引きこもりLv.999の国づくり! ―最強ステータスで世界統一します―
トルフィンの部 【世界の人々へ】
夕食後、悪魔たちはみな倒れるようにして地面にうずくまり、眠りに入った。ベッドも毛布もない、雑草だらけの地面にそのまま横たわっている。
「…………」
シュンは複雑な気分になったが、あえてなにも言わなかった。
言及したいことは山ほどある。
だが、それを言ったところで何になるだろう。一刻も早くディストを倒し、世界に平和を取り戻させることが、彼らにとってなによりの喜びとなるはずなのだ。余計なことを言う必要はない。
隣のロニンも同様の気持ちなのだろう。微妙な表情で、眠りこける悪魔たちを見下ろしている。
「……哀れですか」
ふいに話しかけてくる者がいた。魔神アリアンヌだ。
ロニンは慌てたようにぶんぶんと首を横に振る。
「い、いえ、決してそういうわけじゃ……」
「……これでもみんな、寝顔は穏やかなほうです。将来の有望株と出会えたから安心したのでしょう」
「ゆ、有望株……?」
「もちろん、あなたたちのことです」
アリアンヌはさっと椅子から立ち上がるや、シュンとロニンも立つよう促してきた。
「行きましょう。さすがにあなたたちまで雑魚寝しろとは言いません。ベッドを用意してありますので、ついてきてください」
「で、でも……!」
ひとりだけ歩き出そうとするアリアンヌを、ロニンが呼び止めた。
「みんなこうやって寝てるのに……私たちだけベッドなんて……」
「心配いりません。みんな、ベッドより雑魚寝のほうが心地いいのです。だからこうやって寝ているに過ぎません」
「…………」
「……行こうぜ、ロニン」
いまだ立ちすくんでいる妻の肩を、シュンは優しく叩いてみせた。
彼女の気持ちもわかる。
だがアリアンヌもせっかくベッドを用意してくれたのだ。拒否するのも申し訳がない。
「うん……」
ロニンもこくりと頷き、アリアンヌに案内されるまま、歩き出した。
何分歩いただろう。
ふいに、前方を歩くアリアンヌが、「あっ」と声をあげて立ちどまった。なにやら空を見上げてブツブツ言っている。
「おい、どうしたよ」
「……トルフィンさんたちがなにかやろうとしてますね。これは……セレスティアさんのテレパシー魔法……?」 
シュンとロニンは互いの顔を見合わせた。
セレスティアのテレパシー魔法。
彼女は戦闘には向かないが、代わりに便利な魔法をいくつも使用できる。
テレパシーもそのひとつだ。
かつてセレスティアは、水晶を用いて、武術大会・予選の中継映像を外部の人間に提供した。彼女がそうと望めば、王都の人間に対し、なんらかの表明をテレパシーできると聞いたことがある。
ということは、トルフィンはいま、人間たちに向けて、なにかの発表をしようとしているのだろうか。
「……ちょっと覗いてみますか?」
「できるのか?」
「ええ。私も伊達に魔神と呼ばれてませんからね」
言いながら、アリアンヌはさっと右腕を突き出した。
突如、ほのかな輝きが発生し、アリアンヌの手のひらに小さな水晶が現れる。これはたしかに、かつて武術大会で使われた物と同種の水晶だ。
時刻はすでに日付を跨ごうとしている。こんな夜分になにをするつもりなのか。
そんなことを考えながら水晶を覗き込んでいると、ふいに、王女セレスティアの顔が映し出された。
《夜遅くに申し訳ございません。王都、ならびに各地にお住まいの方々に、私、王女セレスティアより発表がございます》
わずかな間を置いて、セレスティアは深刻な声音で続ける。
《現在、世界はかつてない脅威に晒されております。突如現れた、謎の殺戮者たち……》
そして王女は、天使たちと絶対に闘ってはならないこと、もし天使と遭遇したら身を隠してほしいこと等の連絡を行ったあと、今度は声のトーンを上げて言った。
《天使たちはたしかに脅威ですが……現在、シュロン国と提携し、活路を見出すべく動いているところです。シュン国王、魔王ロニンも動いております。……さらに》
ここで発表者が変わったらしい。どこか懐かしい、落ち着いた男の声が水晶から発せられる。
《……私アルス、不肖ながら王女様に協力させていただいております。いまの私に勇者と名乗る資格はありません。ですが……いま、このときだけは、私に罪滅ぼしをさせてください》
――そうか。
ようやくシュンはトルフィンたちの狙いを悟った。
これは人間・モンスターたちを安心させるための情報発信だ。
現在、すべての生物は死の危険に晒されている。いきなり現れた天使たちに怯えている者もかなりの数いるだろう。トルフィンたちが救出のために動いているとはいえ、すべての者を助けるのは物理的に不可能である。
だからせめて、生きる希望だけは失ってほしくないと――こうしてすべての者に願っているのだ。すぐには助けにいけないが、いつか必ず、駆けつけてみせると――
シュンやロニン、アルスの名を出したのはそのためだ。三人とも、かなりの強者として広く認知されている。
――粋なことやるじゃねえか、あいつ……!
