絶対守護者の学園生活記
帰還
暖かな陽気が新たな春の始まりを告げている。しかし屋敷にいる者達は、そんな明るい陽気とは真逆の暗い表情をしていた。
レオンが消息を絶った。
あの時、空に映されたレオンの姿を見て皆が思わず声を出していた。想いを口に出していた。
その影響かレオンは立ち上がり、魔王に打ち勝った。その瞬間映像は途絶えたが、すぐに意識を失ったレオンの回収に向かった。
目を覚ましたら、うんと甘えてやろう。
レオンの嫁達はそんな思いを胸に、愛しの人が起きるのを待つつもりだった。
だが、回収地点であった村の跡地には誰の姿も無かった。
魔王に体を乗っ取られていたリーフェも、目的の男も、戦闘跡すら消えていた。そこでは何も起きてはいなかった。そう言われても不思議ではない程に、元のままだった。
必死で探し回った。様々な人物が協力してくれ、ほぼ全域をカバーすることが出来た。なのに見つからない。レオンと会えると高揚していた心を一気にズタボロにされ、精神的疲労だけが蓄積していった。
後は俺達がやるから、ゆっくり休め。そうダルクに言われ、レオンの嫁達は屋敷へと戻った。
けれども何をするにしてもやる気が起きない。リビングには集まるものの、会話は一切無いといったことも珍しくはなかった。
リーゼは今の状況をどうにかしなければと思いつつも、何も出来ない自分に悔しさを噛みしめた。
シャルは呪いをかけられていた頃のように、ただ王女として振る舞うだけになっていた。
ソフィは生きる意味を失くし、何度も命を絶とうとした。どうにかして皆に止められたが、外をぼーっと眺めるようになった。
ミーナは常に尻尾の手入れをするようになった。戻ってきた彼に、最高の触り心地を楽しませる為に。その瞳には何も映ってはいなかった。
リリィはふらっとどこかへ出かけ、戻ってくるを毎日繰り返していた。どこかを散歩しているようだ。
アリスはただ座りながら、いつか貰った指輪を握りしめていた。忘れないように、力強く。
カレンは空を見上げていることが殆どだった。綺麗な星空になると、目にはなぜか涙が浮かんでいた。
たった一人の男がいなくなっただけ。普通であれば、きっぱりと忘れることは出来なくとも、再び前を向くことも出来たのかもしれない。
だが彼の存在は彼女達にとっては普通ではなかった。
誰かの為に自分を犠牲にするから、支えてあげたい。
一度は消えてしまった存在を、もう離したくない。
その頼れる背中に、また体を預けたい。
過去の闇から救ってくれた彼に、全てを捧げたい。
造り物に居場所を与えてくれた彼に、奉仕したい。
鎖を断ち切ってくれた彼の優しさに、甘えたい。
他人の為に悪に立ち向かえる姿に、寄り添いたい。
普通ではない想いがあったり、過去があったり。それを彼は受け止めてくれたが故にそれぞれの隠れた依存というのは存在していた。それが解き放たれてしまっていた。
彼の娘である幼き女の子も部屋に閉じこもってしまっていた。彼の失踪を知ってしまった時の彼女の絶望は計り知れない。
彼がいなくなって何日が経ったかすら定かではない。ただ生きる為の最低限の行動だけは必ず行っていた。そして相変わらず意味もなくリビングに集まった時に、扉は開け放たれた。
「レオンが帰ってくるかもしれない」
――勘だけどな。突然リビングに入ってきた男がそう言った。
所詮勘など信じられない。そう笑うべきなのだろうが、笑えなかった。
その男の持つ力が原因だ。
その男――ダルクはこの前娘が生まれた。しかし名付けはしなかった。馬鹿息子に付けてもらいたかったから。
そんなダルクの発言に、彼女達の目には希望の光が宿っていく。
ピンポーン。
そんな時、ちょうどいいタイミングで気の抜けるような音が聞こえた。この音じゃないとな、と変なこだわりが現れているその音を聞いた瞬間、彼女たちは屋敷の入口に向けて大慌てで向かった。
――感動の再会を邪魔するわけにもいかないしな。そんなことを言った男の目は潤んでいた。
一番最初に入口へと辿りついたのはカレンだった。全力で扉を開ける。そしてそこにいたのは
「えーっと……久しぶり?」
感動の再会にも関わらず、気まずそうに頬を掻いている少年。長い間会えなかったことに対する負いからそんな行動をしている訳では無いのは一目で分かった。
「んは~」
原因はその少年の腕に抱き着き、幸せのあまり顔が蕩けている女の存在だ。
冒険者ギルド受付嬢であり、実はエルフ国の王女様であったリーフェがそこにはいた。
この様子から、少年の帰還を心待ちにしていた彼女達の頭の中には一つの推測が立った。
――もしかして、私たちが待ってる間にこの女と逃避行していたのか?
