引きこもりLv.999の国づくり! ―最強ステータスで世界統一します―
格の違い
それはアルスにとって、ただの我が儘だった。
長年シュン家族を憎んできた。悪の感情をこじらせ、鬱屈とした気持ちを溜めてきた。
せめて最期くらいは、本当の必殺技を派手にかましたい――
アルスのそんな想いが通じたのか、トルフィンは
「……いいぜ」
と言って剣を構える。
「つっても俺に必殺技とかないけどな。本気で斬りかかるだけさ」
「……ああ、それで構わない」
そうアルスが応じると、トルフィンもこくりと首肯し、剣の柄に手を添える。
重たい暗雲の隙間から、一筋の陽光が差した。
いつの間に雷はやんでいた。
徐々に空が明るくなる。
ところどころに陽光が差し込んでいく。
アルスはふうと深呼吸し、一歩、前に出た。
ずっと世界の安寧を願ってきた。なのに憎しみに囚われ、人を殺し、村を滅ぼした。
そんな俺に生きる資格はない。
だから最期だけは、せめて――
特に誰かの合図があったわけではない。
にも関わらず、アルスもトルフィンも、同時に駆け出していた。
アルスは見た。自身の剣が、ほのかな緑色に染まるのを。
しかしながら記憶上のそれより明らかに色素が薄い。長年ユグドラシル・デュアルを使ってこなかった反動か。それとも、技そのものがアルスに無言の抗議をしているのか。
ユグドラシル・デュアル。
地上のありとあらゆる自然の力を借り、剣に収集させる魔法剣。
その昔、二人の師匠から授けられた、剣と魔法の両立技。
すっかり忘れていた。
俺はただ、この剣で悪を討ちたかっただけなのに。故郷を滅ぼしたモンスターたちに一矢報いたかっただけなのに。いつから自分のエゴに呑み込まれてしまったのだろうか――
ガキン! と。
剣と剣が衝突する。
それは鼓膜を突き抜けるほどの金属音。
トルフィンは六歳児にしてかなりの手練れだ。ユグドラシル・デュアルの力にも、真っ向から抵抗している。アルスもあらん限りのパワーで剣を押し込む。
いつの間にか絶叫していた。
それでいて泣いていた。
ずっと溜め込んできたありとあらゆる感情。それを発散させるべく、アルスは理性をも忘れて叫んだ。
瞬間、乾いた金属音が響いた。
剣の折れた音だ。
誰だ、誰の剣が折れた――? 俺か、それともトルフィンか――?
そう思った途端、アルスは胸から下腹部にかけて、鋭い痛みを感じた。同時にかはっと口から鮮血を吐く。
――斬られた。
そう悟ったときには、アルスは倒れていた。
視界に陽光が映っている。
アルスはうっすら目を開けた。空を支配していた暗雲は綺麗になくなっている。どこからか、鳥のせせらぎが聞こえる……
「なっ……俺は……!」
はっとして上半身を起こそうとするが、瞬間、全身に激痛が走る。アルスは呻きながら再び上半身を寝かせた。
――生きていたか。
死ぬ覚悟で戦った。
なのに生きていた。
視界の縁は赤く染め上げられている。どうやらギリギリHPが残っていたらしい。
「おう、目ェ覚めたかよ」
ふいに視界にシュンが映り込んだ。相変わらずの飄々(ひょうひょう)とした態度で、感情が読みとれない。
「この試合、トルフィンの勝ちのようだな。あいつはまだ立ってるぜ」
言われて視線を移す。六歳の王子は、剣を地面に突き刺し、なんとか膝立ちしている。かなり息切れが荒いが、たしかにどちからが勝者かは明白だろう。
アルスはふうと息を吐くと、シュンに視線を戻した。
「シュンよ。ひとつ忠告しておく。俺にもたしかなことはわからないが……これから気をつけろ。《奴ら》はひっそりとおまえたちに監視と支援をしている」
「ほーん?」
アルスはそこで心を決めた。真っ直ぐシュンを見据え、言う。
「それともうひとつ。貴様の故郷を滅ぼしたのは俺だ」
「…………」
「俺は極悪人だ。生きる資格はない。……殺せ」
「…………」
シュンはしばらく黙りこくっていたが、数秒後、やれやれと言ったように肩を竦めた。
「馬鹿だな。んなこと、黙ってりゃ気づかれなかったのによ」
「な、なんだと」
「……おめーが本当に根っからの悪人だったらよ。あんときとっくに殺してたさ」
「…………」
「おめーもシュロン国に来いよ。もちろん、犯した罪の分はしっかり服役してもらうがな」
「ふ、ふざけるな。なんで俺が」
「おまえ、どうせ行くところないだろ? だったら来いってんだ。悪い話じゃねえだろ?」
――なんで、どうして。
数十年前、故郷を滅ぼされた俺は発狂した。モンスターが憎くて仕方がなかった。
なのに、このシュンという男は許してくれるというのか。
――これが、格の違いってやつか……
「お? どうしたよ、泣いてんのか?」
「な、泣くか馬鹿者。俺はただ……」
「はいはいわかったよ。騎士たち呼ぶから、まずおまえは手当な」
