暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが

赤井まつり

第125話 〜人間〜



「アキラ、最近寝てる?」


次の日、みんなよりも一足先に起きてきたアメリアに心配そうに聞かれた。
俺はコーヒーのような飲み物を啜りながらアメリアから目を逸らす。

実を言うと、最近寝れていない。
なぜかはもうわかっている。
あの日クロウに言われたこと、頼まれたことが原因だ。
そして、昨日の夜のジールさんの言葉のせいでさらに悩むことになった。


「寝れていない。が、戦闘には支障ないだろう。こっちの世界に来てから気絶以外で深く眠れたのは片手で数えられる程度だからな」


片手で顔の半分を覆って言う。
たぶんかなりひどい顔をしているだろう。
みんなが起きてくる前に何とかしなければならないな。

そう思っていると、アメリアが俺の顔を覗き込んできた。
顔を覆う片手をどけて俺の顔を両手で挟む。


「我慢して一人で抱え込むのがアキラの悪い癖。そんなに信用できない?」

「い、いや、そんなことは……」


緋色の瞳に正面から見つめられ、顔を挟む両手のせいで視線を逸らすこともできない。
初めてアメリアの瞳が怖いと思った。


「アキラが言えないのは、私たちを守るためや誰かを守るためなのは分かった。……なら、私はアキラを守るために強硬手段をとるから」

「あ、おい!」


止める間もなく、アメリアは魔力を高めた。
淡い青色の光が俺の体を包む。


「ごめんね、アキラ。『魔法生成』……『強制睡眠』!!」

「アメ……リ、ア……」


意識を失う寸前に最後に俺が見たのはアメリアのつらそうな顔だった。
そして、絶望する。
アメリアに、好きな人にこんな顔をさせるほど俺は追い込まれていたのか、と。




  ~アメリア・ローズクォーツ目線~


意識を強制的に失ったアキラに毛布を掛けて、その無邪気な寝顔を眺める。
目の下のクマをそっと撫でた。
昨日よりも濃くなっている。


「随分と暴力的なお姫様だ」


静かな声に顔を上げると、隣のソファーで寝起きの顔のクロウがニヤニヤとこちらを見ていた。
私はその顔を睨みつける。


「アキラに何を吹き込んだの」


クロウは私の視線から目を逸らして、猫のように体を伸ばした。
私は睨みつけたままクロウからアキラを庇うように立つ。


「そう眉間に皺を寄せるな。戻らなくなるぞ。……それに、私は相応の報酬を求めただけだ」


相応の報酬という言葉に、私はハッとした。
脳裏によぎるのは迷宮で私たちの窮地を助けたクロウの後ろ姿。


「だからブルート迷宮で私たちを助けたの?……答えて」


視線を逸らすクロウをさらに睨みつける。
クロウは少しだけ顔をしかめた。


「いや、どうだろうな。助けたのは単純に好意からだった。……その行為に価値を見出したのは後からだ」


私はその弱ったような顔に目を見開いた。
私はアキラほどこの男と関わりがないし、理解もしていない。
ただ、妹を救えなかった復讐心は理解できるような気がして、時と共に復讐心を捨てようとしたクロウを叱咤したが、それが正しかったのかさえ分からない。
初対面の印象はあまりよくないものだったはずなのに、同情した自分がいて後日驚いた。
私とこの人の行動原理は、おそらくよく似ている。


「私はな、昔あなたに憧れていたんだ」


話を逸らしているような話題の転換に声を上げようと思ったが、その言葉に口を開けたまま止まる。
クロウはそんな私の顔を見て少し笑った。


「エルフ族の窮地を救った王女。英雄譚にでも出てきそうな『蘇生魔法』、『重力魔法』の使い手。私にとってあなたは目指すべき人だった。……まあ、いざ会ってからあなたのその人間らしいところを見て少し考え直しているが」

「……私をそういう目で見てくる人は嫌いよ」


私を称えるということは、あの地獄を招いたキリカを貶めていることにもなるのだから。
そういう私にクロウは苦笑する。


「そうだな。あなたはそういう人だ。……リアの杖は私が作ったことは聞いたか?」


私は首を横に振る。
おそらくそれはアキラに言ったのだろう。
最近はアキラとゆっくり話をする時間もなかったから、お互いの情報に差ができている。


「あの杖のおかげであなたたちの窮地を察することができた。リアの名、あなたによく似ているとは思わないか?」

「……私からとったの?」

「そうだ。あなたのような人になれと、私が名付けた」


思わぬところでのつながりに私は目を見開いた。
そして、目を細める。


「それが何なの?」


リア――ウルクの第一王女と何の関係があるのか。
クロウは頭の後ろをかいて朝日が昇り始めた外を見る。


「さあな。ただ、私はあなたが認めたアキラ・オダという人間を試してみたいだけだ。こいつに言った言葉に偽りはないが、あなたの隣に並ぶに値するか、見てみたいと思った。リアにその名を付けたとき、あなたの隣に誰かが立っているなんて考えもしなかったからな。もちろん今もそう思っているが」


その言葉に、私はかっと頭に血が上ったのを感じた。
言外にアキラが私の隣に立つべきではないと言っているからだ。


「……あなたの自分勝手な考えがアキラにどれだけの負担を強いているか!」


私の言葉にクロウの動きが止まる。
昇ってきた朝日のせいで表情はよく見えないが、どこか弱っているように感じた。


「私もここまで悩むと思わなかった。どうやらこいつは心底あなたに惚れているが、人間を捨てるほどではないらしい」


恋は時として盲目となる。
私も一応はアキラの何倍も生きているから、そのくらいは分かっている。
アキラが私のせいで盲目となってしまうのなら、私は身を引くべきだろう。
私は少し微笑んだ。


「私が見込んだ男よ」


クロウは朝日に視線を投じたまま肩を竦める。


「そのようだな。だが、ちゃんと悩んでくれるほどには私に恩を感じているようだ。この男、おそらくあと少しあなたに何かあれば人間を捨てるだろうよ」


気をつけることだ。
そう言ってちらりとアキラを見た後、クロウは部屋から出て行った。
結局、アキラに何を言ったのかは聞き出せなかった。
それよりも今の言葉が衝撃的だったからだ。


「……アキラ、あなたは私の為に人間を捨てるの?」


問いかけに答えがないと知ってなお、聞かずにはいられなかった。


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