進化上等~最強になってクラスの奴らを見返してやります!~

三浦涼桜

第四十話 みんなの武器が凶悪です

~南海side~

 真っ先に動いたのは咲だった。
 咲が装着している弓―――――フィルカシーナは矢を必要とせず、代わりに魔力を矢の形に収束させて放つという武器である。
 矢というコストが必要なく、魔力が続く限り何度でも撃てるというこの武器は、かなり高い性能を持っている代わりに厄介な性質を持つ。

 咲はゆるーい感じの活発系美少女なのではあるが、彼女の本質は冷酷な女王のソレである。

 必要だと思えば、たとえ肉親であろうと簡単に売り払うことができ。
 必要であれば、たとえ恋人だろうと平然と裏切ることができる。

 そんな冷酷な彼女の本質を知る者は、少なくとも私たちのクラスの中でも私と静香くらいじゃないだろうか。

 それはさておくとして、フィルカシーナが使用者に求めるもの、それは残虐性と冷酷さである。
 フィルカシーナは、エルフたちの人骨で作られた弓であり、その弓は強い殺意や悪意、怨恨などが染みついている。
 一般人が触れば、一瞬のうちに体を乗っ取られて身近にいる人を皆殺しにするであろう強力な魔弓だ。
 実際に咲もその例に漏れず、肉体を乗っ取られはしたのだ。
 したのだが。
 乗っ取られた時間はたった十秒程度だったのだ。

 本人曰く、
「確かに一瞬だけ乗っ取られたけど、別にそこまでひどいものじゃなかったよ~」
 などと平然と言ってのけた。
 さらには、彼女はその弓を使いこなし、様々な魔物を討伐していった。
 遠距離から攻撃などされれば、接近戦オンリーの私では歯が立たない相手である。

 そんな彼女が今、今までにないほど真剣な表情で弦を引き絞っている。
 狙うは劣等竜レッサードラゴン
 限界まで弦を引き絞り、青白い矢が輝きを増していく。
 それはどんどん大きくなり、やがてそれが5mを超えようとしたとき―――――

 ヒュンッ。

 そんな音を残し、青白く輝く矢は劣等竜にまでたどり着き、爆発・・した。

 流石にこれには私もびっくりである。静かでさえポカンとした表情を浮かべている。
「うん? どうしたの二人とも、そんな呆けたような顔して」
「どうしたもこうしたもあるか! 爆発するならそう言ってくれよ!」
 今の爆発でこっちの存在を感知されちまったな。これじゃ奇襲できそうにないな。

「しゃーねー。こうなったら正面突破だ。覚悟は……って、聞くまでもないか」
「当たり前ですよ南海。なんとしてでもこの国を守って見せます」
「やる気があるって言ったら嘘になるけど~、友達の頼みを断れるほど、私もそこまで図太くもないし~。だからできるだけ努力はするよ?」

 いつも通りの雰囲気を保っている二人に私は少しだけ笑うことができた。
「じゃ、相手方も痺れを切らしてるだろうし、そろそろ始めますかね」
 私はそう言って劣等竜レッサードラゴンに向かって突進する。

 劣等竜も私を食い殺そうと私目掛けて全力で突進してくる。
「いくら竜とはいえ所詮は畜生、羽の生えたトカゲのデカい版でしかない」
 愚直にまっすぐ突っ込んでくる劣等竜をギリギリで回避して拳を構え、放つ―――――!
 ドゴッッッ!! という音を響かせながら、竜の体の側面に直径50センチほどの風穴ができていた。

 なんてことはない。ただの正拳突きである。
 まあ、ただのという割には魔力を込めて威力を上げたりしているので、一般人に打てば風穴どころでは済まないのだが。
「いやぁ~、いつ見てもすごいね~」
 咲が感心したような声を上げる。
「これくらいなら私じゃなくてもできるだろ?」
「いやいや無理無理。少なくとも私にはできない」