長年シュン家族を憎んできた。悪の感情をこじらせ、鬱屈とした気持ちを溜めてきた。
せめて最期くらいは、本当の必殺技を派手にかましたい――
アルスのそんな想いが通じたのか、トルフィンは
「……いいぜ」
と言って剣を構える。
「つっても俺に必殺技とかないけどな。本気で斬りかかるだけさ」
「……ああ、それで構わない」
そうアルスが応じると、トルフィンもこくりと首肯し、剣の柄に手を添える。
重たい暗雲の隙間から、一筋の陽光が差した。
いつの間に雷はやんでいた。
徐々に空が明るくなる。
ところどころに陽光が差し込んでいく。
アルスはふうと深呼吸し、一歩、前に出た。
ずっと世界の安寧を願ってきた。なのに憎しみに囚われ、人を殺し、村を滅ぼした。
そんな俺に生きる資格はない。
だから最期だけは、せめて――
特に誰かの合図があったわけではない。
にも関わらず、アルスもトルフィンも、同時に駆け出していた。
アルスは見た。自身の剣が、ほのかな緑色に染まるのを。
しかしながら記憶上のそれより明らかに色素が薄い。長年ユグドラシル・デュアルを使ってこなかった反動か。それとも、技そのものがアルスに無言の抗議をしているのか。
ユグドラシル・デュアル。
地上のありとあらゆる自然の力を借り、剣に収集させる魔法剣。
その昔、二人の師匠から授けられた、剣と魔法の両立技。
すっかり忘れていた。
俺はただ、この剣で悪を討ちたかっただけなのに。故郷を滅ぼしたモンスターたちに一矢報いたかっただけなのに。いつから自分のエゴに呑み込まれてしまったのだろうか――
ガキン! と。
剣と剣が衝突する。
それは鼓膜を突き抜けるほどの金属音。
トルフィンは六歳児にしてかなりの手練れだ。ユグドラシル・デュアルの力にも、真っ向から抵抗している。アルスもあらん限りのパワーで剣を押し込む。
いつの間にか絶叫していた。
それでいて泣いていた。
ずっと溜め込んできたありとあらゆる感情。それを発散させるべく、アルスは理性をも忘れて叫んだ。
瞬間、乾いた金属音が響いた。
剣の折れた音だ。
誰だ、誰の剣が折れた――? 俺か、それともトルフィンか――?
そう思った途端、アルスは胸から下腹部にかけて、鋭い痛みを感じた。同時にかはっと口から鮮血を吐く。
――斬られた。
そう悟ったときには、アルスは倒れていた。
視界に陽光が映っている。
アルスはうっすら目を開けた。空を支配していた暗雲は綺麗になくなっている。どこからか、鳥のせせらぎが聞こえる……
「なっ……俺は……!」
はっとして上半身を起こそうとするが、瞬間、全身に激痛が走る。アルスは呻きながら再び上半身を寝かせた。
――生きていたか。
死ぬ覚悟で戦った。
なのに生きていた。
視界の縁は赤く染め上げられている。どうやらギリギリHPが残っていたらしい。
「おう、目ェ覚めたかよ」
ふいに視界にシュンが映り込んだ。相変わらずの飄々(ひょうひょう)とした態度で、感情が読みとれない。
「この試合、トルフィンの勝ちのようだな。あいつはまだ立ってるぜ」
言われて視線を移す。六歳の王子は、剣を地面に突き刺し、なんとか膝立ちしている。かなり息切れが荒いが、たしかにどちからが勝者かは明白だろう。
アルスはふうと息を吐くと、シュンに視線を戻した。
「シュンよ。ひとつ忠告しておく。俺にもたしかなことはわからないが……これから気をつけろ。《奴ら》はひっそりとおまえたちに監視と支援をしている」
「ほーん?」
アルスはそこで心を決めた。真っ直ぐシュンを見据え、言う。
「それともうひとつ。貴様の故郷を滅ぼしたのは俺だ」
「…………」
「俺は極悪人だ。生きる資格はない。……殺せ」
「…………」
シュンはしばらく黙りこくっていたが、数秒後、やれやれと言ったように肩を竦めた。
「馬鹿だな。んなこと、黙ってりゃ気づかれなかったのによ」
「な、なんだと」
「……おめーが本当に根っからの悪人だったらよ。あんときとっくに殺してたさ」
「…………」
「おめーもシュロン国に来いよ。もちろん、犯した罪の分はしっかり服役してもらうがな」
「ふ、ふざけるな。なんで俺が」
「おまえ、どうせ行くところないだろ? だったら来いってんだ。悪い話じゃねえだろ?」
――なんで、どうして。
数十年前、故郷を滅ぼされた俺は発狂した。モンスターが憎くて仕方がなかった。
なのに、このシュンという男は許してくれるというのか。
――これが、格の違いってやつか……
「お? どうしたよ、泣いてんのか?」
「な、泣くか馬鹿者。俺はただ……」
「はいはいわかったよ。騎士たち呼ぶから、まずおまえは手当な」
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コメント
ノベルバユーザー252836
想像の斜め上を行く展開きたʬʬʬʬʬʬʬʬʬʬ