絶対守護者の学園生活記
本音
合宿三日目の夜。話があると言われたのでシャルの部屋に向かっている。
部屋の前に着き、扉をノックするとどうぞと返事が来たので入る。
部屋にはシャルの姿はなく、リーゼリットさんだけがいた。
「失礼します。シャルはいないんですか?」
「ええ、話があるのは私です。シャルには協力してもらいました。とりあえずはここに座ってください」
ベッドに腰かけているリーゼリットさんが。隣に座れと言ってきたのでその通りにする。シャルを使ってまで俺に話したかったこととは何だろうか?
「簡潔に説明します。私はこの合宿が終わったら国に罪を告白します。恐らく死刑になるでしょうから、今夜だけは私をあなたのものにしてほしいんです」
「…………は?」
いやいやいや、簡潔すぎてツッコミどころが多すぎるんだが。
罪?死刑?
「とりあえずもっと詳しく教えてもらってもいいですか?」
「そうですよね……すいません」
そう言ってリーゼリットさんは深呼吸をする。どうやら本人も混乱していたようだ。
落ち着くのを待ち、ようやく話が再開された。
「なぜ知っているのかは一旦置いて聞いてください。シャルが獣人国で魔族に襲われたのは魔族が何かを企んでいるからです。シャルでなければいけない何かがある。今後もシャルは狙われる可能性があります」
衝撃だった。なんでリーゼリットさんがその事を……?
そんな俺の疑問に答えるように、リーゼさんは口を開いた。
「なぜ私がそのようなことを知っているか。それは私が、私達フロウズ公爵家が魔族と繋がっているからです」
……リーゼリットさんが今まで魔族に情報を流していた内通者だっていうのか?
「私の父は権力に溺れていました。王族とのより強い繋がりを持とうと私を第一王子の婚約者にしようと前々から謀っていたみたいです。幸い第一王子がある女の子に夢中になっていたようで叶っていませんでしたが」
政略結婚ってやつか……。王子様が夢中になってたってのは、リリィのことだろうな。
「そうして父が焦っていた時に、レオン君のアリスとの婚約発表がされました。第一王子が謹慎処分をされている時に現れた英雄の息子。さらには第二王女の婚約者。そんな存在が突然現れて父はさらに焦っていたようです。私には弟がいるので、その子を第一王女の婚約者にと考えていたようですが国王の方針によってそちらも叶わなかったようです」
前にも言ったかもしれないが、俺はまさに出る杭。王族と繋がりを持つために画策していた第一王子が謹慎処分にされるような問題を起こした後の、俺とアリスとの婚約発表。なら第一王女を弟さんとくっつけようとしたが王様が娘には政略結婚はさせないと明言しているのでそれも無理。
「父にとってはレオン君の存在が邪魔だった。そして学内最強決定戦の後でしょうか、そんな時に屋敷に魔族が現れたんです。レオンという者がいるのは知っておくべきだった。そのために新たな情報提供者を作らなければならぬ。そこで情報を魔族側に流す代わりに願いを一つ叶えてやると言ってきました。魔族が情報を求めるなんて、どう考えてもおかしいと思うでしょう。でも父は正気ではありませんでした。すぐにその話に乗り、願ったのが」
「俺の抹殺、か」
「その通りです」
どうやら色々と繋がったようだ。
学内最強決定戦で俺というイレギュラーの存在を知った魔族側は新たな内通者を作ろうとし、フロウズ公爵家に声をかけた。普通なら魔族に協力するなどあってはならない事だが、正気ではなかったリーゼリットさんの父親はその話に乗った。
情報を流す代わりに俺の抹殺を条件として。
流れは大体分かった。
たしかにこの事を国に告げれば死刑は免れないであろう。
しかし……
「リーゼリットさんはお父さんを止めなかったのか? それにお母さんだっているだろ?」
「母はすでに父に見捨てられていましたから」
見捨てられた……そういや一夫多妻制だもんなこの世界。王様が特別なだけで基本的には貴族様は何人も妻を持つからな。つまりはそういうことなんだろう。
「私は……黙っていればシャルの呪いを解いてくれると言われて……」
話し続けるリーゼリットさんの瞳には涙が浮かんでいた。
「私はシャルの幼馴染みで、呪いによって苦しんできた彼女をずっと見てきました。シャルを苦しみから解放してあげられる。相手が絶対に叶えてくれるとは限らないのに、私はそれに縋ってしまったんです」
……おかしい。
いくら俺が邪魔だったとはいえ、魔族に協力したら最終的には自分達も危なくなることに気付かないわけがない。
リーゼリットさんも可能性が低いにも限らず魔族を頼ってしまった。
もしかして記憶を操作できる力があるのは分かっていたが精神まで操れるのか……?