少しズレているような気がしなくもない推測だが、今はそんなことはどうでもいい。
彼女達の怒りのボルテージは急上昇していく。
「歯、食いしばりなさい?」
少年――レオンの顔面に強烈な一撃が叩き込まれた。
「理不尽……でもないのかも……」
最近慣れつつある意識の薄れに、少年は全てを委ねた。
レオンが消息を絶った。
あの時、空に映されたレオンの姿を見て皆が思わず声を出していた。想いを口に出していた。
その影響かレオンは立ち上がり、魔王に打ち勝った。その瞬間映像は途絶えたが、すぐに意識を失ったレオンの回収に向かった。
目を覚ましたら、うんと甘えてやろう。
レオンの嫁達はそんな思いを胸に、愛しの人が起きるのを待つつもりだった。
だが、回収地点であった村の跡地には誰の姿も無かった。
魔王に体を乗っ取られていたリーフェも、目的の男も、戦闘跡すら消えていた。そこでは何も起きてはいなかった。そう言われても不思議ではない程に、元のままだった。
必死で探し回った。様々な人物が協力してくれ、ほぼ全域をカバーすることが出来た。なのに見つからない。レオンと会えると高揚していた心を一気にズタボロにされ、精神的疲労だけが蓄積していった。
後は俺達がやるから、ゆっくり休め。そうダルクに言われ、レオンの嫁達は屋敷へと戻った。
けれども何をするにしてもやる気が起きない。リビングには集まるものの、会話は一切無いといったことも珍しくはなかった。
リーゼは今の状況をどうにかしなければと思いつつも、何も出来ない自分に悔しさを噛みしめた。
シャルは呪いをかけられていた頃のように、ただ王女として振る舞うだけになっていた。
ソフィは生きる意味を失くし、何度も命を絶とうとした。どうにかして皆に止められたが、外をぼーっと眺めるようになった。
ミーナは常に尻尾の手入れをするようになった。戻ってきた彼に、最高の触り心地を楽しませる為に。その瞳には何も映ってはいなかった。
リリィはふらっとどこかへ出かけ、戻ってくるを毎日繰り返していた。どこかを散歩しているようだ。
アリスはただ座りながら、いつか貰った指輪を握りしめていた。忘れないように、力強く。
カレンは空を見上げていることが殆どだった。綺麗な星空になると、目にはなぜか涙が浮かんでいた。
たった一人の男がいなくなっただけ。普通であれば、きっぱりと忘れることは出来なくとも、再び前を向くことも出来たのかもしれない。
だが彼の存在は彼女達にとっては普通ではなかった。
誰かの為に自分を犠牲にするから、支えてあげたい。
一度は消えてしまった存在を、もう離したくない。
その頼れる背中に、また体を預けたい。
過去の闇から救ってくれた彼に、全てを捧げたい。
造り物に居場所を与えてくれた彼に、奉仕したい。
鎖を断ち切ってくれた彼の優しさに、甘えたい。
他人の為に悪に立ち向かえる姿に、寄り添いたい。
普通ではない想いがあったり、過去があったり。それを彼は受け止めてくれたが故にそれぞれの隠れた依存というのは存在していた。それが解き放たれてしまっていた。
彼の娘である幼き女の子も部屋に閉じこもってしまっていた。彼の失踪を知ってしまった時の彼女の絶望は計り知れない。
彼がいなくなって何日が経ったかすら定かではない。ただ生きる為の最低限の行動だけは必ず行っていた。そして相変わらず意味もなくリビングに集まった時に、扉は開け放たれた。
「レオンが帰ってくるかもしれない」
――勘だけどな。突然リビングに入ってきた男がそう言った。
所詮勘など信じられない。そう笑うべきなのだろうが、笑えなかった。
その男の持つ力が原因だ。
その男――ダルクはこの前娘が生まれた。しかし名付けはしなかった。馬鹿息子に付けてもらいたかったから。
そんなダルクの発言に、彼女達の目には希望の光が宿っていく。
ピンポーン。
そんな時、ちょうどいいタイミングで気の抜けるような音が聞こえた。この音じゃないとな、と変なこだわりが現れているその音を聞いた瞬間、彼女たちは屋敷の入口に向けて大慌てで向かった。
――感動の再会を邪魔するわけにもいかないしな。そんなことを言った男の目は潤んでいた。
一番最初に入口へと辿りついたのはカレンだった。全力で扉を開ける。そしてそこにいたのは
「えーっと……久しぶり?」
感動の再会にも関わらず、気まずそうに頬を掻いている少年。長い間会えなかったことに対する負いからそんな行動をしている訳では無いのは一目で分かった。
「んは~」
原因はその少年の腕に抱き着き、幸せのあまり顔が蕩けている女の存在だ。
冒険者ギルド受付嬢であり、実はエルフ国の王女様であったリーフェがそこにはいた。
この様子から、少年の帰還を心待ちにしていた彼女達の頭の中には一つの推測が立った。
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