暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが
第66話 ~天才鍛冶師~
朝目を開けると、目の前に美少女がいた。
数秒固まって、やっと今の状況を理解する。
そう言えば、昨日アメリアを抱きしめたまま寝たんだった。
ふかふかのベットに、女の子の柔らかい感触に、前には超絶美少女。
ここは天国か?
いや、むしろ働かさないための地獄か?
悶々と考えていると、奥のベットが軋んだ。
少しだけ体を浮かせてアメリアの向こうを覗き見ると、巨大化した夜がベットから起き上がる所だった。
『・・・』
朝が弱い夜は額に皺を寄せながら起き上がり、大きく伸びをする。
そのまま俺の後ろに回ると、俺の服をくわえてグイグイとひっぱりだした。
「あ、ちょ、夜?」
俺はアメリアを起こさないように腕を解いてアメリアから離れた。
夜は俺をベットから引きずり下ろすと、無言で服を脱がせにかかる。
俺は首をひねりながらも夜に催促されるまま、服を脱いで着替えた。
俺を着替えさせると、続いてアメリアも起こして服を着替えさせる。
「夜、どうしたの」
夜の顔を見ると、夜は欠伸を一つして、ようやく口を開く。
『昨日の夜、知り合いの鍛冶師を尋ねた。今から来るらしい』
それだけ言うと、気だるそうに自分はベットに戻っていった。
俺達は戸惑って顔を見合わせる。
「今から来るって、どうやって分かるんだ?」
揃って首をかしげていると、コンコンとドアがノックされた。
いや、かなりの勢いだったから正確にはドンドンかもしれない。
「・・・どうぞ」
一応暗器を手に忍ばせてから返事をすると、ハルと、ハルに連れられた黒猫の獣人が入ってきた。
「鍛冶師のクロウさんだよ。従魔様のお知り合いらしいから一応身体検査をしてから連れてきたよ」
クロウという獣人はベットで横になっている夜を一瞥して、それから俺とアメリアの体を舐めまわすように見た。
「あ、ああ、ありがとうハル。」
ごゆっくりとの言葉を残してハルは去っていった。
完全にハルがいなくなるのを見計らって、クロウが口を開く。
「腕はいいようだが、まだ精神の面で子供だな。あの“アドレアの悪夢”と言われたそこの魔物が従うまでもない。そっちのエルフは言わずもがなだか」
“アドレアの悪夢”?
たしか、獣人族の首都だったよな。
それに、神経を逆なでするようなとてもカチンとくる物言いだ。
『主殿、これでもこいつは恐らく、この世界一の鍛冶師だ。性格に難があってなかなか客が来ないがな』
ベットに寝そべって、壁の方を見ながら夜が呟くように言う。
俺はそれを聞いてああと納得した。
勇者しかり、天才はすべからく性格に難があるからな。
「ご説明どうも。“アドレアの悪夢”にそこまで言われると流石に照れるんだが」
全く照れた様子はないが、嬉しかったのは本当らしく、尻尾が少しだけ上がった。
なるほど、こいつツンデレか。
「初めまして、俺は織田晶。こっちはハイエルフのアメリアだ」
俺の自己紹介に、クロウは少しだけ頷いて手を出した。
首を傾げると、イラついたようにクロウは語気を強める。
「私に直して欲しいという武器を出せ」
ああと俺は“夜刀神”を出した。
“夜刀神”を見た瞬間、クロウの瞳が一瞬見開かれる。
俺はそれに気づかずにクロウの手に鞘ごと刀をのせた。
「・・・ふん。手入れは怠っていないようだが、間に合っていないな。大方、人族の迷宮にでも潜って酷使したか」
一瞥しただけで、的確に指摘するその観察眼に、アメリアが感嘆したような声を出す。
「直るか?」
俺が聞くと、クロウは首を振った。
やれやれとでも言うように。
「私を誰だと思っているんだ?ただ、材料を集めるのに苦労するだろうな」
刀を横から見たり、叩いてみたり、太陽に透かして見たりとじっくり観察しているクロウのセリフに、再び夜が解説をしてくれた。
『そいつは修繕するだけで、修繕のための材料や金は全てこちらが出さなければならない。資金の方は魔物を狩って手に入れるとして、材料の方はちと厄介だ』
へえと頷いて、クロウに視線を戻すと、刀をバラしているところだった。
ヒョイと鍔や柄などが返される。
「そちらは問題ない。刃だけ貰っていくぞ。材料のリストはそこの魔物に渡してある」
それだけ言うと去っていくクロウを、アメリアが追いかけていった。
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コメント
ノベルバユーザー302333
「すべからく」は「すべからく〜べし」の形でしか使えないよ。「〜であるべき」という意味。
「天才は性格に難があるべきだ」って意味になっちゃう。