今考えても恐らく正解にはたどり着けないだろう。だったら残りの疑問を消化しよう。
「その……私をあなたのものにしてほしいというのは?」
「先程も言いましたが、私はシャルの呪いが消えることを願っていました。それが叶えば私が魔族に従う必要はありません。そしてそれは予期せぬ形で叶いました。」 
「俺か」
「そうです。呪いから解放されたシャルが好きな人まで出来て幸せそうに過ごしているのを見て、私はもう満足です。だから自分にケジメをつけるためにも自首をする決心をしました。でももう一つだけ心残りが出来たんです」 
「出来た? あったじゃなくて?」
「合宿の間のシャルを見て、羨ましくなっちゃいました。死ぬ前に一度だけでも、私も女の子としての幸せを掴んでみたくなりました。だから」
リーゼリットさんは俺の服の袖をきゅっと摘んで、上目遣いで俺を見つめて
「私を抱いてください。あなたなら、シャルが選んだあなたなら、私も大丈夫ですから」
……はぁ。
獣人国でのシャルといい、体を安売りするのは流石にいただけないぞ。
大体そんなこと言われたら、なおさらリーゼリットさんを死なせたくなくなった。
「リーゼリットさんみたいな美人さんを相手に出来るのは嬉しいですけど、お断りさせていただきます」
「! なぜ! なんで! 私は……」
今まで溜め込んでいたものが溢れ出たのか、大声で俺に詰め寄ってくるリーゼリットさん。
「なんでって、むしろなんで俺がリーゼリットさんが死ぬのを見過ごさなきゃいけないんですか? 俺は諦めませんから。そんな最悪の結末ではなく、あなたが笑って終われるように。そもそも俺自身も関係していることですしね」
「……馬鹿なんですか? 間接的にではありますが、私はあなたを殺そうとしたんですよ?」
「許す許さないは俺が決めることですよね? なら俺はあなたを許します。シャルのことを想ってしてくれたことなら、俺が怒ることなんてないですよ。だから」
リーゼリットさん、あなたの――
「あなたの、本当の想いを聞かせてください」
「っ! ………いいんですか?あなたを巻き込んでしまうかもしれませんよ?」
「面倒臭いことに巻き込まれるのは慣れてますからね。今更気にしませんよ」
「なら……なら! 私はもっと生きたい!シャルと、レオン君と、学園の皆とも! もっともっと……死にたくない、死にたくないよぉ……」
泣き崩れるリーゼリットさん。
やっと本心を聞けたな。
「分かりました。辛かったでしょう? あとは俺に任せてください」
「ごめんなさい……」
その後、泣きつかれたのかそのままリーゼリットさんは眠ってしまった。安心したようなその寝顔を見て俺は決意する。
彼女を絶対に救ってみせる。
部屋の前に着き、扉をノックするとどうぞと返事が来たので入る。
部屋にはシャルの姿はなく、リーゼリットさんだけがいた。
「失礼します。シャルはいないんですか?」
「ええ、話があるのは私です。シャルには協力してもらいました。とりあえずはここに座ってください」
ベッドに腰かけているリーゼリットさんが。隣に座れと言ってきたのでその通りにする。シャルを使ってまで俺に話したかったこととは何だろうか?
「簡潔に説明します。私はこの合宿が終わったら国に罪を告白します。恐らく死刑になるでしょうから、今夜だけは私をあなたのものにしてほしいんです」
「…………は?」
いやいやいや、簡潔すぎてツッコミどころが多すぎるんだが。
罪?死刑?
「とりあえずもっと詳しく教えてもらってもいいですか?」
「そうですよね……すいません」
そう言ってリーゼリットさんは深呼吸をする。どうやら本人も混乱していたようだ。
落ち着くのを待ち、ようやく話が再開された。
「なぜ知っているのかは一旦置いて聞いてください。シャルが獣人国で魔族に襲われたのは魔族が何かを企んでいるからです。シャルでなければいけない何かがある。今後もシャルは狙われる可能性があります」
衝撃だった。なんでリーゼリットさんがその事を……?
そんな俺の疑問に答えるように、リーゼさんは口を開いた。
「なぜ私がそのようなことを知っているか。それは私が、私達フロウズ公爵家が魔族と繋がっているからです」
……リーゼリットさんが今まで魔族に情報を流していた内通者だっていうのか?