 そう言いながら咲は空に浮かぶ魔物たちをバンバン打ち抜いている。
 私から言わせれば咲も結構規格外だと思うんだけど。

 私はガントレットの装飾である紅色の宝玉の一つを取り外し、腰にぶら下げているケースから蒼色の宝玉を装着する。 

 宝玉巨腕ギガントカラー。それが私の得物である。
 この宝玉巨腕には左右に三つ、計六つの宝玉があしらわれている。
 宝玉には一つ一つ強力な魔法が込められており、装着されている三つの宝玉の魔法を組み合わせることによって、既存していない、全く新しい魔法を編み出すことができる。
 強いことは強いのだが、宝玉の力が強すぎて誰の手にも余るようなものだったから私が使ってみたら見事私とぴったり波長が合うことが分かったので、現在まで使用している。

 確かに力の制御が難しいが、きちんと扱えばちゃんと手加減できるようにはなった。

「まだまだこれからぁぁぁああ!!」
 左右のガントレットに装着されている紅色と蒼色の宝玉に魔力を込める。

 ―――――コォォォォン―――――
 という音が響き、だんだんと宝玉に魔力が蓄積される
 火魔法でも水魔法でもない、熱で敵を攻撃する私だけの新しい魔法。火魔法と水魔法を合成させて作り上げた、いわば熱魔法とでも名付けようか。
 水蒸気によって相手を攻撃するので、例え相手が硬い鱗で覆われていたとしても、蒸し焼きにして殺すことができる。

 五体ほどの劣等竜を巻き込んで蒸し焼きにした。

 咲が次々と魔物を打ち落としていくのを尻目に、静香の方に目を向ける。
 ちょうど帝国兵とぶつかるようだ。

 静香は何の躊躇もなく敵を切り殺していく。
 私は静香が握っている得物に目を向けた。

 静香の得物である刀―――――妖刀・花菊。
 あの刀はやばい。見ただけで背筋が凍るような感覚に陥った。

 妖刀・花菊
 この世界に現存する数少ない妖刀シリーズのうちの一つ。
 その数少ない妖刀の中でもトップクラスの力を持ち、尚且つ非常に凶悪な性質を持つ刀である。

 妖刀の基本的スキルである吸血による【切れ味上昇】はもちろんのこと、魔法を切ることによって切りつけた魔法を刀身に付与するという能力に加えて、花菊本来が持つスキルは相当厄介なものである。

 花菊が持つ固有能力。それは切りつけた相手の精神を壊す能力である。
 人は誰もが、たとえ自覚していなくとも心的外傷トラウマを抱えている。
 花菊はそれを揺さぶり起こし、切りつけた相手を内側から殺すことを得意とする。

 この能力を聞いたとき、私は今まで以上に恐怖した。
 これ、もしかしなくとも静香と敵対したら終わりじゃないか…………?

 モンスター相手に効果があるのかどうかはわからないが、感情を、心を持つ生物に対して絶大な力を誇る。

 そんな武器を片手に、静香は自分に向かってくる帝国兵の大群を一人で凌いでいた。
 いや、あれは凌ぐというよりもあしらっていると表現したほうが正しいのかもしれない。

 静香はスピード重視の戦い方がメインであるため、防具は最低限しかしていない。なので一撃でも致命傷を負えばそこでゲームオーバーである。

 対して帝国側はガッチガチに固めた重戦士型である。機動性はかなり落ちるものの、生半可な攻撃では傷一つ負わず、じわじわと相手を責め立てるというスタイルである。

 一対一ならともかく、一対多のこの状況では静香の方が分が悪い。

 普通なら・・・・

 先ほども説明したが、静香の得物は妖刀、それも精神を責め立てる力を持っているのである。
 たとえかすり傷であろうとも、刀に触れた時点で能力は発動する。
 故に静香はたとえ致命傷を与えずとも、刀を肌に触れさせることさえできれば、その時点で勝ちなのである。

 現に先ほどから静香は鎧の繋ぎ目を狙って斬撃を放ち、傷つけられた相手は発狂してその場で暴れまわり、敵味方の判断ができないのか暴れまわっている。
 暴れまわっている敵は突然体を硬直させ、そのまま地面に伏した。

 これが、花菊の能力である。
 静香曰く、もう一つ能力があるらしいのだが、それは教えてもらうことはできなかった。

 だが、自由自在な遠距離攻撃が可能な咲と、あらゆる魔法の組み合わせで敵を倒すことのできる私、身体と精神の両方に攻撃を加えることのできる静香が揃っている。これならば、たとえ魔族相手でも負けることはないだろうと、高を括っていた。


