引きこもりLv.999の国づくり! ―最強ステータスで世界統一します―
シュンの部 【人間の限界を超えて】
アグネ湿地帯。
アリアンヌは片手に持っていた水晶に、もう片手を乗せる。瞬間、しゅううという音を立てて、水晶が綺麗に消えてなくなった。さっきまでこの水晶を通じてトルフィンたちと連絡を取っていた。
あくまで無表情を貫くアリアンヌを見て、シュンは尋ねずにはいられなかった。
「なあ……あんた、いったい何者なんだ」
「言ったではありませんか。私は元神族。……ディストらには魔神と呼ばれることもありますが」
魔神……
となれば、きっと《悪魔》のなかでもトップクラスの実力者なのだろう。だからディストもあんなに表情を歪ませていたのだ。
聞くところによると、アグネ湿地帯で暮らしている悪魔は現在五十三体いるらしい。昔はその倍以上いたようなのだが、あまりに過酷な生活に、みずから死を選んだ者が続出したという。
「あなたたちも……その、大変だよね……」
ロニンがやや暗い表情で言う。
「ずっと人間たちに嫌われてきたんでしょ? あなたたちの歴史も知らずに……」
アリアンヌはそこでロニンにちらりと目を向けた。浮かべている表情は悲しみか、もしくはただの無表情なのか……シュンには読みとれなかった。おそらく、長い間迫害されてきた結果、感情というものを忘れてしまったのかもしれない。
アリアンヌはまたも無機質な声で告げた。
「私は大丈夫です。なにより……あなたたちに出会えた。あなたたちがいれば、きっと、長かった歴史に終止符が打たれると確信しています」
「はっ、どうだかな」
そこでシュンは肩をすくめる。
「だが、あんたがいなけりゃ、今頃世界は滅亡してた。だから礼を言うぜ。ありがとよ」
「……礼はさっき聞きましたが」
「何回言ったっていいじゃねえか。ほらほら、ありがとうって言われたら《どういたしまして》だぜ?」
「はい、どういたしまして」
変わらぬ無表情に、シュンは「かーっ」と言いながら額に手を当てた。
「違う違う。もっと感情を込めて言うんだよ。笑いながらな」
「……意味不明です。なぜ笑う必要があるのですか」
本気で首をかしげているアリアンヌに、シュンとロニンは目を見合わせた。さらにアリアンヌは、自身がもう何百年も笑ったことがないことまで淡々とカミングアウトしてきた。
「こんなこと話してる場合じゃないでしょう。トルフィンさんたちはいまにも命がけで戦ってるのです。それとも、あなたが数年前、この場所でなにをしていたかバラします?」
数年前……といったら、セレスティアと抱き合っちゃった話じゃないすか。
まずいまずい。それだけはバレたら困る。
シュンがぶんぶん片手を振ると、アリアンヌは満足げに頷き、
「さあ、ついてきてください」
と言って背を向けた。
……こりゃあ深刻だな。
思わず苦笑しながら、シュンはロニンとともに、アリアンヌの後をついていくのだった。
――そういえば。
シュンは思い出した。
悪魔のことはすこしずつ明らかになっているが、まだわかっていない部分も残っている。
ロニン率いるモンスター部隊が、悪魔たちにコミュニケーションを取ろうとしたところ、「貴様らの指図は受けない」と言われたこと。
シュンの故郷を襲った犯人はアルスだったが、それとほぼ同時期に、悪魔もシュンの故郷に訪れていること。
そして武術大会の寸前である。
悪魔たちが王都に近寄ろうとしていたことを、セレスティアが明かしていた。
改めてそのことについて尋ねようとしたが、先にアリアンヌが口を開いた。
「あなたたちには、まず心のタガを外していただきます」
「ん? タガ?」
「ええ。人族もモンスターも、創造神によって創られし存在。どんなに頑張っても、ステータスという制約に縛られてしまいます。あなたたちには、その制約を超えていただきます」
「ちょ、ちょっと待て」
思わずシュンはアリアンヌの前に先回りした。そのまま無感情の瞳に問いかける。
「どういうことだ? ステータスの制約を超えるって……とんでもなくねえか」
「そうでもありませんよ。望み努力すれば、ステータスをすべて∞にもできます。ですがタガが残った状態ですと、せいぜい99999あたりが限界でしょう」
「す、すげェじゃねえかよ……」
どこが《そうでもない》というのか――とシュンは思った。
