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かずみ

第69話

 戦闘後、俺は首輪と仮面女の事をレノンに報告すると「すぐに部下を向かわせる」と言われ、合流のために現在は62界層の主要都市『リオール』の宿屋の一室にて寛いでいた。


「うぅ…ここは…?」
「おっ、気がついたか」
「っ!?何でここに…って!ボクは何で縛られてるんだよ!」


 ガシャガシャと鎖を鳴らしながら仮面女は抗議する。


「だって自由にしとくと逃げるだろ?」
「逃げないから外してくれないかな?ね?お願い」


 ベッドに頭を擦り付けて懇願する仮面女を見て、まあ大丈夫だろうと判断した俺は鎖を解いてやる。
 ぐるぐると腕を回した仮面女は居住まいを正すと俺は「さて」と呟いた。


「それじゃ、色々と質問していくぞ。その前に仮面を取れ」
「えー…やだなあ…」


 渋々と言った様子で仮面女が仮面を外す。
 スッとした鼻梁、外国人のような顔立ちながらも幼さを残す顔をしており、全体的にウェーブのかかった黒い髪はボブほどに切られていた。


「そんなに見られると流石のボクでも照れるんだけどなー…」
「ああ、悪い悪い。意外と可愛かったんでな。つい」
「それなら仕方ないよね。ボク可愛いし!」
「そうだな、うん。それでお前の名前は?」


 ドヤッと胸を張った仮面女に名前を聞くと「ココだよー。あっ、それとも本名が良かった?」などと言われ、それを軽くあしらってココに文句を言われたりしつつ、俺は質問を続けていく。


「それじゃ、あの首輪はどうしたんだ?」
「あー、アレね?アレはねー、ボクが『アルカトラ』に入れられて直ぐだったかな。夜中にトイレに行って、その帰りに背後からつけられちゃって…その後から記憶がないんだよね」


 ふむ…となるとアルカトラの関係者の誰かが引き起こしたのか?
 俺が考え込んでいると「あっ、そういえば」とココが何かを思い出したように呟く。


「ん?何か思い出したのか?」
「んとねー、記憶をなくす直前に背後のやつを見たんだよね。月明かりが逆光になってて顔は見えなかったけど男みたいだった!」


 性別が男ってだけでもまあ、多少は限定されたのか?
 他に聞くことも無いのでしばらくココと他愛もない雑談をしていると、扉が開かれて白の軍服に身を包んだ数人のプレイヤーが部屋に入ってくる。
 その先頭、不健康な程にやせ細った身体に、ギラギラと輝く瞳の他の軍服を着たプレイヤーと違うデザインの軍服を見に纏ったプレイヤーがニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべていた。


「あなたがシュウ様ですね?はじめまして、私は天和之國の第三軍団・副団長クリフェルです」
「ああ、そうか。初めましてシュウだ。そして、背後にいる2人は俺の仲間のアンリとナクな」


 俺がそう言うとクリフェルは、何度か頷く。
 にしても目付きがな…


「ええ、もちろん存じ上げておりますとも。かの有名な【炎熱の魔導姫】と【絶対零度】の御二方に会えるなんて、今日はいい日ですね」


 クスクスとクリフェルは笑うと、部下に指示を出す。
 指示を受けたプレイヤー達がココを拘束して部屋から運び出す。
 運び出す時にココが「もっと優しく扱え〜!」と騒いでいたが、スルーしていいんだよな。いいんだろうな、うん。


「それではシュウ様。失礼します」


 クリフェルは一礼すると、部下を引き連れて去って行った。


「さっきの人ヤバくないですか?」
「同意、露出度高い服の時シュウが見てくるのと同じ目」
「酷い言われようだな」


 というか、あの薄着はワザとだったのか。いや、見ちゃうじゃん仕方ないよ男の子だもん!
 2人から向けられる悪戯っぽい視線に気付いていないふりをしていると、一件のメッセージが届く。


「…はぁ、ちょっと出かけてくる」
「どこに行くんですか?」
「少しな、1人で行ってくるから付いてこなくていいからな」


 メッセージの内容を確認した俺はそう言うと、宿から出て行くのであった。


  ☆


『いらっしゃいま_あ、またあなたですか。はぁ…中々お客さんこないな…』
「まあ、ここまでくるとプレイヤーの方が腕がいいからな」


 そう伝えると武具店NPC_エーテルはさらに溜息を吐く。
 俺はそんなエーテルに苦笑いを向けると、そのままカウンターをスキル【未踏】を使用して通り抜ける。
 乗り越えた瞬間、周囲の景色にノイズが走り、目の前に黒い穴が広がる。
 その中を真っ直ぐ進んで行くと、いつのまにか陽光が降り注ぐ穏やかな草原に立っていた。
 その中心に白衣の人物が座っていた。


「やあ、呼び出してすまないね」
「いや、俺も聞きたいことがあったから丁度良かった」


 俺がそう言うと、白衣の人物_おっさんはフッと笑った。


「さて、シュウ君。君を呼んだわけだが…君、固有技能のレベルが10になってるだろ?」
「あっ、そういえば」


 確かにレベル10を超えていた。
 でもなんでおっさんが知ってるんだ?そう尋ねるとおっさんは「ほら、君達のステータスチェックをしたことがあっただろう?その時にちょっとね」
 そう言ってぺろっと舌を出すおっさんの破壊力は凄かった、悪い意味で。


「なるほど、それでそれと呼び出しのなんの関係があるんだ?」
「呼び出しだなんて人聞きの悪いな…まあ、ちょっと失礼するよ。…ああ、このくらいなら大丈夫だな。それじゃ、始めるぞー」
「おい、始めるって何_」


 おっさんが俺の頭に手をかざした瞬間、脳が焼き切られるようなあの感覚がまた俺を襲った。
 痛みの中俺の頭の中に莫大な情報が流れ、そして世界と混ざる。
 終わりは突然だった。


「ッはぁっ!?なんだよいきなり!?」
「おお、成功…んー?微妙だな」
「だからなにがだよ…」


 頭も痛いし、よくわからん。
 するとおっさんが俺を指差す。


「ちょっとステータスを確認してみてくれないか?」
「はあ…?わかった…って、おいなんだこれ…」


 ステータスを開いた俺は、その数値の高さに驚きを隠せなかった。
 確かに俺自身、純粋な魔法職じゃないのでSTR値は純粋な魔法職…例えばアンリ達には負ける。
 さらに言えば【不死者之王ノーライフキング】なんていうチートとも取れるレベルのジョブについてるせいで中層域の戦士職と張り合える程度の物理攻撃力はある。
 しかし、流石にドラゴン系フィールドボス最高位のクルークルをソロ、しかも素手で絞め殺すような力を持った最前線の戦士職の足元にも及ばなかったはずだ。
 それが今は、そこに張り合えるどころか下手すれば勝てちゃう程に俺のSTRは上昇していた。
 STRだけではない、その他のステータス値もはっきり言って馬鹿高かった。なにが起こったのかわからないくらいに。


「おっさん…あんたマジで何したんだよ?」
「はははっ、私はただ君のスキルを解放しただけだよ。下準備は終わっていたみたいだからね。さ、次はスキルを見てくれるかね」


 言われるがままにスキルを見て俺はまたしても驚いた。
 【法則介入】が無くなっている…?          

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