進化上等~最強になってクラスの奴らを見返してやります!~
第四十一話 大変お待たせしましたッッ!!
静香たちの方に向かおうとするが、まるでそれを阻止するかのように上位竜が道を阻む。
その数、まさに二十体以上。
いくら極神級の実力を持つ晃であっても、この街に被害を及ばさない範囲での戦闘となるとなかなかに苦戦するほどには強い魔物である。
リーナには他の魔物の相手を頼んでいるから後ろから奇襲を受けることはないとはいえ(そもそもこの程度のレベルなら奇襲されても十分に対応できるのだが)、のんびりしてたら魔族たちが此処に到着してしまう。
それまでに上位竜を手加減しながら倒さなければならない。
「まったく、本気を出せないというのも難儀なものだな……」
悪態をつきながら、右手に魔力を搔き集める。
「来い、奇絶の三又槍」
奇絶の三又槍。
海崎晃の魔力によって創られた魔槍。
ただの魔力で生成されたものではなく、魔物の素材を使用して生成しているため、本来の魔槍よりも非常に強力な武器となっている。
魔槍である奇絶の三又槍の生成に使用した魔物の素材は、
雷獅子、炎鬼、氷猿の三体である
この三体はいずれも以前俺が落ちたダンジョンの階層のボス的な魔物であり、ネームドモンスター、つまり名前付きの魔物である。
後から知ったのだが、ネームドモンスターは同種の魔物よりも数倍の力を持つと言われており、討伐するには大規模なレイドが組まれるらしい。
リーナに「そんな化物みたいな魔物を単独で討伐するヒカルの方がよっぽど化物」と言われてかなりショックを受けたのはここだけの秘密。
まあそれはさておくとして。
三体のネームドモンスターの素材を使用して創られた魔槍である奇絶の三又槍は、素材が素材なだけに一振りで尋常じゃない破壊力を誇る。
天災をそのまま形にしたといっても過言ではないだろう。
一度天界でこの槍を使ったとき、ミルティスさんに、
「絶対にソレを下界で使わないでください。使うとしても絶ッッッッ対に全力で使わないでください」
念を押されたのである。
「街に被害を出さずに倒すのは難しそうだが、手加減を覚える丁度いい機会だ。てめぇら全員練習相手になってもらうぜッ」
俺は奇絶の三又槍を上段に構える。
最小限の動作のみで、離れた相手を串刺しにする槍最大のアドバンテージは、移動速度が速い相手に対してはあまり意味がない。
そのため、その長いリーチを活かした、薙ぎ払いや叩き落すことによって、その弱点をカバーする。
突き攻撃よりは隙ができてしまうのが弱点ではあるものの、足元を崩すことや相手の武器を叩き落すなどといった、幅広い手段で攻撃が可能となる。
今回のような、空を飛ぶ巨体な化物を相手にすることは想定してはいないものの、相手を懐まで飛び込ませる隙を与えることのない攻撃手段としては有効である。
俺はホバリングしている正面の上位竜に向かって【天歩】を使い、頭上に移動する。
俺の姿を見失った上位竜は俺を探すために辺りを見回そうとするが、それは叶わなかった。
何故なら、俺の手によって首を切断され、絶命しているから。
俺の手にする奇絶の三又槍は、確かに三又槍というだけあって貫通攻撃に主体を置く武器ではある。
先ほども説明したとおり、貫通力に重きを置く武器には斬撃は放てない。
あたりまえである。
ではなぜ、俺はさっきの上位竜の首を切断できたのかというと、槍を振る速さがポイントである。
みんなは、段ボールを正方形に切り取り、真ん中に糸を通して回転させるというおもちゃを作ったことはあるだろうか?