シュンが頬を緩めたとき、トルフィンも水晶から顔を覗かせた。
《僕、シュロン国の王子――トルフィンもともに行動しています。また武術大会で勇者と善戦したリュアもいます。まだ絶望しないでください。僕たちは必ず、天使たちの暴挙を止めてみせます!》
「…………」
シュンは複雑な気分になったが、あえてなにも言わなかった。
言及したいことは山ほどある。
だが、それを言ったところで何になるだろう。一刻も早くディストを倒し、世界に平和を取り戻させることが、彼らにとってなによりの喜びとなるはずなのだ。余計なことを言う必要はない。
隣のロニンも同様の気持ちなのだろう。微妙な表情で、眠りこける悪魔たちを見下ろしている。
「……哀れですか」
ふいに話しかけてくる者がいた。魔神アリアンヌだ。
ロニンは慌てたようにぶんぶんと首を横に振る。
「い、いえ、決してそういうわけじゃ……」
「……これでもみんな、寝顔は穏やかなほうです。将来の有望株と出会えたから安心したのでしょう」
「ゆ、有望株……?」
「もちろん、あなたたちのことです」
アリアンヌはさっと椅子から立ち上がるや、シュンとロニンも立つよう促してきた。
「行きましょう。さすがにあなたたちまで雑魚寝しろとは言いません。ベッドを用意してありますので、ついてきてください」
「で、でも……!」
ひとりだけ歩き出そうとするアリアンヌを、ロニンが呼び止めた。
「みんなこうやって寝てるのに……私たちだけベッドなんて……」
「心配いりません。みんな、ベッドより雑魚寝のほうが心地いいのです。だからこうやって寝ているに過ぎません」
「…………」
「……行こうぜ、ロニン」
いまだ立ちすくんでいる妻の肩を、シュンは優しく叩いてみせた。
彼女の気持ちもわかる。
だがアリアンヌもせっかくベッドを用意してくれたのだ。拒否するのも申し訳がない。
「うん……」
ロニンもこくりと頷き、アリアンヌに案内されるまま、歩き出した。
何分歩いただろう。
ふいに、前方を歩くアリアンヌが、「あっ」と声をあげて立ちどまった。なにやら空を見上げてブツブツ言っている。
「おい、どうしたよ」
「……トルフィンさんたちがなにかやろうとしてますね。これは……セレスティアさんのテレパシー魔法……?」 
シュンとロニンは互いの顔を見合わせた。
セレスティアのテレパシー魔法。
彼女は戦闘には向かないが、代わりに便利な魔法をいくつも使用できる。
テレパシーもそのひとつだ。
かつてセレスティアは、水晶を用いて、武術大会・予選の中継映像を外部の人間に提供した。彼女がそうと望めば、王都の人間に対し、なんらかの表明をテレパシーできると聞いたことがある。
ということは、トルフィンはいま、人間たちに向けて、なにかの発表をしようとしているのだろうか。
「……ちょっと覗いてみますか?」
「できるのか?」
「ええ。私も伊達に魔神と呼ばれてませんからね」
言いながら、アリアンヌはさっと右腕を突き出した。
突如、ほのかな輝きが発生し、アリアンヌの手のひらに小さな水晶が現れる。これはたしかに、かつて武術大会で使われた物と同種の水晶だ。
時刻はすでに日付を跨ごうとしている。こんな夜分になにをするつもりなのか。
そんなことを考えながら水晶を覗き込んでいると、ふいに、王女セレスティアの顔が映し出された。
《夜遅くに申し訳ございません。王都、ならびに各地にお住まいの方々に、私、王女セレスティアより発表がございます》
わずかな間を置いて、セレスティアは深刻な声音で続ける。
《現在、世界はかつてない脅威に晒されております。突如現れた、謎の殺戮者たち……》
そして王女は、天使たちと絶対に闘ってはならないこと、もし天使と遭遇したら身を隠してほしいこと等の連絡を行ったあと、今度は声のトーンを上げて言った。
《天使たちはたしかに脅威ですが……現在、シュロン国と提携し、活路を見出すべく動いているところです。シュン国王、魔王ロニンも動いております。……さらに》
ここで発表者が変わったらしい。どこか懐かしい、落ち着いた男の声が水晶から発せられる。
《……私アルス、不肖ながら王女様に協力させていただいております。いまの私に勇者と名乗る資格はありません。ですが……いま、このときだけは、私に罪滅ぼしをさせてください》
――そうか。
ようやくシュンはトルフィンたちの狙いを悟った。
これは人間・モンスターたちを安心させるための情報発信だ。
現在、すべての生物は死の危険に晒されている。いきなり現れた天使たちに怯えている者もかなりの数いるだろう。トルフィンたちが救出のために動いているとはいえ、すべての者を助けるのは物理的に不可能である。
だからせめて、生きる希望だけは失ってほしくないと――こうしてすべての者に願っているのだ。すぐには助けにいけないが、いつか必ず、駆けつけてみせると――
シュンやロニン、アルスの名を出したのはそのためだ。三人とも、かなりの強者として広く認知されている。
――粋なことやるじゃねえか、あいつ……!
シュンが頬を緩めたとき、トルフィンも水晶から顔を覗かせた。
《僕、シュロン国の王子――トルフィンもともに行動しています。また武術大会で勇者と善戦したリュアもいます。まだ絶望しないでください。僕たちは必ず、天使たちの暴挙を止めてみせます!》
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