暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが

赤井まつり

第122話 〜三代目〜



人身売買。
それはこの世界でも違法行為とされている。
昔、獣人族は出稼ぎにやってきていた人族を奴隷として売買していたことがあったらしい。
そして、それは異世界から召喚された三代目の勇者が辞めさせた。

この世界では勇者召喚が過去に四度され、四人の勇者たちは各大陸に様々な影響を及ぼした。
エルフ族、魔族に関連がある初代と二代目勇者はともかく、比較的年代が浅く、記録が残りやすい獣人族と人族に関連がある三代目と四代目は英雄譚として様々な文献に載っている。

三代目勇者で特に有名なのは、体術、剣術と人身売買の事件。
魔法適正よりも身体能力が高い獣人族に体術や剣術を教え、それまで続いていた人身売買を完全に辞めさせた。
その身は人族であるが、熊のような大きな体に獣人族のような豪快な性格をしていたらしい。
そして、歴代勇者の中でもとびぬけたカリスマを誇っており、今現在でもその人気は衰えていない。
彼だからこそ獣人族の大陸に蔓延っていた人身売買という悪しき風習をなくせたのだ。
三代目勇者に敬意を表して、獣人族の子供たちはその力を弱い者の為に使うことをまず教えられる。
というのがレイティス城の蔵書室にあった本に書いてあった。

ちらりと見ると、クロウは不機嫌そうに歯をむき出して毛を逆立てていた。
獣人族にとって人身売買というのは最も忌むべき行為であり、敬愛する三代目勇者を冒涜する行為だ。
クロウが気づけなかったのも無理はない。
そもそもそんなものが獣人族内にまだあること自体が信じられないことなのだから。


「……まあ、噂には続きがあって、コンテスト優勝者が相次いで姿を消すから誰かが勝手に流した質の悪い冗談だというのと、バラされたからだという人がいて、情報が錯綜しているようですがね」


バラすということは、臓器売買ということだろうか。
……美男美女コンテストということを考えると人身売買の方が真実味があるが。
一応頭には入れておこう。


「……とにかく、知らせておく。ここは奴の手が届く範囲でもあるからな」


クロウの目が暗く光った。
この目をする相手はたった一人、妹の復讐相手だというグラムのことだろう。
確かに、ここマリからグラムがギルドマスターをしているというウルクはそう遠くない。
もし人身売買、臓器売買が本当だとしたら、情報統制が可能な人物がバックにいることになる。
グラムは元宰相だし、そういうことには詳しそうだ。
十分あり得るだろうな。


「アキラ、あの事を頼んだぞ」


クロウの声に顔を上げると、あの日のように、鋭く暗い瞳が俺を射抜いていた。
一瞬にして口の中がからからに乾いたのを感じながら、俺は軽く顎を引く。

あの事とは、クロウを祭りに誘った時に言われたこと、俺たちを助けた理由だ。
俺は、そのことについていまだに答えを出せないでいる。
クロウはそれを分かっていて急かしているのだろう。
いつもはお前なのにわざわざ名前で呼んでくるところからクロウの真剣さが伝わってくる。
だが、俺もホイホイと容易に答えられる内容の話ではないのだから、焦らしているつもりはないのだ。

わずかな反応でも俺がしっかり悩んでいることが分かったのか、クロウは満足して路地から出て行った。
残されたジールさんは俺を見て心配そうに眉をひそめている。


「……私が助言できる内容ではないのは雰囲気からして分かるが、あまり根を詰めすぎないように」


クロウもジールさんには何も言っていないらしい。
俺は意識して笑った。


「根っからの社畜なジールさんには言われたくない言葉ですね」


サラン団長が関係しているのかは知らないが、城を出て完全に他人になったのに、こんなところまで俺たちを追ってくるとは思わなかった。
それに、勇者たちだけでレイティス城を抜け出せたとは思えない。
絶対にこの人の根回しがあったはずだ。
お節介というか、苦労性のくせに自分から苦労しに行っている気がするのは気のせいだろうか。

俺がそう言うと、ジールさんはその真面目を絵に描いたような顔を破顔させた。


「確かにそうだった」



路地から出ると、アメリアとラティスネイル、勇者パーティーが集まっていた。
アメリアとラティスネイルが仲良さげに話しているのを勇者たちが遠巻きに見ているというのが正解っぽいが。


「あ!アキラ、クロウは先に宿に行っとくって」


そういえば宿をとるために別行動をしていたと言っていたな。
そのあとの話が衝撃的過ぎて若干忘れていた。


「ラティスネイル、お前はどうする?」


人数には入っていないであろう一人に聞くと、ラティスネイルは苦笑して首を横に振った。
ちらりと勇者たちを見て頭をかく。


「僕はそこらへんで野宿するよ。彼らも僕と一緒じゃない方が安眠できるだろうしね!」


その場でラティスネイルとは別れる。
アメリアは余程ラティスネイルが気に入ったのか、少し寂しそうだった。


「そんなに一緒にいたかったのか?」

「……あの子、どこかキリカに似ていて放っていけないの。こんなこと言ってたらキリカに怒られちゃうかもしれないけれど」


そう言われて俺は首を傾げる。
似ている……のか?
まあ、俺がキリカと関わったのはエルフ族領にいたあのときだけだし、家族にしか分からない感覚なのかもしれないな。


「ま、明日また会えるだろう」


ラティスネイルも噂通りなら狙われるのだろうが、あのステータス値を見た後では俺たちの方が足手纏いになるかもしてないな。
俺はともかく、ラティスネイルにいい印象を抱いていない勇者たちは確実に邪魔になるに違いない。




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