絶対守護者の学園生活記

若鷺(わかさぎ)

月夜の下で

 ほとんどの生徒が海で遊んでいため、疲れですぐに寝てしまったらしく辺りは静寂に包まれていた。
 俺も布団に入って寝ようとしたが、相変わらずリーゼリットさんのことが頭から離れなく、寝付けない。

「少し外でも歩くか……」

 同室の人を起こさないように、静かに部屋を出て外へと向かう。
 外は涼しい風が優しく吹いており、海の潮の匂いを運んでくる。空には雲一つ無く、月が輝いている。
 散歩するなら浜辺が良いだろうと思って向かったわけだが、そこには既に先客がいた。
 海の方を見つめながら、風によってたなびく美しい金色の髪を片手で抑えている。

「シャルも寝付けなかったのか?」

 先客はシャルだった。
 俺の言葉を聞いてこちらへと振り返る。

「レオン君……ええ、レオン君のことを考えてたら体が火照ってきてしまって」
「なっ……」
「ふふ、冗談ですよ。やっぱりレオンくんはからかいがいがあります」

 そう言ってシャルはいたずらっぽい笑みを浮かべる。……いつもの事だから気にしたら負けだ。

「気にしたら負けだと思ってそうですけど、やられたって顔してますからね? レオン君は顔に出やすいですから」
「……俺の負けだ」
「私の勝ちです」

 勝負という訳では無いが、なぜか勝ち負けが発生するのもいつも通り。
 シャルも楽しそうに、くすくすと笑っている。

「歩きましょうか」

 シャルの提案に俺は頷き、一緒に浜辺を海沿いに歩く。
 静かな夜に、波の音だけが響いている。凄く心が穏やかになる時間が続く。

「……ここは手を繋ぐところですよ?」

 途中でそんなことを言われ、シャルの手を取る。いわゆる恋人繋ぎをする。

「合格です。初めて手を繋ぎましたね」
「手を繋ぐ前に婚約者になるなんて普通なら考えられないよな」
「アリスと違ってまだ私達の婚約発表はしてませんからね。今の私達は恋人関係ですよ」
「そうか。それなら婚約者になる前に振られないようにしないとな」
「頑張ってくださいね? 私は自由奔放ですから、目を離した隙に何処かに行ってしまうかも知れませんよ?」
「ならちゃんと掴まえておかないとな」

 隣にいるシャルの腕を引き、こちらを向かせて抱きしめる。
 こんなキザなこと、俺には似合わないだろうが今はこうしなければと思った。
 シャルは腕を引かれた時にきゃっと小さな悲鳴をあげたが、俺の胸に収まると腕を回して抱き締め返してくる。

「暖かい……レオン君、私は今、幸せです」
「俺もだよ。その気持ちを後でアリスにも伝えてやってくれ」
「アリスにも……ですか」

 本当に幸せそうに頬を染めて微笑んでいたシャルだったが、俺の言葉を聞いて顔を俯かせてしまう。

「どうした?」
「レオン君はアリスに私を救ってほしいとお願いされたそうですね?」
「そうだが……それが?」
「私からもお願いがあるんです。リーゼを……リーゼリット=フロウズを救ってあげてください」

 真剣な眼差しで見つめてくるシャル。リーゼリットさんに何かあるのか?それに……

「なぜ俺に?」
「皆が言ってましたよ? 普段はアレだけど、いざという時は頼りになるのがレオン君だって」

 それは……褒められてるのか?てかアレってなんだよ。どうせ頼りないとかなんだろうが。

「出来る限りはやってみるよ。何をすればいいのか分からないけど」
「今はその気持ちだけで充分です。そんなレオン君にはご褒美をあげます」

 シャルが目を閉じる。

「……俺なんかには勿体無いご褒美だな」

 俺はシャルの唇に、自身の唇をそっと重ね合わせる。返ってくる柔らかな感触は、今何をしてるのかというのをしっかりと伝えてくる。

「これからもよろしくお願いしますね?」
「ああ。こちらこそよろしくな」

 キスを終え、抱きしめ合ったまま笑い合う。なぜかシャルは俺の背中をさすっていたが、そのまま穏やかな時間が過ぎていった。

「この傷は、私が必ず……」

 その時のシャルの呟きは、潮風に攫われて俺の耳には届かなかった。

※※※

 レオンとシャルが浜辺にて二人の時間を過ごしている頃。
 離れた場所から二人を見つめる一人の少女がいた。

「……シャルはもう大丈夫みたいですね。これで私も安心して……」

 安心。その言葉とは裏腹に、少女の目からは涙が零れ落ちた。

「安心して……私は、私は一体どうすればいいんですか……?」

 少女の呟きは、誰にも聞こえることは無かった。








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