悪役令嬢は隣国で錬金術を学びたい!

花宵

第二十五話 アトリエが完成しました!

 ついにアトリエが完成した。
 今日からいよいよ、アトリエで本格的に錬金術が習える!

 リヴァイの婚約者になったことで、朝のお勉強で習う科目が増えたけれど、そんなことはどうでもいい。お昼から錬金術という名のご褒美がもらえるならば、何だって学んでやろうではないか!

 急いでお昼を済ませた私は、浮き足立ちながら講義の時間よりも早めにアトリエに行ってみた。

 先生の考案で、温室としての機能を残しながらその中にアトリエを作る方向で話が進んでいた。錬金術に使う植物系の素材は鮮度が落ちやすいため、自分で育てた方が良い事もあるらしい。そういう時、温室としての機能を残しておけば役立つそうだ。

 古くなったガラスが張り替えられ新しくなった温室は、一見して外観だけ見れば立派な温室だ。よく目をこらすと木々や植物に隠れるようにしてアトリエがある。秘密基地みたいで少しワクワクする。
 早速中に入ると──何故だろう。私のアトリエのはずなのに、主の私よりも先にものすごくくつろいでいる奴等が二人。


「リィ、遅かったね」


 百歩譲ってお兄様は良いとしよう。でも……


「やぁ、リオーネ。邪魔しているぞ」


 何故、リヴァイが居るのだろう。
 王子様がそんなにホイホイとお城から出てきていいのだろうか。
 公爵家でさえ、朝からみっちりお勉強させられるのに王族ならほとんど自由時間なんてないんじゃないのでは?


「こんにちは、リヴァイ。今日はどうされたのですか?」
「アトリエが今日完成すると聞いて祝いにきた。おめでとう」


 思うことは多々あったものの、握らされた重量感のあるずっしりとしたプレゼントとその言葉で小さいことは吹き飛んだ。
 忙しいながらにも時間を作ってお祝いに来てくれたのだろう。なんていい人だ!


「ありがとうございます。開けてみてもいいですか?」
「ああ、もちろんだ」


 貰ったプレゼントを一旦テーブルに置いて飾りを破らないように慎重に包装紙をとって中を開けると、可愛いリボンが巻き付けられた小瓶が3つ入っていた。小瓶の中にはそれぞれ、珍しい形状の種が入っている。

 こ、これは……なんて貴重なレアものばかり!
 ランダムで時折現れるクエストをクリアしてもらえる珍しい効能を持ったそれらの種。納期が一日しかないため、あらかじめ予測して品物を作っておかないとまずクリア出来ない難関クエストでしか手に入れる事が出来なかったものが目の前に。枯らさないように大事に育てよう。


「ありがとうございます、リヴァイ! すごく嬉しいです!」
「喜んでもらえたようで何よりだ。宝石やドレスよりも、お前ならこれだろうと思ったからな」
「……よく、分かりましたね」
「見てれば分かる」


 驚く私を見て、リヴァイはふと表情を緩めて笑った。笑ったのだ。彼の視線をたどって己の失態に気付く。

 しまった! 仮にも相手は王子様。言うなれば、最上級のおもてなしをしなければならないお客様だ。
 それなのに、今の私の格好は実用性重視の何の可愛げも無いシャツにズボン。訓練用に仕立ててもらった私専用の洋服だ。こんな格好で姿を現すなど……


「き、着替えてきます!」


 メアリー! メアリーは今どこに!?
 慌てて引き返そうとしたら、突然リヴァイに手をつかまれた。驚きで心臓が跳ねる。


「飾り立てぬともよい。ありのままのお前を見せてくれ」
「このままで、いいんですか?」
「ああ。気を遣われるより、そちらの方が嬉しい。それに……そのままでも十分、リオーネは可愛いからな」


 つかまれた手が熱い。注がれる視線も熱い。サラリとそんな台詞を言われた自分の胸も、心なしか熱い。
 いや、それよりも手首から身体全体に広がっていくこの熱いものって……間違いない。魔力だ。どうやらリヴァイは火属性らしい。


「はい、そこまで~そういうのは二人きりの時にやってね。それとリヴァイ、あんまり強く握ると痕になっちゃうから気をつけて」


 ルイスに指摘され、慌ててリヴァイは手を離した。


「すまない。痛くなかったか?」
「だ、大丈夫です」


 びっくりした。男の人にいきなり手をつかまれるなんて。まだ心臓がドキドキしてる。
 つかまれた手首を触るとまだ熱を持っているようだ。
 熱を冷ますように水属性の魔力を手首に纏わせて冷やしていると、ルイスが大きなプレゼントボックスをくれた。


「リィ、僕からはこれを。開けてごらん」
「いいの? ありがとう!」


 箱は大きいけど、そこまで重くない。開けてみると、「天使のブーツ」が入っていた。
 幸運を与える天使が作ったと言われているブーツで、LUXを大幅に上げてくれる不思議な靴。レアアイテムを手に入れやすくなったり、モンスターのアイテムドロップ率が増えたりと、何かとラッキーなことが増える代物だ。
 アイテム採取の必需品とも言える貴重な装備アイテムをもらえるなんて……


「ありがとう、ルイス! 大事にするね!」


 嬉しさのあまり飛びついた私を、ルイスはいつものように難なく受け止めてくれる。よしよしと優しく頭を撫でられて、安心感で満たされる。

 雨風がひどくて怖くて眠れない夜、昔はよくルイスのベッドに潜り込んでいた。お兄様は震える私の身体を抱きしめながら、眠るまでよく頭を撫でてくれた。
 本当は自分も怖いのに我慢して「僕が守ってあげるから、大丈夫だよ」って私の不安を拭うのをいつも優先してくれた。

 いつまでも甘えてちゃいけないって思うけど、やっぱりルイスに頭を撫でられるのが一番癒やされて好きだ。
 最近は中々撫でてもらう機会もなく、久しぶりにその心地よさを堪能していたら、突如ルイスの手が止まって引き離された。


「ごめん、リィ。これ以上やると、僕……リヴァイに視線で殺されそう」


 忘れてた。あまりにも気持ちよくて忘れてた。ここに居たのルイスだけじゃなかった。
 なんたる失態……おそるおそるリヴァイの方を見ると、すごくムスッとした顔をしてこちらを見ている。折角お祝いに来てくれたのに、これはまずい。

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