暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが

赤井まつり

第81話 〜願い〜



夜はベッドに倒れ込む晶に慌てるが、寝ているだけだとクロウに言われ、ほっと息を吐いた。
魔力の枯渇で死に至る魔法師も少なくない。
夜が気を揉むのも当たり前だった。

人間は息をするだけで少しずつ魔力を消費しているといわれている。
あくまで魔族の考えであって、本当にそうなっているのかはわからない。
だが、一度は確実に死の淵をさ迷ったのだ。
無理だとわかってはいても、息を止めてろ!と思ってしまうのは仕方がない。


「……それにしても、よく生きていたな」


ポツリとクロウが呟く。
夜は、クロウに晶のあの現象について話そうか迷った。
魔法が自我を持っているなんて夜は考えもつかないし、晶はサランとの会話を夜たちに伝えていなかった。
よって、夜は魔法が主を回復させたなどと考えも及ばない。
ただ、主殿がおかしくなった!と思っているだけである。
だが、異様だったのは確かだし、夜一人で対処できる問題でもない。
どうしたものかと悩む夜を、クロウはじっと見ていた。


「……なんだ。相談したいことがあるならさっさと言え。俺は今から街に出てくるぞ」


クロウの冷たい瞳がベッドの上の夜を見下ろす。
さすがの夜も、その瞳に負けて語った。
晶が完全に魔力を枯渇させていて、死を待つだけの状態だったのにここまで持ち直したことを。
その時に聞いた声のことを。


「……自己回復系の魔法ではないな。そもそも枯渇している魔力をどこから補充したんだ?」


ブツブツと何かを呟いているクロウは放って、夜は晶の顔の方に近づく。
そして、晶の額に肉球を押し当てた。


「…………んぅ」
『ふむ、熱はないようだな。魔力を多く消費した者は大概熱をだすのだが』


ひんやりとした肉球に、晶は少しだけ顔をしかめる。
もぞもぞと寝返りを打った。
顔の近くにいた夜を抱き込みながら。


『……あ、主殿?…………おい、クロウ、助けろ』


流石に寝ている主に攻撃して、無理やり抜け出すわけにもいかず、しかもその主は完全に無意識だというのだから、益々手を出しにくい。
クロウに助けを求めるが、クロウはすでに部屋にいなかった。


『あの野郎………はぁ、無茶をしてくれるなよ、主殿。一応、主殿が死んだら俺も死ぬのだからな』


儀式をする前の説明で、死を恐れないこの男を面白い人間だと感じたが、今はただ、無事でいてほしいという思いが強い。
じゃないと、夜の心臓がもたないのだ。
そもそも、夜は死ぬ気などさらさらない。
魔王から伝言役として迷宮の深層へ行くことを命じられて、一度は死の覚悟を決めたが、それはその時だけだ。
どうにかして抜け出してやろうと思っていた。
まあ、こんな形で出ることにはなったのだが、面白い人間と出会えたのだから、結果オーライだ。

とにかく、夜はまだ死にたくない。
だから晶と共にいる。
一応従魔の取引を交わした身。
晶が死んだら夜も死ぬのだから、夜が晶を守れば万事解決。
……だと思っていた。
だが、この主はいろいろと厄介事や事件を呼び込む体質なのか、死にかけることもしばしばだ。
なまじ身体能力やステータスが桁違いに高いから、今回が初めて危機にさらされたように見えるが、エルフ領でも、普通の人族ならば最初の矢のあたりでもうこの世にはいなかっただろう。


『頼むから、死なないでくれ』


夜は自分を抱きしめる晶の頬に顔を寄せた。
誇り高き魔物に有るまじき行為だったが、夜は気にしていない。
迷宮の最下層のボス部屋で散々引っ付かれていたのでもう慣れた。
当初の契約通り、もふりは毎日寝る前に必ずするし。

祈るように、その体に擦り寄る。
願うように、何度も呟いた。


『死なないでくれ』


その感情が、自分が死にたくないというだけの感情でないことを、夜は気づいていなかった。

しばらくして、暖かさに誘惑されてうとうとしだした夜は晶の腕に頭を預ける。


『主、殿……』


夜が完全に寝たのを見計らってから、晶はそろそろと目を開けた。
腕の中に何かがいるのに気がついて、目覚めてしまっていたのだ。


「……大丈夫。今回みたいなことはもうしない。絶対に俺は死なない。家に帰るまではな」


そして夜を抱き枕に、もう一度深い眠りに落ちた。


「暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

  • ノベルバユーザー204569

    いや、もっかい寝るんかい!w
    てっきり こっそり迷宮にいくのかと思ったw

    0
コメントを書く