絶対守護者の学園生活記

若鷺(わかさぎ)

故郷

 ある日、父と外で畑仕事をしていると、いかにも好青年ですといった雰囲気の男が畑を訪ねてきた。その男を見つけた父は大声をあげた。

「おお! ガルムじゃねーか!」
「はい、ご無沙汰しております、レオナードさん」

 2人は笑いながら握手を交わす。なるほど、この人はガルムというのか。  

「父さん、この人は?」
「ああそうか。お前には話したことなかったな。こいつはガルムっていってボーン村出身なんだ。ガルム。このチビは俺の息子のレオンだ。」
「こんにちは、レオン君。僕はガルム。普段は冒険者をやっているよ。」

 冒険者! 魔法が存在するファンタジー世界だし冒険者ギルドもあるのではないかと思っていたが、やっぱりあるようだ。

「んで、ガルムはなんで来たんだ? 帰郷か?」
「本当はそのつもりだったのですが……」

 なんでも、この村の近くにある洞窟を盗賊たちが拠点にして住み着いているとのこと。たまたまこの近くで仕事をしていた若手の冒険者が盗賊たちの拠点を見つけてしまい、報告をするために急いで近場のギルドに向かっていたところをガルムさんが発見し、なぜそんなに急いでいるのかを聞いたガルムさんは、村の危機だと思い、自分が盗賊たちを討伐すると伝えたらしい。

 大体の事情は分かったが、彼だけで大丈夫なのだろうか。
 疑問に思い、口にしてみたところ、父曰く、ガルムさんはこの国でも有名な冒険者であり、かなりの腕利きだとのこと。
 だからこそ若手の冒険者たちは安心してガルムさんに任せたのだろう。軽くガルムさんの装備を確めてみたが、どれも上級そうだ。

「それでは早速行ってきます。村長には言っておいたので他の人たちにももうすぐ伝わると思いますが、念のために家に避難しておいてください」

 たしかに、ガルムさんの手から逃れた盗賊がこっちに来ないとも限らないしな。
 俺と父は盗賊討伐へ向かうガルムさんを見送った後、我が家へ帰った。

※※※

 それから数時間が経った頃、ガルムさんが戻ってきたとの知らせがきた。てか、数時間で帰ってこれるくらいの場所に盗賊がいたのかよ………。今まで村が存続していたのも、ガルムさんなどの支えがあったからこそであろう。それはともかくガルムさんを迎えに行こう。

 俺は村の入り口に向かった。後ろからとことことこっとリリィも付いてきたが、いつものことなのでスルー。村の入り口では俺も含め村人全員がガルムを迎えていた。ガルムさんは気絶している男――おそらく盗賊の頭であろう男を肩に担いでいた。
 だが俺にはそれよりももっと気になることがあった。それは――

 ガルムさんの後ろに、下は3歳、上は俺と同じ9歳くらいであろう子供たちがいたからだ。

 村の人たちも気になっていたようなので、俺が代表で聞いてみた。

「あの、ガルムさん。その子たちは?」 

 するといかにも困ってます、といったような表情でガルムさんは答えた。

「この子たちは盗賊の拠点にいました。どうやら他の村から攫われたそうで、帰るところもすでにないのだとか……。今回僕は仕事ではなく私情で行動したのでギルドに頼るわけにもいきませんし、王都にある孤児院に預けようにも、馬車で1カ月はかかる道程を徒歩で、しかも魔物から子供たちを守りながらというのは流石に無理なので……」
 いくらガルムさんでもたしかに無理であろう。しかしボーン村で預かろうにも住める所が無いわけで。
 俺はどうするべきか悩んでいたが、悩みは父の言葉によって解決へと至った。

「だったらこの村で預かればいいだろう? 住む場所なんて今からそこら辺の木をどかして家でも建てればいいだろう」

 まさかのゴリ押しだった。家を建てるだけでもかなり大変なはずなのだが分かっているのだろうか?

「勿論、やれるよなお前らぁ!」

 父は村の男連中に言った。そして返事はすぐに返ってきた。

「当たり前だろうこの野郎!」
「やってやろうじゃねーか!」
「やるぞおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「拙者も手伝うでござる」

 ………この人たちは本当に、馬鹿な人たちだ。最後のやつは誰だか知らないが。
 ふと、近くにいたガルムさんを見ると、笑顔で村の人たちの叫ぶ姿を眺めていた。

「………僕は、この人たちがいる、とても温かい故郷が大好きです。レオンくんは?」

 ガルムさんは笑顔のまま、俺にそう尋ねてきた。
 少しだけ考えてみた。
 俺はあくまで転生者であって、心のどこかで、俺の本当の故郷は地球で、ここは俺の故郷ではないといったことを思っていて。

 でも。

 この村には、捨てられていた子供を当たり前のように拾ってきて、当たり前のように育てる人がいる。親のどちらの特徴も継いでいない黒髪黒目の少年がいても不気味に思わず親しげに接してくれる人達がいる。さっきのように叫んで、馬鹿騒ぎをしている人達がいる。そんな村は、笑顔が絶えなくて、とても温かく俺を迎えていてくれて――


 なんだ。考えるまでもないや。

 俺はニヤリと笑い、答えた。

「大好きに決まってるだろ! 俺も手伝うぞおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 俺は叫んでいる男たちに向かって、走った。

コメント

  • 弥生 凛

    なぜだろうか全員が脳筋に見えてきた

    4
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