Creation World Online
77話
「…今何時だ?」
目を覚ました俺は、窓から差し込む陽光を見てそう疑問に思う。
時間を確認した俺は目を一旦閉じると_
「完っ全に遅刻した!おい!アンリ!アンリー!」
『アンリ殿なら先程出発なさいました。おはようございます、主様』
俺の影からぬらりとエンリベルが姿を現わすと、そう言う。
「あいつ…俺のこと置いて行きやがって…」
『衣装の受け渡しがあるそうなので、主様には直接会場に向かって欲しいそうです』
直接…?ははーん。サプライズだな。なるほどなるほど。
俺は勝手にそう納得すると、会場であるリオールの街を目指すのであった。
☆
「うわっ…人多っ」
目の前にはこのイベントを楽しみにやってきたのであろうプレイヤー達が大量にいた。
「ううっ、俺の固有技能【造形】が役に立つ日がくるなんて…」
「ああ、お前のスキルは最高だ!こんな細部まで作り込まれたフィギュア、リアルでも早々お目にかかれねえよ!」
おっと、彼とは後で仲良くならなければならないな。
細部ってどこまで細かいんだろう、妄想が膨らむな。
そんな事を考えていると、前方に見覚えのあるプレイヤーを見つける。
「久しぶりだな、何やってるんだ?」
「んぇ〜?あ〜、シュウ君じゃ〜ん。私も参加するんだよ〜」
間延びした返事をする長髪の女性プレイヤー、リンネが微笑を顔に貼り付けたままそう言った。
「ほーん…衣装は?」
「え?このままだよ〜」
「そのまま出るのかよ!?」
不思議そうな顔をするリンネの装備は、攻略用の厳ついものだった。
少なくともアイドルの着るような煌びやかな衣装ではなかった。
「お前…これで大丈夫なのか?」
「え〜?人前で歌うだけだからいいと思うけどな〜」
ん?ちょっと待て、俺の考えてる事と違う気がするんだが。
「リンネ、今日はなんの日かわかってるか?」
「え〜と〜、CWOのど自慢大会?」
「違えよ!」
何言ってるの?と言いたげな様子でリンネがそう言うが、そうじゃない。
こいつそもそもコレがなんなのか理解してないぞ…!
こんな装備でステージ上に出たら…
「悪いことは言わないから早く装備を変えたほうがいい!後悔するぞ!」
「でももう受付終わらせちゃったし〜。う〜ん、なんとかなるんじゃないかな〜」
「そ、そうか…お前がそれでいいならいいと思う」
☆
「おーい、アンリー」
「あっ、シュウ君来てたんですね」
リンネと別れた後、俺は受付のお姉さんにアンリの居場所を尋ねてみたところ、更衣室前で待っていると伝言を伝えられて、冷やかされた後ここに来ていた。
周囲は舞台用の衣装に身を包んだプレイヤー達ばかりで、正直俺達は浮いていた。
一応普段着を着て来たのだが、周囲のプレイヤー達に比べると地味で浮いていた。
ん?装備?
「そう言えばアンリはどんなのを着るんだ?」
「えっ…と、み、見せなきゃダメ、ですか?」
頬を赤くしてアンリはそう言う。
えっ、何その態度!めちゃくちゃきになるんだけど!?
俺は真面目な顔をしてアンリの肩をガシッと掴む。
「全裸だって見てるんだ、今更恥ずかしがることはない!」
「…ほんとシュウ君ってデリカシーがないですよね」
ジト目を向けながらそう言うアンリ。
くっ…!何も言い返せないのが辛い!
何も言い返せずにいると、アンリは溜息を吐いてクルリと向こうを向く。
「どこ行くんだ?」
「そこで待っててください。…直ぐに着て来ますから」
恥ずかしそうにアンリはそう言うと更衣室の中に入って行く。
しばらくソワソワしながら待っていると、シャっと軽い音がして更衣室のカーテンが開く。
そこには、
「お、おお…!」
「ジロジロ見過ぎじゃないですか…?」
「いや、うむ。中々いいんじゃないか!」
恥ずかしそうに顔を下げるアンリの格好は…ミニスカートにヘソ出しのサンタ服という今の時期に男心をくすぐる素敵装備だった。
露出が高いのに、防寒機能もバッチリついているという逸品だった。
あいつら、いい仕事しやがって!これは後で色々お支払いする必要があるな!
