暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが

赤井まつり

第86話 〜まさかの〜



「私の本当の家は何代も前に没落した旧貴族の家系で、私の父の代ではもはや平民の中で少しだけ裕福な家庭というだけでした」


通路を曲がったため少し揺れた。
落ちそうになったリアが慌てて夜に強くしがみつく。


「わ、私が王族になったのは五十年ほど前で、それまではそこで暮らしていたんです。ですがある日家があった村に魔物が襲ってきて、父と母を含め私以外の村人は死にました……死んだと思っていたんです」


リアはそこで強く唇を噛んだ。
俺は雰囲気の変わったリアにおや?と首を傾げる。


「その、村を襲ったという魔物はなんだ?」


なんとなく嫌な予感がした。
リアはその瞳に憎悪の色を宿す。


「スライムです。本当なら一撃で倒せるはずの魔物に、村人全員が取り込まれたんです。あれは、普通のスライムではありませんでした。確かにスライムは色々な色の個体がいますが、あの日まで黒色のスライムなど見たことがなかった」


俺は小さく息を呑んだ。
悪い予感が的中したのだ。
黒いスライムといえば、初めて会った時にアメリアを捕えていたスライムだ。

俺はあのスライムがエルフ族のみ捕えているのなら、エルフ族の容姿の美しさに目を付けた奴が奴隷などにしようとしてスライムを放ったのかと思っていた。
だが、獣人族にまで被害が及んでいるのなら話は別だ。

エルフ族領で会ったウルクの紋章が入った剣を持っていた騎士らしき人攫いのことも気になるし、本当に獣人族はどうなっているんだ。


「……きっとあのスライムは誰かが改造して人為的に放ったものなんです」

「さっき言っていた、死んだと思っていたというのはどういうことだ?」


俯いて何やら呟いているリアに重ねて質問する。
リアはさらに表情を暗くした。


「あなたに初めて会った時言いましたよね?『どのような犠牲の上で勇者召喚が行われたか知っているか』と」

「……おいおい、まさか捕らわれた獣人族の人たちを犠牲に召喚されたとか言わないよな」


リアに迷宮前で言われたときに考えていたことだ。
だが、その時はその考えを打ち消した。
勇者を召喚するためだけにそこまで犠牲にする理由がわからなかったし、その時はまだ真っ当な理由で召喚されたのだと思っていたからだ。

だが、俺の希望に反してリアは首を縦に振った。


「そのまさかです。私は自分が守り手だと知ってからもしものために家族と村人の数人に結界を張っていました。守り手の結界はただの結界師とは違い、固定された物体ではなく移動する物体にも結界を張ることができます」


なるほど、それならば人間そのものにも結界が張れるわけだ。
攻撃力は低いが、防御力に関しては付与に近い効果が生まれる。


「守り手の名の通り、結界を張った対象が結界を破られる以外の方法で死んだ場合、例えば結界を物理攻撃専用にしていた時に猛毒にやられたとすれば、結界は自然に消えます。そしてそれは私にも感じることができる。……スライムに取り込まれた段階ではまだ私の結界はすべて消えていなかった。なのに、ある日突然すべての結界が消えたんです。その時はすでに王族に養子として入っていましたので王女の権限をフル活用してその時何が起こったのか調べました」


俺は目を伏せた。
そこから先は聞かなくても分かる。


「獣人族領では何もありませんでしたが、人族の領土でそれは行われていた。呪わしい勇者召喚が。私がかけていた結界が消えるタイミングと勇者召喚のために膨大な魔力が魔方陣に注がれるタイミングが同時だったのを突き止めてから、私は一目でも勇者を見ようと人族領へ向かったのです」


そこで俺と出会ったわけだ。
ふと俺は思った。

リアは俺が勇者召喚でこちらの世界に来たことを知らないのではないだろうか。
初めて会った時、俺からリアに声をかけたが、勇者たちの列を抜けてからだった。
そして、アメリアに会う上で俺のことを調べていたとしても、“魔物を従えし者”や、不本意だが“闇の暗殺者”の名のほうだけを知っているだけで俺が召喚されたことを知らない可能性が高い。
そもそも、俺が勇者召喚された一人だと、獣人族の中で気づいたのはリンガだけだ。
エルフ族の王と知り合いとはいえ、王族になったばかりのリアとただのギルドマスターのリンガがつながっているとは考えにくい。
しかも、勇者という言葉を出す度に、リアからわずかながら殺気が出ている。
が、それは俺に向けられていなかった。

……言っておいたほうがいいのか?

魔族がどの程度の強さなのか分からないため、万が一のことも考えてリアの同行を許したが、本当は俺だけで魔族と戦うつもりだったのだ。
今更リアが抜けても大した痛手はない。
今俺も勇者召喚で召喚された者の一人だと告げても、リアが俺をどうこうできる立場ではないのだ。
だが、いつ告げよう。


「私の父が王族御用達の小物を作っている関係で身寄りのなくなった私は、守り手ということもあって王族に引き取られたのです」


リアはそう言って話を締めくくった。
難しい顔をしているであろう俺の顔を見て、リアが慌てて言う。


「話しているうちに興奮してしまって時系列がばらばらになってしまいましたが、私の昔話など大したことはないので忘れていただいて結構です」


大したことあるわ!と声を大にして言いたいところをぐっと我慢して、俺は一番気になっていることを聞いた。
俺が勇者召喚でやってきたことを告げるかはそれを聞いた後だ。


「じゃあ、アメリアに伝えなければいけないこととはなんだ?ざっくりとしたことしか聞いてないが、お前とアメリアには接点なんてないだろう」


養子に入っただけの、王位継承権もないリアがアメリアと知り合っている可能性は限りなくゼロだろう。
しかも、エルフ族と獣人族は不仲。
さらに可能性は下がる。

リアは少しためらいながら口を開いた。




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コメント

  • グータラ先生

    とても面白かったです!
    主人公かっこいい(≧∇≦)/
    続き楽しみにしてますo(*^▽^*)o

    3
  • 三日月

    早く続き読みたい…

    4
  • 雪空 霰

    買って読みました!
    面白かったので続きが楽しみです!

    4
  • ノベルバユーザー78445

    召喚元の国や王族じゃなくて、問答無用で召喚された勇者達を恨むの?

    8
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