「ディストのステータスは人類とモンスターの限界……99999を超えています。ですから、まずは心のタガを外さなければなりません」
アリアンヌは片手に持っていた水晶に、もう片手を乗せる。瞬間、しゅううという音を立てて、水晶が綺麗に消えてなくなった。さっきまでこの水晶を通じてトルフィンたちと連絡を取っていた。
あくまで無表情を貫くアリアンヌを見て、シュンは尋ねずにはいられなかった。
「なあ……あんた、いったい何者なんだ」
「言ったではありませんか。私は元神族。……ディストらには魔神と呼ばれることもありますが」
魔神……
となれば、きっと《悪魔》のなかでもトップクラスの実力者なのだろう。だからディストもあんなに表情を歪ませていたのだ。
聞くところによると、アグネ湿地帯で暮らしている悪魔は現在五十三体いるらしい。昔はその倍以上いたようなのだが、あまりに過酷な生活に、みずから死を選んだ者が続出したという。
「あなたたちも……その、大変だよね……」
ロニンがやや暗い表情で言う。
「ずっと人間たちに嫌われてきたんでしょ? あなたたちの歴史も知らずに……」
アリアンヌはそこでロニンにちらりと目を向けた。浮かべている表情は悲しみか、もしくはただの無表情なのか……シュンには読みとれなかった。おそらく、長い間迫害されてきた結果、感情というものを忘れてしまったのかもしれない。
アリアンヌはまたも無機質な声で告げた。
「私は大丈夫です。なにより……あなたたちに出会えた。あなたたちがいれば、きっと、長かった歴史に終止符が打たれると確信しています」
「はっ、どうだかな」
そこでシュンは肩をすくめる。
「だが、あんたがいなけりゃ、今頃世界は滅亡してた。だから礼を言うぜ。ありがとよ」
「……礼はさっき聞きましたが」
「何回言ったっていいじゃねえか。ほらほら、ありがとうって言われたら《どういたしまして》だぜ?」
「はい、どういたしまして」
変わらぬ無表情に、シュンは「かーっ」と言いながら額に手を当てた。
「違う違う。もっと感情を込めて言うんだよ。笑いながらな」
「……意味不明です。なぜ笑う必要があるのですか」
本気で首をかしげているアリアンヌに、シュンとロニンは目を見合わせた。さらにアリアンヌは、自身がもう何百年も笑ったことがないことまで淡々とカミングアウトしてきた。
「こんなこと話してる場合じゃないでしょう。トルフィンさんたちはいまにも命がけで戦ってるのです。それとも、あなたが数年前、この場所でなにをしていたかバラします?」
数年前……といったら、セレスティアと抱き合っちゃった話じゃないすか。
まずいまずい。それだけはバレたら困る。
シュンがぶんぶん片手を振ると、アリアンヌは満足げに頷き、
「さあ、ついてきてください」
と言って背を向けた。
……こりゃあ深刻だな。
思わず苦笑しながら、シュンはロニンとともに、アリアンヌの後をついていくのだった。
――そういえば。
シュンは思い出した。
悪魔のことはすこしずつ明らかになっているが、まだわかっていない部分も残っている。
ロニン率いるモンスター部隊が、悪魔たちにコミュニケーションを取ろうとしたところ、「貴様らの指図は受けない」と言われたこと。
シュンの故郷を襲った犯人はアルスだったが、それとほぼ同時期に、悪魔もシュンの故郷に訪れていること。
そして武術大会の寸前である。
悪魔たちが王都に近寄ろうとしていたことを、セレスティアが明かしていた。
改めてそのことについて尋ねようとしたが、先にアリアンヌが口を開いた。
「あなたたちには、まず心のタガを外していただきます」
「ん? タガ?」
「ええ。人族もモンスターも、創造神によって創られし存在。どんなに頑張っても、ステータスという制約に縛られてしまいます。あなたたちには、その制約を超えていただきます」
「ちょ、ちょっと待て」
思わずシュンはアリアンヌの前に先回りした。そのまま無感情の瞳に問いかける。
「どういうことだ? ステータスの制約を超えるって……とんでもなくねえか」
「そうでもありませんよ。望み努力すれば、ステータスをすべて∞にもできます。ですがタガが残った状態ですと、せいぜい99999あたりが限界でしょう」
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