進化上等~最強になってクラスの奴らを見返してやります!~
第三十七話 ついに始まっちゃったね
「グリンデル皇国の包囲、完了しました! いつでも攻撃できます!」
グリンデル皇国から約5キロほど離れた、『メルクリオ平原』。
そこには約20万の帝国兵たちが戦の準備をしていた。
帝国のある貴族に雇われた8万の冒険者と、貴族が保持している7万の兵士たちで作れられた混合隊。
冒険者たちは依頼達成での報酬の為に。
兵士たちは自分たちの功績のため、出世の為に。
彼らはそれぞれの夢の為にこの戦に参加しているのだ。
「うむ。全員配置につけ!! これよりグリンデル皇国の侵略を開始する!! 魔法用意!」
軍師らしき人物が石盤に向かって叫んでいる。
軍師が持っている石盤は超高性能遠距離魔法通信機―――――通称、魔信機と呼ばれている魔法具である。
過去の賢者たちが生涯をかけて作り上げた、魔力を持つものならどこでも使用することができる魔法具は、その圧倒的なコスパの良さと、簡略化された魔法式が人気を誇り、刃部たちで改良して使うものも多い。
軍で使用される魔信機は、遠距離通信は当然のこと、うまくやれば相手の通信内容を盗み聞くことができる。
軍師は後ろにいる兵士たちに声をかける
「準備はできたな!? われらには向かう卑劣な者たちに正義の鉄槌を下せぇぇぇぇぇ!!!!」
「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!」
冒険者と兵士たちの怒号に軍師は満足したのか、再びグリンデル皇国を見据える。
戦争のときは、すぐそこまで来ていた―――――
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―――――グリンデル皇国―side――――
「「「!!?」」」
バルティス帝国がグリンデル皇国を包囲しているとき、南海・幸希・静香の三人には突如として椅子を鳴らしながら立ち上がった。
「ど、どうしたのだ勇者殿?」
アルトニーの言葉には返事を返さず、彼らはしっかりと耳を澄ます。
―――――皇国―――――侵――――始する――――備
かすかに聞こえたこの声に、彼らは血相を変えて皇王に叫ぶ。
「市民に避難命令を出せ! この国は既に囲まれてる! 幸希! 全力で防御魔法を展開しろ! この国の壁を最外にしてドーム型に魔力障壁を作れ! 絶対に誰も殺させるなよ!」
「わかってるよ!」
幸希は全力で防御壁を作り上げる。
皇国すべてを覆いつくすほどの障壁を作り上げるなど前代未聞である。
もちろん幸希だってこんな荒業はこの世界に来て初めてである。
「だからって、簡単に諦めるわけにはいかんのよ……ッ!」
幸希の体から魔力がごっそりと抜け落ちる。
魔力を皇国の地下に流し込み、皇国の下に眠る魔力溜まりを経由して地下に巨大な魔法式を展開しようとしているのだ。
 魔力溜まりとは、人や魔物が発動した魔法の残骸―――――通称、塵魔力とよばれるものや、生物が無意識に放出している魔力が地面に染み込み、自然界に還る量よりもオーバーしてしまった魔力が溜まりに溜まったもののことを指す。
基本的には害はないのだが、魔力溜まりに強い刺激を与えると逃げ場を失った魔力が暴走して大爆発を起こすという危険物でもある。
幸希は自由時間に調べて知ったこの魔力溜まりに目を付けた。
自分の【魔力操作】レベルなら、もしかしたらこの魔力溜まりをうまう使うことができるかもしれない、と。
幸希のこの考え方は間違ってはいない。いままで数多の魔法師たちがこの魔力溜まりの処理を考え抜き、思いついた最善の策と同じなのだから。
だが、たとえ同じとはいっても、今まで成功した者はいない。
当然である。
今更ではあるが、【魔力操作】は基本的にだれもが習得するスキルではあるが、実際にはそこまでレベルは高くはない。
