引きこもりLv.999の国づくり! ―最強ステータスで世界統一します―
三人の誓い
王城の地下牢。
シュンはワープの指定先をそこに定めた。
あらゆる物事を想定した結果、ロニンが捕らわれている可能性が高いと判断したからだ。
もちろん、シュン自身は地下牢を訪れたことがない。だからセレスティアに《地下牢に近い場所》を教えてもらい、そこに転移した。
「な、なんだ貴様いきなり現れーーがはっ」
いきり立った看守を手刀で気絶させ、シュンは牢の向こうの妻へ目を向けた。
「ロニン。待たせたな」
「お、お兄ちゃーー!」
と言いかけ、隣にセレスティアがいることに気づいたのか、
「シュンさん!」
と言い直す。
その際、彼女が牢屋をぶち壊すのではなく、こちら側に《ワープ》してきたのは賢明だろう。破壊音で王城の者に気づかれる恐れがあった。
「会いたかった……会いたかったよぅ」
そのまま抱きついてくる魔王さん。小さな見た目に反して、大きな二つの膨らみがシュンの腰に当たる。
ーーうん。超柔らかい。
シュンは苦笑いしながら、妻の頭を優しく撫でてやった。
「ばかやろ。王妃がそんなんじゃ、国民はついてこねえぞ」
「いいじゃん。いまくらい」
言いながら、シュンの胸に顔を埋めてくる。
ーーかわええ。
その仕草には、さしものシュンもそう思わざるをえなかった。だから彼女を認め、結婚を申し込んだのである。もちろん外見だけで決めたわけではないが。
その瞬間。
「…………」
シュンは気づいた。
シュン夫婦を、セレスティアが切なげに見守っていることに。我慢をため込んでいるかのように、身をぶるぶる震わせていることに。
ーー無事に帰れたらお願いが……いえ、私からのわがままがありますーー
セレスティアはさっきそう言っていた。
その《わがまま》が何なのか、シュンにはまだわからない。
いずれ、すべてが決着したらこちらから聞かねばなるまい。彼女の願いを。
「あ、違う! こんなことしてる場合じゃないんだ!」
はっとしたようにロニンは顔を上げ、シュンと目を合わせた。
「……ど、どうしたんだ?」
「さっき看守から聞いたんだけど……大勢の騎士が、シュロン国に向かってるって……!」
「…………」
シュンは大きく息を吸い、そして吐いた。
ーー戦争。
頭のどこかでは、その可能性が高いと薄々感じていた。
違和感があったのだ。あのとき、客室に忍び込んだ魔術師たちは、シュンだけでなくセレスティアも狙っていた。だからシュンはすぐにセレスティアを庇いに行った。引きこもりレベル999の彼が魔法など喰らってもさしたるダメージにはならないが、セレスティアにおいてはその限りではない。
その理由はつまり、こういうことだったのだ。
魔王ロニンを《セレスティア殺人犯》に仕立て上げ、それを口実にシュロン国を滅ぼしにかかるーー
完璧なシナリオだ。
シュンをアグネ湿地帯に追い込むこともできるし、シュロン国も壊滅できる。エルノス国王は自分の地位を守るために、娘を犠牲にしたのだ。 
だが、狡猾な王にもひとつ誤算があった。
奴は明らかにシュンを甘く見ていたのだ。いくら人類未踏の地とはいえ、そこに追いやっただけでシュンは死なない。引きこもりレベル999の凄さを、奴はよくわかっていなかったのだろう。
付け入る隙はそこにある。
セレスティアも同じことを考えていたらしい。両拳をわななかせ、小さく呟いた。
「ひどいわ……エルノス……!」
その娘に、父を尊敬している様子はいっさいなかった。
セレスティアはシュン夫婦を見つめるや、決然たる瞳で言った。
「私がエルノスと蹴りをつけてくる。もう許せないわ」
「……そうか」
シュンは静かに頷くと、ロニンの頭にぽんと手を置いた。
「なら、ロニンはセレスティアに協力してやってくれ。なにかあったとき、おまえがいれば安心だ」
「い、いいけど……シュンさんは?」
「決まってんだろ。自分の国を守ってくる。それが王ってもんだ」
がつんと拳を打ち付け、シュンはにんまりと笑ってみせた。
「幸運を祈る。ーー死ぬなよ、おまえら」
「「はい!」」
