引きこもりLv.999の国づくり! ―最強ステータスで世界統一します―
トルフィンの部 【本当の力】
――思いもよらぬところで、思いもよらない人物が現れたものだ。
「アルス……おまえ……!」
トルフィンはいっぱいに目を見開いた。
アルスは油断なく剣を構えつつ、ちらりと視線だけをトルフィンに向けた。
「久しぶりだなトルフィン。……といっても、せいぜい二、三時間くらい前か」
たしかにそうだ。
あれから相当の時間が経ったように感じられるが、実際は決勝戦から半日とかかっていない。
アルスはふっと息を吐くと、悟ったように笑ってみせた。
「俺も一応ディストから《神の霊気》を受け取った身だからな。天使のステータス操作は効かない」
――そうか!
たしかに決勝戦でも、これが創造神の力だとか何とか叫んでいたような気がする。
勇者アルスの実力はトルフィンが身を以て知っている。まさか彼の力を、こんな形で享受することになろうとは思っていなかったが。
「あ……あなた、は……」
リュアが青ざめた表情で後ずさる。そういえば彼女は事の顛末を知らないのだ。
アルスは一瞬だけ切なげな表情を浮かべて言った。
「おまえには大変なことをしてしまったな。本来俺は服役している身だが……看守も天使に殺され、世界も危機に晒されている。どうかいまだけは、この咎人に剣を握ることを許してほしい」
トルフィンは無言でリュアに目を向け――そして頷いた。
アルスがシュンの故郷を襲い、リュアに重傷を負わせたのも、創造神ディストに記憶を操作されていたからに他ならない。そういう意味では、アルスとて被害者なのだ。彼自身は悪人ではない。
リュアが頷き返すのを確認し、トルフィンは天使に視線を戻した。
「さて……しかし、どうやってあいつを倒す?」
「そうだな……」
アルスも天使から目を逸らすことなく、口だけを動かした。
「……まず間違いなく、俺たちが束になっても勝てない。それだけステータスの開きがでかい」
同感だった。
アルスは強い。
だがトルフィンと結託したところで、天使にはまるで適わないだろう。ステータスオール7万が相手では、まともに戦うこともできない。
なにか良い策はないものか……
そこまで考えたところで、アルスが小さく呟いた。
「だが、まったく勝機がないわけじゃない。トルフィン。十秒だけ時間を稼げるか」
「十秒……」
トルフィンは唸った。
微妙なところである。
現時点での残りHPは約三割。
すこしでも油断すれば一撃で死ぬ。
さらに言えば、アルスの見立てが成功するという保証もないわけだ。
けれど。
「……わかった」
トルフィンは凛然とした輝きを瞳に称え、静かに頷いた。
ここはかつての仇敵、アルスにすべてを任せるとしよう。それ以外に手は残っていない。
アルスも静かに頷いた。
「恩に着る。……トルフィン、絶対に死ぬなよ」
「はっ、誰に言ってる」
トルフィンはそう吐き捨てると、決死の覚悟で天使に向けて駆けだした。
「ムハハ、馬鹿め! なにを企んでるかわからぬが、貴様らごとき、二人がかりでも俺には適わぬわ!」
「おおおおおおお!」
天使の哄笑を頭から追い出し、トルフィンは無我夢中で剣を振り続けた。
★
――頑張れよアルス。おまえは将来、人類の希望となるのだ――
――頼んだぞアルス。世界を、魔王の手から救ってくれ――
行商人の遺言が脳裏に蘇る。
アルスはふうと大きく息を吐き、そして刀身に左手を添えた。
必殺技、ユグドラシル・デュアル。
自然の力を一時的に吸収し、我が力とする物理・魔法一体の技。
決勝戦ではその力を引き出すことができなかった。
当然の報いだ。俺に世界を救う資格なんてないのだから。
――でも。
頼む。
いまだけは、世界が危機に瀕しているいまだけは、俺に力を……! 
果たして、その祈りが通じたのか。
それはアルスにはわからない。
だが、たしかにアルスは聞いた。
――助けて、苦しい、苦しいよ……!――
――みんなはどこに行ったの? ママ、パパ!――
――くっそ、こんな奴らに俺がァ!――
聞こえてくる。
世界中の人々の悲鳴が。苦しみが。想いが。
突如。
見たことのない深緑の炎が、アルスの剣を包み始めた。そのさまは、まるで緑の業火のよう。
思わず目を見開く。
こんな現象、いまだかつて見たことがない。そもそもこんな技だとは知らなかった。
アルスは急いで自身のステータスを確認し、そして驚愕した。
《★物理攻撃力 90000
★魔法攻撃力 90000》
星のマークが付いているのは、これが一時的なステータスアップであることを示している。
それでも構わない。天使を倒すには充分だ。
これが本当の《ユグドラシル・デュアル》……
――じいちゃん。師匠。ありがとう。こんな大技を、俺に授けてくれて―― 
アルスは集中力を研ぎ澄まし、トルフィンと天使の戦いに目を向けた。危うい接戦だが、トルフィンは手練れだ。必ず敵の隙をつくってくれる。
かくして、トルフィンが剣を強振したことにより、天使ともども後方にわずか仰け反った。
――いまだ!