糸を捻っていくことによって負荷がかかり、左右に引っ張ると糸が元に戻ろうして段ボールが高速に回転するというおもちゃである。
回転する段ボールに紙を近づけると紙が切断できるのだ。
理屈としてはそれと同じである。
振る速度が速ければ速いほど、切断する力は強まっていく。
今回は俺の全力の5割ほどの力で振ってみたのだが、結果は見ての通り。
残りの上位竜たちは最初に殺された奴を見て、怒りMAXと言った風に暴れながらこちらに攻撃を仕掛けてくる。
十体程度なら何とかなるのだが、流石に二十体となると鬱陶しくなるな……。
俺は全ての攻撃をいなしながら、一体一体丁寧に殺して回ることにした。
もちろん死体の回収は忘れずにな。
*
*
*
*
*
~リーナside~
 ヒカルが上位竜を相手にしている間、私はハーピーの大群と相対していた。
ハーピー。
別名鳥人間とも呼ばれるこの魔物は、防御力が低い代わりに素早い動きで相手を攪乱し、隙をついて攻撃するという、冒険者の間では初心者殺しとも言われている魔物である。
上級ランクの冒険者でも、油断すれば命の危険があると言われており、発見した際には徹底的には以上することが冒険者ギルドの鉄則なのだそうだ。
実際に目にするとわかる。
一体だけならあまり強くないのだが、群れになると脅威レベルが跳ね上がる。
しかも、今回はハーピーの上位種、『ハーピークイーン』と呼ばれる魔物までいる。
「…………めんどう」
正直今すぐにでも大規模魔法でまとめて消したいのだが、それをすると街に大きすぎる被害が出てしまうため、力をセーブしながらアレを倒さなければならない。
「堕天翼武装、展開。顕現せよ、堕神闇槍・堕天空盾」
私の右手に堕神闇槍が、私を囲むように浮遊する堕天空盾。
いつもこの武器を握って思うのだが、なぜこの武器はドクン、ドクンと脈を打っているのだろうか。
ヒカル曰く、
「このレベルの武器になってくると、武器自体に意思を宿すようになるんだ。この武器はまだ生まればかりだから意思疎通はできないけど、使い続ければいつか目覚めると思うぜ」
とのことだ。
『堕神闇槍』という名前だけあって、この槍の見た目はかなり凶悪である。
全体的に黒く、所々に赤い筋のようなものが走っており、傍から見ればやりこの武器自体が生きているように見えるかもしれない。
まあ、実際に生きているわけだが。
絶神鋼とヒュドラ、オロチの素材を使用して創られたこの武器は、狂魔法と魔物だけが持つ毒属性を秘めており、一掠りするだけで猛毒が侵入して体を蝕む、かなりえげつない武器なのである。
それだけではなく、この武器は槍を含めた十一種類の形状に変化する。
大剣。
長剣。
短剣。
槍。
銃槍。
斧
槌
弓
鎌
鞭
大砲
以上十一の武器が組み込まれている。
ヒカルはもっと武器を組み込みたかったらしいが、私ではこのくらいじゃないと扱いきれないと言って断念してもらった。かなり悲しそうな顔をしていたので許してしまいそうだったが、鋼の精神で押し殺した。
ヒカルはもう少し自分の姿のことを考えてほしい。いつか私に食われるぞ。
そんなどうでもいいことを考えていると、ハーピーたちが上から刃羽の雨を降らせてきた。
ものすごい数の羽だが、この堕天空盾の前では無力!
ガキィィン! という音が鳴り響く中、私は堕神闇槍の穂先をゆっくりとハーピーたちに向ける。
「堕神闇槍、モード変形―――――大砲」
槍の形状から大砲の形状へと変化する。
大砲の名前は確か、プ、プムハー…………なんちゃらとかいう、ヒカルのいた世界で巨大兵器として恐れられていた武器らしい。
ヒカルが「着火するのに火種が必要にならないから弾を打つのはずいぶんと楽になるな」と呟いていた。 ヒカルの世界には魔法がないらしいので、この大砲も弾を打つのに大変苦労するらしい。
いや、今はそんなことよりも早くアレを消してしまわねば。
私は魔力を大砲に詰め込んでいく。
発射するのは氷魔法。
ある程度溜まったら、的を狙って―――――
「撃つ」
クリスタルの塊がハーピーに向かって飛んでいく。
ハーピーたちは余裕をもって回避行動をとるが、別にお前たちを狙ったわけじゃない。
「遅延魔法解放」
遅延術式解放。
文字通り、魔法の発動を遅らせ、自分の好きのタイミングで魔法を解き放つ魔法である。
ディスペルはもともと全ての種族が使えるスキルなのだが、今までこの眼で使っている者を見たことがない。
ヒカルにその話をしてみると、ポカンと呆けた表情でこちらを見つめてきた。
ヒカルはそんな魔法があったことを知らなかったのか、根掘り葉掘り聞かれた。
私の話を聞いてたヒカルの目は随分とキラキラしたものだった。
あの目をしているときのヒカル可愛かったなぁ~。
っと、いけないいけない。晃のことになるとすぐに脱線してしまう。
私は再び空を見上げる。
攻撃手段としては単純で、空を飛ぶことに特化したハーピー相手では、あの攻撃は簡単に避けられてしまうだろう。
だが今回の場合、必ずしも弾を敵に当てる必要がない。
「冰魔法【フリージア・ブロッサム】」
空に、大輪の花が咲き誇る。
【フリージア・ブロッサム】
全ての魔法の中で、最も美しいと言われる魔法。
