暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが

赤井まつり

第19話 〜呪い解呪〜




空は黒く染まり、月も出ていない。
日本では今でも煌々と電気がついているのだろうが、生憎、城の周りでは城下町のきらびやかな灯りは届かず、月が隠れてしまうと、全てを闇に閉ざしていまう。

闇夜は俺の世界。
暗殺をするのに絶好の日和だった。


「……勇者様には勇者様らしい仕草を、行動を、言葉を。かの御方の道を阻む者には天罰を」

「なるほど、そうやってあの勇者に呪いをかけていたわけか」


黒く染まった水晶に手をかざしていた王女は肩を大きく震わせてこちらを見る。
王女の寝室の窓枠に足を載せて、俺はその室内に侵入した。


「……あなたは、勇者様御一行の方でしょうか。乙女の寝室に無断で侵入するとは、恥知らずもいたものです。それに、顔も隠さないとは、大した自信なのですね」

「乙女、ねぇ。恋をした相手にこちらに振り向いてもらう為に祈るのならまだしも、呪いをかけるヤンデレさんに乙女を語って欲しくないものだ。それに、顔を隠していないのはわざとだよ。城内にいた俺の顔に見覚えがないってことは、俺の『気配隠蔽』もちゃんと機能しているんだな。……よく見とけよ?これがお前の計画を邪魔した男の顔だ。俺はいつでもあんたの首を刈れる」


俺はニヤリと笑って黒く濁った水晶を掴んだ。
思った通り、触れただけでも凄まじい悪寒を感じる。
これに四六時中呪われていながら、未だに狂っていない勇者を褒めるべきか、それとも気づいていなかったことに呆れるべきか。

全てサラン団長の読み通りだった。
俺は王女に視線を固定したまま、昼間のことを思い出す。




「王女が勇者に呪いを?」


迷宮に潜り、死線を掻い潜って生き延びた翌日、俺はサラン団長から、勇者にかけられている呪いの元の、心当たりを聞いていた。

俺が刀をもらった場所、中庭に設置してある噴水の影で二人並んでぼーっと花壇に植えられている花や、花の蜜に群がる虫などを眺めている。


「はい。……いや、あの方しか居られないと言った方がいいでしょうか」

「あの王女、勇者に惚れていただろう?なんで呪いなんかかける」


腹黒王女は傍から見ても勇者にメロメロだった。
それこそ、クラスメイトの中にいる勇者の信奉者に引けを取らない程。


「女は何を考えるか良く分かりませんが、恐らく愛情の裏返しとかでは?」

「裏返りすぎだろう。それにあの呪い、下手したら命に関わるぞ」


頭の中で相反する二人が激しく争っているような感覚らしく、常に酷い頭痛が勇者を襲っているようだ。
上野さんには今も引き続き『解呪』の魔法をかけてもらっている。
効果は薄いが、これ以上に手がない。

クラスメイト達の中には、勇者が苦しんでいるのは俺が『解呪』をさせたからだと思い込んでいる奴もいるようだが、遅かれ早かれあの状態になっていただろう。
それくらい、呪いは強烈だった。


「王女、マリア・ローズ・レイティス様は幼き頃より愛情という物を知らずに育ってこられた。王妃様は王女を産んでからしばらくして亡くなり、王妃を深く愛しておられた王様は、王妃の死の遠因となった娘の存在を心の底から認めることができず、王家を存続させるための駒として扱ったのです」


娘を駒扱いねぇ。
確かに、書斎に忍び込んだ時の雰囲気はそんな感じだったように思える。


「で?愛情とは使い、使われることだと。そう育てられた王女は“使う”以外に愛情表現の仕方を知らず、呪いをかけて自らが望む“使える”勇者にあいつを仕立て上げようとした。王様に命令された通りに……というとこか?」

「恐らくそういうことでしょう」

「なるほどな。そして死の遠因……か。あんたら騎士達があの王女をやけに気にかけるのも分かった。普通なら見限られて当然のことをしておきながら、まだこの国に王様と王女がいることもな」


これだけ好き勝手やってればどこかで不満が出てくるものだ。
クーデターが起きてもおかしくなかった。
それでもそれが起きていないのは、多分王女の術かなんかで不正の証拠やらをうまく隠しているのと、事情を全て把握している騎士団が黙っているから。
騎士たちは王様と王女に何らかの引け目のようなものを感じている。
俺の勝手な推測だし、本当のことを聞く気にもなれないが、おそらく王妃が亡くなる原因は騎士団にあったのではないだろうか。
それなら騎士団が黙っている理由の説明がつく。


騎士達は、王様と王女に引け目のようなものを感じている。


「……恐らく、君が思った通りでしょう。俺達は王様と王女に負い目を感じています」

「この国は魔族が暮らしている〝ヴォルケーノ〟とは遠く離れている。そんな国が勇者召喚するのはおかしい。本来なら魔族の事も心配するべき距離じゃないはずだ」


それなのに、俺達はここ、レイティスにいる。
つまりは最初から軍事利用する気満々だったというわけだ。
確かに魔王は存在し、人族に危害を加えることもあるらしいが、それでも遠く離れたレイティスが召喚する理由がない。

なんでこんなバレバレの嘘をついたのは知らないが、本当に馬鹿なことをしたものだと思う。


「彼らの思考回路は簡単。リーダーを従えてしまえばいい。それなら、万が一バレた時でもなんとか誤魔化すことが出来るかもしれないからでしょうね」

「なるほど。……今夜のうちに片付けた方がいいだろうな」

「ツカサ君の容態を考えると、早い方がいいでしょうね。恐らく、王女は媒介となる水晶か魔石を使っているはずです。それを壊してしまえば、呪いは消えます」

「了解。俺が今日、王女の寝室に潜入して呪いを消してくる。成功したあかつきには、例のこと頼むよ」

「……いいでしょう。考えておきます。」



俺は新たに手に入れた刀、〝夜刀神〟で水晶を割った。


「これで勇者の呪いは解けた。邪魔したな」


俺は水晶の欠片を手に、再び窓枠に足をかけた。
王女の牽制のために敢えて顔を晒したが、他の人に見られるのはまずい。
さっさと退散しなくては。


「なるほど、勇者を従えさせてしまえば他はすべて従うと思っていましたが、違ったようです。他の方たちの分はいいのですか?」


見ると、他にも名札付きで勇者より小さい水晶が置いてあった。


「壊してる間に扉の向こうにいる侍女を呼ばれたら困るからな。俺はずらかるよ……いや、一つだけ聞きたいことがある。おまえ、何を思って王様の命令を聞いてんの?」

「全ては国王陛下の為に」

「……あっそ」


王女は人形のような顔を、益々人形のようにさせて呟いた。
俺は少しゾッとして、すぐにその部屋から退散する。
ああ、狂った女は嫌いだ。


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