暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが
第75話 〜殲滅戦〜
晶から連絡があった後、夜とアメリアは街中を駆け回った。
自力での避難が難しいお年寄りを夜に乗せて運ぶためだ。
夜の姿を見て最初は嫌がっていたお年寄り達も、死にたくはないのか、ここからでも魔物が暴れているのが見えるようになってからは、渋々ながらも素直に夜の背中に乗ろうとしてくれた。。
『アメリア嬢、早く避難を!』
最後のひとりを乗せて、夜が尻尾でアメリアを背中に乗せようとするが、アメリアは首を振って避けた。
「ここから先の人たちはまだ避難できてない。それに、冒険者も来ていない今誰かがここに残って食い止めないと」
ほとんどすぐ側まで魔物は来ていた。
夜は迷う。
今アメリアから離れると、もしアメリアに何かあった場合、連絡手段もなく、居場所を突き止める手段もなくなってしまう。
晶が最も恐れていた状況になるのだ。
「早く行って!」
はっと我に返ると、すぐそこまで魔物は来ていた。
銀ランクのアメリアがやられるとは思えない弱小だ。
だが、言いようのない不安が胸をよぎる。
『・・・すぐに戻る』
背中にいる大勢の命を思い出して、夜は地面を蹴った。
この手は今更命を救うには汚れすぎているが、それでも、これ以上の犠牲者を出さないために。
「むしろこっちが追いかける事になるかもね」
アメリアはこちらに向かってくる魔物達に手を向けた。
「グラビティ」
放出された魔力でアメリアの髪が舞い上がる。
その胸で、銀のドッグタグが久々の戦闘に揺れていた。
「今、我が手になにもかもを燃やす大火を!・・・炎の手」
セナが詠唱をして、その間に俺が魔物立ちをひきつけ、詠唱が終わったあたりで離脱する。
魔法が完成し、セナが差し出した手から巨大な炎の手が伸び、直線上の魔物を焼き尽くした。
それでも魔物達はその穴を埋めるように集まってくる。
最前線で戦闘を始めて一時間近く経つが、魔物の数は減ることを知らない。
冒険者ギルドでヤマトたちが言っていたように、ブルート迷宮の魔物は弱点がまちまちであるために連携が必須だった。
それでもこのようなパーティ編成になったのは獣人族の特性のせいだろう。
獣人族は獣の血が入っている。
まあ、それは誰もが分かることだ。
問題は、その獣の血が少なからず性格に影響しているか事だろう。
狂暴な獣の獣人は怒りっぽく、喧嘩っ早い。
穏やかな獣の獣人は常に穏やかで、争いを嫌う。
力が強い獣の獣人はやはり力が強い。
つまり、個で生活をする獣の獣人は集団行動に向かないのだ。
パーティ編成があんなにも冒険者頼りだったのもそのためだろう。
「アキラ、数分だけ前線持たせられるか?」
余裕のないセナの声に後ろを振り返ると、セナは前線で戦っていた冒険者を二人担いでいた。
二人共虫の息で、あと少し下がるのが遅ければ死んでいたかもしれない。
俺は頷いてその冒険者から短剣を拝借した。
ちょうど振り返る時に、数々の魔物を切り裂いていたギルドから借りた短剣が粉々に砕けてしまったのだ。
その冒険者が持っている短剣が、いつまで経ってもなまる気配が見えなかったのを確認していたので、ちょっと気になっていて、この機に乗じて・・・という訳である。
少しその場で振る。
長さは俺の手から肘までくらいで、重さもちょうどいいし、かなりの業物だ。
「・・・そ、れ、あのクロウの、短剣、なんだからよ、絶対に、返しに来いよっ」
なるほど、通りで振りやすいと思った。
途切れ途切れに言う冒険者に頷き、その顔を覚える。
あの元魔王の右腕が勧めるクロウが打ったのだというのなら、かなり高かったに違いない。
そこまで金がない俺からしたら、貸してくれるだけ有難いな。
「悪いな、数分で戻る」
そう言ってセナは戦線から離脱した。
俺はニヤリと笑う。
これで、心置き無く戦える。
前線にはまだ数十人の冒険者がいるが、ここからは見えない。
向こうも、まさか黄ランクの冒険者如きが魔物を全滅させたとは思わないだろう。
俺はそっと手を前に差し出した。
「影魔法、起動」
サラン団長の言いつけ通り、俺は人の見える所では影魔法は使わない。
まあ、見られたとしても闇魔法の派生だと誤魔化せるだろうし、万が一コントロールを失って人を襲わないように気配察知は常に全開だ。
この世に顕現した影は、空より暗い黒で地面を染め、嬉しそうに俺にすりついた。
感触は一切ないが、犬に懐かれる感じがする。
「いいぞ、喰え。まあ、大した味はしないと思うけどな」
こいつが最初に喰らったのはミノタウロス。
そこからフェンリルやら、キメラやらレア度の高い魔物ばかり喰っていたから舌が肥えているかもしれないな。
影魔法が通ったところから一滴の血痕も残さず魔物が消え、それを見た魔物達は恐れをなしたかのように影魔法から我先にと逃げようとした。
だが、一寸の隙もなく詰められた間のせいで逃げるに逃げられず、仲間の体で圧死する魔物が出てくる始末だ。