心の中でギリック=ギリックに全力で感謝していると、突然アナウンスが流れる。
『出場者の皆様はステージ前に集まってください、繰り返します_』
どうやら出番のようだった。
俺はアンリの背中をポンと叩くとニッと笑いかける。
「頑張ってこいよ!」
「ええ、しっかり見ててくださいね!」
「おう、任せとけ。下アングルからSS撮りまくってやる」
「それはやめてください!」
俺がそう言うとアンリは割とマジな顔で止めてくる。
流石に下アングルからは撮らないが、スクショは撮りまくってやろう。そして、後で鑑賞会と称して今日来ていない奴らに見せて回ろう、そうしよう。
俺は邪な考えを読まれないように真面目な顔をすると、掌を差し出す。
初めは何をしているのかわからない様子だったアンリも意図を察すると、そこに自分の手を合わせハイタッチをする。
「行ってきます!」
そう言い残してアンリはタッタッと走って行く。
その後姿を横目に俺は観客席へと向かうのだった。
さて、アンリはどうなるのか…
☆
「うぅ…」
「おい、泣くなって。仕方ないだろ」
ステージの裏手、選手の控え室でアンリは泣いていた。
なぜかと言うと、あれだけ意気込んで出たにも関わらず初戦で敗退したからである。
「だって、だって…」
泣きじゃくるアンリの初戦の相手、それはCWO No. 1と名高いアイドルプレイヤーオラクマだったのだ。
シード枠用意しろよとか色々言いたいことはあるが、こればかりはどうしようもなかった。
「いや、でもお前歌では勝ってたじゃないか!」
そう、歌では勝っていたのだ。
【歌唱】というスキルがあるのだが、オラクマは当然それを取っており、中々のレベルのはずだった。
しかし、アンリはスキルを取らず地で歌唱対決には勝利したのだ。
これは例えるなら自転車で電車を超えるスピードを出すのと同じくらい大変なのだ。
俺がそう慰めるとアンリは泣き腫らした目でこちらを見つめる。
「でもそれ以外は負けたじゃないですか…」
「仕方ないだろ、服に関しては天才のシノアが完徹して作り上げて、踊りなんかはあいつ戦闘中とかにレベル上げてるからな?」
「私も同じことをすれば…」
「多分無理だと思うぞ」
人間の脳みそというのは2つの物事を同時に行えるようには出来ていないのだ。
特にこのゲームは魔法の威力や射程などを操作するのにかなりの集中力がいる、それに加えて踊りのスキルを上げるというのは天才の領域と言えるだろう。
すると、俺達の後ろに人影が現れる。
振り返るとそこには何故かドヤ顔をしているナクの姿があった。
「おお、どうしたナク」
「ふっ、敗者の顔を見に来た」
そう言うナクに俺は冷ややかな目を向けると一言。
「お前も初戦敗退してたよな?」
ピクリとナクの身体が跳ねる。
「しかもお前踊りも歌も酷すぎて、大会最低点を叩き出したんだってな?」
「な、なんのことか」
「そして余りにも酷すぎて大会に次回から出場禁_」
「もうやめて、ごめんなさい」
見事な土下座をしてナクが謝罪する。
全くこいつは…ん?なんだ?
視線を感じて周りを見渡すと、プレイヤー達がこちらを見ていた。
「おい、見ろよ。女の子を泣かせて、さらに別の女の子に土下座させてるぞ」
「うわぁ…流石【鬼畜】名前の通りね」
おい待て、ちょっと待て!おかしいだろ!
俺が抗議の視線を向けると、サッとプレイヤー達は顔を背ける。
「なあ、ナクもういい_」
「誠に申し訳ございません!もう二度としないので鞭打ちだけはご勘弁を…」
「お前何言ってんの!?」
ナクを見ると小さく舌を出していた。
こ、こいつ!