 その安直な考えが間違いだ気付かずに…………。








~晃side~

 俺は今急ぎのスピードで南門に向かっている。
 先ほどの衝撃と斬撃が来た方向、そして何より魔物の数から推測して南側から敵が来たと考えたのだ。
 というか―――――

「魔物多すぎぃ……」

 空中を移動しているため、飛行型の魔物と先ほどからエンカウントしているのだが、ハーピーやら劣等竜レッサードラゴンやら、色々と多すぎである。
「空中戦の練習にはなるから倒すのは構わんが、流石に多すぎるぞ」
 右手に凍荂とうわ、左手に紅蓮ぐれんを持ち、ただ我武者羅に攻撃を続ける。

 先ほど分かったのだが、例え高いレベルの武術スキルを持っていたとしても、それだけでは上手く武器を扱えないらしい。
 雪雫せつなは自分の体のように思ったように扱えるし、破砕の斧ディバイズ十魔印鎖ヴェルモントは雪雫のようには使えなくとも、ある程度は使えるのだが、短剣―――――小刀と言った方が正しいかもしれない―――――に関しては思ったように扱うことができない。

 ただ付与している能力は強力であり、小さい分小回りが利くので一対多の状況であれば重宝する武器なのである。

 これは誰かに師事したほうがいいかもしれんな…………

 そんなこと考えながら、こちらに向かってくる魔物をひたすら切り続け進撃する。
 今まで強い(他の冒険者たちからすれば強すぎるといっても過言ではない)魔物たちを相手にしてきた俺からすれば、この程度の数なら一人でもどうとでもできるのだが、それではあまり良くないだろう(主にほかの冒険者たちのレベル上げという意味で)。

 なので地上に蔓延っている魔物たちはすべてこの国の冒険者に丸投げしているのだ。
 子どもたちにも手を出すなら最小限にするよう厳命している。
 子どもたちも先ほどのオーク戦によってかなりレベルが上がっているので、そうそう引けを取ることはないだろう。

 そう思いながら進んでいくと、後ろに見慣れた魔力を感じた。
 振り返ってみると、リーナが俺の後ろにぴったりとくっ付いていた。
「いつからいたんだ?」
「ついさっき」
 戦っていたので近づかれたことに気付かなかったのだろうか。
 自分でも気づかないほど疲れているようだな…………。
 この戦が終わったらちゃんと休息しなくては。

 敵が前から来たので迎撃しようとするも、逞しい嫁によって活躍の場を奪われてしまう。
 うちの嫁マヂ強すぎィ……。
 本当に頼りになる良い女である。

 さて、負けていられないな。かっこいい所見せるためにも―――――
「死に晒せッ!」
 俺は腰に差した雪雫せつなを抜刀し、一太刀で葬る。
 敵の体を超えて斬撃が吹っ飛んでいく。
 少し先にいる上位竜グレータードラゴンの数体を真っ二つにしてしまった。
 ドラゴンの肉はかなり美味なので、回収できるなら回収しておきたい。
 というわけで速攻で近づいて肉を回収。

 少しだけ余裕ができたので、辺りを見回してみる。

 ……
 …………
 ………………?

 おや、あれはもしや?

 目を凝らしてみると、懐かしきかな、クラスメイト達の姿が見えるではないか。
 ぱっと見だが、あれはたぶん静香と刎内さんだろう。

 刎内さんが魔物をバンバン殺っていくのは違和感ないんだけど、静香が人を殺しているところを見るとなんだか狂気じみたナニかを感じるのは俺だけか?
 

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コメント

  • によっしゃー

    61873さんのコメントが適切過ぎて泣けてくる

    1
  • たらこパスタ

    面白い!!

    1
  • 2次元は、神^^

    更新早よ

    3
  • ノベルバユーザー61873

    神域?天界?で過ごした時間が下界の1ヶ月だったのに対して勇者召喚からまだ2週間しか経ってないのは時系列的におかしくないですかね?それとも僕がどこか見落としているんでしょうか?

    8
  • ノベルバユーザー81766

    とても面白い。続きが気になるお( ^ω^)おっおっおっ

    0
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