中心から包み込むようにして対象を凍らせ、花開くときには全てが凍り付いた後。
指をパチンとならせば、氷の花と一緒にハーピーたちも砕け散った。
中身まで完全に凍っていたのか、血の塊みたいなものが下に落ちてくる。
私はそれらをよけながら、いまだ空に漂っている的を見る。
さっきの攻撃をよけきれなかったのか、ところどころが凍っているが、そんなことはお構いなしとばかりにこちらに刃羽を飛ばしてくる。
「モード変形、大剣」
私はそれを堕天空盾で防ぎながら、堕神闇槍を大剣に変える。
ハーピークイーンは私から一定の距離を保ちながら、決して私を近づけまいと全力で攻撃する。おそらくこれ以上離れると攻撃が届かないのだろう。
そう判断した私は、腰を深く落として、剣を肩に担ぐ。
そして、足のバネを全力で使ってジャンプする。
流石にこの行動を予想していなかったのか、ハーピークイーンの攻撃が止んだ。
その瞬間、肩に担いでいた大剣を上段に振りかぶり、全力で振り下ろす。
ハーピークイーンは何もできずに叩き潰された。
私はその亡骸に近づく。
ハーピーから獲れる主な素材としては、ハーピーの羽や骨、脳や眼球などである。
羽は衣類や防具に、骨はスープの出しに使われ、脳や眼球はポーションなどのアイテム作成に利用される。
私が真っ二つにしたハーピーは羽が所々凍っており、脳も真っ二つになっているので取り出すのは無理。
とりあえず眼球を抉り取る。
眼球を取り出すには専用の機器が必要なのだが、今はそんなものを持っていないので、素手で慎重に取り出す必要がある。
ゆっくりと眼球を引き抜き、首飾りに付与されている無限収納の中に収納できる。
無限収納には時間停止の効果があるので腐ることもないだろう。
素材も回収できたことだし、早くヒカルのところへ。
そう思った直後、
ヒュンッ――――――。
「!!?」
私は咄嗟に上体を逸らしながら、ついさっきまで私の頭があった位置にナニカが高速で通り過ぎるのを見た。
咄嗟に堕天空盾で壁を作り、堕神闇槍を銃槍に変形させる。
私が驚愕したのは、自分がギリギリでしか反応できない攻撃をされたことや、高速で飛翔する何かをとらえることができなかったからではない。
先ほどまで何もなかった場所から突然殺気とともに自分を攻撃したのだ。
しかもかなり近いところから。
「面倒……」
私は堕天空盾の間から銃槍を覗かせ、躊躇いなく撃つ。
この程度の攻撃では恐らく相手に届かないだろう。
だがそれでも構わない。
もとより当てるつもりなどない。姿が見れれば御の字――――――ッ!
私は咄嗟に盾を頭上に構える。
ガキィィン!
火花を散らしながら落ちてくるソレをちらりとみやり、先ほど飛んで行ったものの正体を知る。
「あの短い矢……たぶん、吹き矢…………」
弩が普及しているこの時代で、弓ならともかく吹き矢を使う職業なんて、限りなく少ない。
相手はおそらく暗殺者。
誰が対象なのかはわからないが、ここで潰しておいたほうがいいかもしれない。
「電魔法【パルス・ブースト】」
【パルス・ブースト】
自身の肉体に付与する魔法の中でも、最も使用されることの多い魔法。
自身の中にある微弱なパルスを電を流し込むことによって超活性させ、身体能力の大幅強化や、五感が鋭敏になったりなど、汎用性の高い魔法である。
私は視覚を強化して、暗殺者の姿を確認する。
「………………見えた」
姿を捉えた瞬間、弾を発射する。
それと同時に、黒魔法を発動する。
使用するのは【シャドウ・ダイブ】と呼ばれる、黒魔法の中でも初期に覚えられる魔法である。
文字通り影に潜ることができる魔法であり、影がある限り何処まで移動できる魔法だ。
但し時間が制限が設けられており、個人差はあるものの、だいたい30秒と言われている。
ちなみに私は25秒くらいである。
影に潜って何をするのかと言えば、ユニークスキルである【魔封印】を使おうという魂胆だ。
この【魔封印】と呼ばれるスキルは、相手一人に対して魔力を封印、いわば制限する魔法である。
能力が強力なだけあって、効果範囲もかなり狭く、自分と相手の距離が5m範囲内でなければ発動することができない。
ただ、このスキルには抜け道があり、スキルの力を下げることで効果範囲を広げられることができるのだ。
完全には防げないものの、魔法を打たせること自体を防ぐことができるため、非常に強力なスキルであることには変わりない。
それに先ほど撃った銃弾。
あれには魔法が込められており、発射してから数秒後、強烈な光を放つように設定している。
強い光を放てば影が濃くなり、影に潜れる深さも変わる。
深く影に潜れば、相手の察知系スキルに引っかかるリスクもかなり減る。
一か八かの賭けではあったが……どうやらこの賭けは私が勝ったらしい。
私はすぐに魔力を練りあげ、準備する。
この作戦が失敗すれば、最悪死ぬことになるはずなのだが……なぜだか笑みを浮かべてしまう。
「…………勝負」
今、世界でもっとも面倒な泥試合が、今ここに開幕しようとしていた。
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