ナクの放った爆弾発言にプレイヤー達にどよめきが広がる。
「おい、あいつ鞭打ちとかしてるらしいぞ」
「ヤバイやつじゃん…」
「違っ!全部嘘だ!罠だ!嵌められた!」
そう叫ぶがもう遅く、結局俺は『女の子を泣かせ公衆の面前で土下座させ、更にはDVを行うクソ野郎』という不本意極まりないレッテルを貼られることとなったのだった。
目を覚ました俺は、窓から差し込む陽光を見てそう疑問に思う。
時間を確認した俺は目を一旦閉じると_
「完っ全に遅刻した!おい!アンリ!アンリー!」
『アンリ殿なら先程出発なさいました。おはようございます、主様』
俺の影からぬらりとエンリベルが姿を現わすと、そう言う。
「あいつ…俺のこと置いて行きやがって…」
『衣装の受け渡しがあるそうなので、主様には直接会場に向かって欲しいそうです』
直接…?ははーん。サプライズだな。なるほどなるほど。
俺は勝手にそう納得すると、会場であるリオールの街を目指すのであった。
☆
「うわっ…人多っ」
目の前にはこのイベントを楽しみにやってきたのであろうプレイヤー達が大量にいた。
「ううっ、俺の固有技能【造形】が役に立つ日がくるなんて…」
「ああ、お前のスキルは最高だ!こんな細部まで作り込まれたフィギュア、リアルでも早々お目にかかれねえよ!」
おっと、彼とは後で仲良くならなければならないな。
細部ってどこまで細かいんだろう、妄想が膨らむな。
そんな事を考えていると、前方に見覚えのあるプレイヤーを見つける。
「久しぶりだな、何やってるんだ?」
「んぇ〜?あ〜、シュウ君じゃ〜ん。私も参加するんだよ〜」
間延びした返事をする長髪の女性プレイヤー、リンネが微笑を顔に貼り付けたままそう言った。
「ほーん…衣装は?」
「え?このままだよ〜」
「そのまま出るのかよ!?」
不思議そうな顔をするリンネの装備は、攻略用の厳ついものだった。
少なくともアイドルの着るような煌びやかな衣装ではなかった。
「お前…これで大丈夫なのか?」
「え〜?人前で歌うだけだからいいと思うけどな〜」
ん?ちょっと待て、俺の考えてる事と違う気がするんだが。
「リンネ、今日はなんの日かわかってるか?」
「え〜と〜、CWOのど自慢大会?」
「違えよ!」
何言ってるの?と言いたげな様子でリンネがそう言うが、そうじゃない。
こいつそもそもコレがなんなのか理解してないぞ…!
こんな装備でステージ上に出たら…
「悪いことは言わないから早く装備を変えたほうがいい!後悔するぞ!」
「でももう受付終わらせちゃったし〜。う〜ん、なんとかなるんじゃないかな〜」
「そ、そうか…お前がそれでいいならいいと思う」
☆
「おーい、アンリー」
「あっ、シュウ君来てたんですね」
リンネと別れた後、俺は受付のお姉さんにアンリの居場所を尋ねてみたところ、更衣室前で待っていると伝言を伝えられて、冷やかされた後ここに来ていた。
周囲は舞台用の衣装に身を包んだプレイヤー達ばかりで、正直俺達は浮いていた。
一応普段着を着て来たのだが、周囲のプレイヤー達に比べると地味で浮いていた。
ん?装備?
「そう言えばアンリはどんなのを着るんだ?」
「えっ…と、み、見せなきゃダメ、ですか?」
頬を赤くしてアンリはそう言う。
えっ、何その態度!めちゃくちゃきになるんだけど!?
俺は真面目な顔をしてアンリの肩をガシッと掴む。
「全裸だって見てるんだ、今更恥ずかしがることはない!」
「…ほんとシュウ君ってデリカシーがないですよね」
ジト目を向けながらそう言うアンリ。
くっ…!何も言い返せないのが辛い!
何も言い返せずにいると、アンリは溜息を吐いてクルリと向こうを向く。
「どこ行くんだ?」
「そこで待っててください。…直ぐに着て来ますから」
恥ずかしそうにアンリはそう言うと更衣室の中に入って行く。
しばらくソワソワしながら待っていると、シャっと軽い音がして更衣室のカーテンが開く。
そこには、
「お、おお…!」
「ジロジロ見過ぎじゃないですか…?」
「いや、うむ。中々いいんじゃないか!」
恥ずかしそうに顔を下げるアンリの格好は…ミニスカートにヘソ出しのサンタ服という今の時期に男心をくすぐる素敵装備だった。
露出が高いのに、防寒機能もバッチリついているという逸品だった。
あいつら、いい仕事しやがって!これは後で色々お支払いする必要があるな!