アルスは全身に気合いを込め、天使へ向けて疾駆した。
「アルス……おまえ……!」
トルフィンはいっぱいに目を見開いた。
アルスは油断なく剣を構えつつ、ちらりと視線だけをトルフィンに向けた。
「久しぶりだなトルフィン。……といっても、せいぜい二、三時間くらい前か」
たしかにそうだ。
あれから相当の時間が経ったように感じられるが、実際は決勝戦から半日とかかっていない。
アルスはふっと息を吐くと、悟ったように笑ってみせた。
「俺も一応ディストから《神の霊気》を受け取った身だからな。天使のステータス操作は効かない」
――そうか!
たしかに決勝戦でも、これが創造神の力だとか何とか叫んでいたような気がする。
勇者アルスの実力はトルフィンが身を以て知っている。まさか彼の力を、こんな形で享受することになろうとは思っていなかったが。
「あ……あなた、は……」
リュアが青ざめた表情で後ずさる。そういえば彼女は事の顛末を知らないのだ。
アルスは一瞬だけ切なげな表情を浮かべて言った。
「おまえには大変なことをしてしまったな。本来俺は服役している身だが……看守も天使に殺され、世界も危機に晒されている。どうかいまだけは、この咎人に剣を握ることを許してほしい」
トルフィンは無言でリュアに目を向け――そして頷いた。
アルスがシュンの故郷を襲い、リュアに重傷を負わせたのも、創造神ディストに記憶を操作されていたからに他ならない。そういう意味では、アルスとて被害者なのだ。彼自身は悪人ではない。
リュアが頷き返すのを確認し、トルフィンは天使に視線を戻した。
「さて……しかし、どうやってあいつを倒す?」
「そうだな……」
アルスも天使から目を逸らすことなく、口だけを動かした。
「……まず間違いなく、俺たちが束になっても勝てない。それだけステータスの開きがでかい」
同感だった。
アルスは強い。
だがトルフィンと結託したところで、天使にはまるで適わないだろう。ステータスオール7万が相手では、まともに戦うこともできない。
なにか良い策はないものか……
そこまで考えたところで、アルスが小さく呟いた。
「だが、まったく勝機がないわけじゃない。トルフィン。十秒だけ時間を稼げるか」
「十秒……」
トルフィンは唸った。
微妙なところである。
現時点での残りHPは約三割。
すこしでも油断すれば一撃で死ぬ。
さらに言えば、アルスの見立てが成功するという保証もないわけだ。
けれど。
「……わかった」
トルフィンは凛然とした輝きを瞳に称え、静かに頷いた。
ここはかつての仇敵、アルスにすべてを任せるとしよう。それ以外に手は残っていない。
アルスも静かに頷いた。
「恩に着る。……トルフィン、絶対に死ぬなよ」
「はっ、誰に言ってる」
トルフィンはそう吐き捨てると、決死の覚悟で天使に向けて駆けだした。
「ムハハ、馬鹿め! なにを企んでるかわからぬが、貴様らごとき、二人がかりでも俺には適わぬわ!」
「おおおおおおお!」
天使の哄笑を頭から追い出し、トルフィンは無我夢中で剣を振り続けた。
★
――頑張れよアルス。おまえは将来、人類の希望となるのだ――
――頼んだぞアルス。世界を、魔王の手から救ってくれ――
行商人の遺言が脳裏に蘇る。
アルスはふうと大きく息を吐き、そして刀身に左手を添えた。
必殺技、ユグドラシル・デュアル。
自然の力を一時的に吸収し、我が力とする物理・魔法一体の技。
決勝戦ではその力を引き出すことができなかった。
当然の報いだ。俺に世界を救う資格なんてないのだから。
――でも。
頼む。
いまだけは、世界が危機に瀕しているいまだけは、俺に力を……! 
果たして、その祈りが通じたのか。
それはアルスにはわからない。
だが、たしかにアルスは聞いた。
――助けて、苦しい、苦しいよ……!――
――みんなはどこに行ったの? ママ、パパ!――
――くっそ、こんな奴らに俺がァ!――
聞こえてくる。
世界中の人々の悲鳴が。苦しみが。想いが。
突如。
見たことのない深緑の炎が、アルスの剣を包み始めた。そのさまは、まるで緑の業火のよう。
思わず目を見開く。
こんな現象、いまだかつて見たことがない。そもそもこんな技だとは知らなかった。
アルスは急いで自身のステータスを確認し、そして驚愕した。
《★物理攻撃力 90000
★魔法攻撃力 90000》
星のマークが付いているのは、これが一時的なステータスアップであることを示している。
それでも構わない。天使を倒すには充分だ。
これが本当の《ユグドラシル・デュアル》……
――じいちゃん。師匠。ありがとう。こんな大技を、俺に授けてくれて―― 
アルスは集中力を研ぎ澄まし、トルフィンと天使の戦いに目を向けた。危うい接戦だが、トルフィンは手練れだ。必ず敵の隙をつくってくれる。
かくして、トルフィンが剣を強振したことにより、天使ともども後方にわずか仰け反った。
――いまだ!
アルスは全身に気合いを込め、天使へ向けて疾駆した。
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