「見てていい気はしないが、なかなかの光景だな」
今まで侵攻して獣人族達に恐怖を与え続けていた魔物達が今度は何やら分からないものに恐怖して押し合い圧し合い。
建物に潰されて子途切れていた獣人族や、出稼ぎに来ていて魔物に切り裂かれた人族の人達を思うと愉快な気分だ。
全力で展開していた気配察知に人が引っかかり、俺は影魔法に戻るように言った。
俺の影に入ってきた影魔法に労いの言葉をかけて、近くの魔物を切り刻む。
一匹一匹に時間をかけるとかなり面倒くさいので、丁寧に、一撃で敵を屠れるように短剣を振るう。
「悪い、アキラ!」
建物の陰から現れたセナに、俺は片手をあげて応じる。
「なんか魔物の数減ってないか?」
辺りを見回してそう言うセナに、俺はしらっと返した。
手を返して牛のような姿の魔物の喉を掻き切る。
「さあ、気づかなかったな。ここの守りがあまりにも硬いんで向こうに行ったんじゃないか?」
まあ、本当は俺の魔法が喰らい尽くしたんだけども。
流石に全部は無理で、数百匹は残ってしまったけど、二人でなら余裕で倒せる。
これならほかの場所の援護にも行けそうだ。
俺は余裕を持ってあたりを見回した。
そんな俺の横を炎の塊が通り過ぎる。
「余所見なんて、余裕だな」
「当たり前だろ?誰がここまで前線を持たせたと思ってるんだ」
軽口を叩ける位にはセナも余裕らしい。
俺はおっと声を上げた。
視線の先には、クロウから貰った材料リストに載っていた魔物がいる。
「・・・よっと、材料ゲット」
一瞬で距離を縮めて短剣を振るう。
確か採取すればいいのは爪だったか。
俺はその魔物の爪を懐に押し込んだ。
「そろそろ終わりそうだな。・・・じゃあ、余った魔力でとっておきをしようか」
いたずらっ子のようにセナが笑って詠唱を始めた。
他の魔法とは明らかに違う、詠唱をするのにも神経を尖らせているのが分かった。
俺は真剣な表情のセナに促されるままに、セナの方に魔物が行かないように細心の注意を払う。
「吹き出せ煉獄の炎、顕現し、一切を灰燼に帰さん・・・焔」
その詠唱が終わってから、辺りを見回しても何も起きなかった。
不発かと首をかしげたとき、地面が少し揺れる。
「アキラ、こっちへ」
どんどん酷くなっていく揺れに冷や汗をかく俺に、不思議な微笑みを浮かべたセナが手招きをする。
よく見ると、揺れているのは魔物達が集まっている所だけだった。
「おい、これなんだ?」
遂に気になって聞くと、セナは笑って口に人差し指を当てた。
ゴポリ、ゴポリとどこからともなく音がして、魔物達の所の揺れが激しくなる。
逃げ出してもいいはずなのに、魔物達の足は動かなかった。
ドッと何かが吹きでて、その上にいた魔物が一瞬のうちに跡形もなくなる。
魔石だけがゴトリと落ちてきた。
魔物達がザワザワと揺れる。
俺の、もはや人ではない目はそれが何か、ちゃんと捉えていた。
「あれは・・・マグマ?」
日本にいた頃に阿蘇に行ったことがあるのだが、たしかそこでこんな動画を見た気がする。
ゆっくりと動く赤いドロっとしたものが、少しずつ、でも確かに木々を飲み込んでいく様を。
「おお、意外に博識だな。そう。魔法で強制的に地上まで出して、強制的に地中へ戻す。それがこの魔法だよ」
怖い。
目の前で不可視な攻撃によって消えていく仲間を見る魔物の目は、明らかな恐怖に彩られていた。
中には敵なのに俺に懇願の視線を向けてくる馬鹿な奴もいる。
なぜ逃げ出さないのかと魔物達の足元に目を向けると、高熱で足が溶けていた。
通りで動けないわけだ。
足を構成する細胞が溶けだして隣のやつと引っ付いているのだろう。
痛みを感じれるのなら、死ぬほどの苦痛と、次は自分かという恐怖が絶え間なく襲っている魔法。
「えげつないな」
熱風がこちらまで来た。
きっと影魔法を知っている夜やアメリアがそばにいたなら、お前が言うかと突っ込んだだろう。
が、俺の影魔法は丸々飲み込んでくれるし、暗殺も後ろから恐怖を感じる間も無く一瞬だ。
こんな魔法を大規模殲滅戦に使うなんて、拷問と遜色ない。
人相手に向けられたら、そう思うと背筋がゾッとする。
俺は目を細めて、魔石を残して消えていく魔物達を見ていた。
セナの反則的なえげつない魔法のお陰もあって、俺達が任されたエリアは大方片付いた。
ようやく気が抜けるとほっとした時だった。
切羽詰まった夜から念話を受け取ったのは。
『主殿!アメリア嬢が、アメリア嬢が攫われた!!』
頭の中が、真っ白になった気がした。
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コメント
ノベルバユーザー305438
おもしろいー
異世界の白猫
いや、魔王の右腕って夜のことだからね?ようは、夜が勧めるほどの鍛冶職人ってことやろ
Kまる
クロウは元魔王じゃないの?
Eurom
え、クロウって魔王の右腕なの?
勇者の右腕では無く......?
うぇーい乁( ˙ω˙ 乁)
魔物の動物可愛そう...(´;ω;`)