悪役令嬢は隣国で錬金術を学びたい!
第二十四話 人生をかけた賭けをしよう(後編)
「それで……受けてくれるか? 建前上、主要なパーティや式典の同伴などはお願いすることになるが、それ以外で婚約者だからと言って無理に連れ回すことはしない。最大限、お前が錬金術を学べるよう取り計らうつもりだ」
「リヴァイは、それでいいのですか? まだこれから……本当の運命の相手に出会うかもしれないのに……」
貴方の伴侶になるべき相手は私ではない。それが、ゲーム内のシナリオだ。こんな所で話をねじ曲げてしまって良いのだろうか。
「俺はお前に運命を感じる。それでは駄目か?」
真っ直ぐにこちらを見つめてくる、どこまでも澄んだ綺麗なブルーアイズが教えてくれる。ここはゲームの世界じゃない。現実なんだと。
彼はゲームの登場人物であっても、心を持つ一人の人間だ。真摯に向き合ってくれているリヴァイの気持ちを無下に断るのは、ものすごく失礼なこと。
ましてや相手は王子様。王族からの縁談をこちらから断ることなど普通なら容易には出来ない。しかし、王族からならそれもこちらほど難しい事では無い。
もしあの場でリヴァイではなく、陛下が指名して選ばれていたとしたら、それこそ逃げ道などなかったはずだ。私に退路を残すために、わざとリヴァイは皆の前で自ら告白をし、自分が選んだのだと周囲に印象付けてくれたのだろう。
立場など関係なくリヴァイを一人の人間として見るならば、それなりに好感は持っている。楽器が弾けないと分かっても馬鹿にせず、私のことを励ましてくれた。それに錬金術にも興味を持って理解を示してくれている。お兄様とも仲が良いし、すごく気遣いの出来る人だ。
しかしだからといって、将来リヴァイの気持ちに応えられるかは現段階では分からない。
思考を一度リセットするために、深呼吸して気持ちを落ち着ける。
難しい事を考えるのは止めよう。
私は家族に幸せになって欲しい。もし何かあっても守りぬける強さが欲しくて、より便利な暮らしを提供したくて、立派な錬金術士になりたいと思っていた。
だけどリヴァイの傍で彼を支えることも将来的にはこの国のためであり、平和な治政を保つ事は家族のためにもなることだ。それならば──
「その賭けにのりましょう。ただし、1つだけ条件を追加してもいいですか?」
「ああ、かまわない」
「今の条件だと、私にばかり有利な条件が多すぎます。賭けをするならこれは不公平です」
「そうか? 俺が勝てばお前を手に入れる。お前が勝てば最強の用心棒を手に入れる。何ら不利はないと思うが?」
きょとんとした顔で尋ねてくるリヴァイは、どうやら自分が不利であることに気付いていないらしい。
もし仮に私が勝って婚約を破棄する事になれば、少なからず王族と公爵家の間に亀裂が生じかねない。それでは駄目だ。変な遺恨を残さないためにも、賭けはフェアであるべきだ。
例えるなら、長年のライバル同士が全力で勝負した後に、相手の健闘をたたえあって握手を交わすようなさわやかな終わり方!
