絶対守護者の学園生活記

若鷺(わかさぎ)

王女の戯れ

 私は黒龍討伐の為、第三訓練場を訪れた。
 同行者はハンナとクラリリスだ。各国の大将によって決められた編成だが、ハンナと一緒というのは狙ったのかと疑ってしまう。
 だが今はそれを気にしている場合ではない。
 舞台を見ると、結界の中で黒龍丸まり大人しくしている。寝ているのではと思う程に静かだ。

「あれが本物のドラゴンかー。ちゃっちゃとやっちまおうぜ」
「ああ、早く終わらせて私はレオンの元に帰るぞ」
「……俺も頑張ればレオンに褒めてもらえるかな?」
「まあ礼は言われるんじゃないだろうか?」
「! そうか! よし、やってやるぜ! ……ところでそこのエルフはどうしたんだ? さっきから黙りっぱなしだが」

 先程から私とハンナが話している中で、クラリリスは黙って顔を俯かせ、何かを考えているようだった。
 様子を見ていると、顔を上げた。

「お主達、賭けをせぬか?」
「賭けだと?」
「うむ。あのドラゴンにトドメを刺した者はレオンに願いを一つ聞いてもらうというのはどうじゃろう?」
「いいなそれ! 俺は乗ったぜ!」
「流石にこの状況でそれは止めた方がいいだろう。そもそもレオンが聞いてくれるとも限らん」

 魅力的なことではあるが、事前に許可を取っていない時点で色々と駄目であろう。

「む? お主は逃げるというのか?」
「なに?」
「負けるのが怖いのではないか? ふむ、それなら私が勝った暁にはレオンに何をしてもらおうかのぉ。そうじゃ、一夜を共にしてもらおうかの」
「俺は再戦を希望する! それで勝ってレオンを俺の伴侶にする!」
「なっ……や、やはり私も参加するぞ!」

 もしも、もしもだがレオンが二人のどちらかの願いを聞いてしまうことになったら、とても嫌だ。
 それに、私が勝てば……
 レオンと初めて一緒に過ごした夜を思い出してしまう。
 こちらを思いやるような優しい手つきでありながらも、時折混ざる激しさはその、凄かった。
 鍛え上げられた肉体に包まれながらも、私はただただ迫り来る快感に身を委ねていた。

「作戦成功じゃな。妾達二人だけでは流されておしまいだったかもしれぬが、アリスが加わっていたとなれば流石に無視は出来ぬじゃろう」
「ああ、アリスが分かりやすい性格で良かったぜ」
「む? 二人でこそこそと何をしてるんだ」
「「いや、別になにも」」
「? そうか。それよりもそろそろ始めるぞ」

 お喋りはここまでだ。
 これから私達は黒龍と対峙する。
 二人が私の言葉に頷いたのを確認し、ゆっくりと結界の中に足を踏み入れる。

「先手必勝!」

 直後、ハンナが素早く黒龍に接近し、飛び上がる。

「うおりゃああああああああ!!!」

 黒龍の頭に全力のかかと落としを叩き込んだ。
 かなり効いたのか、黒龍が咆哮を上げながら起き上がる。
 ……ここまで近付いていても私達の存在に気付いていなかったのか?

「流石に一撃じゃ死なないか!」
「当たり前だろう!」

 チッと舌打ちするハンナにそう返すと、私は剣に魔力を流し強化する。
 そして黒龍の武器の一つである尻尾を排除するために剣を振り下ろす。
 ……あっさりと切断に成功し、脅威を一つ取り除けた。

 その後も私とハンナは攻撃を重ねるが、黒龍の耐久力はやはり並ではないようだ。
 たが、突如殺気を感じて即座に後ろに跳ぶ。
 すると訓練場全体に響き渡る程の音を轟かせ、いくつもの雷が天から降り注ぎ、黒龍を襲った。

「これでも死なんか。しぶといのぉ」
「「やるなら先に言え!」」
「いやなに、お主らならちゃんと避けてくれると思っておったぞ?」

 とんだお転婆王女だな……
 とにかく、先程の雷で黒龍は虫の息になっている。
 トドメを刺すべく私は剣に火を纏わせ、迫る。

「終わりだ!」
「おらああああああああああああ!!!」
「串刺しになるのじゃ!」

 黒龍は身体を私に切り刻まれ、ハンナによって骨格を粉砕され、クラリリスの氷針によって所々を貫かれる。
 それを受け、黒龍はピクリとも動かなくなった。

「うおっしゃああああああああ! トドメは俺だああああああああああああ!」
「馬鹿を言うでない。妾じゃ」
「……手応えがない」
「? どうした、アリス?」
「あまりにも手応えがなさすぎる。これは本当にドラゴンなのか?」
「んー? 俺は特に気にしてなかったけどな」
「まあ苦戦しなかったのは確かじゃが」
「よし、少し調べてみよう」

 私は黒龍の死体に近付いていく。ハンナもクラリリスも後に付いてくる。
 その瞬間――

 黒龍が黒い炎によって燃え上がった。

 そして燃え尽きた死体の跡には球状の黒い何かが浮かんでおり、それはそのままどこかへと飛んでいってしまった。

 今のは一体なんだ?それに飛んでいった方にあるのは……第二訓練場か。

 私達は一度目配せをすると、第二訓練場へと向かった。



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