暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが

赤井まつり

第16話 〜とっておき〜




「……全ては、俺が生き残るために」


俺がそう言うと、サラン団長はため息をついた。
それも、かなり深々と。
文句を言われるのかと身構えていると、スッと顔を上げて微笑む。


「分かりました。君が生き残るために、私も全力を尽くしましょう。……しかし、あのミノタウロスを倒すのは、私が全力を尽くしてもまだ足りない。力を貸してください」

「当たり前だろ。まだ色々と教えてもらいたいことがあるんでな」

「宜しい。……こちらも、スマホやヒコウキとやらについて詳しく聞きたいですし」

「いくらでも教えてやるよ。ここで生き残れたらな」


俺はそう言い残して、気配隠蔽を発動した。
魔眼のあるサラン団長からは見えるが、ミノタウロスからは見えなくなる。
とは言っても、ミノタウロスは騎士団の人達にかかりきりでこちらを見る余裕などないだろうが、念には念をだ。


「もし、失敗すればここにいる全員が無事にここを切り抜けることが難しくなります。気をつけて」

「分かってる」


暗殺者の職業で最早人外となった跳躍力にものを言わせてミノタウロスの頭上を越え、一気に後ろをとった。
気配を消した俺と、何やら魔力を高めて集中しているサラン団長に、ミノタウロスの足止めをしていた騎士団は何をするのかを察して一目散に逃げた。

懸命な判断だ。
サラン団長との訓練でこの連携技をした時、コントロール出来なくて、危うく森を一つ消滅させてしまう所だったのだ。

俺はミノタウロスが後ろを向いているとはいえ、目の前にいるが、構わず目を閉じる。


「主よ、我に力を、我らを阻む敵を根こそぎ狩りとる力を……『雷光』」


光の雷がミノタウロスに降り注ぎ、毛の生えた皮膚を焼き、目を潰した。


『グァァァァァァァァァァ!!!!』


ミノタウロスに初めて攻撃がまともに通った。
クラスメイト達が歓声をあげる。


「……っ!今です!!」


サラン団長の言葉に、俺は今まで閉じていた目を開ける。
手を前に差し出した。


「……『影魔法』起動」


影が、爆発した。

もちろん、文字通り破裂したのではない。
辺り一面を影が覆い、『雷光』で明るくなった迷宮を一瞬にして黒く染めたのだ。
光が強くなれば影はさらに濃くなる。
しかし暗闇であるはずなのに、不思議と周りは見回せた。
ミノタウロスも少し不思議そうにしただけで、目の前にいるサラン団長を襲おうとする。


「引きずり込め」


だが、俺の言葉にピタリと足を止めた。
正確には止めさせられたのだが、傍から見れば俺がミノタウロスを引き止めたように見えただろう。


『グっ!?……グォォォォォ!!!!?』


そして俺の言葉通り、ミノタウロスは影に引きずり込まれた。
その頭部だけを残して。


「…………」


ミノタウロスを飲み込んだ影は仕事は終わったとばかりに小さく縮んでいき、最後には人一人分ほどの大きさ、つまり俺の影として足元に収まった。

クラスメイト達は歓声を上げるでもなく、ただ呆然とミノタウロスの巨体があった場所を凝視している。

騎士団の人達とサラン団長は成功したことにほっと息をついていた。


「……はぁ、帰りてぇ。」


俺はそう呟き、再び気配を消した。
クラスメイトにつつかれるのはゴメンだ。
それに、変な目で見られるのも好きじゃない。


それを察したサラン団長は苦笑いをして、手を2回叩いた。
澄んだ拍手の音がボーッとしていたクラスメイト達の意識を我に帰らせる。


「一番の脅威が去ったとはいえ、まだ迷宮の中です。何があるか分かりません。今日はここまでで帰りますので、帰りの道のりでもくれぐれも気を抜かずに」


ミノタウロスの頭部は騎士団の人が抱え、勇者は友人に背負われて迷宮を脱した。

俺はその後ろを、これからのことを考えながら付いていく。

実力を隠すことはもう出来ない。
問題はどれくらいで王様に伝わるか、どれくらいの強さと報告されるかによる。

……勇者の呪いを解除した後で、少し行方をくらませた方がいいかもしれない。


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