TSカリスマライフ! ―カリスマスキルを貰ったので、新しい私は好きに生きることにする。―

夕月かなで

ファンクラブ、激動中。

 ある冬の日、桜望さくらもち学園の職員室にある電話が鳴り響きました。

「はい、こちら桜望学園でございます」

 私はその電話を取って相手の所属と役職を聞き、驚きの声を上げてメモをしていきます。
 ファンサイトが立ち上がってから数日、いくらなんでも情報網に引っかかるのが早すぎではないでしょうか。
 そして通話を終えた私は転けそうになりながらも職員室の先生方に声を掛けました。

「み、皆さん! 大変です!」

 そして翌日の朝、私はファンクラブの皆を招集して千佳ちゃんへとビデオ通話を繋げる事となったのです。



『それで、どうしたの?』
「愛たちも聞かされてないんだ。柚梨ちゃん、何かあったんですか?」
「またグッズでも出来たんかー?」

 体育館の大きなスクリーンに映されたドイツの千佳ちゃんと、ファンクラブ幹部筆頭である私が担任しているクラスの生徒の愛ちゃんと湖月ちゃんが声を上げました。
 それに続いて他のファンクラブ会員からも様々な声が上がりますが、私は手を打ち鳴らして静かにしてもらいます。

「皆さんお静かに。本日は大変な事案が上がりましたので千佳ちゃんにお伝えしなければならなくなりました」
『……何故私に伝えるだけでファンクラブ全員が集まるの?』
「千佳ちゃんの事は愛たちの事もあるんだよ!」
『あ、はい。そうですか』

 何だか千佳ちゃんが引いているような気がしますが、私は一呼吸置いてからメモを読み上げました。

「先日、学校に四通の連絡が入りました。どれも有名な芸能事務所です」
「ま、まさか!? 千佳ちゃんのスカウト!?」
「その通りです。どうやら千佳ちゃんの事を知った芸能事務所たちが挙ってスカウトしようとしているそうです。しかも電話を掛けて来たのはそれぞれの社長自らです」

 口を開いて固まっていた千佳ちゃんが回復して、額に汗をかきながら彼女を映しているカメラに顔を近づけました。
 それによってスクリーンに映る千佳ちゃんがアップになり、ファンクラブの子たちが一気に歓声を上げます。

『……私、そんな目に付く事したっけ? してないよね? ね?』
「ファンサイトもまだそこまで広まっていませんから私もおかしいと思ったんです。そこで各社長から何処で千佳ちゃんの事を知ったのか教えていただきました」
『それで、一体どうして?』
「桜望理事長が大御所が集まるパーティーで千佳ちゃんの事を自慢し回ったそうです。ツーショットの写真を見せびらかして」
『愛架ちゃあああああああああああん!?』

 そう、資産家でこの学園の理事長でもある桜望愛架さんがこの事件の原因だったのです!
 因みにこの件について桜望理事長からは。

「アイドルの千佳ちゃん……良いっ!!」

 とのコメントを頂きましたが、これは千佳ちゃんに伝えない方がいいでしょう。
 多分桜望理事長は千佳ちゃんに怒られる事もご褒美でしょうから……。

『えっと、それでその、私はどうすればいいの?』
「私としては千佳ちゃんにはまだ早いと思うのですが……」
『まだ?』
「千佳ちゃんはウチらの千佳ちゃんや! 地上波デビューはまだ早いで!」
『今まだって言ったよね?』
「千佳ちゃんの衣装、皆で考えておくね!」
『愛ちゃんだけ前向きな検討をしてる!? 私はアイドルにならないからね!?』

 千佳ちゃんのアイドル駄目発言に体育館はブーイングの嵐です。
 私もそれに参加したい所ですが、此処は大人で先生である私が止めなければならないでしょう。

「皆さん、千佳ちゃんの意思が一番大事ですからね!」
『そうだよ! 柚梨ちゃんの言うとおり! とりあえずそのスカウトは全部無しで!』
「ええー!?」

 ファンクラブの皆は残念そうに声を上げましたが、今は我慢してもらいましょう。
 ……湖月ちゃんはさっき反対してましたよね? どうして残念がってるんですか?

「ではそのように連絡しておきますね。では千佳ちゃん、よいお年を」
『お願いします。皆! よいお年を!』

 手を挙げたりその場に飛び跳ねたりしてカメラ越しの千佳ちゃんによいお年を、と伝えていきます。
 そして通話を切り、スクリーンには私が桜望理事長の要望で作成したスライドを表示しました。
 そこに書かれているのは。

「さて皆さん! 千佳ちゃんアイドル化計画を始動します! 手始めにこの体育館でステージをしてもらいましょう!」
「うおおおおー! ウチも手伝うで!」
「柚梨ちゃん、だからすんなりと受け入れたんだね!」

 うふふ、千佳ちゃんにはもっと可愛い格好をして可愛い歌を歌ってもらうのです。
 千佳ちゃんは皆で泣き落とせば我が儘を聞いてくれる子ですから、段取りさえ整えてしまえばこちらのものです!

「桜望理事長から色々な伝手を借りれるので、どんどんアイデアを出して下さいね!」

 通話を終えた千佳が、何故か背筋が寒くなって恵に心配されるのは言うまでも無かった。

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