進化上等~最強になってクラスの奴らを見返してやります!~
第四十二話 不信感
私の放った矢が、劣等竜の頭を射抜く。
私はすぐに次の矢を番える。
愚直に突っ込んでくる劣等竜をひたすら射抜きながら、一緒に戦っているクラスメイトを横目に見る。
何もないところを踏みしめて空を飛び交い、(ガントレットを付けているとはいえ)素手で竜を殴り殺している南海。
帝国兵とタイマンで挑み、刀一本でバッタバッタと斬り進んでいく静香。
そんな逞しすぎる友達を見て、呆れつつも頼もしく感じている自分自身に驚く。
私は家庭の事情上、安易に人を信用することができなかった。
人の心を読むことばかりをしていた私は、中学に上がるころには、人の善意や悪意などがすぐにわかるようになってしまった。
憎悪、殺意、怨恨、嫉妬、恐怖、侮蔑、拒絶、エトセトラ。
そんな悪意満ち溢れた感情にさらされ続けた私は、自分の本心を他人に見せることが一切なくなった。
陰気じみた私は自分自身に嫌気が差し、でもどうすることもできない自分にまた腹が立つという悪循環に陥っていた。
何度か自殺しようとしても、心のどこかで救って欲しいと願っているのだろう。
いつしか自殺しようとする気概も失ってしまった。
そんな私が考え出したのは、今の自分を心の奥底にしまい込むことだった。
私自身が変われば、もうこんなことにはならない。
そんな考えから、私は志望する高校を地元の学校から他府県の学校に変え、一人暮らしするために最低限の出席日数と点数を満たし、バイトを掛け持ちしながらお金を貯めた。
そうして無事中学校を卒業し、他府県の学校に進学したのだ。
そこで私は新しい人生の門出ということで、今までの自分を封印し、新しい自分に生まれ変わろうとした。
実際、進学した学校での私の評価は結構高いほうで、以前とは比べ物にならないくらいに友達も増えた。
南海も静香も海城だって、私の友達だ。
でも、彼ら三人が最も信頼を寄せている人物―――――海崎晃だけは、どうしても友達になることができなかった。
別に嫌いなわけでもない。彼に悪意を寄せられているわけでもない。
なのに、彼だけはどうしても友達になろうとは思わなかった。
この感情を一言で表すとするなら―――――不信感。
友人たちに囲まれて浮かべているその笑顔が、どうしても薄っぺらい感じてしまうのだ。
もちろん、これは私だけ感じるのであって、ほかの人がそう感じているとは微塵も思っていない。
そして彼と一年を共にし、高校二年生となった。
彼とはまた同じクラスになってしまったが、南海と静香、あと海城君が一緒だから構わないのだけれど。
二年生となってからも、特に何事もなく、平凡とした日常を送っていた。
あの日が来るまでは。
あの日―――――異世界、名前は確しかアルティリオス……だったかな? まあとにかく、魔法が存在して科学が存在しない世界で、私たちは無事に元の世界に戻るために行動を開始した。
全員が強力なステータスを持っているのに対し、海崎晃は正直に言ってゴミとしか言いようがないステータスだった。
スキルも各能力値も最底辺であり、町の子供に殴られただけで死んでしまうのではないかというステータスだった。
にもかかわらず、彼は大して慌てることもなく、落ち着いた様子で一週間素直に訓練を受けていた。
ステータス自体は低いものの、武術の心得があるのか、動きはプロのソレだったし、剣の扱いも素人目だがとても巧かった。
でも、クラスの中でもかなり面倒、というか鬱陶しいヤンキー組に虐められて抵抗もしなかったところを見たときは疑問だったが。
だがそれも、今ならわかる気がする。
これは私の憶測でしかないが、彼はスキルを得るために、敢えて抵抗せずにされるがままになっていたのではないだろうか。
後で勉強して知ったことだが、スキル習得にはいろいろな条件がある。
魔法攻撃を受け続けることによって得られる魔法耐性スキル。
物理攻撃を受け続けることによって得られる物理耐性スキル。
剣を扱い続けることによって得られる剣術スキル。
魔力を感知することで得られる魔力感知スキルなど、こういった行動を経てスキルを得ることやレベルを上げたりすることができる。
唯一の例外が、本人のレベル上昇によってステータス及びスキルレベルが上昇するということがわかっているが、この際それは置いておくとして。