「私の父は権力に溺れていました。王族とのより強い繋がりを持とうと私を第一王子の婚約者にしようと前々から謀っていたみたいです。幸い第一王子がある女の子に夢中になっていたようで叶っていませんでしたが」
政略結婚ってやつか……。王子様が夢中になってたってのは、リリィのことだろうな。
「そうして父が焦っていた時に、レオン君のアリスとの婚約発表がされました。第一王子が謹慎処分をされている時に現れた英雄の息子。さらには第二王女の婚約者。そんな存在が突然現れて父はさらに焦っていたようです。私には弟がいるので、その子を第一王女の婚約者にと考えていたようですが国王の方針によってそちらも叶わなかったようです」
前にも言ったかもしれないが、俺はまさに出る杭。王族と繋がりを持つために画策していた第一王子が謹慎処分にされるような問題を起こした後の、俺とアリスとの婚約発表。なら第一王女を弟さんとくっつけようとしたが王様が娘には政略結婚はさせないと明言しているのでそれも無理。
「父にとってはレオン君の存在が邪魔だった。そして学内最強決定戦の後でしょうか、そんな時に屋敷に魔族が現れたんです。レオンという者がいるのは知っておくべきだった。そのために新たな情報提供者を作らなければならぬ。そこで情報を魔族側に流す代わりに願いを一つ叶えてやると言ってきました。魔族が情報を求めるなんて、どう考えてもおかしいと思うでしょう。でも父は正気ではありませんでした。すぐにその話に乗り、願ったのが」
「俺の抹殺、か」
「その通りです」
どうやら色々と繋がったようだ。
学内最強決定戦で俺というイレギュラーの存在を知った魔族側は新たな内通者を作ろうとし、フロウズ公爵家に声をかけた。普通なら魔族に協力するなどあってはならない事だが、正気ではなかったリーゼリットさんの父親はその話に乗った。
情報を流す代わりに俺の抹殺を条件として。
流れは大体分かった。
たしかにこの事を国に告げれば死刑は免れないであろう。
しかし……
「リーゼリットさんはお父さんを止めなかったのか? それにお母さんだっているだろ?」
「母はすでに父に見捨てられていましたから」
見捨てられた……そういや一夫多妻制だもんなこの世界。王様が特別なだけで基本的には貴族様は何人も妻を持つからな。つまりはそういうことなんだろう。
「私は……黙っていればシャルの呪いを解いてくれると言われて……」
話し続けるリーゼリットさんの瞳には涙が浮かんでいた。
「私はシャルの幼馴染みで、呪いによって苦しんできた彼女をずっと見てきました。シャルを苦しみから解放してあげられる。相手が絶対に叶えてくれるとは限らないのに、私はそれに縋ってしまったんです」
……おかしい。
いくら俺が邪魔だったとはいえ、魔族に協力したら最終的には自分達も危なくなることに気付かないわけがない。
リーゼリットさんも可能性が低いにも限らず魔族を頼ってしまった。
もしかして記憶を操作できる力があるのは分かっていたが精神まで操れるのか……?
今考えても恐らく正解にはたどり着けないだろう。だったら残りの疑問を消化しよう。
「その……私をあなたのものにしてほしいというのは?」
「先程も言いましたが、私はシャルの呪いが消えることを願っていました。それが叶えば私が魔族に従う必要はありません。そしてそれは予期せぬ形で叶いました。」 
「俺か」
「そうです。呪いから解放されたシャルが好きな人まで出来て幸せそうに過ごしているのを見て、私はもう満足です。だから自分にケジメをつけるためにも自首をする決心をしました。でももう一つだけ心残りが出来たんです」 
「出来た? あったじゃなくて?」
「合宿の間のシャルを見て、羨ましくなっちゃいました。死ぬ前に一度だけでも、私も女の子としての幸せを掴んでみたくなりました。だから」
リーゼリットさんは俺の服の袖をきゅっと摘んで、上目遣いで俺を見つめて
「私を抱いてください。あなたなら、シャルが選んだあなたなら、私も大丈夫ですから」
……はぁ。
獣人国でのシャルといい、体を安売りするのは流石にいただけないぞ。
大体そんなこと言われたら、なおさらリーゼリットさんを死なせたくなくなった。
「リーゼリットさんみたいな美人さんを相手に出来るのは嬉しいですけど、お断りさせていただきます」
「! なぜ! なんで! 私は……」
今まで溜め込んでいたものが溢れ出たのか、大声で俺に詰め寄ってくるリーゼリットさん。
「なんでって、むしろなんで俺がリーゼリットさんが死ぬのを見過ごさなきゃいけないんですか? 俺は諦めませんから。そんな最悪の結末ではなく、あなたが笑って終われるように。そもそも俺自身も関係していることですしね」
「……馬鹿なんですか? 間接的にではありますが、私はあなたを殺そうとしたんですよ?」
「許す許さないは俺が決めることですよね? なら俺はあなたを許します。シャルのことを想ってしてくれたことなら、俺が怒ることなんてないですよ。だから」
リーゼリットさん、あなたの――
「あなたの、本当の想いを聞かせてください」
「っ! ………いいんですか?あなたを巻き込んでしまうかもしれませんよ?」
「面倒臭いことに巻き込まれるのは慣れてますからね。今更気にしませんよ」
「なら……なら! 私はもっと生きたい!シャルと、レオン君と、学園の皆とも! もっともっと……死にたくない、死にたくないよぉ……」
泣き崩れるリーゼリットさん。
やっと本心を聞けたな。
「分かりました。辛かったでしょう? あとは俺に任せてください」
「ごめんなさい……」
その後、泣きつかれたのかそのままリーゼリットさんは眠ってしまった。安心したようなその寝顔を見て俺は決意する。
彼女を絶対に救ってみせる。
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