心の中でギリック=ギリックに全力で感謝していると、突然アナウンスが流れる。
『出場者の皆様はステージ前に集まってください、繰り返します_』
どうやら出番のようだった。
俺はアンリの背中をポンと叩くとニッと笑いかける。
「頑張ってこいよ!」
「ええ、しっかり見ててくださいね!」
「おう、任せとけ。下アングルからSS撮りまくってやる」
「それはやめてください!」
俺がそう言うとアンリは割とマジな顔で止めてくる。
流石に下アングルからは撮らないが、スクショは撮りまくってやろう。そして、後で鑑賞会と称して今日来ていない奴らに見せて回ろう、そうしよう。
俺は邪な考えを読まれないように真面目な顔をすると、掌を差し出す。
初めは何をしているのかわからない様子だったアンリも意図を察すると、そこに自分の手を合わせハイタッチをする。
「行ってきます!」
そう言い残してアンリはタッタッと走って行く。
その後姿を横目に俺は観客席へと向かうのだった。
さて、アンリはどうなるのか…
☆
「うぅ…」
「おい、泣くなって。仕方ないだろ」
ステージの裏手、選手の控え室でアンリは泣いていた。
なぜかと言うと、あれだけ意気込んで出たにも関わらず初戦で敗退したからである。
「だって、だって…」
泣きじゃくるアンリの初戦の相手、それはCWO No. 1と名高いアイドルプレイヤーオラクマだったのだ。
シード枠用意しろよとか色々言いたいことはあるが、こればかりはどうしようもなかった。
「いや、でもお前歌では勝ってたじゃないか!」
そう、歌では勝っていたのだ。
【歌唱】というスキルがあるのだが、オラクマは当然それを取っており、中々のレベルのはずだった。
しかし、アンリはスキルを取らず地で歌唱対決には勝利したのだ。
これは例えるなら自転車で電車を超えるスピードを出すのと同じくらい大変なのだ。
俺がそう慰めるとアンリは泣き腫らした目でこちらを見つめる。
「でもそれ以外は負けたじゃないですか…」
「仕方ないだろ、服に関しては天才のシノアが完徹して作り上げて、踊りなんかはあいつ戦闘中とかにレベル上げてるからな?」
「私も同じことをすれば…」
「多分無理だと思うぞ」
人間の脳みそというのは2つの物事を同時に行えるようには出来ていないのだ。
特にこのゲームは魔法の威力や射程などを操作するのにかなりの集中力がいる、それに加えて踊りのスキルを上げるというのは天才の領域と言えるだろう。
すると、俺達の後ろに人影が現れる。
振り返るとそこには何故かドヤ顔をしているナクの姿があった。
「おお、どうしたナク」
「ふっ、敗者の顔を見に来た」
そう言うナクに俺は冷ややかな目を向けると一言。
「お前も初戦敗退してたよな?」
ピクリとナクの身体が跳ねる。
「しかもお前踊りも歌も酷すぎて、大会最低点を叩き出したんだってな?」
「な、なんのことか」
「そして余りにも酷すぎて大会に次回から出場禁_」
「もうやめて、ごめんなさい」
見事な土下座をしてナクが謝罪する。
全くこいつは…ん?なんだ?
視線を感じて周りを見渡すと、プレイヤー達がこちらを見ていた。
「おい、見ろよ。女の子を泣かせて、さらに別の女の子に土下座させてるぞ」
「うわぁ…流石【鬼畜】名前の通りね」
おい待て、ちょっと待て!おかしいだろ!
俺が抗議の視線を向けると、サッとプレイヤー達は顔を背ける。
「なあ、ナクもういい_」
「誠に申し訳ございません!もう二度としないので鞭打ちだけはご勘弁を…」
「お前何言ってんの!?」
ナクを見ると小さく舌を出していた。
こ、こいつ!
ナクの放った爆弾発言にプレイヤー達にどよめきが広がる。
「おい、あいつ鞭打ちとかしてるらしいぞ」
「ヤバイやつじゃん…」
「違っ!全部嘘だ!罠だ!嵌められた!」
そう叫ぶがもう遅く、結局俺は『女の子を泣かせ公衆の面前で土下座させ、更にはDVを行うクソ野郎』という不本意極まりないレッテルを貼られることとなったのだった。
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