暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが

赤井まつり

第146話 〜屋根裏部屋〜 夜目線




冒険者ギルドの中に無事侵入した俺はまず室内を見回した。
大抵の場合、本当にばれたらまずいものや隠しておきたいものは人間の目線では見えないところに置く。
今いるのは屋根裏部屋だから、もしかするとここにある可能性もある。
辺りは柄が折れて使えなくなった箒などのガラクタばかりだが、それこそ探しがいのあるというもの。
グラムは情報を隠すことなく放置しているというし、案外すぐに見つかるかもしれないな。

何か隠してあるものを見つけたいとき、猫の姿は便利だ。
狭いところでも頭さえ通れば入ることが出来るし、嗅覚が発達しているため、においの嗅ぎ分けくらいはできる。
もちろん『変身』でスライムになればどんな小さな隙間でも通ることが出来るが、それは最終手段だ。
一回の『変身』にも莫大な魔力が必要になるうえ、俺が見て記憶しているスライムは奇抜な色が多く、もし誰かが来てしまった時に一目でバレてしまう。
リア殿の言っていた黒いスライムを俺は見ていないから『変身』はできない。
ちなみに嗅覚が鋭いといえば犬だが、奴らは生理的に受け付けないので『変身』したくない。
というわけでいつもの慣れた姿で埃っぽい屋根裏部屋のにおいををスンスンと嗅いだ。


『……ここは最近使われていないようだな。困ったことに人間のにおいが一切しない』


掃除すらされていないため、埃が分厚く積もっている。
ここにはないとみていいだろう。

さて下の階に降りようかと思って下に通じる梯子などを下げしていると、突然地面の一角がぽっかりと開いた。
俺は驚いてとっさに物影に隠れる。
おそらく、開いたところが探していた下の階に降りる梯子があるところだったのだろう。
下からぶつくさと何かを呟きながら人間が上がってきた。


「ったく、なんで俺がこんな埃っぽいとこに来なきゃなんねーんだよ。自分の不正を部下に隠させるって、隠す気がないにもほどがあるだろ。王も、あんな奴をギルドマスターにするなんて何考えてんだか。……ま、あの無能王じゃあしょうがないよな」


夜は息をひそめてその不満の声を聞き漏らすまいとしていると、幸運にもその人間は俺が隠れている机の近くに来てくれた。


「本当に、王もグラムも死んでくれた方が世のためなんだが」


主様たちは今日イグサム王と会ったらしいが、自国の民にこうも言われている王とは一体どんな人物なのだろうか。
無能王という口調的に比較的日常的に使われている蔑称だとは思うのだが。


「……こんな書類なんで残しておくんだ?自分の弱みになるようなもんなのに」


ぶつくさと文句は言いつつも、言われたことをしっかりとこなしている分素直な男なのだろう。
だが、今はそれがありがたい。
この男が言っているのが本当だとすると、主殿が望んでいる情報が書かれているかもしれないのだから。

幸い、下の隠れている俺に気づくことなく男は梯子を下りて部屋から出て行った。


『ここ最近で一番楽だ!』


クロウからの情報は確かだった。
グラムは製薬師という職業の人族の女を奴隷として買って、その女に"強化薬"を作らせていた。
製薬師の女の名はアマリリス・クラスター。
マリで開催されていた例のコンテストの数年前の優勝者らしい。
聞いたときは半信半疑だったが、まさか本当に獣人族領で人身売買がされているとは。
アメリア嬢の場合は臓器売買だったが、奴隷商売もしていたのか。
それに王族が噛んでいると民衆に知られれば、王家の信用もガタ落ちだろう。


『よし、これを主殿に渡せば俺の任務も終わり。ようやく主殿のそばに戻れる』


マリから『念話』でしか会話していなかったため、会うのは久しぶりになる。
グラムの悪事が事細かに書かれている書類をたたんで咥えた。
入ってきたときと同じように天窓の隙間から外に出た。
それほど長くいた覚えはないのだが、うっすらと空が明るくなり始めていた。
朝になれば主殿も起きているだろうから『念話』で泊まっている宿を聞かなければ。
と、その前にラティスネイル様と合流しよう。




「お!お疲れ~」


町の外れにある、町を一望できる高台に行けば、案の定ラティスネイル様はそこにいた。
昔からラティスネイル様が隠れるところは大抵高いところで、魔王様が『馬鹿と煙は高いところが好き』とつぶやいていたことを思い出した。
意味はよく分からないが、それを聞いたラティスネイル様が頬を膨らませていたので、おそらく馬鹿にしたような言葉なのだろう。


「うまくいったかい?」

『はい。グラムが人族の奴隷を買って"強化薬"を作らせていたことと、その"強化薬"を人族に送ったこともきっちり書いてあります!!』


咥えてきた紙を見せると、ラティスネイル様は少し目を見開いた。


「それ、どこに置いてあったの?」

『え、ラティスネイル様が俺を投げた天窓がある屋根裏部屋の机の上ですが』


藤色の瞳が少し細められたかと思えば、次の瞬間にはいつも通りの笑顔を浮かべていた。


「そっか」

『はい。ラティスネイル様もご協力ありがとうございます。嘘までつかせてしまい……』


俺がそう言って頭を下げると、ラティスネイル様はきょとんとした顔をする。


「僕嘘なんかついていないよ?僕が嘘嫌いなの知ってるでしょ?」

『で、ですが、兵士に見つかったときに……』


俺の言葉にラティスネイル様は笑って首を傾げる。


「僕が旅人なのも、この町に初めて来たのも本当だし、宿をとるまえに人気が無くなったのも本当だよ?野宿しようと思っていたのも、僕が現在地を理解していなかったのも本当。君のあとをついて行っていただけなんだから現在地なんてわかるわけないじゃない。ほら、嘘なんかついてないでしょ?」

『で、でも、冒険者ギルドの屋根の上に投げたではありませんか!』


わざわざ裏手に回って投げたから分かっててやっていると思ったのだが。


「いやあ、偶然ってすごいねぇ~。たまたま君を投げたところが目指していた冒険者ギルドで、たまたま鍵が開いていて入れた屋根裏部屋にたまたま探していた書類があるんだもんね」


へらりと笑うその顔が不気味で、俺は一歩後ろに下がった。
それを見たラティスネイル様はますます笑みを深くする。


「そんなに引くことないじゃない。人生に一度あるかないかくらいの偶然を体験したんだから、喜ばないと。……これで君は主君に言い報告ができて、僕はとても面白い体験ができた。一件落着だね」


本当に、この人は理解できない。
家に帰りたいという確固たる信念がある主殿と違い、この人から何がしたいとか、何をするために生きているとかいう感情が感じられない。
怖い。
純粋にそう思った。



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