを適当に喋りながらゆったりとした時間を過ごす。

 そして就寝。皆は疲れた様ですぐに寝るらしい。だから私はレオンの寝室を訪れた。二日連続だけど私は決して淫乱ではない。

 ベッドの上でレオンの愛を受け止める。前から求めてきた「証」はしっかりと存在している。

 今日が終わって明日がやってくる。平和で穏やかな日々。
 ありふれた一幕が、当たり前に過ごす皆との時間がこんなにも愛おしい

 これからも満ち足りた生活が続くのだろう。そんなことを考えながらレオンの腕の中で私は眠りについた。


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