「私は勝っても負けても、得るものがあります。ですがリヴァイの場合、そうではありません」
「……そうだな。負けたら俺の元には何も残らない」
「なので提案です。リヴァイが負けたら、その時望むものを私が提供します。何がいいかは考えておいて下さい。これなら、勝っても負けても恨みっこなしです。正々堂々勝負ができます。いかがでしょうか?」
私の真剣な問いかけに、リヴァイは突如お腹を抱えて俯いてしまった。具合が悪くなったのかと心配したその時、彼の肩が小刻みに震えていることに気付く。
これはもしかしなくとも……理由が分かった瞬間、リヴァイは堪えきれなかったようで盛大に笑い出した。
「く、ははは! ますますお前が欲しくなったぞ、リオーネ。真剣な顔して何を言うかと思えば……くく、本当に可愛い奴だな」
「わ、笑いすぎです! けなすのか、褒めるのか、どちらかにして下さい」
「ああ、すまない。では、その条件で賭けをしよう」
「はい。いざ、尋常に勝負です」
リヴァイが差し出してきた手を、しっかり握り返して賭けの始まりだ。
ちょうどその時、私たちを祝福するかのように綺麗なヴァイオリンの音色が響いてきた。一曲弾きおえた所でリヴァイが二階に居たルイスを呼び出して、そのまま三人でしばらくお庭で遊んでいた。
庭の一角には、昔お父様が作ってくれた遊びスペースがあって、砂場やブランコ、ツリーハウスなど子供心をくすぐる遊具がある。
一通り遊んだ所で、砂場で泥団子を作り始めたルイスとリヴァイ。どちらがより丈夫で丸いものを作れるか競いあっていて、それを眺めていたら私も一緒にやろうと誘われた。流石に泥遊びをしたらドレスが大変な事になる。もうすでに、彼等の服は結構悲惨な状態だ。
しかし、私が泥団子を作ったことがないと知るや否や、どちらが上手く教えられるか勝負し始めた二人。ひたすら力でガチガチに固めようとするリヴァイと、水を含ませながら綺麗に丸めていくルイス。同じように真似をして作ったら、丈夫さではルイスの教えてくれたやり方に軍配が上がって、リヴァイが悔しそうだった。
結局私までどろんこになってしまい、開き直って今度は一緒に砂のお城を作っていると、中々戻ってこない私達の様子を陛下とお父様が見に来られた。
どろんこになった私達三人を見てたいそう驚いた顔をされていたけど、不思議と怒られなかった。陛下は盛大に笑い出して、何故かお父様は涙ぐんで私の方を見ていた。
後からお母様に聞いた話だけど、引きこもりがちだった私が元気に遊び回っている姿を見て嬉しさのあまりお父様は涙ぐんでいたらしい。
陛下に至っては、いつもクールにしているリヴァイが年相応の子供らしく遊んでいるのが新鮮で面白かったそうだと後日、リヴァイが照れくさそうに教えてくれた。
「リヴァイは、それでいいのですか? まだこれから……本当の運命の相手に出会うかもしれないのに……」
貴方の伴侶になるべき相手は私ではない。それが、ゲーム内のシナリオだ。こんな所で話をねじ曲げてしまって良いのだろうか。
「俺はお前に運命を感じる。それでは駄目か?」
真っ直ぐにこちらを見つめてくる、どこまでも澄んだ綺麗なブルーアイズが教えてくれる。ここはゲームの世界じゃない。現実なんだと。
彼はゲームの登場人物であっても、心を持つ一人の人間だ。真摯に向き合ってくれているリヴァイの気持ちを無下に断るのは、ものすごく失礼なこと。
ましてや相手は王子様。王族からの縁談をこちらから断ることなど普通なら容易には出来ない。しかし、王族からならそれもこちらほど難しい事では無い。
もしあの場でリヴァイではなく、陛下が指名して選ばれていたとしたら、それこそ逃げ道などなかったはずだ。私に退路を残すために、わざとリヴァイは皆の前で自ら告白をし、自分が選んだのだと周囲に印象付けてくれたのだろう。
立場など関係なくリヴァイを一人の人間として見るならば、それなりに好感は持っている。楽器が弾けないと分かっても馬鹿にせず、私のことを励ましてくれた。それに錬金術にも興味を持って理解を示してくれている。お兄様とも仲が良いし、すごく気遣いの出来る人だ。
しかしだからといって、将来リヴァイの気持ちに応えられるかは現段階では分からない。
思考を一度リセットするために、深呼吸して気持ちを落ち着ける。
難しい事を考えるのは止めよう。
私は家族に幸せになって欲しい。もし何かあっても守りぬける強さが欲しくて、より便利な暮らしを提供したくて、立派な錬金術士になりたいと思っていた。
だけどリヴァイの傍で彼を支えることも将来的にはこの国のためであり、平和な治政を保つ事は家族のためにもなることだ。それならば──
「その賭けにのりましょう。ただし、1つだけ条件を追加してもいいですか?」
「ああ、かまわない」
「今の条件だと、私にばかり有利な条件が多すぎます。賭けをするならこれは不公平です」
「そうか? 俺が勝てばお前を手に入れる。お前が勝てば最強の用心棒を手に入れる。何ら不利はないと思うが?」
きょとんとした顔で尋ねてくるリヴァイは、どうやら自分が不利であることに気付いていないらしい。
もし仮に私が勝って婚約を破棄する事になれば、少なからず王族と公爵家の間に亀裂が生じかねない。それでは駄目だ。変な遺恨を残さないためにも、賭けはフェアであるべきだ。
例えるなら、長年のライバル同士が全力で勝負した後に、相手の健闘をたたえあって握手を交わすようなさわやかな終わり方!