なぜか。それは今まで【魔力操作】というスキルが重要視されていなかったからである。
この世界で【魔力操作】というのは、魔法を使うための最初の起爆剤という意味しかみられていなかった。
もちろんこれは魔力溜まりを研究していた者たちにも当てはまる。
研究者が【魔力操作】の重要性に気付いたときにはもうすでに遅かった。
【魔力操作】などの基本中の基本であるスキルは、若いときほどスキルレベルが上がりやすい。
逆に言えば、年をとればとるほど単純なスキルはレベルが上がりにくいということである。
その点、召喚者の一人である幸希はクラスの中でも【魔力操作】・【魔力開放】・【魔力吸収】はトップクラスだったのである。
え? 海崎晃は? あいつは例外である。あれはもう人間ではない。
まあ、それはさておくとしても、幸希ほどの実力であれば、魔力溜まりを利用することは可能かもしれない。
だが、それにも限度というものがある。
今回幸希が利用しようとしているのは、爆発すればおそらく帝都にまで被害が及ぶほどの魔力量である。
失敗すれば何万もの人が被害に遭う。
成功と失敗のバランスが違い過ぎるのである。
まあ、だからといって――――
「失敗するつもりは微塵ないがなァァァ!!」
幸希はどこか恐怖心を持っている心を叱咤しながら、【魔力操作】を全力で使用して魔法式を完成させる。
やがて帝国の魔法が飛んくると誰もが諦めかけたその時、皇国を覆う透明な壁が出現した。
「はぁはぁ……。俺が編み出した盾、壊せるもんなら壊してみやがれ」
幸希は肩で息をしながら、自分が作り上げた盾が上手く作動していることに満足している。
南海は今にも倒れそうな幸希に労った。
「よくやったな幸希。流石は私の未来の旦那様だ」
「そう思うならもう少し俺に優しくしてもいいと思うんだよね」
「残念ながらそれは無理だ。お前を甘やかすとすぐに調子に乗るからな」
「むぅ……」
今更ではあるがこの二人、実は婚約者であったりする。
南海の家はもう既にご存知の通りであり、幸希の家は日本の中でもかなり有名な資産家である。
刎内と海城との仲の良さは有名なものであり、学校でも結構噂が立っているのである。
「さて、とりあえず帝国の連中の攻撃は抑えられたけど、このままじゃジリ貧だな」
「そうだな。一歩でも外に出たら蜂の巣、遠距離攻撃じゃ大した攻撃はできない……あっ」
「どうした?」
「いるじゃねぇか一人だけ! 弓道部で全国優勝までしてて遠距離攻撃に関してピカ一の奴がさ!」
「ああ、もしかして咲のこと言ってのんか?」
幸希と南海が話す先という人物について紹介しよう。
音坂 咲。
晃や幸希と同じクラスメイトで、活発な美少女である。
弓道部に所属しており、その腕は全国優勝するレベル。
ルックスが良いことと、そのさっぱりとした性格から男子女子共に高い人気を得ている人物である。
「確かにあいつならこの状況を打破できる可能性はあるな」
だが、と南海は続ける。
「あいつは見た目以上に相当参ってるはずだ。いくら元気で活発な子だといっても本質はただの女子高生だ。私が住んでいた人種とは違う」
幸希には南海が何を言いたいのかがわかっているようだ。
「ようは人を殺す覚悟が出来てないって言いたいんだろ?」
幸希の問いに南海は静かに頷く。
「あいつは自分ならできると自分自身に言い聞かせてる。そんなやり方じゃいつか本当に壊れちまうよ」
南海の、妙に実感の籠った言葉に、幸希は口を噤んでしまう。
「まあ、とりあえずダメ元で頼んでみるとするかな」
重たくなった空気を払拭するような南海の様子に、幸希は何も言い返さなかった。
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ノベルバユーザー404218
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