悪役令嬢は隣国で錬金術を学びたい!

花宵

第二十八話 鮮度にこだわり抜いた倉庫(前編)

「先に集めた素材を整理しますので、少し待っていて下さい」


 両手に紙袋を携え奥の部屋へ行こうとされる先生を私は呼び止めた。


「先生、私も手伝います」
「それなら俺も」
「二人とも、ありがとうございます。では、こちらへ。あまり奥の方へは行かないで下さいね」


 先生に続いて奥の部屋に入ると、部屋を左右に隔てるようにして、正面に立派な階段がある。


「あの階段は……」


 一階建てのアトリエなのに、何故か目の前に階段がある。その先には扉がついているけど、宙に浮いているように見えるのは気のせいだろうか。是非とも裏側から拝見したい。


「この部屋だけだと狭いので、マジックフィールドでスペースを拡張しています。あの扉の奥も倉庫ですよ」
「ほぉ……これは中々凝った作りだな」


 そう言いながら階段の右側から回り込んだリヴァイ。その扉の裏側が気になるのだろう。
 私も左側から回り込んで確認すると、やはり扉が浮いている。


「すごいな、扉が宙に浮いてるぞ」
「不思議ですね」


 どんな仕組みなんだろうと疑問に思いながら、何故か額から吹き出てくる汗を必死に拭う。


「それにしてもこの部屋、寒くないか?」


 ガグガクと奥歯を鳴らしながら、リヴァイは震える身体を温めるように両手で腕をさすっている。


「寒いですか? 逆にこちらはものすごく暑いのですが……」


 炎天下の砂漠に居るようなうだる暑さを感じ、額から流れてきた汗を手の甲で拭いながら答える。


「二人とも、奥の方で長居してはいけません。リヴァイド君が立っているのは-30度の極寒エリア、リオーネが立っているのは45度の灼熱エリアですよ」
「極寒?」
「灼熱?」


 先生の言葉の意味を理解した瞬間、私達は慌て元の場所に戻った。危うく干からびるところだった。


「素材の鮮度を落とさないために、この部屋は空調魔具で採取した場所の温度や湿度をエリア毎に再現しています。奥に行けば行くほど気温の高低差は大きくなりますので、耐性装備をしていない状態で長居してはいけませんよ」
「「ごめんなさい」」


 好奇心に負け、先生の忠告を疎かにしてしまった。しゅんとうなだれる私とリヴァイを元気づけるように、先生は優しく私達の頭をポンポンと撫でてくれた。


「1階の特殊エリアの素材は私が片付けますので、君達には比較的安全な2階の素材をお願いしてもいいですか?」


 二つ返事で先生の提案を受け入れた私達は、素材の保管方法の説明を受けて2階に向かう。
 わくわくしながら扉を開けると、視界に広がるのは青空と広場のような野外フィールドだった。8方向にそれぞれ続く道があり、ダンジョンの名前がかかれた看板が設置されている。

 素材をどこに収納するかは真実の指輪で調べたら分かるからと、リヴァイも先生に指輪をもらった。
 別行動でやった方が効率はいいのだけれど……右を向けば木々の生い茂る深い森、左を向けば霧深い湿原。1度足を踏み入れたら最後、無事に元の場所に戻れる気がしない。


「まずは素材を採取場所ごとに分けよう。その方が何度も行ったり来たりせず効率的だ」
「分かりました。では手分けして調べましょう」


 紙袋から素材を取り出し、真実の指輪でステータスを確認。採取場所が特定出来たら、看板の前において仕分けていく。
 全ての仕分けが終わった所で、リヴァイに話しかける。


「どのエリアに行きますか?」


 8つのエリアのうち、素材は主に3つのエリアに集中していた。手分けして収納した方が効率はいいけれど……マジックフィールドをなめてかかるとえらい目に遭う。

 レイフォード家にもマジックフィールドの施された部屋がいくつかあり、昔、誤って迷い込んだことがある。あの時はルイスが異変に気付き、リチャードがすぐに駆けつけてくれたから大事には至らなかったものの、歩いても歩いてもずっと続く同じ景色に不安で押し潰されそうになったのをよく覚えている。

 そのエリアから出たい時は、違和感のある箇所に進めばドアが現れ出られるしくみらしいけど、あの当時はそんなこと知らなかった。
 今はもう平気だと思うけど、もしあの時みたいに一人で入って出口を見つけられなかったら……


「リオーネ、効率は悪いがエリア毎に一緒に回ろう」
「いいのですか?」
「比較的安全と言っていたが、あの方の安全の基準は他の人とは違う。油断すると危険だ。気を引きしめていくぞ」
「はい、分かりました」

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