彼が何の抵抗もせずに暴力を受け続けていたのは、スキルの習得とレベル上昇のためではないだろうか。
いくらいじめがひどくなっていっても、この国のお医者さんが怪我を治してくれいたから、そこまで大事にならなかったわけだし、スキル習得はかなり効率的に進んでいたのではなかろうか。
余談ではあるが、この国のお医者さんはすごい。現実世界では治すのに時間がかかりそうな怪我でも、その人のスキルレベルにもよるが短時間で治療が完了してしまうのだ。
魔法様々である。
閑話休題。
彼がそんないじめを受けてもうすでに一周間が過ぎた頃。
友達と一緒にダンジョンに潜り、いち早くクリアした私たちは各自に与えられた部屋で休息をとっていた。
いくらステータス値が高いと言っても、あまりアウトドア派ではない私にとってはかなり大変なものであった。
そうして夕方ごろまで仮眠をとり、おなかが減ったのでご飯を食べに食堂にいくと、なんだか騒がしかった。
「なになに? 何かあったの?」
私は近くにいたクラスメイトの一人である秋原紅葉に聞く。
「あ! 咲ちゃん。静香ちゃんたちのパーティーがさっき帰ってきたんだけど、最初は8人いたはずなのになんでメンバーが三人まで減ってるのか聞いたらね? 海崎君がほかの四人にだまし討ちされて、怒っちゃった静香ちゃんがその4人を殺しちゃったんだってー。その4人っていうのが」
「クラスで浮いてた不良4人組ってわけね……」
咲ちゃんよくわかったねー、という間の抜けた声を聞き流しながら、私は騒ぎの中心人物である静香に目を向ける。
静香は顔を下に向けているため表情は窺うことはできないが、
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*
*
*
~晃side~
「これで―――――ラストッッ!」
最後の上位竜を首を刎ね飛ばし、ゆっくりと息を吐きながら周りを見渡す。
力加減を覚えるためにかなり手加減して相手していたせいか、周りはドラゴンのブレスによって街がかなり悲惨な事態に…………。
こうなった理由は俺のせいでもあるので、ちゃんと鎮火もする。じゃないと助けた意味がないからな。
「【タイダルウェイブ】。これで何とかなるだろう」
【タイダルウェイブ】
魔法の中でも初期に覚えられる魔法なのだが、同系統の【ウォーター】とは比べ物にならないほどの水量を誇る。
使える場面もかなり限定的なものであり、制御も初級魔法にしてはかなり厳しく、中級クラスの魔法師でやっと制御できるレベルである。
そういったことから、この魔法はハズレ魔法と呼ばれ、好んで使う者は滅多にいない。
だが、現在のような大火災に陥ってしまった場合は、この魔法が唯一光場面である。
10秒ほどで消火を終わらせ、静香たちの気配を探る。
ここから離れた場所で魔族と戦っているのだろう。
俺も静香たちの加勢に向かおうとしたところで―――――ふと視界の端に何かが映った。
あれは……もしかして学生か?
全てが記されし禁書で学生らしきものたちの服装を鑑定する。
メルトリック魔法学院男子制服(魔術刻印付与)
メルトリック魔法学院で使用される男子用制服。
制服には魔術刻印と呼ばれる特殊な魔法が組み込まれており、物理耐性・魔法耐性の効果を発動する。
非常に性能がよく、そこら辺にある防具よりよっぽど有能である。
メルトリック魔法学院女子制服(魔術刻印付与)
メルトリック魔法学院で使用される女子用制服。
制服には魔術刻印と呼ばれる特殊な魔法が組み込まれており、物理耐性・魔法耐性の効果を発揮する。
非常に性能がよく、そこら辺にある防具よりよっぽど有能である。
なるほど。男子制服と女子制服の性能差はないのか。
この説明だけ見ればどれほどの効果かイマイチわかりにくいが、実際目にしてみると結構すごい。
弱い部類に入るとはいえ、自分たちには身に余るであろう魔族の攻撃をギリギリで耐え忍び、隙があれば攻撃を加えている。
このまま放置してもいずれ学生たちが勝ちそうなものだが、誰か一人は道連れにされるだろう。
そうわかっているのに見殺しにするのも寝覚めが悪いで、助けるとしますか!
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