暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが
第112話 〜クロウの理由〜
「ウルクの祭り?」
祭りに行かないかと聞くと、俺と同じように素っ頓狂な声を上げるクロウ。
まぁ、混乱するわな。
魔族と戦って、命からがら逃げ出してきたかと思えば、人数が増えたし、その次の日には祭りに行くと言い出すし。
俺ならそんな連中、家に泊めるのも嫌だ。
「……行くか?」
そう問うと、クロウは難しい顔をして黙り込んだ。
妹を殺したやつがいる忌まわしき地。
今までどうして復讐しようとしなかったのかは知らないが、行くのには勇気がいることだろう。
「本気で言っているのか?」
「本気だ。アメリアも行きたがっている。元々食べ物には目がないしな」
そうかと呟いて、クロウは昨日の夜のように虚ろな目で宙を見上げた。
二人きりのリビングで、俺はため息をつく。
勇者たちは街の復興のお手伝いに。
アメリアと夜はジールさんと一緒に出かけた。
恐らく人数が増えたため食料が足りず、山に採りに行ったのだろう。
まだ山登りはきつい俺と、クロウは留守番を任された。
二人きりの沈黙に耐えかねて、クロウも行かないかと誘ってみたのだ。
クロウと夜の出会いとクロウの妹のことはアメリアから聞いた。
俺も妹がいるため、少しは気持ちがわかる気がする。
どれだけ喧嘩しても、口では嫌いだと言っても、それでも大切な家族だ。
俺と唯はほぼ同じタイミングで母さんのお腹から出たこともあって、普通の兄妹より距離はとても近い。
唯は、医者の手違いで本当は自分の方が姉だと言ってはばからなかったし、今もきっと俺のことは兄だと思っていないだろう。
渋々お兄ちゃんと呼んでいる感がすごいし。
でも、どれだけ生意気でも、俺にとっては可愛い妹に違いない。
もし俺が帰る前に唯が誰かに殺されることがあれば、俺は自分を止めることが出来ないと思う。
どんな手を使ってでも、後悔させてやる。
これは俺の考えであって、クロウも同じ考えを持っているとは思わないが、近い考えを持っているのではないだろうか。
「……私がなぜ真実を知りながら妹の仇をうたないか知りたいか?」
クロウはそう言って尻尾を揺らす。
俺はハッとしてクロウを見た。
宙をさ迷っていた視線はまっすぐ俺に向けられている。
が、黒曜石のような瞳は光を発していなかった。
「お前の考えなど目を見ればわかる。ポーカーフェイスではあるが、目は口以上にものを言っているぞ」
外見こそジールさんとほぼ変わらない年代に見えるからか、俺はたまにクロウが一世紀以上生きている人だと忘れてしまうようだ。
クロウは静かな顔で口を開いた。
「理由は二つある。一つは、同胞の血で手を汚すことを、妹が良しとしないと思っているから。二つ目は……」
そう言って、悔しそうに拳を膝に振り下ろした。
「歳のせいで長時間の戦闘が出来ない。人族には理解できないかもしれないが、我ら獣人族の老化は一気に来る。前日までは若い頃のように動けていても、次の日には寝たきりになるような同胞も多い」
へぇと思わず声を漏らした。
獣人族特有の老化現象らしい。
初めて知った。
「個人差があるが、俺の場合、それは早かった。妹が死んで間もない頃、仇をうとうとグラムの情報を集めて五十年ほどの時をかけ、計画を練ったが、いざ実行に移そうとした日に老化だ。若い頃に無茶をたくさんしたせいで老化が早まっていた」
クロウは自嘲気な笑みを浮かべる。
どうやらグラムは余程悪運が強いらしいな。
それか、クロウの運がとことんないのか。
「リアの杖、あれは私が作ったものだ。あの子が王族に加わるずっと前に、将来の守り手のために拵えた、俺の中で一番の出来の杖。それがお前たちの危機を知らせてくれた。……助けに行こうかかなり迷ったが」
となると、俺たちの命の恩人はクロウとリアになるのか。
王族に入る前から知り合いとは……。
どんな関係だ?
「お前を助けたのには理由がある」
クロウとリアの関係を考えていると、クロウが真剣な顔でそう言って俺を見た。
先程のように目がまっすぐに俺を見ているが、先程とは違い、その瞳には異様な光が宿っている。
俺はその光に息を呑んだ。
「……なんだ」
何を言われるのか予測出来ず、戸惑いながら聞く。
クロウは瞳の光はそのまま、口もとに淡い微笑を浮かべた。
「……―――。」
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コメント
もと陰キャ代表取締役
待ってましたv(・ε・v)今のとこ更新ペースいいですねー