悪役令嬢は隣国で錬金術を学びたい!

花宵

第十五話 招待状

 あれから半年ほど経って、アトリエも完成間近。冒険者レベルも20まで上がった。ライトニングロットも使いこなせるようになって、他の属性の魔力のコントロールにもだいぶ慣れた。順調な日々を送っていたそんなある日、私の元に突如試練が舞い降りた。


「──というわけで、リオーネ。これがリヴァイド王子の誕生パーティーの招待状だ。王様直々に渡されてしまい、断る事が出来なかったのだ。すまない……ルイスと共に出てもらえるか?」


 お父様から渡された一通の手紙。それは、ウィルハーモニー王国第二王子リヴァイド様の8歳を祝う誕生パーティーの招待状だった。
 リヴァイド王子とは、『リューネブルクの錬金術士』でルイスと共に人気を博したサブキャラクターで、音楽系恋愛シミュレーション『夢色セレナーデ』の中ではメインの攻略対象だったお方だ。

 行きたくない。会いたくない。面倒ごとは避けたい。早くアトリエで錬金術習いたい。

 しかし、王様直々の招待となれば断れるはずがない。お父様のお顔を立てるためにも欠席など言語道断だ。

 厄介なのは表向きは王子の誕生日を祝うための催し──だが実際は、優秀な人材確保が目的で、未来の側近と婚約者選びも兼ねているらしい。
 呼ばれているのは爵位を持つ家の同じ年頃の子息や令嬢で、王子への贈り物と称して得意な楽器の演奏を披露しなければならないそうだ。
 私の得意楽器はルイスと一緒でヴァイオリンということになっている。そのため、ルイスは私の分の楽曲まで猛練習中だったりする。負担をかけてしまい申し訳ありません、お兄様。


「お嬢様、誕生パーティのドレスはいかがなされますか? 私としてはこのピンクと白を基調としたドレスが……あ~でもこの水色のドレスもクールで大人っぽくていいですね! それともお坊ちゃまとお揃いで仕立てたドレスになさいますか? 2人並ぶとそれはそれは可愛らしいこと間違いなしです!」


 可愛らしいドレスを前にテンションの高いメアリーとは対照的に、自室に戻った私はため息をついてばがりだった。

 折角のおめでたいパーティだというのに、こんなに悲観的になっていては罰が当たるかもしれない。でももし入れ代わっていることがばれてしまったら、レイフォード家の名に傷がつく。
 それだけじゃない。領民に慕われる優しい公爵になるはずのルイスが、女装癖のある変態公爵として認知されてしまったら……申し訳が立たない!
 風評被害とは中々侮れないものだ。良くない噂ほど、何故か広まるのが異様に速い。誰も好んで変な噂のある公爵に嫁いでこようなんて思わないだろう。良縁に恵まれずそのまま年をとったルイスに跡取りが出来なかったら……まさかのお家断絶?!


「ごめんね、メアリー。ドレスはメアリーに任せるから選んでおいてもらえる? 私、ちょっと急用が!」
「お、お嬢様~?!」


 お先真っ暗な未来を想像して、居ても立ってもいられなくなった私は部屋を飛び出した。目指すはもちろんレッスンルーム。やはり、まだここに居た。本当に頑張り屋なお兄様だ。演奏が止んだタイミングを見計らってノックをして部屋に突入!


「ルイス、やっぱり私の代わりなんてやめて!」
「急にどうしたの?」
「だって、もし他の人に変装がバレてしまったらルイスの評判にも関わる。手を怪我したことにでもして当日は乗り切るから、だから……」
「僕のことを心配してくれてるんだね。ありがとう。でも大丈夫だよ、絶対うまくやるから」
「でも……!」
「リィ……これは今だから出来ることなんだ。大きくなったらいくら双子とはいえ身体の作りも変わってくるだろうし、変装も難しくなる。今のうちに君の実力を確固たるものにしておけば、後は何かしら理由をつけて誤魔化すことも出来る。だから、今回だけは僕に任せて!」


 お願い! と何故か逆に必死に頼み込まれてしまった。両手を合わせて拝んでくるルイスに止めるよう促すも聞き入れてもらえない。

 結局、お兄様の強い思いを断ることが出来ないまま、誕生パーティ当日を迎えてしまった。

 立派なお城を前に不安がこみ上げる。
 この城門を帰りもまた、平穏無事に通れるのだろうか……いや、弱気になってはだめだ。もうここまできたら腹を括るしかない。
 私の失敗はルイスの失敗に繋がる。それだけは絶対しない! 入れ代わっている間、私はルイスを完璧に演じてみせる!

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