「私は勝っても負けても、得るものがあります。ですがリヴァイの場合、そうではありません」
「……そうだな。負けたら俺の元には何も残らない」
「なので提案です。リヴァイが負けたら、その時望むものを私が提供します。何がいいかは考えておいて下さい。これなら、勝っても負けても恨みっこなしです。正々堂々勝負ができます。いかがでしょうか?」
私の真剣な問いかけに、リヴァイは突如お腹を抱えて俯いてしまった。具合が悪くなったのかと心配したその時、彼の肩が小刻みに震えていることに気付く。
これはもしかしなくとも……理由が分かった瞬間、リヴァイは堪えきれなかったようで盛大に笑い出した。
「く、ははは! ますますお前が欲しくなったぞ、リオーネ。真剣な顔して何を言うかと思えば……くく、本当に可愛い奴だな」
「わ、笑いすぎです! けなすのか、褒めるのか、どちらかにして下さい」
「ああ、すまない。では、その条件で賭けをしよう」
「はい。いざ、尋常に勝負です」
リヴァイが差し出してきた手を、しっかり握り返して賭けの始まりだ。
ちょうどその時、私たちを祝福するかのように綺麗なヴァイオリンの音色が響いてきた。一曲弾きおえた所でリヴァイが二階に居たルイスを呼び出して、そのまま三人でしばらくお庭で遊んでいた。
庭の一角には、昔お父様が作ってくれた遊びスペースがあって、砂場やブランコ、ツリーハウスなど子供心をくすぐる遊具がある。
一通り遊んだ所で、砂場で泥団子を作り始めたルイスとリヴァイ。どちらがより丈夫で丸いものを作れるか競いあっていて、それを眺めていたら私も一緒にやろうと誘われた。流石に泥遊びをしたらドレスが大変な事になる。もうすでに、彼等の服は結構悲惨な状態だ。
しかし、私が泥団子を作ったことがないと知るや否や、どちらが上手く教えられるか勝負し始めた二人。ひたすら力でガチガチに固めようとするリヴァイと、水を含ませながら綺麗に丸めていくルイス。同じように真似をして作ったら、丈夫さではルイスの教えてくれたやり方に軍配が上がって、リヴァイが悔しそうだった。
結局私までどろんこになってしまい、開き直って今度は一緒に砂のお城を作っていると、中々戻ってこない私達の様子を陛下とお父様が見に来られた。
どろんこになった私達三人を見てたいそう驚いた顔をされていたけど、不思議と怒られなかった。陛下は盛大に笑い出して、何故かお父様は涙ぐんで私の方を見ていた。
後からお母様に聞いた話だけど、引きこもりがちだった私が元気に遊び回っている姿を見て嬉しさのあまりお父様は涙ぐんでいたらしい。
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