暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが

赤井まつり

第94話 〜目覚め〜 アメリア目線




暗くて深い海の中で、私はアキラの声を聞いた気がした。

そして、体に響く二つの殺気。
それらが私の意識を覚醒させる。


「アキ、ラ……アキラ……?」


アキラの気配が近くにある。
凄まじい衝撃波が周りの壁をガリガリと削っているが、不思議と私の体は無傷だった。


「ハハッ!!お姫様のお目覚めだよー!」


少年の声が響く。
その声が緑色の少年のものだと気づいた。


「お前、アメリアの呼び方統一しろよ。さっきは“王女様”って呼んでただろうが」

「バカだねぇ〜」


金属同士がぶつかり合う音がする。
私の近くにある壁がビリビリと震えた。


「目覚めるのはお姫様って相場が決まってるでしょ」

「ここはおとぎ話の中じゃなくて、現実なんだよっ!クソガキ」


何度か瞬きをすると、目の前の光景が鮮明になる。
体の感覚も戻ってきた。
指が動く。
どうやら私の体は迷宮の壁の側に横たえられているらしい。

私はまだ感覚の戻らない腕を動かして迷宮の壁を支えに体を起こした。


「アキラ!」

「そこでじっとしてろアメリア。お前は……お前だけは絶対に連れていかせねぇ」


私に背を向けているアキラが私の方に身にまとっていた外套を放る。
アキラの匂いが、私を包んだ。
とても、安心する。

ずるりと、迷宮の壁にすがっていた手が滑った。
倒れそうになる私の体を、フカフカとした暖かい感触が支える。


「ヨ、ル?」

『無理をするな、アメリア嬢。主殿を信じて待て』


金色の暖かい色をうかべた双眸が優しい眼差しで私を見ていた。
変身したままなのか、いつもの黒猫の姿ではなかったが、たしかにヨルだ。
その暖かい体が私の冷えきった体を温めるように身を寄せてきた。
尻尾が優しくアキラの外套ごと私の体を包む。
いつも感じていた、安心する二つの匂いに包まれて、私の気が緩む。


「うん。……いつも信じてるよ。アキラも、ヨルも」


あちこちに傷を作って血を流しているアキラが、未だに無傷の少年と、刀と槍をぶつかり合わせている。
アキラのほうが負けているが、魔族相手にこれだけの怪我ですんでいるというのもすごいことだ。


「……アキラ、楽しそう」

『主殿はこの世界でも力が頭二つ分ほど、他の人間や魔物より抜けている。大抵の相手なら一撃で終わってしまう。主殿は面倒が嫌いな性分だから、わざわざ相手を探すことなんてしないが、それでも……』


ヨルは、アキラたちの方に目を向けた。

アキラは、傷つけられて血を流して、痛いはずなのに、笑っていた。
今まで見たことがないくらい、楽しそうに刀を振っていた。


『実力が拮抗している相手と戦うのが楽しいのだろう。無意識のうちに笑みを浮かべるほどには。……自分が戦闘狂だと思いたくないようだが、主殿は紛うことなき戦闘狂だ』


本当に楽しそうにしている。
その姿が、一人で剣の練習をしているキリカとかぶった。


「……羨ましい」


ドロリとした感情が溢れてくる。
おそらくヨルには聞こえていなかっただろうが、口から言葉が零れ落ちた。


「ほらほら、まだひとつも攻撃当たってないじゃん。たしかに魔族相手にここまで耐えきってるのは凄いけど、攻撃が当たらないんじゃあ意味ないよね」


確かに大きな傷こそないが、小さな傷から血が出ていて、貧血なのかアキラの顔が青ざめている。
地面にアキラのものと思われる血が点々と広範囲に落ちていた。

いや、ただ落ちているにしてはおかしいくらい飛び散っている。
まるで、わざとそこに落としているような……。


「いいや、やっと準備が整った」


少年が眉根を寄せた。
アキラはニヤリと笑って手を水平に上げる。


「今更なにを……」

「『影魔法』起動」


迷宮内の全ての影がアキラの元に集まった。
迷宮の明かりに照らされていた二人の影も、私とヨルの影もなくなり、アキラの影となる。


「散っ!」


アキラの声で、集まった影が散らばっていった。
見たことない技だ。
たしかアキラは私の知っている限り、自分の影しか使えなかった。
周りの影を集めて操るなんてことできなかったはずだ。
いつの間に……。

散らばった影は何かに導かれるようにどこかへ向かっていった。


『血が……』


ヨルが呟いた声を頼りに地面に散らばった血を見ると、ある程度の大きさの血に影が集まっていた。


「血に残っている僅かな魔力に反応して集まっている……いや、集めている?」


アキラが上げた手を握る。


「『影獣』」


血の上に散らばった影が蠢き、獣の形をとった。
狼のような、四足歩行の血に飢えた獣は少年が振るった槍を躱して足や胴、腕に噛み付く。


「っっ!!!!」


少年は体を回転させて無理やり獣たちを振り払った。
その衝撃で肉が抉れる。
今度は少年の血があたりに飛び散った。
アキラよりも出血量が多い。
一瞬で形勢逆転だ。


「どうやら、お前の血と魔力は相当美味いみたいだな。『影魔法』が喜んでるぞ」


足元でゆらゆらと動いている影を見てアキラが言う。
一方少年は自分が流した血をじっと見つめていた。


「……フフフッ!アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハっ!!」


そして、声を上げて突然笑いだす。
アキラが少し引いたように後ずさった。
いつの間にか影でできた獣たちは消えている。


「これが痛み……。これが僕の血……」


少年は自分の腹から流れてる血を握った。
私とアキラが引く中、ヨルだけが冷静にその姿を見ていた。


『魔族は総じて魔力が高く、攻撃力が高いことが有名で、それだけだと思われがちだが、防御力も他の種族と比べれば桁違いだ。ただの刃物はもちろん、魔法でもそうそう傷つかない。……俺の知り合いには、この世に生まれてから一度も血を流したことがない奴も居たほどだ』


もしそれが本当なら、反応を見る限り少年もその類だったらしい。
私には自分に血が流れていることを喜んでいるように見える。
痛みを感じることに喜んでいるように見える。
他の種族と同じ色の血があることに喜んでいるように見える。


「アハハハハハハハハッッッ!本当に、最っ高だよ。君のような人族がいるって知ったら皆喜ぶだろうなぁ」


恍惚とした笑みを浮かべて少年は槍を落とした。
そして、槍を握っていなかった反対側の手にはどこからか取り出した笛を握っている。


「せっかく君が大技を見せてくれたんだ。僕もそれに応えるよ」


私はそれの笛を見て、自分が死ぬ直前を思い出した。


「ダメッ!逃げて、アキラ!!」

「もう遅いよ」


少年は両手で笛を持ち、口にくわえた。


「暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く