魔王と皇女は小声で、そして力強く、国王の命に頷くのであった。
シュンはワープの指定先をそこに定めた。
あらゆる物事を想定した結果、ロニンが捕らわれている可能性が高いと判断したからだ。
もちろん、シュン自身は地下牢を訪れたことがない。だからセレスティアに《地下牢に近い場所》を教えてもらい、そこに転移した。
「な、なんだ貴様いきなり現れーーがはっ」
いきり立った看守を手刀で気絶させ、シュンは牢の向こうの妻へ目を向けた。
「ロニン。待たせたな」
「お、お兄ちゃーー!」
と言いかけ、隣にセレスティアがいることに気づいたのか、
「シュンさん!」
と言い直す。
その際、彼女が牢屋をぶち壊すのではなく、こちら側に《ワープ》してきたのは賢明だろう。破壊音で王城の者に気づかれる恐れがあった。
「会いたかった……会いたかったよぅ」
そのまま抱きついてくる魔王さん。小さな見た目に反して、大きな二つの膨らみがシュンの腰に当たる。
ーーうん。超柔らかい。
シュンは苦笑いしながら、妻の頭を優しく撫でてやった。
「ばかやろ。王妃がそんなんじゃ、国民はついてこねえぞ」
「いいじゃん。いまくらい」
言いながら、シュンの胸に顔を埋めてくる。
ーーかわええ。
その仕草には、さしものシュンもそう思わざるをえなかった。だから彼女を認め、結婚を申し込んだのである。もちろん外見だけで決めたわけではないが。
その瞬間。
「…………」
シュンは気づいた。
シュン夫婦を、セレスティアが切なげに見守っていることに。我慢をため込んでいるかのように、身をぶるぶる震わせていることに。
ーー無事に帰れたらお願いが……いえ、私からのわがままがありますーー
セレスティアはさっきそう言っていた。
その《わがまま》が何なのか、シュンにはまだわからない。
いずれ、すべてが決着したらこちらから聞かねばなるまい。彼女の願いを。
「あ、違う! こんなことしてる場合じゃないんだ!」
はっとしたようにロニンは顔を上げ、シュンと目を合わせた。
「……ど、どうしたんだ?」
「さっき看守から聞いたんだけど……大勢の騎士が、シュロン国に向かってるって……!」
「…………」
シュンは大きく息を吸い、そして吐いた。
ーー戦争。
頭のどこかでは、その可能性が高いと薄々感じていた。
違和感があったのだ。あのとき、客室に忍び込んだ魔術師たちは、シュンだけでなくセレスティアも狙っていた。だからシュンはすぐにセレスティアを庇いに行った。引きこもりレベル999の彼が魔法など喰らってもさしたるダメージにはならないが、セレスティアにおいてはその限りではない。
その理由はつまり、こういうことだったのだ。
魔王ロニンを《セレスティア殺人犯》に仕立て上げ、それを口実にシュロン国を滅ぼしにかかるーー
完璧なシナリオだ。
シュンをアグネ湿地帯に追い込むこともできるし、シュロン国も壊滅できる。エルノス国王は自分の地位を守るために、娘を犠牲にしたのだ。 
だが、狡猾な王にもひとつ誤算があった。
奴は明らかにシュンを甘く見ていたのだ。いくら人類未踏の地とはいえ、そこに追いやっただけでシュンは死なない。引きこもりレベル999の凄さを、奴はよくわかっていなかったのだろう。
付け入る隙はそこにある。
セレスティアも同じことを考えていたらしい。両拳をわななかせ、小さく呟いた。
「ひどいわ……エルノス……!」
その娘に、父を尊敬している様子はいっさいなかった。
セレスティアはシュン夫婦を見つめるや、決然たる瞳で言った。
「私がエルノスと蹴りをつけてくる。もう許せないわ」
「……そうか」
シュンは静かに頷くと、ロニンの頭にぽんと手を置いた。
「なら、ロニンはセレスティアに協力してやってくれ。なにかあったとき、おまえがいれば安心だ」
「い、いいけど……シュンさんは?」
「決まってんだろ。自分の国を守ってくる。それが王ってもんだ」
がつんと拳を打ち付け、シュンはにんまりと笑ってみせた。
「幸運を祈る。ーー死ぬなよ、おまえら」
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